4期1話、せめて2話前に書きあがらなかった…
『────よォ、やっと来たか
そう、男は言う。こちらに背を向ける、よく見ている白く染まった自分自身のその姿。ただ、何だろう。今日はその声に違和感があるような、そんな気がする。
いわく「斬月のおっさん」と斬り合いを続け、ついに何かしらを認めさせることに成功した黒崎一護は。いまだ斬魄刀が抜けずとも、それでも、自らに生まれた新しい力を使い続け。その先に今、一護はより深く、自分の内在世界の底に潜っていた。
例えるなら、そう。風景はさながら夜の街。……街といっても栄え具合でいえば空座町とそう差はなく、なんとなく眼下に広がる複数線が合流した駅前のような情景がお隣の鳴木市の駅とかを思わせる。
いや、とはいえ見覚えのある様な風景であると同時に、一護にとっては見覚えのない景色────そんな風景の中、ビルの屋上に白一護だろう影は座っていた。
違和感がある。……以前、縛られていたはずの後ろ髪はそのままだが、声音も、なんだか体格も少し以前と違うような。
とはいえ別人ということはないだろう、その確信だけは嫌でもさせられる一護であった。
『長いようで短ェ……、いや、やっぱり長ェな。結局最後の決め手が井上の後押しとかだったし、それが来るまではたつきの奴がどんなに頑張ってもアレだったっつーのを考えると、どうにもこうにも報われなくて俺の目にも涙っつー感じだな。もっと早く来れてたら、たつきにも芽があったンだろォが、嗚呼…………。まァあんま聞こえなかったけど。アレか? 井上相手の会話だからいよいよ俺にいじられるの嫌がって、精神的な防壁でも────』
「……って、いやだからいきなり訳わからねェこと言ってンじゃねェ!? つーか井上とか関係ねェだろ井上とかッ!」
ここのところ戦い通しだったせいか、なんだか数か月ぶりくらいに再会したような感覚すら覚える目の前の誰か。未だにこちらに背を向け胡坐をかく、おそらく自らに巣食う虚だろう……、
そんな相手のノリが一切合切、朽木ルキアの
一護に未だに背を向けながら、しかし、ややおどけるように白一護も背筋を伸ばして手を打つ。
そこでたつきのヤツより井上の話しか出てこねェってのがなァ、と。………絶対嫌な風にニヤニヤしながら言ってるような声音に、一護の怒りのボルテージは上昇する。漫符でいえば、怒りのマークがつくデフォルメがされるだろう。
『いや関係あンだろ、あの
「うわあああああ!? テメェ、何言おうとしていやがるッ!!!」
『ったく、朽木のヤツもがいたら
「いやオメーの情緒どうなってんだよ……? 何いきなりテンション上がったり下がったりしてンだ、マジで」
……そして唐突に話しながら自己解決し、肩を落とす白一護相手に、一護は少しばかりリアクションに困った。
なんかこの話を下手につつくのも
「っつーか、何だよそのヒートザソウルて。……
言いながら、一護は後ろ髪をいじる────正確には、そこを縛る赤いリボンを。
同時に霊圧がほとばしり、「発火」という声かけもなく黒い火輪が一護の両手首から、腕を、全身を駆け巡り、周囲へと伸びる。
一護を中心に、さながら
奇形の剣はさらに火輪をまとい、ゆったりと、ぐるぐると鈍く回転して。さながらそれは小さい月牙天衝が、一護の周囲を囲っているようであった。
少しだけ、白一護の顔が動く。
横目で一護の姿を見たのだろうが、逆に一護からは白一護の顔は見えなかった。
『何だよ文句あっか? 悪ィが、そいつは
「は?」
『ドイツ語入って良い気もしねェではないけど、それやると何かあったら確実に消し炭も残らないくれェ燃やされかねないっつーのが、いや、世の中ままならねェぜ一護』
「何勝手に話すすめて勝手に納得してンだオイ」
『あー、まァ何にしろだな』
そして。ここでようやく立ち上がった白一護は腕を組んで振り返る。
────その顔には、いつか白昼夢のように視たような
「何、だ……? お前それ────ッ!」
『トカゲみてェなバケモンじゃなくてよかったな?
