※ちょっと期間が開いちゃったんで、後で矛盾点とかあったら改稿あるかもですがその際はあしからずということでお願いします汗
吹きすさぶ赤い紅葉のような霊圧の嵐の中────。
襦袢の袖より下にたなびく黒い霊圧は形を布のように整形し、手に持つ双刃もまた、よりしっかりとした姿かたちへと
さらに奇形に変化した、ややゆらめく黒い刀────。
それと同時に一護の手の甲にも
右手のグローブはものの見事に消し飛んだ今の姿は、色々な要素が不釣り合いな格好だった。
…… 一護自身あずかり知らぬところで、どこかの二人の何かの攻防があったかもしれないそれが形成されると同時に、りりんの跳び蹴りをものの見事に受け止めた。
(見た目通り、軽ィ……? いや何だコイツ、斬月だけど、斬月じゃねェぞ!?)
己の手触り、ぶんと振り回して少女をその辺に弾いた動かし方、ごうごうとたなびく腕に巻かれた布といい、全体的に名状しがたい、味わったことのない感覚が一護の全身に浸透する。
錯覚でしかないはずなのだが、何故だか不思議と、一護はその感覚に懐かしさを覚えた。
「ちょ、ちょっと何それ聞いてないんだけどー!?
『ハイお任せください……!』
言いながらどこからともなく飛んできた
それを前に目で追い切れない一護は、しかし手元の刀に確かな確信を得ていた。
(斬月は背中にある。感触も斬月じゃねェ。だったら、コイツは何だ……?)
今だ訓練の最中故に、手元の武器に対する違和感を消化しきれていない。いないが故にこそ土壇場で切り抜けるだけの直観────戦闘経験は、一護は既に濃密に積んでいた。
「はッ!」
柄尻から伸びる方の刃の持ち手をつかみ、さながら
…………とはいえ斬りかかる一護の動きは、何回かに一回は目の前に突如黒い穴のようなものが現れたと思うと、りりんの背後にいつの間にか背中合わせに移動しているということが多発しており、色々とそれどころではないのだが。
「クソ……! 身体が、思うように動かねェ…………!」
手元の斬月ではないだろう何かの扱いもいまいち不明な上でのこの状況。少なくとも火輪が生成出来ているのだから、一護の霊圧そのものに対しての呼びかけは成立しているだろうが、そこから先が想定通りに動けていない。感覚としては、まるで先の見えない廊下を前に、手すりにつかまり立ちして一歩一歩、ふらふらと前進しているような覚束なさだ。
だが、時折視界に入るたつきの姿に、わずかばかり一護の思考が洗練される。
(帰ってきたのか、たつきの奴……? つーか落ち着け。アイツがあんな呆れたみてェな顔してるってことは、多分俺ならこの状況を簡単に切り抜けられるっつーことだ)
実際呆れられてる理由は「なんかまた訳わかんない状態になってるわね……」みたいな理由なのだが、そこまで一護の側で把握できるだけの余裕はない。故にこそ思い出されるのは、かつての幼き日、お互いに空手の練習と言うことで拳を突き出しあっていた時。上手く受け流しが出来ないでいた一護を前に、たつきはあんな顔をしていたのだ。
コツでも何でもなく、確かそう、怖がらず相手の動きを見ればすぐに受け流しなんて出来るようになると。そんなこと言われ、何度か練習してすぐに身についたのを、なんとなく思い出す一護。
そのことを思い出し、りりんの槍の動きと、その威力を見比べ続ける。猛烈な速度で何度も突かれる動き自体は、見えていないまでもなんとか手元の刀で受け流すことはできる。逆に振りかぶりや動きが大振りになった時は、それこそ地面を割くわ
(あの、りりんとかいうコンと同じヤツ……、自分で幻覚を操るとか、なんかエラソーに言ってやがったな)
だからこそ、試しに大振りの動きに合わせて刀を中央に持ち替え、りりんの動きに合わせてより短い刀身で受け流す。小太刀を扱うような器用な戦い方が出来る訳ではないが(そもそも斬月からして超ド級の大刀である)、得物の尺と敵の攻撃との距離感は、それこそ
そして、そう。果たして受け流したその槍自体は案外軽く。対して叩きつけられた地面が一気に陥没するまでの速度は尋常ではなく。
受け流せた、ということへの違和感を一護は正しく認識できていた────。
(────アイツ、槍捌きと、技の威力とに、同時に幻覚を使えねェってことか!)
