朽木ルキアは、混乱しかなかった。目の前で虚の
その顔に、虚の仮面が形成されている姿を前に。
『――――おおおおおおおおおおッ』
仮面だけではない。その背中やら、ありとあらゆる全身から虚の髄が、白いナニカが噴き出し。その姿は、一見するとまるで一護の身体を守るかのようで――――あるいは、一護の身体を乗っ取るかのようで。
「何が、起こっているのだ……ッ! 一護、おい一護!」
「黒崎、なのか…………?」
変貌する一護を前に、自らの危険すら忘れて呆然とするルキアと雨竜。
だがこの場において、そんな二人以上に狼狽する男が一人。
「店長、アレはもしや……!」
「まさかッ! ――――いや、だとするとっ」
下駄帽子と揶揄されることもある、胡散臭い気配を漂わせている駄菓子屋店主、浦原喜助。その彼が、おそらくルキアも見たことがない程に動揺し。そして後方、おそらくは視認できないだろうはるか遠方の「誰か」を心配するように振り返る。慌てて隣に走ってきた、独特な髪型をした巨漢が眼鏡を外してその様を目撃しているのも気付いていないようであった。
「――――――っ、マジか、早すぎるだろッ!」
そしてどこかで、白衣の大柄なとある男が愕然とした表情となり、そして自らが妻の遺影を見て、それに手を合わせた。頼む、アイツを護ってやってくれと――――。
状況は変わる。
『
「…………
果たしてその宣言と同時に、保っていた外形が崩れた斬魄刀。一瞬、それらは3つの霊絡のように解け、混じり合い。雨竜はその形に、一瞬だが自らが持つ弓のそれを連想した。そして徐々に形が成形され、洗練され、刀と呼ぶにはあまりにも奇形と言わざるを得ないそれに作り替えられていく――――。
その衝撃と、一護の刀剣解放に伴い上昇した霊圧の波が、虚の閃光を掻き消し散らし、わずかに返した。仮面にヒビが入る大虚は、叫び、数歩後退。
「何だ、この異様な霊圧は――――、黒崎のこの霊圧はッ!?」
動揺する雨竜に、依然に呆然としたまま一護にすがりついてたルキア。制服も先ほどの衝撃でボロボロとなっている。だがそんなことも気にならないのか、一護に彼女は問い直す。
全身を覆っていた髄は砕け、しかし仮面だけは残った、その一護に。
「どっちだ、一護……?」
「……あ? どっちって何言ってんだルキア――――って何だこの顔のやつッ!」
言いながら「息苦しいなコイツ……、は、外れねェ!」など世迷言を言いながら、己の刀を地面に刺して無理やり仮面を剥がそうとする彼の姿に、腰が抜け、笑うほかなかった。
「何、人が大変な姿見てそんな陽気な顔してんだよお前ェ! 少しは手伝えっ! 大体、いきなり出て来るんじゃねぇって言ってんだよ! お前まだ死神の力、全然戻ってないんだろ! 『あっち』で見たぞ、お前のあの、白い着物を着たやつ!」
「はは、そうか、お前も『同調できた』ということか――――――はは、はははははッ!」
「はははじゃねぇんだよ! あー、クソ……、っ、やっと取れたッ!」
剥がした仮面を地面に乱雑に捨てて、地面に適当に刺していた自らの斬魄刀を――――「斬月」を手に取る一護。と同時に、その刀身に開いた
「そうか……! どんなに霊力が高かろうと、それだけの霊圧を常に全開にしていれば、霊力はすぐ枯渇するはずだ。霊力をコントロールできないということは、常にそれは水道の蛇口が締まっているような状態に等しい――――。
――――つまり今、その刀から『漏れ出ている』霊圧こそが! 黒崎、君の全力だ!」
「あー、だから長ェ! あと、力貸せ石田ァ!」
言いながら、一護はルキアを適当に足蹴にする。「な、何をするかッ!」と若干顔を赤くしながら抗議する彼女へ「とっとと下がりやがれッ!」とキレ気味の一護。
「お前さっき、霊子を操ってどうこうとか言ってたよな。俺の霊力を利用するとか。それで、なんかこう、上手い感じに足場作れねーか!」
「足場!? 何をするつもりだ君はっ、どうせまた小学生みたいな単純なアイデアなんだろうけど!」
「いちいちうるせぇっんだよ! アレだ、人間も虚も大体、頭が弱点なんだ!