じゃ、第二ラウンドといこうか一護』
何やら以前の斬月とのやりとりを聞いていたようなことを言いながら、白一護は
そう、それもまた一護の感じた違和感だったのだ。自らのように、斬月たる巨大な斬魄刀を背負ってすらいなかったことが。
「わかっちゃいたけど、最初から
飛び交う刃一つが、一護の右手に収まる。同時に火輪が散り、右ひじから先までが《骨のような手甲》に覆われた。
それを見て、ニヤリと笑う白一護。
『何だよ。オッサンが抑えていた
「今どき誰もギャフンとか言わねェだろ、それ……」
『朽木の奴ぁ、新人の頃に訓練がてらシバいてたら、顔面からぶっ倒れてケツ突き上げながら言ってたことあったなァ……』
「マジかよ!? って、いや何だその情報、なんで知って、っていうか何知ってンだてめェ!!?」
『仙太郎の奴も虎徹の奴もあン時助けるより先に可愛いとか爆笑して、って、あっヤベ……』
何故かそこだけ慌てながら「い、いやまあつまりだな……」と。
一護の虚だろうその男は、語る。
『対話と同調、って奴だ。霊術院でも基礎のきの字くらいは教わるが……お前にゃ
剣と剣、つまり拳と拳の対話。フィジカルなランゲージであると。
思わず半眼になる一護は、どう見ても不満そうだ。
「人のことを不良みてェに…………」
『はっはっは! 今更だろ。少しは気にしてンのは知ってるけど、別に何かあったら殴るの躊躇する性質じゃねェし。
それで朽木のヤツにも井上に嫌われてる訳でもねェんだから良いじゃねぇか────』
「だから止めろって言ってンだよテメェ、そういうの!」
ぶんぶんと、やや幼い挙動で手元の刃を振り回す一護を揶揄う白一護。
構える一護の脳裏には直近の現実世界において、井上織姫と交わした言葉が浮かんでいた。
刃禅において、斬月のおっさんから「霊力の回復にも、身体は資本だぞ」と諭されて、定期的に戻ったりしていた一護。斬月との内在世界での闘争を踏まえ、現実世界でもまたその能力の扱い方を慣らすために試してみたりもしつつ、刃禅を繰り返す日々が数日。
そんなある時である。井上織姫が訪ねてきたのは。
『わ、わわ、何か凄いことになってる……!?』
『って、井上!? いや何で……!』
内在世界に入っていたにもかかわらず、彼女の声がかかった瞬間に現実に引き戻された一護。正確には斬月のおっさんの手により「来たぞ」の一言とともに送り返された訳だが、瞬間、自分の周囲に放たれていた火輪を解除。おっかなびっくりといった様子だった織姫を前に、早々に受け入れ態勢に入るあたりは流石である。
何が流石なのかはともかく。
『そっか……、その、斬月さんと、虚の黒崎くん? うん、二人とも黒崎くんのこと、大好きなんだね』
『いや、何でその結論になったンだ……?』
井上織姫も井上織姫で、夜一から言われた通り自らの能力との対話を続けているらしいが。一護もまた自分の修行状況について話せば、彼女から帰ってきた返答はそんなものである。ただ普段のように天真爛漫に微笑んではいない。どこか悼ましいような、こらえるような、寂し気な微笑だ。
何故か花柄なブルーシートを織姫が敷き、二人とも適当に座ったまま言葉を交わす。
一護に関しては魂魄体ではあるが、この修練場は「霊子の砂もあるのか」しっかり汚れるので、効果がないわけではなかったが、さておき。
浦原との馴らしで出来た擦り傷を治したりしつつ、そう言う織姫に。一護は半眼のまま宙を見上げて考える。
『虚の俺に関しちゃ、正直、よく判らねェンだが……。でも只の虚じゃねェってのは間違いねェ。あの火輪っつーのも、斬魄刀の扱いについても、ルキアの斬魄刀についても、そもそも……』
────
震える朽木ルキアに抱き留められる、命の消えかかった魂魄の感覚が、記憶が、一護にはまるで我がことのようにこびりついていた。
『……けど、今俺が死神の力を取り戻せていねェっつーことは、邪魔してるのはアイツのはずだ。俺がルキアを助けに行きたいっつーのを分かった上で邪魔してる。だから────』
『だから、黒崎くんのことが大好きで、大事だからなんじゃないかな』
『…………は?』
困惑する一護を前に、ちょうど双天帰盾を腕にかけ終わった織姫は立ち上がり何故かくるくると回る。ちなみに赤みの強いピンクなノースリーブパーカーにカーキなホットパンツなので、足元の防御力は最低限保証されている。……保証されているが、20センチもない距離でそんな健康的な太ももが行ったり来たりする様から、一護は少し視線を逸らした。
『もし私が黒崎くんだったら……器用だけど、ちょっと不器用だと思うから』
『いや何が不器用だって……?』
『いろいろっ。だけど、だからきっと、いつもならすぐ答えは出てるんじゃない?』
茶渡くんとかにお
どうやら一護のマネのつもりらしい。
『「ごちゃごちゃ
いつもの黒崎くんなら、そう言ってケンカするんじゃないかな』
『…………』
『だから、みんなで行こう! みんなで、頑張ろうよ!