「ちょわ~! 全力全開なんだから!」
一護の視界から見れば、なるほど確かに達人もかくやという素早い動きと。
並々尋常ならざる威力で放たれる
ならばその双方とが、相手の幻覚によって生み出された攻撃であると判断するには充分であろう。
ならばこの場で一護がするべきは────。
「目の前の相手を、斬る……!」
「って、わわわわっ、いきなり元気になってるんだけど!?」
刀身が短いせいか、あるいは異様に軽く感じるせいか。現れた刀のような何かを振るう一護の速度は、今の霊力が追い付いていないはずの状態でも軽々としている。とはいえそれで斬りかかっても顔面とかは避けてるあたり、相手が本来は素人めいた動きをしているだろうと想定してる一護らしい甘さが顔を出しているが……。
そして距離が離れた位置にて、たつきから見た「幻覚ではない」本来の状態の二人は、なんとも珍妙な状態だ。
「何やってんだか……」
「いやいや、黒崎サンから見れば本気の本気って感じだと思いますよ? ────
双方の動きがあまりに不釣り合いすぎるため、たつきとしては何を遊んでるんだ、と言う風に見えるわけだ。つまり、りりんの、とにかく大ぶり極まりない槍(?)の動き一つに、その緩慢さに反して妙に距離をとったり、動き一つ一つに無駄に反応して何度も刀を振り回したり、それでいて実際に槍を迎撃する頻度はかなり少なかったり、と言った状態。
もちろんそれらが幻覚でどうこうというのも把握はしているが、それにしたってそれにしたってだ。一護が攻勢に転じたことで、之芭もまたりりんを守ったりする方に注力しているのも、状況が滑稽に見える理由の一つであろう。
とはいえ浦原が言う通り、その一護の動きが徐々に機敏になってきてるのもまた事実。
「黒崎サンもまだ自覚はしてないんでしょうが、火輪の発火と同時に少しずつ魄睡が動いてきているようだ。……まあ、あの刀はもはや何が何やらって感じっスけど」
「何が何やらって、アレじゃないんです? チャドとか織姫の、なんかよくわかんないのとかと一緒だったり」
「一概にそう言ってしまうのもどうなのかなあというのが、アタシとしても頭が痛い話でして……」
たつきは気づいていないが、浦原はしっかりと見ていた。あの刀が発生する際に、之芭が発生させたワームホールを構成する霊子が大いに乱れていたのを。
遠方、岩陰に隠れてりりんのサポートをしている之芭。本来、之芭自身から放たれた霊子ゆえに、それを操作する霊力の専有権は一護にはない。にもかかわらず、霊圧に煽られたわけではなく、まるで構成している霊子がなくなった……、材料が足りなくなったような、そんな揺らめき方をしているということは────。
「本来なら、あんな武器の形になってる時点で鎖結も魄睡も正常になっていないと妙ではあるんスよねぇ」
ただ時折、実際の一護動きを見て自説の検証をし、仮説をより確たるものに重ねていくばかり。
「にもかかわらず、黒崎サンはまだりりんを捉えきれてない」
「……それって、どういうことです?」
「いやぁ何、色々と複雑怪奇な状況だってだけっスよォ」
帽子を目深にかぶってニヤリと微笑む浦原は大層胡散臭く、たつきはそちらにも半眼を剥けるのだが。浦原としては、今の一護の状態に対して嫌な予感がしていた。そう、まるで何か重大な前提を取り違えてしまっているような、そんな違和感。
対して一護の側といえば、得物が何もかも変わったことで違和感に振り回されてはいるものの。
今までの戦闘経験などのおかげで動きは最適化できているが、それとて物理的に無茶苦茶をやっているような、その延長でしかない。
「いい加減、しつこいんだけど……、こうなったら二人とも、アレやるわよアレ!」
『アレといいますと、魂葬刑事隊カラクライザー最終兵器であるアレのことですかな?』
「……分かった」
一護に大きく蹴りを入れるりりん。その反動で大きく蹴り飛ばされる一護は、体勢を立て直せないまま背中から小山に激突。……とはいえそもそもの蹴りの威力が大きかったから吹っ飛ばされたわけではなく、何かしら小細工のせいで飛ばされたせいだろう、痛みは強くないのですぐに立ち上がろうとして。
「なん…………、だと…………?」
「「「超必殺! カラクライトバズーカ!」」」
バズーカ砲である。繰り返す、バズーカ砲である。見た目どこからどう見ても古き良き戦隊ヒーローに実装されていたタイプのバズーカ砲を之芭と蔵人の男二人で担ぎ、りりんが中央で両手を上げていかにもそれっぽい。
見た目は完全にふざけているのだが、収束されている霊圧がそれこそ見てわかるほどに高まっており酷い。いったい何やらかしたんだ下駄帽子!? とせっかく名前呼びするようになったのすら投げ捨てて絶叫するくらいに一護は謎の動揺をしていた。
……なお、りりんによる幻覚の演出やら何やらこそあるものの、バズーカ砲そのものと収束されてる霊力は本物なので、これにはたつきも(ついでにぬいぐるみ状態のノゾミも)浦原の方をびっくりした様子で見ている。ジン太は「いっけー!」とかテンション上げてるし、うるるは「あの、あまり酷いことには……」と心配そうに見ているが、浦原本人は何故か真顔で一護の方を見ており、状況が混沌としている。
「まー、安心しなさい! どうせ峰打ちだから!」
「バズーカに峰打ちもクソもねェだろ!? 何考えてンだどいつもこいつもッ!!?」
面食らったのも無理はない。
そして何なら、おそらくりりんの幻覚のせいだろうが一護自身上手くその場から動くに動けない。バズーカ砲の大きさが、りりん達の実際に持っているものの何倍にもなっているように見えているため、どう動いても避けようがないように見えているのだった。
受け流すことは厳しい。であれば一護に出来るのは、やはり正面から斬ることのみ。
高ぶる意思。高ぶる霊圧。死神代行としてそれこそまだ半年にもなっていないか。それにしては濃密な時間を過ごしてきたからこそ、一護の体に染みついた闘争本能にはむしろ余裕があった。
だからこそ、いきなり
(今のは……!)
