ちょっとプロットが転々とした関係で文章がおかしいところとかあるかもしれないので、後で修正入るかもです
驚くほどすんなり、刃禅は成功した。
もともと簡単なやり方程度ならば事前に朽木ルキアと実行したことがあること、状況に対する危機感があることなども重なり、抜けない斬魄刀を鞘ごと膝に乗せた上でのそれは、案外すんなりと一護を内在世界へと導くことになった。
浦原に「一人にしてくれ」と頼んだがの功を奏したのかは定かではないが、少なくとも下りてこようとしていた改造魂魄たちの騒がしさの中にあって上手くいく気はとうていしなかったことは間違いあるまい。黒崎一護、自認としては繊細とは言わないが、デリケートといえばデリケートなお年頃なのだ。
「…………あんまり久々って感じはしねェな」
茜雫や厳龍たちとのことよりも、少し前に来たこの世界。
いつか見たその摩天楼、上下左右の方向が90度歪んでいるらしい歪なこの世界。
本当にあっさりと意識の底に沈んだ一護の世界は、改めて自分の死神の力がほんの少し回復しているだろうことを理解し────。
『身体を引く力の傾き方には注意しろ。今この世界は、お前が思っている以上に脆く崩れやすいものだ、一護』
「は? って、えっ? お、おおおおおおおおォッ!?」
不意にかけられた声に気を取られ……、そして猛烈な勢いで地面にたたきつけられた。
いつものように重力がおかしいことを想定して、ビルの壁面に立とうとした一護は。
ごくごくまるでそれが当たり前であるかのように、そのまま地面に向けて引っ張られて背中から落下させられた。幸運にも(?)そのまま全身挫傷するようなことはなかったのは、あくまでここが一護の心の中の世界だからだろうか。とにもかくにも、物理的に当たり前だと言われればそうである絵面にさらされた一護は「いや何でだよ!?」と絶叫せざるを得なかった。
ともあれ背に痛みを覚えながらも起き上がる一護。自分の身体が襦袢ではなく現世の私服姿であることに違和感を覚えながらも、思わず悪態をついてしまう。
「何だってんだ……、いつもなら思春期のガキみてェな感じで、ひねくれた方向に重力が働いてるくせに何だってんだよ!?」
そんな一護へ軽口が飛んでくることはない。くることはないがなんとなく脳裏で『おーおー思春期のガキが自虐かァ?』みたいなセリフが聞こえたような錯覚をしたので「誰がひねくれたガキだッ!!?」と誰にともなくセルフで置きツッコミをしておいた。当然、それに対する『そこまで言ってねェよ』というツッコミ返しも存在しない。
頭を振り周囲を見渡す。見慣れないビル街。都心でもこうはないだろうという、日本の都市的な風景であるにもかかわらず延々と空に聳え続く摩天楼。そして一護の背後の場所に聳え立つ────いっそ場違いなくらい背の高く、幹の太い、紅葉した樹木。
否が応でも茜雫を思い出させるだろう、紅の葉が、霊圧が散るその木。以前ここに来たときは見覚えのなかったその存在感に、一護は気圧された。
「なん……………………、…………だ……?」
『久しいな一護』
黒衣の男は、斬月は、その頂点に立っていた。後光を背に見下ろすその姿は、聳え立つ木から一護のありようを見定めているようにも見える。とはいえその声音に温かさを感じとれる程度には、一護も余裕があった。
「斬月のおっさんか、って、………………アイツはどこ行ったんだ? いや、それ言ったらルキアの斬魄刀の、えっと────」
『客人は己があるべき場所に帰ったと言える。もはやこの地からは遠き遠き場所へ戻っている。今、我らが頭を悩ませたところで何かできることがあるという訳でもない』
「ルキアの方に関しちゃ、それもそうか」
『そしてあの者だが……』
老齢の斬月は空を見上げる。一護からその表情は見えない。数秒、間を置いたのち、やはり変わらぬ表情で斬月は一護を見下ろした。
『────あの者と、今のお前を会わせるわけにはいかない。去るが良い一護』