あたしも茶渡くんもたつきちゃんも、石田くんも、朽木さんが死んじゃったりしたらイヤだもんね!』
『……ありがとう、井上』
その後、「頑張ってる黒崎くんには、じゃーん! ご褒美でーす!」と言いながら、何やら名状しがたいスイーツのような見た目とトッピングがかかった手作り弁当……、ハンバーグやら焼肉やらがチョコレートサンデーのように弁当箱の中でトッピングされていたり日の丸が梅干しではなくサクランボだったりしたものを提供され「お、おぅ……」とか、せっかくだからと照れながらあーんされたりして二人とも微妙にギクシャクしたりといったことはあったが。
実際、その通りである。
その通りなのである。
「とりあえず! お望み通りテメェをぶっ飛ばして死神の力を取り戻す! 聞きてェことは、それはそれ!」
『まァ、そっちの方がやりやすいなァ』
そして、白一護は言葉を紡ぐ────。
『────水天逆巻け、捩花』
彼の変化した手元の槍を。その斬魄刀を見て。
一護は少し目を伏せ息を吐く。
後回しと言ったものの……どこかやりきれないような、そんな感情の乗った視線であった。
※ ※ ※
ハイ、っつー訳でドーモ、
いや俺だっつっても、アニメとか音がついてたら声が違ェから分からねェとは思うが、一応、自認は白一護、ホワイトとか愛染の野郎に言われてた時とズレちゃいねェ。
絶賛、一護の内在世界に巣食ってる「斬月」当人なことも、何も変わっちゃいねェ。
変わったのは、ひたすらに俺の見た目やら声やら……、あと基本的に使おうとすると、斬魄刀が捩花固定になっちまってることだ。
このあたりで、第三者視点で俺たちのことを俯瞰できるヤツがいたら、なんとなく今の俺の状態を察するかもしれねェが、ンマーあんまり言いたくねェが今回の戦犯は多分、姐サンと朽木の奴だ。
これのお陰で一護のヤツに合わせる顔がなかったっつーのに、子雪のヤツは普通に遊びにくるしよォ……、本当何なんだアイツ……? まァそんな俺の与太話は置いておいて。
『
「────
いつも通り「死神らしい」戦い方をしてる俺に対して、一護の戦い方が、なァ……。いや
始解した捩花で、本来の舞踏めいた槍術よりは水流と霊圧によるウォーターカッターみてェな丸ノコっぽい使い方で応戦する俺。……まァ花芽天轟、これ本来の使い方じゃねェんだが、意識的に一護に月牙撃たせるために、あえてやってる側面はある。
意外と一護の奴、あの剣? を投げるだけで放てるっつーのと、ここが外の世界じゃねェせいかフツーにバンバン使ってるし。俺がこうして撃ちまくってるのも、少しは効果があると良いんだが…………。
いや問題はそっちじゃねェ。
「はァッ!」
『おっとォ!?』
なんっつーか、
どうしようもねェっつーか、よォ……。
月牙を放った後の刃が自動再生する間に、周囲に浮かんでるまだ使ってねェ刃を手に取って斬りかかってくる一護。
柄が二つあるみてェな妙な造りしてやがるあの剣だから、真ん中で双刃みてェに持てば、ちょっとした脇差みてェな感じに……っつか、その先端の方の刀身が妙に弥勒丸を思わせる感じの刃の形してて、オイオイって感想だ。
まァそいつはともかく端的に言えば。一護の両足は──── 一護が出現させた
まるで靴でも履くみてェに、両足から月牙の霊圧の奔流が出てるみてェな感じだ。
……それで実現される動きが、滅茶苦茶スケートめいたスライド移動なンだからたまったモンじゃねェ。
おいオッサン、中継みてェにしてみてた時も思ったが何ついでとばかりに
動き完全に滅却師の歩法だってンだよ!!? アンタちょっといい加減にしやがれってんだッ!
力目覚めてもねェのに普通に使いこなしてる一護も一護だってンだよ何フツーに覚えやがったお前!!?
俺それ教えられねェから!!! 死神の力を呼び戻す修行だっての忘れてンだろ絶対!!!
