そろそろ何かのギミックについて気づかれる方が出てくるかも・・・?
甘い、甘い、ハチミツみてェな。
あるいは練乳溶かした冷めたホットミルクみてェな雨が降り注いでいる。
『…………』
『…………受け入れてくれる母性が、欲しいのだろうな』
『いや、俺がコメントに困ってるからって無理に話題作らなくて良いぜオッサン』
霧雨よりはゆる実態を持った雨が、こっちは正しい重力の方向に従ってしんしんと降っていやがる。顔にべたべた落ちてきてくっついて鬱陶しいと思っていたら、少し口の中に入った味の感想がさっきのアレだ。
まァ、いつもの一護の内在世界。重力の歪んだ摩天楼ではあンだが。
『……言っちゃ悪ィが思春期を悲しみの感情に滲ませンじゃねェってんだよなァ……。朽木いた時はこういうの無かったろ、何だこの、えェ…………?』
姐サン居たら「衣服も何もかもべとべとになるではありませぬか!」とキレながら洗濯物畳んだりとかしてそうなモンだが、まァそこはいったんおいておいて。
困惑する俺が見てるビル壁面の映像は、一護たちが慌てて虚圏の入り口たる地下施設から脱出している姿。
原作より一名、出迎えが多い門番(?)の破面たちを、色々ツッコミどころがある感じで倒したチャド、井上、あと石田。そっからはまァほぼ原作通りの流れで、全員で急いで地上へと脱出しようとしてンだが。
……その間、一護の視線はちらちらと何度も何度も何度も何度も何度も何度も井上の
いやまァ、原因は丸わかりっちゃ丸わかりなンだが……。原作でも見たことのねェよくわからねェ盾使って、グリムジョーの舎弟みてェなディ・ロイ(なんで来てンだ?)を戦闘不能に追いやって実質ノックアウト。困惑したチャド以外全員(チャドはまだ戦ってたので除外)の代表をして一護が質問して、まァよくわからねェが色々頑張った! 以上の情報が得られなかった直後だ。
「……黒崎くんもやっぱり、私の胸、揉みたいの?」
「いきなり何言ってンだ井上!? ってかやっぱりって何だよ!!?」
「ほらこんな感じで……、ぽよんぽよん♪」
「止めろォ!」
目の前で誘惑してる感じじゃねェにしろ、色々気になってる相手が自分の最大の武器の一つを弄んでたら、そりゃ思春期男子の諸々には大打撃だ。ご丁寧に自分で下から持ち上げて、やわらかさを強調するようにおてての形に上下で変形させて「んっ」とか感じてるみてェな声上げてやがるし……、本当に誘惑してねェよなコイツ?
朽木が居た頃は気が引き締まってたのか、朽木のせいで萎えてたのかは知らねェが(その割にアクシデントで全裸覗いちまったときはガッツリ見てやがったが)、ここまで素直に露骨な反応はしちゃいなかったはずだ。
だからって、井上の
もどかしさやら何やら色々な感情が滲み出てるのはわかンだが、こんなモンぶちまけられた俺はどうしろってンだ。
子雪が居たら「おやつ! おやつ!」とか喜んでそうだが、姐サンが色々察したら「井上織姫だけにここまで反応するということは……、我が使い手たるルキアは女人にあらずと言いたいのですか黒崎一護? 殺します」と笑顔で抜刀しそうだから笑えねェ。
『雌雄の認識で言えばオスなのは間違いねェが、記憶や自己認識には志波都だの何だの色々混じっちまってっからなァ……』
ちなみに現状、志波海燕的な物言いをするなら大爆笑と「おぅ、とっとと押せ押せ!」である。ちいとばかり世話になってた元先輩みてェな相手の夫婦感っつーか、まァあの人は海燕関係なく俺としても面識はあったンだが、あそこの夫婦関係はマジで色々
相手が好意を示してるかどうか関係なく、まずは押して押して、相手の枠の中に入ること。
そういう意味じゃ間違いなく井上的にも一護は枠に入ってるし、一護の枠の中は大半が井上に占められちゃいるが、そのあたりの機微を察するのは思春期だろうと難しいところはあるかねェ。失敗して嫌われたくねェとか、案外ナイーブだからな一護のやつ。