「な……? 何でだよ!」
態度こそ歓迎しているような雰囲気こそあれど、しかし斬月の口から飛ぶのは明確な拒絶の意思。
嗚呼言ってもわからぬだろうな、と斬月は己のコートから手を伸ばす。さすればそこには、あの白一護が振るっていた大太刀というには異形のそれ。鎖が垂れ、布の鞘が巻かれた刀身。しゅるりと解けた布の束が姿を消すと、現れ出たるは穴のないもの。あの虚の力に言わせれば────これこそが本来の、斬月。
それを一護に向けて構える斬月に「待ってくれ、おっさん!」と慌てる一護。
「何がどうしたってんだよ……今回は俺、戦いに来た訳じゃねぇんだよ! あっちの、
『訊く、か。それを聞いて何とする。あの、お前の
いつか虚の、あの白い一護が言っていた通りというべきか。適当なことを言っていたわけでもないだろうとは思っていたが、明確にこの斬月からそういうことを言われると思ってなかった一護は、目を見開いて頭上に佇むその黒いシルエットに注目せざるを得ない。
つう、と。
斬月の足元に収束した黒い影あるいは霊子の上を、
「な、何しやがる!」
『お前が死神の力を求めるなら、必然あの者との邂逅を避けることはできない。故に、私はお前をここで
何故それを否定する一護、と。刃を、戦意を向ける斬月。
流石にこの状況、刃禅をする直前の浦原との会話を疑うことはもはや一護にはできなかった。
『────おそらく黒崎サンの内側にある虚の力を抑え込むために、死神の力ごと斬魄刀がそれを封じているのだと、ボクはそう推測します。黒崎サンのその力の発露の仕方を思えば、おそらくそれは黒崎サン本来の死神の力ではなく呼び水……、そこを起点により深く、死神の力を取り戻すきっかけが生まれるはずだ』
だというのに違う形でしか引き出せないということは、むしろ内在世界の側で何かしら妨害をされる余地があると考える他にない。浦原の弁に例によって例のごとくな胡散臭さのせいで一護は半信半疑であったが、ことこうして斬月本人の口からそれに類するようなことを言われれば、一護とて認めざるを得ないだろう。
だが、これはそういう問題ではない。
浦原は口にしなかったが……、だからこそ、わかることもある。
「外の会話、聞いてただろ? おっさん。こいつはそういう問題じゃねェ。
白哉にも言ったけどな。ルキアは、あいつはきっと、自分の死神としての全部をかけて俺を助けてくれようとしてたんだ。……子供作ってたのは訳わかンねーけど」
『子供については事故だろう、そこまで自分を責めてやるな』
「いや何で自分ってことになンだよっ」
斬月の言い回しがよくわからないものの、それでも一護は自分の思う所を続ける。つまり、今までの状況から導き出された結論を。
「俺の虚の力を抑え込むために、自分の死神の力を全部俺に預けてくれてた。そんなアイツの力が抜けたから今は俺一人で賄ってる……、
『────────』
……なお、それが真実からどれほど遠いかというのは別にして。
「アンタが会わせたくねェってんなら、今のあいつは前にみんなで戦った時みてェな、バケモノになってるのかもしれねェ。死神の力で封じた上でそんな状態なんじゃ、死神の力のない今の俺じゃ、太刀打ちもできないって。だから、ここで行くなって言ってくれてンのかもしれねェ。
けどな、それで俺が諦めていい理由にはならねェんだよ」
手を頭上に構える一護の周囲に、木枯らしが吹き荒れる。さきほどまで斬月が立っていた樹から待った紅葉が一護の周囲に吹き荒れ、その手元に集まり────。
「もちろん無茶はあんまり言いたくねェ。でも、周りに俺だって頼ったって良いんだとしても、俺が自分で立ち向かうってことに変わりはねェ」
ぶんと振れば、柄の長い妙な形状の剣のような何かが、一護の手に現れる。
それを腰に構え……刀身が短くなったせいもあってか
「だから、押し通らせてもらうぜ────!」
『…………嗚呼、仕方ないか』
斬りかかってくる一護と鍔競り合いをしながら。