つまり斬って下に降ろせねぇんなら、こっちが上に行きゃいいんだよ!」
「思った通りの単純馬鹿か君はッ!」
がみがみと絶叫し続ける一護と雨竜。ルキアは足蹴にされたことも忘れたよう、困惑しながら「は、はは……」と笑うばかりであり、そんな二人の姿に浦原は少しだけ「懐かしい物を見るように」微笑みながら肩をすくめた。
「……とはいえ非常に悲しいが、君のそのシンプルな作戦は実現可能らしい。
本来ならまだ実戦で使えるレベルではないが――――君のその垂れ流しの霊力があれば、出来るッ!」
言いながら雨竜は、自らの足場に「板のような」霊子の塊を形成する。流石に一護も驚いたように彼を見るが、その足場が延びて一護の手前まで来たのを見て何かを察する。
「エレベーターか何かか?」
「つべこべ言わず乗るんだ、黒崎――――顔の手前まで近寄れば良いんだな!」
「応ッ!」
そして飛び乗った一護に、しかし笑わず雨竜は彼を引き連れて上空へと飛翔、否、昇降する――――。その間、一護は斬月の布を持ち、伸びたそれをブンブンと投げ縄のように振り回す。何をするつもりか雨竜は確認しなかったが、どうせまた単純極まりない何かをしてくるのだろうと判断した。
少なくとも、未だこの場を去る気配のない大虚。あれを倒すに足らずとも、追い返すくらいにはダメージを与えられれば。
「――――着いたぞ!」
「よし! ――――刺されぇぇッ!!!!!」
そして虚の顔面の高さ、距離は微妙に離れているものの、巨大な仮面に出来た傷を押さえこちらを見ていない、その目前。一護は自らの斬魄刀を、そのまま振り回した遠心力を加えた上で投げた。
「月牙――――」
柄に巻かれ、そこから伸びる包帯を持ったまま。投擲された奇妙な形状の刃は、虚の腕に刺さり――――。
「――――天衝!」
名前を呼んだ後、刀から伝わってきたその技の名前を叫び。布越しに、自らの霊力を、思いを、「護る」という覚悟を乗せ、
そして大虚の腕は、刺さった斬月から炸裂した霊圧により、ズタズタとなり消し飛んだ――――!
投擲と同時に飛んだため、そのまま直に着地する一護。だが当然のように霊体であるその身にダメージはない。降りて来る雨竜、未だに腰が抜けてるルキアと共に、三人は、黒い霊圧を漏らしながら何処か空間の裂け目へと消え去っていく大虚を、その姿を見ていた。
大勝利! と。特に自慢げでもないが、それでも宣誓する一護。斬魄刀を背に、右手をVの字として。
「よォ。俺の、勝ちだろ? ……というか、お前の尻拭いしたワケなんだから、礼の一つくらい、あっても――――」
そして言葉を続ける前に倒れた一護に、雨竜とルキアは驚愕したまま走り寄った。
――――その斬魄刀の穴から、未だに出続ける霊圧。まるで太陽か何かかと錯覚するほどの、その奔流を前に。
「な、何だこれ……!?」
「霊圧が、止まらないッ」
「――――当たり前だ、いままで制御してこなかったんだ、それに……」
放たれる霊圧は、斬魄刀の形を歪めはしない。それはあるいは、一護本来の力の受け皿として存在している刀ではあるからだろうか、しかし――――出力される霊圧にもかかわらず、一護自身の身体にすら傷が入る。
「一護の霊圧に、一護の霊格が耐えきれていないだと……?」
「――――っ」
すぐさま雨竜は、自らの手に霊子を集中させる――――ほとばしる膨大な、一護自身の霊力とそれに巻き上げられる霊子を巻き込みながら。
肥大化する弓、彼自身ですら御しきれないほどの膨大な、それこそ洪水のような力の波。これですら放出しきれていない、今の一護の余剰な力。
それでも、それを無理に集めて、彼の内で荒ぶる力を外に出す。
何やってるんだと、止めろと一護とルキアが言うが。そんな彼らに聞く耳を持たない。雨竜の中でも混沌としていた感情は、しかしそれでも、黒崎一護という同級生の姿を見て、一つの形にまとまろうとしていた。
――――生き残って僕に殴らせろ! 黒崎一護!
――――そして君も、生き残って僕を殴れ! 黒崎一護!
