例によって独自解釈、紅姫関係や滅却師関係など注意
「……
夕暮れも見えない半地下の一室。
一室と言うには広々としたその空間。白い直方体のオブジェクトで埋め尽くされたその場所で、石田雨竜は空中にて弓を構えていた。
質量を伴う形となった霊子で編まれた
加工されたアクリル窓が放たれた霊子の振動に震える。
直進していく
ぎらぎらと青白く光る霊子の矢────。
────その中ほどの位置に、より太い射魂柱がめり込み、正確に砕き折る。
雨のごとく降り注ぐ射魂柱が、雨竜の放った射魂柱を中ほどから正確に折り続ける。それらもまた雨竜めがけて降り注ぐため、舌打ちと共に彼は「外部の霊子を」足元に収束し、飛廉脚で滑るように後退。
それとて降り注ぐ光の矢の雨には間に合わないため、仕込んでいた
「
爆裂する銀筒。その風圧で
……もっとも
「わざわざ射魂柱を弓で射る動きをするならば、それに見合った威力というものを出せ。これだからお前は才能がない…………」
そう語る白髪の男は……、暗に見本なら目の前で見せているだろうと言っているが全くもって伝わっていない(どころか反発されている)男は、雨竜とよく似た容姿の雰囲気のままため息をつく。角度により眼鏡がきらりと光り、視線がわからない。が、何事も無いように弓だけを向けると、引くモーションもなくそこから無数の矢を大量に放射し、煙を晴らしながら標的を狙う。
あまりに多量の砲撃に対して思わず「うわっ!?」と声を上げる雨竜だが、額をかすめるように飛んでいく矢に気を取られて、そのまま猛烈な速度で自分の腹をけり上げる男の動きに気づかず、追いつけない────。
かくして蹴り飛ばされた彼がアクリルガラスに叩きつけられるのと同時に、男は、石田
「全く……。もう少し単純な近接戦の経験を積んでから出直してこい。余計な時間をかけさせるな。私はこれから夜勤だってあるというのに」
「…………そっちの事情は知ったことではないけど、患者さんに迷惑がかかるのは本意じゃないな。というか、医者が近接戦を語るな!」
「自分の無知無学を親に当たるな。反抗期が知れるぞ」
「誰が反抗期かッ!」
絶賛反抗期中の石田雨竜。そんな息子を鼻で笑う竜弦は、どこからか取り出した白衣をまといながら「それこそ黒崎の息子にでも教えを乞うたらどうだ」と気安く言ってくれる。
「今は死神でも何でもなくなっている黒崎に何を聞けと? あんたは黙ってろ!!!」
「私の動きを見て学ぶことすらしないお前が、ずいぶんと大口をたたく」
なお、黒崎一護にと言ったのは半分皮肉ではあるが、雨竜の感覚的に「死神代行」である黒崎一護は死神の判定に入っていないというのも考慮したうえでの一言だが、ここも気づかれていないのは日ごろの親子関係の問題でしかなかった。
なんなら茶渡ではなく一護に学べ、と言ってるのも、前者がパワータイプで後者がスピードタイプ(※実際はパワーもスピードも両方)なことを踏まえた上で、雨竜はそちらの型だと当然把握しているが故の、息子のことや交友関係を影で気にかけているからこその発言であるが、これも当然伝わる余地はなかった。
既に身にまとっていた霊子は散り、弧雀の形成も甘くなっている。
そこめがけて再び
「
からん、と。雨竜の目の前に直方体の筒のような、柄のようなものが投げ捨てられる。指をかけるリングがつけられ、また本体には十字模様のようなものがあしらわれたそれ。見覚えがあった雨竜は肩で息をしながらも目を見開く。
「これは……、
「『危険だから持つな』、など完全に包丁の扱いを覚えたての子供に対する保護者のセリフだろうに」
「……ッ!」
「まあ、業腹だが同意見ではある。……(私もお前にどう教えるか悩んでるくらいなのだから……、霊子の占有操作権についてはそろそろ自覚が出てくるころだろうが)」
「……ぼそぼそ、何だって?」
「扱いの難しさはあの道楽者の父親から聞いているだろう。せいぜい、まずは身に着けるところから慣れろ」
雨竜の言葉をあっさり無視して背を向けて入口へ歩き出す竜弦。コミュニケーション不足ここに極まれりである。