ま、しばらくして虚圏から虚夜宮が遠方に見えるような、石英みてェな霊子にまみれた世界に出た一護たち。上空は欠けた三日月のみが浮かび、命の気配も感じられねェ。
そこで、ああでもないこうでもないと色々モノ言ってるのは大体原作通りの流れで、平子隊長がケッコー色々アドバイスみてェなことを言ったりしてしっかり引率の先生みてェな感じになってるのは相変わらずの面倒見の良さなンだが────。
「──断ち切れ、
遠方から、突如降りかかる業炎のかぎ爪。
おわっ!? とか言いながら一護が出刃包丁で「月牙
そのまま一護に斬りかかってくるヘンな火かき棒みてェな形状した斬魄刀の死神。
俺個人としては見覚えのある顔。霊術院時代を思えば“俺”としても、あるいは前世のメタ的な視点としても見覚えしかない顔。
当然のように出刃包丁の斬月の面で受ける一護に、その死神は絶叫した。
「……どう見ても死神ではない出で立ちに、斬魄刀!?
……あー、何っつーか、魔術師だの何だのはともかく、何で普通に本編中に
いやまァ、茜雫とかのことを考えるとあんまりこっちが言えた義理じゃねぇンだろうが……。なんとなく地面の方で未だに生い茂ってる紅葉した木を考えると何も言えねェがそれ以上に。
「てめェー誰だよ!!? っつーか、恰好は俺何も知らねェよ!? むしろ俺が訊きてェよ!!! 誰か説明してくれよマジでッ!!?」
一護の魂からの絶叫を前に、俺とオッサンはそろってばつが悪くなり視線をあらぬ方向にそらした。
────なんっつーか、何も手助けしてやれなくてゴメンネ! って気持ちでいっぱいだった。
※ ※ ※
「────お早う、
朽木ルキア、君はそこに少し立っていてくれ」
「………………」
「あ、じゃあまた後でね♪」
第9十刃らしい一護の母親のような女性は、仮面を被って己のだろう座席へと向かう。会議室のような広々とした一室には、まばらにヒトガタの破面たちが集いつつあった。
そのうちの座席の一番奥へと向かい、アルトゥロは足を進める。
朽木ルキアを己の右側に立たせ、左側にはどこか控えめそうな女性の破面を立たせ。
……もっともそちらの女性破面は、各座席の状況を見て適宜動くので忙しそうであったが。
ともあれ、アルトゥロの言葉通りに紅茶を入れて、各座席に置いていった。
仮面を外し、やはり志波海燕にしか見えない顔のまま。
アルトゥロを名乗る破面だろう男は、一口。唇を潤してから「好きに飲みながら聞いてくれ」と微笑んだ。
……その一言と同時に、第1のスタークが自分の隣にやってきたリリネットに「飲むか?」と砂糖を何回か入れて手渡していたり、ルキアとろくに面識のないあ第2だろう老人は「味のある皮肉をしよる」と嫌そうに口元を歪め、第3のハリベルはミルクと砂糖を適量入れて一口。番号の知らないウルキオラという肌の白い青年破面は一口も手を付けずに目を閉じたまま、ノイトラというらしい大きな体格ながら華奢という印象の破面はバリバリと角砂糖をかじりながら適当に何口も飲んでネルの方を睨んでいる。一方、第6のグリムジョーは「つまみとかねェのか?」と何故かルキアに訊いてきたりするし。なおその隣の第7なネルは
(自由か、貴様ら)
思わず漫符的には半眼のデフォルメ表情になってそうなルキアであるが、アルトゥロはむしろ微笑んで「結構、人間時代の文化への馴染はむしろ切り離すべきではない概念だからね」と気にはしていないらしい。
「ロカ、映像を出せるかな?」
「ええ」
ちょうどグリムジョーに「ねぇ何か持ってないっスか? わだすにもお菓子恵んでくださいッスよ~~~~!」とうざ絡みして面倒がられているネルにビスケットのようなもの(!)をあーんして食べさせていた女破面は、再びルキアの反対側へと戻ってきてから、何やら壁の方で装置を操作した。
長い長い卓上が変形し、霊圧のディスプレイのような円筒を形成させ、そこに映像が映る。
「……大所帯すぎねェか? っつーか
(天貝……?)