私は争いを好まぬのだがな、と呟いて受ける斬月。
それを見て、ほんのわずかに一護は、表情をしかめた。
※ ※ ※
いやまァ、何っつーかなァ……。いやコレ本当どうしたもんかね。いやマジでよォ。
「月牙天衝!」
『────』
何がどうしてこうなったっつー感じなンだが、
子雪の奴でもいれば「いぶん! いぶん! むらまさ!」とかほざいてそうなモンだが……、いやこれは要らねェ感傷だな。
一護がブン投げた
だからこそオッサンもそれが霊力として拡散するより前に
対する一護もまァ瞬歩して距離をとったり逆に接近したりしてるが、
というわけで、まァどうも。
誰が聞いてる訳でもねェだろうが、俺だ。
『どうした一護。その程度で今、囚われの朽木ルキアに手が届くと思っているのか』
「……っ! おおおおッ!」
ちょいと諸事情あって今、一護と顔を合わせたくねェからと
一護の刃を受け流すオッサンは、そのまま
いや、いきなりこう言うのもアレだが流石に焦ったわ。茜雫の影響が露骨に働いて出来上がった月牙モドキを
確かに内在世界への侵入は、俺たちと一護の現在のつながりの太さからいってまあまあ難しいっちゃ難しいが、それでも
ただ、だからこそ浦原喜助の言葉がいただけねェんだよなあ。
「────おそらく黒崎サンの内側にある虚の力を抑え込むために、死神の力ごと斬魄刀がそれを封じているのだと、ボクはそう推測します。黒崎サンのその力の発露の仕方を思えば、おそらくそれは黒崎サン本来の死神の力ではなく呼び水……、そこを起点により深く、死神の力を取り戻すきっかけが生まれるはずだ。
それが出来ず異なる形でしか戦えていない、引き出せていない。つまり、黒崎サンの内側で何かしら妨害をされる要因があると考える他にない。黒崎サンの死神の力が、別なことに使われている訳でもない限りはね」
『オイ、あれ絶対確信犯で言ってるだろオイオイ、しかも事情のキモはまだ知らねェくせに』
『一護に意図的に誤認させ、どさくさまぎれにお前を屈服させようという魂胆ではないか? ホワイトよ』
またテキトーなことを訳知り顔で言って来てるような感じだが、なんっつーかヤヤコシイことにあの言い回し、どう考えても俺とオッサンの関係に何かしら仮説があった上で一護の奴に事実関係を隠しながら色々言ってるのに違いはねェんだろうと思わされる。
実態としては死神の力と虚の力、おまけに完現術も含まれてる俺と、滅却師および若干の完現術を持つオッサンというのが現在の基礎の関係なんだが。
朽木の奴に虚の本能を封印するためにと、
もちろんそいつは、浦原
そしてそれをあえて一護に言い聞かせたっつーことは。ある意味でそれは、こっち側で何かトラブルがあるのならば
ただそのアシストに乗るっつーのは、一護が自分の霊力の真のところを捉えるのをまた遠のかせる原因にもなるところで。
とはいえナチュラルに一護が虚の本能への警戒をしなくなると、火輪を作るときの殺気にも影響しそうで、つまりそれは暴走のリスクにもなり。……ついでとばかりにオッサンも俺がいねェことを良いことに言いたいこと色々勝手に言いやがってオイコラッ。
『状況は中々世知辛ェんだよなあ……』
『────ぎゃう、世の中はむずかしいね』
『おうどうした、暇してンのか? お前…………ってだから角、危ねェって言ってンだろ』
『ぎゃ!』
…………ンでもってある意味一番のツッコミどころとしてはだなぁ。
色々ぐちぐちと益体もねェことを考えてる俺の膝の上に、どっからともなく登ってきて、一緒にテレビ画面を見てるコイツ。相変わらず昔の夏梨みてェな顔のツクリしてるわりに色も白く、こっちの顎にこめかみから生えた角をぶつけてくる、ガキンチョ。
先端あんまりとがってないから良いでしょ! と言わんばかりの気楽さで、相変わらずのテキトーさの子供。
姐さんはともかく……、ごくごく当たり前のように、何故か振子雪は俺たちから離れた場所に戻っているだろうに、時折こうして遊びにやってきてるっつーことだ。