そして入れ替わるように、だいぶタイトなミニスカートと脚がまぶしい無表情なメイドが雨竜に駆け寄た。
しゃがみこみ、仰向けの雨竜の顔を覗き込むように見る。
「……かすり傷。かなり加減をされていたものかと」
「…………ナナさんにだから言うけど、忸怩たる思いだ。これじゃ、まるで本当にあの男が……っていうか、わ────ッ! 近い近い近い!!!」
一応手当します、の一言と共に雨竜の破れたシャツを少しはだけさせて、
一方の彼女はと言えば「井上様以外は何か?」と意味もニュアンスも読めないことを言いながら、てきぱきと慣れた手つきで胸元、首、腕、額と治療を完了させていった。
「……ありがとうございます」
「ええ。しばらくピリピリした感覚はあると思いますが、翌日にはなくなると思いますので。
「助かります」
彼女の言葉にうっすら潜む
転がる筒、
「一体何の目的で、こんなものを……」
「ラ○トセイバー」
「……は?」
「ライ○セイバーの扱いに心得はあるか? と、竜弦様はおっしゃっておりました」
「ナナさん、何を……? って、えええええええ!!?」
言いながらも背中に手をまわして起こした雨竜の背後に回り、そのまま右手に自分の手を重ねる。なお支える関係もあり左手と胴体で雨竜を抱きしめているため、もはや雨竜の
彼の困惑や抗議の声よりも先に、彼女は雨竜の手をゆったりと振り回すようにしながら、耳元で囁くように話す。なお、ナナからはやや消毒用アルコールのような香りと女性的な甘い匂い*1がうっすらとしたため、彼の口は完全に封殺された。
「もとより射魂柱の霊的質量は、実態形成するほどの密度を伴わない場合は射出される前後において、どちらも体感上はゼロ。故にこそ
「そ、それが、何……!」
「……? 何を、どうしましたか?」
「い、い、い、いや、続けて、続けてください…………っ」
「わかりました。
つまり実態としては、体感上は刀剣の柄だけを振り回している感覚になる、とのことです」
「…………嗚呼、だから
少し気を抜くだけで四肢がズタズタに斬れかねないと心配されたから。そう呟く彼に、ですので、と。抱きしめたまま立ち上がり、やや過去のことを回想したのか落ち込んだ表情の雨竜を「ノーモーションで」立たせ、左手に持たせなおす。
「いささか刀剣の扱いには心得がありますので、これから数日の間、雨竜様に指南させていただきたく思います」
「…………大丈夫なんですか? 貴女は非戦闘員のはずだ」
「霊的な戦闘力の有無と、
もとより扱いの難しい武器であるならば、と。ナナは雨竜をそのまま抱きしめるようにしながら、構えを誘導し。
「────そちらの方がより、雨竜様のデータが入手できますので」
「データってそんな、希少動物の研究とかじゃないんだから……。変な言い回しをしますね。ナナさん」
専属メイドですので似たようなものです、と。相変わらず無表情だろうがどこかいたわる様な風にも聞こえた声音に、雨竜はほんの少し、自らの母親のことを思い出していた。
…………なお、修練場の入口の小窓から、竜弦がそんな二人の姿を見て無言で何か納得するように頷いているのには、気づけるはずもなかった。
※ ※ ※
「いやぁ……、止めましょうか黒崎サン。ちょっとレッスン2の内容、変えさせてもらうっス」
「あァ……? 何だよ浦原さん」
青空の、荒野のような地下修練場。知る者が見れば
困惑する一護であるが、その服装は相変わらず妙な襦袢と、
そして、そんな一護に対して浦原は「時間の無駄無駄!」といっそ楽しそうに笑う。
「だって黒崎サン、まだ全然斬魄刀…………、抜ける気がしないでしょう?」
それは、と口ごもる一護に「だから目的から外れてるんスよ~」と浦原は続けた。
一護が突如、正体不明の能力に目覚めてから。
少なからず斬魄刀の能力であるところの「霊圧で拡張された斬撃のようなもの」である月牙、それを物質のように握って扱うことが出来るというものであるが、より厳密には、一護の火輪と入り混じり融合しているようなものであることを、段々と理解してきた一護である。
つまりは髪留めになっている赤いリボンが起点になっているだろうことを浦原にそれとなく言ったのだが、それに対して相手は腕を組んで唸った。