どるどると、右腕を起点に火輪の放出が加速する。
全身を覆うような形にならないからこそ、放出される霊圧の量のあまりに偏った異常な形状が、やや遠方の浦原たちにも如実に見える。
浦原は何も言わず、状況を静観。
たつきは念のためノゾミのぬいぐるみに手を入れて、いつでも疑似死神化できるよう準備をしている。
「観念しなさいよー! 大人しく倒れちゃいなさい────発射!」
「「発射!!」」
果たして、砲撃された三食のエネルギー入り乱れるそのビームなんだかよくわからない霊圧の放射に。一護はその上下の柄を、それぞれ両手で握りしめながら構え、見据える。
(足りねェのは、俺の意思────)
――――想いを込めろ、一護。
いつだったか、あの
生きなさい一護……優しく、何か一つでも大切なものを守り通せるように。
遊子、夏梨、一護、そしてお父さん──── 一心さん。
私は……私は、きっと幸せでした。
言葉として聞こえたわけではない。しかし、あの時のことを思い返すとどうしても、その言葉が脳裏を過る。絶対に一護が聞いたはずのない、まるで末期に母から投げかけられたようなそんな、そんな言葉。
(俺はまだ、何も、護れちゃいねぇ……)
大勢の人を守りたいと。そう思えど、自分の大事な何か一つを守り通しきれてない。
母も、それこそ茜雫も、そしてルキアも────。
そしてふと脳裏を過る、井上織姫の優し気な笑顔。
「────ぉぉおおおおおおおおおッ!」
叫び、想いを込める。
今目の前のよくわからない砲撃に対してではない。
己が刃を振るうその理由を、改めて己に突き付けなおすことで。
独特の音を立てて手に握る刃が、どるどると、火輪のように形が曖昧になっていき。
その揺らぎ方はくしくも、白一護がかつて一護と戦っていた時に見せた
「月牙…………」
振るう必要すらない。何かに傷をつける必要もない。
その状態になって、一護はようやく自らが握っていたものが何であったのかを理解した。
ならばあとはどの方向にどう振るうか、
向きだけを決めて、そう正面へ向けて。
下の柄を持つ左を離して、殴るように突き出す────────。
「……天衝ォ!」
さながら黒く巨大な弧を描くような────三日月か、あるいは
音を割き、光を
これはいけない! と、浦原は
たつきはたつきで「何? 何!?」と慌てながら疑似死神化したものの、一護のそれによって齎された暴風によって肉体が吹っ飛ばされて「のぞみィ!?」と叫ぶことに。
「な、何なの!? てか何なの!!?」「これは……あまり宜しくない気配では?」「…………こっちが怪人みたいだ」
ズレてはいるものの、あながち何か間違ってはいないかもしれない
「────安心しろ、峰打ちだぜ」
「峰も何もあったもんじゃないでしょー! って何でこっちに来てるの!?」
しかし最悪の結末を迎える前に、いつの間にかりりんたちの側に瞬歩? して現れた一護。……彼女たちも動揺していたとはいえ霊圧を感知できず、また出現音は「ぬ」というか「ボッ」というか独特な音を鳴らしていたが、一護の体感としてはそう違いは無い。
そして一護は再び刀を構えて、何も言わずに再び黒い月を現出させ、殴るように飛ばす。
バズーカの出力すら押しのけていたそれに、むしろバズーカにアシストするような動きをセルフで行う一護。既に色々とルール無用極まりない自由な動きであるが、それを実現できるということは、すなわち────。
「な、何よ……、ちょっとカッコイイじゃないのっ」
「……吊り橋効果?」
「シッ、そこは野暮天というものですよ!?」
「あァ?」
すっかりバズーカも手放して腰を抜かした三人の呆けたリアクションを前に、一護は相変わらず奇形の襦袢姿のまま……、右手のみ黒布をまとったまま。その
『だから戦い方が基本的になァ……、
『あの刀の形状、中途半端に弥勒丸が出ているようだな』
『無視かよ、相変わらずじゃねェかオッサン』