いやテメェ、本当いったい何なんだお前よォ…………? 朽木依存の斬魄刀モドキみてーなモンだろお前、何当たり前みてーな顔してこっち来れるんだよお前。
※ ※ ※
「うーん……、
『ケンカ売ってンのか女、てめェ! 俺がほかの奴らと同調できねェのは、お前の責任だっての!』
「やーん! 髪、引っ張らないで~~! おハゲちゃうよぅ~! こんなに小さいくせに~!」
『馬鹿にしてンのか!?』
アパートの自宅、一室にて。やや広めの居間にて、井上織姫は自らの盾舜六花を顕現させていた。ヘアピンを基礎として分岐し、テーブルの上でそれぞれ円陣を組むようにならび、全員が手を開いて唸りながら霊圧をゆるく放ち同調させている中、名指しで織姫に何やら妙な表情で言われた、黒い六花が怒る。
妖精と言うか小人と言うか、背に独特の翼のようなものを背負った六花たち。そのうちどこか不良めいた雰囲気の、首元と口元を布で隠した椿鬼は、織姫の物言いに納得がいかないのか足でほほをげしげしとしながら、髪の房を一つ引っ張っていた。
『何をやってるんだか』
『…………』
『っていうか、そもそもあたしたちって
『キェェイ! それでは収まらぬ乙女心をわかってあげなさいリリィ! たとえあの椿鬼相手でも! でもちょっと黒崎一護に似てるから実はお気に入りなのでは?』
『わし、同意』
『てめェら好き勝手言ってンじゃねェ! 大体俺たちの霊的要素が六つに分かれてるって教えたのお前じゃねェかチョンマゲ隊長がッ! メンドーな仕事増やしやがって!』
相変わらず文句を垂れ続ける椿に「ボクらは織姫の力なんだから、素直に手を貸すのは当たり前じゃないか~」と肩をすくめる少年のような六花。
他の六花たちも仲が良いのかなんなのか、好き勝手に言ったり、少年のような六花に隠れこそこそ様子を伺ってる六花がいたりと各々自由奔放であった。
────朽木ルキア救出にあたり、仮の師となった夜一(※猫の姿)は茶渡や織姫に言った。
『力の本質を探る、ですか? えっと、どういうこと?』
『本質か…………』
『言葉通りの意味じゃ。茶渡は何かを掴んで能力に変化があったようじゃが、儂が懸念しておるのはお主よ、井上織姫。戦闘にもとより向かぬのであっても、何かしら基礎の底上げは必要であろうからな。少なくとも一護の霊力に影響を受けて引き出されたその
つまり対話と同調が出来るのならば、そこにはより其方の力を引き出すきっかけが存在するはずじゃ、という夜一の言葉に従い、織姫は六花たちとあれから何度も言葉を交わすようになった。
もとより以前に自室での会話で、実は三天結盾は固定型ではなく移動させられる、足場して空を飛ぶこともできる、というのに気づいたこともあるのだ。練習はまだまだ足りないものの垂直方向の飛行に関しては安定して出来るようになったこともあり、それならと六花たちと仲良くなろう! と思い立った織姫である。
故にこそか、その中でも一人だけ攻撃性能を持つ椿鬼がツンケンとしてくるのだが。
『ぼく
『いう必要がないって言ってンだよ!? ほら見ろ、なんか俺だけ仲間外れで可愛そう~とか訳わかンねェ理由でお前らの中に組み込もうとしてくるしよォ! なんか編成に意味付けようとしてくるし』
『実際に意味はあるわけだし、悪いアプローチじゃないんじゃないのー?』
『ちゃんと戦おうって意思で
そんなこと言わないでみんなでエ○タ見ようよ、と織姫。
わいのわいのと拒否する椿鬼を他の六花たちが宥めようとあーでもないこーでもないと色々言いながら。ちょうどそんな時に、ピンポンと部屋の入り口のチャイムが鳴る。
はーい! と声をかけてから、六花たちを手に取れば、その姿は瞬間的に髪留めへと姿を変えた。
そして戸を開ければ。
「────やあ、織姫。調子はどうかな? ……今年は
「あっ、
これお土産、とバターチーズケーキの箱を掲げる、物鬱げな男に。