『少なくとも黒崎サンの歩法から「
しかし
『どうしたンだよ』
『いえいえ! まあ杞憂だと良いんですが……。どちらにせよ死神の力を呼び起こすとっかかりにはなりそうですし、形成できた時点で
次は適度に斬りあって、死神の霊力に揉まれることでより黒崎サンのそれを呼び起こす、ということにしましょうか』
有沢サンはまだそういうのには向いていませんからねぇ、と言いながら、浦原は仕込み杖から刀を抜き放ち。
アタシは強いですよ? と。軽く挑発すれば、上等! と一護も不敵に笑った。
そしてそのまま斬りあって数時間。
既にたつきの姿はこの場にない。「帰って夜の見回りいってくるから~」とそのまま自宅へ戻っている。
コンはコンで意識を取り戻したものの「ぬあ~~~~~!? オレさまのぷりちぃボディ~がああ~~~~~ッ!?」と大層ショックを受けたり、りりん達改造魂魄にびっくりして「お前らなんだ!?」とてんやわんやだったりで、鉄裁により子供たちもろとも上の階へ。
必然、この場には一護と浦原しかいないのだが、
「例えばそうですねぇ────
「って、おオオッ!? 何すンだよいきなりッ」
ぶんと、軽く振り回す様な動きで
そんな一護の動きを見て、浦原はニヤニヤと笑う。
「だってホラ、その武器の扱い方にばっかり慣れてしまって~、ね?」
「フツーに戦ってンだから当たり前だろ」
「でもそれは、黒崎サンが持つ斬月の扱い方ではない。黒崎サンの体感として、死神としての戦い方を想起し、その時の霊力の運用を思い出せない」
「………………」
「まあ何だかんだ、黒崎サンが死神になってから活動した期間ってまだまだ半年にもなってないっスからね! 感覚やら諸々が衰えてしまっている今、使い勝手が違うそれを手に持ってしまっている以上、戦闘スタイルだってどうしてもそちらに引きずられる。まだ今の、ボクの紅姫の使い方の方が死神としての黒崎サンらしいかもしれない」
「紅姫の力は、
今さっきのは黒崎サンの月牙をモデルにしてますけど、色々ディティールが違いますし、さしずめ
「いや、よくわからねェよ。というか名前なンて後で考えてくれ」
「いえいえ、結構大事なことっスよ? 名前があるのと無いのとだと、こちらの認識のみならず不思議と持続性や安定性が変わってくるものですし」
「……何かどっかで聞いたことがあンなそれ」
「おやおや? へぇ……。いえ、まあそれはいったん置いておくとして」
少なくともこういう戦い方が出来ないでしょう、という浦原に、一護は返事ができなかった。そもそも「袖白雪」が混じってた頃と、月牙の発生方法自体が大幅に異なっているのもある。どうしても、今の武器での使い方の最適化を模索してしまうのは、当然といえば当然であった。
だからといって落ち込むわけでもなく「じゃあどうすりゃ良いンだよ」と返答できるくらいには、一護も精神に余裕がある。
それを見て「あらまァ」と肩をすくめる浦原だ。
「良いことなのか悪いことなのか……。どちらにせよやることは変わらないっスけどね」
「何の話だよ」
「いえいえ! こっちの話っスよ。ただ黒崎サンにやってもらうべきは、ある意味普通に戦うより過酷かもしれませんが」
だから何だよ、という一護に、浦原は肩をすくめ。
「今の、とてもとても薄く細い斬魄刀との繋がりを辿り、あなたの内在世界へと一度入ってもらう…………、つまり、刃禅してもらおうかってことっスね」
「………………あー、アレか……」
おや? と不思議そうにする裏腹に、一護は頬が微妙に引きつっていた。
彼の脳裏では、いつかの「ほぼシルエットしかわからない光景」やら「くぐもってまともに聴こえない聴覚」やらの……、ある意味でドッキリ番組か何かの移動中みたいな、そんな場所にルキアと一緒に入りこんだときのことが過っていた。
(そういや見るに堪えぬ酷ェ顔とか言われてたな、おっさん…………。いや何でだよ?)
大体おっさんなんだからもっと可愛い顔にしろとか本当無茶ぶりじゃねェかルキアと。真実に何一つ掠ってないことを考えつつも、この時ばかりはわずかに苦笑いが浮かぶ一護だった。