「――――っ」
霊力が収まったのを確認し、しかし両手どころではなく全身がボロボロとなった彼もまた、満身創痍のままその場に倒れた。礼は言わないと強がろうにも、一護すらいまだに余裕はない。
この場の3人は等しく満身創痍で。そんな一護と石田を前に、ルキアは大虚を退けた一護という存在から発生する、自らの進退のことすら忘却したように微笑み――――。
――その胸に丸い空洞が開いたのを見て、凍り付いた。
「何だ、……何だというのだ、これは一体……ッ!」
声も無く、そして再び形成され始める仮面と髄とに、震えた声で。そして、自らの手で何度も剥がそうとする。だが動かない。徐々に彼の身体を覆うそれは、ひたすらに外のものをまるで拒むように――――。
「止めろ! 一護を、一護を死なせるなッ! 私がそもそも悪かったのだ……、だというのに、結局、私はまた…………、命を守る戦いではないか! 誇りではないッ! だというのに、私に出来ることがないというのか――――」
「――――ありますよ、出来ることなら」
己の無力さに、それこそ涙すら流していたルキアの前に。倒れる一護と雨竜、三人を見下ろしながら、浦原喜助は普段の笑いを潜めて、冷静に一護を観察していた。
「まさかこんなに早く事態が動くとは思いませんでした。これでは一心サンにも、話を通さないといけないッスかねぇ」
「…………出来ることとは何だ? 浦原、貴様何を知っている?
答えろ! 一体、一護には何が――――ッ」
「抑えてください、朽木サン。ただ…………、一つだけ忠告しましょう。
此処から先の話――――貴女には、辛い選択をさせてしまいそうだぁ」
「……ッ、それどころではないだろう、何か手立てがあるのなら、早くしろ!」
そう縋りつくように言わなくても大丈夫ですってぇ、と。そこだけは普段の調子に戻しながら、駄菓子屋の子供二人を呼び一護と雨竜を一緒に運ばせ。ルキアはその、胡散臭い男の後をついていく他なく――――。
そして誰も居なくなったその場で。公園の中央、一護から放たれた霊圧で飛び散った砂に半分埋もれていた「仮面」を手に取った、制服のシャツ姿の男は。
「……何やってんねん、あの下駄帽子。まぁ勝手に『お仲間』作ったって事はあらへんにしても、
何とも言えない表情でそう呟くと、いつの間にか握られていた「斬魄刀」で、その仮面を砕いた。
※ ※ ※
『何だ、あの剣……?』
『何なのだろうか、あの弓……?』
『何というか、あれは本当に刀なのでしょうか……?』
三人そろって首を傾げながら、手当されている一護たちとそれに安堵しているルキアの姿を見ている俺達三人。一護に意識がなくとも、周囲に飛んでいる一護の霊圧を介して映像が流れてきているのか、意外と情報収集には不自由しない状況だった。
とはいえそれはそれとして。そもそも一護が呼び出す斬月すなわち「俺達」というのは、普段俺が使っているタイプのあの形――――デフォルトの状態で言えば完現術編以降の斬月の始解の姿をしているはずである。そこに俺とオッサンと、時々姐さんも交えて会議して色々と能力と言うか技と言うか考えたりしたのだが。
『何であんな適当な形になっちまったかね……。というかオッサンの趣味じゃねぇよな、あのちょっと一瞬弓っぽい形状に成形されかかったの…………』
『それよりも! 髑髏の方、いえもはや髑髏の方と呼ぶのもいろいろ問題がある姿となってしまいましたが! 貴方は本当に何だというのです! 具象化するだけというのなら、何故あんな……』
おそらく一護が虚化しかかった話をしているんだろうが、こればっかりは仕方ない。そもそもの斬魄刀と違い、初めから一護と共に生まれた俺である。一護の自我の形成に併せて再構成された俺と言うのは、生まれながらにして一護そのものであった――――。
つまり俺というのは、「写し取る」行程がなかったせいで。現世に出ようとすればほぼ一護「そのもの」となってしまうのだ。だからこそ違う部分のみが――――俺の力としての虚の部分が、一護を覆う。
まあ意図的にそれを強く覆った自覚はあるが。ギリギリ始解くらいするまでの間、防御くらいはしておかないと後が怖いったらありゃしねぇ。現に一護の死覇装も、ルキアの制服も身体もボロボロにされちまったんだ。これくらいはむしろ、姐さんの宿主を護った俺を褒めてもらいたいくらいだ。