だからといって全く瞬歩を使わないっつー訳でもなく、ここぞという瞬間の踏み込みとか、そういう時はしっかり霊圧を爆発させてきてンだが。
それはそうとして、例えば丁度、妙な間合いに入られたせいで捩花を肩に担ぎながら
サッカーのボールでも蹴るような動きして、足の剣から月牙放ってきやがって……、能力の系統が違うくせに完全に
『もっと死神らしい戦い方しやがれ一護ォ!』
「ンなこと言うんじゃねェよ……。
しかも変に開き直りやがって、その発言自体は全くの正解だからもう本当何も言えねェし。
「だから……、
『その割には殺意充分っつー感じじゃねェか、グリムジョーとかいうのと戦ってた時に比べりゃ』
「テメェ、あれだけ色々あることないこと言いやがって殺意抱かれねェとか本気で思ってねェよなァ……?」
ぴきり、と一護の頭上に、怒りのマークみてェなのが浮かんだような気がするが、まァ気のせいっつーかその場の空気だな。とりあえず笑い飛ばしといてやる。まァ朽木だの井上だのたつきだので揶揄ってるのに対する怒りなのは分かるが、まァそこは諦めな。
だが……、今日の一護は少し違った。
「確かに気になっちゃいたんだ。あのいじりもそうだが……、
『はァッ!? 何だごちゃごちゃ!』
引き寄せた分の二刀で斬りかかる一護に、捩花を解放前に戻し鞘と刃で受ける。
本来の
……受けて後方に飛んだと思ったら背中に火輪まとった刃を寄せて、そのまま月牙天衝でブーストたァ器用な真似するじゃねェか、アァ? 何だ、オッサンとの戦闘全部見れちゃいねェが、そういう感じで霊子収束した使い方とかやらかしたかオッサン? 俺の戦い方と違って滅茶苦茶参考にしてんじゃねェか……。
だから完全に滅却師の戦い方だって言ってんだろォがアンタッ!?
「
『ハッ! 何いってンだ、お前だってこれくらいやろうと思えば出来ンだろうぜッ!』
「そうじゃねェ、もっと根本的な所だッ!」
知識とか俺が知らねェことを知ってるとかそういうことじゃねェ、と。
叫ぶ一護は両手で月牙を構えて────。
「月牙、
『出来ちゃいねェよ、っつーかそいつ斬魄刀じゃねェから
ただただ斜め十字に重なった月牙天衝を、雑に放り投げて放ってきやがった一護に、
『破道の六十三・
手のひらの代わりに捩花の先端から放ち、砲撃を単純な物理障壁として前方に放ち、月牙の重点を
さて、と捩花を構え直そうとする俺だったが。
技と技の一瞬、ほんの秒にも満たない間隙の時間。
俺の目の前には、両足の火輪でブーストしてきた一護が、拳を振りかぶる姿が見えた。
抜かった、流石に一撃決まった時点で残身を取るまでの意識が逸れたその一瞬、関係なく、コイツ最初からこのつもりで────!
「────
『────────ッ』
そこはパンチじゃねェのか? とか思いながらも仮面の上っつーか、こめかみのあたりを起点に右の拳が炸裂する。左側の頭に激痛が走り、そのままぶっ飛ばされる俺。
何の因果か、嗚呼、なんだか見覚えがある風景の場所に叩きつけられたモンだ。
ぱらぱらと、ヒビが入り砕け散っていく仮面が鬱陶しい。
それをすこし剥がして視界を確保していると。空中から降りてきた一護は、立ち上がる俺を見据えて。
「……本当に、ンな顔してたのか。
『……………………オイオイ、苗字までは朽木も阿散井もゲロっちゃいねェだろ………? って、いや、まァ
をのれヨン様諸悪の根源……いや、ただ、それと今の俺とをつなげてくるのは、なァ?
まァ、そんな訳で。
だから今、お前とあんまり会いたくなかったってのによォ……。必要があるとはいえ、いったい誰の何の差し金なんだってンだよなァ。
※ ※ ※
「うん。あたしもみんなも、朽木さんが死んじゃったりしたらイヤだし……、黒崎くんが死んじゃうのは、もっと嫌なんだもの。出来るだけケガ、しないでね」
浦原商店を後にして、織姫は自宅への帰り道────であろうか?
その足はやや迷いながら「ええっと……?」と覚束ない様子で、どこかを探しているようでもある。
「うーん、こっちだったかなー。いやー、でもなー? でもなー? うん、やっぱり(六花の)椿くんって黒崎くんの影響受けてるのかな? 今度あのマフラーの下の顔見せてもらおうかな? ってー、今朝ちょっと機嫌悪かったから、明日にしよっか、うん」
うんうん、と。両腕を組んで頷く織姫。黒崎一護がいれば大変目に毒な状態なのは間違いないが、幸いにもこの場には誰もいなかった。
寂れたマンションの前にたどり着いた織姫の周囲に、人の気配らしきものはなかった。
手元のメモと地図とを確認して、うん、と頷く。
「うん、ここのはず────」
「────来たんだね、本当に」
そして、彼女の背後から声をかける男の声は。
「覚悟は決まったんだね、織姫」
「うん……、黒崎くんを助けたいから、私を、もっと力になれるようにしてください。月島さん」
お願いしますと頭を下げる彼女に、月島と呼ばれた物鬱げな男は「本当にこれで良いのかなあ」などとぼそぼそ言いながらも、彼女の言葉に応じた。