『…………朽木ルキアも言っていたが。おそらく霊格が足りなかったせいだろう』
『どういうことだオッサン?』
『どういうことですご年配の方』
『我ら、そこの半身と私とで設計した力というのは、それぞれがそれぞれに己の方向性を組み込んだうえでの形だった訳だが。ある意味でそれを、一護自身の霊力をもって新たに作り打ち直すような行程が必要なのだろう。そこの客人の外形から形を変えるには』
言いながら■■■■のオッサンは、すっと自らの影から「一護が呼び出した」俺達、斬月の形を形成する。
『だが同時に、それを練れるだけの霊力が―――― 一護の内に存在している素養を、一護自身が正しく出力出来なかったことこそが、これの原因だ』
『あー、もうちょっとシンプルに言うと?』
『異なる形に練り上げるための力が無かったが故に、つまりホワイト、お前の「あの」外形を形成できなかったが故に。その中に詰まるべき霊圧だけがまるで漏れ出た分を適当に形どったかのように、この状態で安定したのだろう』
そのオッサンが言っていることは、奇しくも本来の俺とオッサンの関係「だった」それ――――オッサンが死神の力を押さえたことで、それでもなお漏れ出た力を無理やり刀の状態に成形した斬月の話に通じるものでもあり。
『故にこの斬魄刀は、状態としては安定していても、いくらでも霊圧を垂れ流す。もはや我らが抑えるべき弁を形作れないままに、無理に解放せざるを得なかったが故の悲劇だ』
『だから、一護も虚化しようとしたってことか? 俺が出てる訳でも無ぇのに』
『一護の霊圧は、ある意味で一護自身の生命を守るためのもの――――その膨大な霊圧で一護の魂魄が砕ければ、間違いなくお前自身を起点として再形成されるだろうが故に。一護の霊圧が一度不安定なそれとなった以上、奥底に沈められた本能ばかりが、一護の上に立とうとする』
『俺、というより俺の内の虚の力が、勝手に、ってことか。……だいぶ厄介っつーか、相変わらずソウルソウルしてて良く分からねぇ理屈だ』
わかりたくも無ぇ、と言うしかしない。もしそうだとするならば、今の一護のことを俺もオッサンも、どちらも助けることは出来やしないというのだ。色々前後の状況が変わっちまっただけでこの有様なのだ、原作でオッサンが一護を戦いから遠ざけたがったことも心の底から頷ける。ただそれでもオッサンは今の俺を責めはしないあたり、以前オッサンから言われたあの言葉は未だに生き続けているのか――――あるいは。
今の俺の、「一護を写し取ってしまった」、髑髏ですらなくなったこの姿に、そのまま一護自身を投影して見てしまっているのか。
やがて駄菓子屋の和室の扉が開き、浦原が入ってくる。そして突然開いたままの胸の穴を見て……、髄を剥がし、仮面を砕いてなお未だに埋まらず、仮面に関してはゆっくり再生してすらいるものをみて。
「……黒崎サンに現れているそれは、『
アタシもこっちで見るのは、久しぶりだァ……」
「何、だ……、それは…………?」
「虚化とは本来、一つの魂魄に虚の魂を流し込み、両者の境界を取り払ってより高次の霊格へと至ろうという試みッス。本来は死神相手に想定された技術であるがゆえに、他の魂魄ではその状況に耐えきれず崩壊する……。
今からそれなりに昔、朽木さんにとってはつい昨日のような年月。アタシはとある少女がこの虚化に魂魄を侵されたのを、処置したことが有りました」
「――――――――ッ」
言わずもがなそれは黒崎真咲の話であるが、まあ案の定その正体とやらについては一切触れない下駄帽子。そうやって適当に情報隠すから、ありとあらゆる人間から恨みを中途半端に買うんだこの男……。
「虚に対して相対する力を注ぎ込み、そしてそれを『死神の力』で縛ることで、アタシとその死神は少女の延命に成功しました。そしてそれは――――時を経てなお、成長した彼女の息子である黒崎サンにも、強く引き継がれていた」
「…………」
「つまり今、黒崎サンの魂魄の状態が壊れかけているのは、その黒崎サンの魂を縛っていた
『微妙に違ぇな』
『さも自分の推測がこの世の真実のように話すな、この男……』
「消し飛んだ軛はおそらくそのまま。黒崎サンの内に『育った』死神の力との繋がりは、薄い。故にもはや、今のままでは縛ることは出来ない」
『だから微妙に違うんだって。というか
「――――回りくどい話は良い! ……いや、予想はついている。だが、それでも正しく言え。結論を言え、浦原っ」
「……流石に気づきますかね。つまり、選択肢は貴女にある。朽木サン、これは貴女にしか出来ないんスよ――――黒崎サンに死神の力を与え、未だにその魂魄が『斬魄刀を介して』繋がっている貴女にしか、ね?」
ここは、実際そう間違ってはいない。ルキアは一護と共に刃禅を行い、精神世界へと侵入してきたが。そんなこと本来ならあり得ないことなのだ。その無茶が通るということは、お互いの魂魄、あるいはその霊絡とが、何かしら強く混じってるか、からまって共振しているかしか考えられない。
ここに一つ義骸があります、と。まるであらかじめ予定していたかのような、膝を抱えてうずくまっているルキアの義骸、否、もはやその想像される特性を思えば――――。
「以前、そのとある少女を抑えるために用意したものを少し改良した特注品ッス。これを使えば、貴女自身に戻りかけているであろう死神の力、これから戻るであろう死神の力その『全て』を使い、黒崎サンに注ぎ続けることが出来るッス。
ただし、代償は……、判ってますね。貴女の死神の力は、この義骸に入っている間は絶対に戻りません。今でさえ使用できる鬼道すら、いずれは使えなくなっていくでしょう。それが意味するところは、つまり貴女は人間のような存在となる――――黒崎サンが自らの内の虚すらものともしない霊格とならぬ限り。下手をすれば、一生」
『―――――――』
姐さんが……、姐さんが怖い…………! 真実を中途半端に、かつ「朽木ルキアの霊圧を消し人間とする」自らの目的のために適当ほざいている訳だが、そんな下駄帽子を相手に怒りの冷気を放ち始めている――――。浦原喜助からすれば、ルキアが霊力を失っていくことに関してそれっぽい理由付けが出来ることで不審がられず、かつ当初の目的も達成できると良い事ずくめと来ていやがる。全くどんな神経してるんだあの
流石に凍えているとオッサンが間に入ってくれて、自らの影で俺に刺すような空気がくるのを食い止めてくれた。嗚呼やっぱオッサンはこうじゃなきゃな。というか、おそらく千年前の■■■■もこうだったんだろうから、これをぶっ壊したっていうのはよっぽどだな初代護廷十三隊…………。
ルキアも顔を下げたまま、一護を見て浦原の方は向いていない。向こうからしたらルキアがどんな顔をしてるかすらわからないだろうが……。
「貴女には選択肢がある。このまま黒崎サンを見殺しにし……、いや? そうでなくともこの場で殺し、死神の力を回復するか。それとも――――」
「…………何をいまさら、馬鹿なことを言っている。
そんなもの決まっている。当たり前のことだろうが、貴様」
すっと。何事でもないように顔を上げるルキア。それを見て浦原は少しぽかんとしたように瞠目する。
「……えっと、その死神サンにも言ったんスけど、意味、判ってますよね?」
「判っている。…………嗚呼、それこそ痛いほどにな。『一護の父親』も、さぞ簡単に選択したのだろう」
自分の無力を嘆く顔ではない。だからといって、そのせいで変に身を投げ出すつもりであるような顔でもない。ただルキアは、力強く胸を張っていた。
「貴様も聞いたことがあるかもしれぬがな。世の中には二種類の戦いと言うものがあるのだ。
命を守る戦いと、誇りを守る戦い」
「誇り、ッスか…………」
「――――これは私の戦いでもあるのだ。こやつがこうなってしまったのなら、それに立ち向かうのが、今更、私でなくて何となる」
だから待っていろ一護と。どこか幼子を慈しむかのように、ルキアは魘され歪む一護の頬を撫で。
『一護を守ってくれる者が増えるのだ、悪い事ではないだろう』
『――――ルキアーッ! どうしてそう簡単に私を諦めてしまうというのですかルキア―ッ!』
マイペースな二人の声をBGMにしながら、とりあえずこの場に井上織姫がいなくて良かったとちょっとだけホっとする俺であった。
いやだって、普通にこっちでも織姫ってば一護に惚れてるっぽい節あるし……。ルキアも異性としての好意とばかり言い難い感情の向け方だけど、見たら絶対あっちもちょっと心病むって、もともと病み気味なんだから……。病んでも太陽なんだろうが一護的にも「物心ついてからの初恋」な訳だし……。
というか何で斬魄刀の俺が一護の女性事情の心配とかしてんだ、頭大丈夫かこの世界……。