グリムジョーの感想に知らない名前が出てきて困惑するルキアだったが。確かに映像の人員は、あからさまに多い。一護に井上、茶渡、石田あたりまでは理解が及ぶが、何故か平子ともう一人しれっと
そして、そんな一護たちと外套を纏った死神部隊が交戦しており……少なくともルキアはその死神部隊に心当たりがないのだが、総じて状況がよくわからない。
「22号地下路からだっけ? そそられないねェ、一気にここの会議中にでも侵入してくれたら面白いんだけど」
「おそらく当人たちも困惑しないか? それは……」
「ギャグにならねぇか?」
メガネの破面に、ハリベルが肩をすくめスタークが突っ込む。
なおもし仮にホワイトが訊いていれば「アフタ〇ダ〇クじゃねェんだからよォ」とメタな感想を抱いたろうが、それはさておき。
「何じゃい、敵襲と言うからどんな奴らかと思ったら、
「侮るな、バラガン。少なくともこの黒崎一護はヤミーの腕を落としかけている」
「ほう?」
「チッ……! おいウルキオラ、余計なこと言うなよ」
「余計なことではない、クッカプーロも心配していたろ。お前は強いのだから、普段から
「あーもう煩ェ!」
「カカ、形無しじゃなヤミー」
老人の破面、バラガンはヤミーに小言のように世話を焼くウルキオラの様子を見てニヤリと嗤う。
「わざわざ連れてきたってことは、そこの朽木ルキアを助けにきたってコトだろ? 良いんじゃねえのォ、弱そうだけどな。……っつーか、この死神みてェなよくわからねェ恰好の奴何だ?」
「オイ、この黒崎一護と、斬り合ってる天貝はオレに
「……あ? 今何か言ったかザコが」
「てめぇじゃ手に負えねェから俺に任せろって言ったンだカマキリ野郎」
「ヘッ、弱い犬ほどよく吠えるってところかァ? 犬っつーか
「あァ゛?」
「ンだよ?」
二人そろってメンチ切り合ってるグリムジョーとノイトラ。なお、ノイトラが視線を逸らしてる間に飽きたのか、ネルは
グリムジョーが突如「気色悪ィ顔すんなテメェ新入り!」と叫び、ノイトラはノイトラでネルの姿を見て何故かバツが悪そうにしたりと、状況がルキアにとっては意味不明である。
なんなら遠くで「スンスンさ~~~ん!」「少しは発情するのを控えなさい、このイノシシ!」とか通路から響いてるような気がするし、誰か収拾を付けろ。
やはり各々妙に自由極まりないそんな様子に微笑み、一瞥してからアルトゥロは立ち上がった。
「フフ……、皆仲が良いようで結構」
「「「「別にンなことはねェ」」」」「フンッ」「…………」「すぅ……、すぅ……」「あらあら~」
「一部息がぴったりな気もするが、これ以上は止そうか。
さて、これは試験石だ。この
故にこそ各自、自宮へと戻り平時と同じく過ごし、彼らを待つと良い。驕らず、逸らず、しかして諦めず、次へと踏み出すことを期待する。
────恐れるな。たとえ何が起ろうとも、私から見た君たちは強い。故に我らの前に、超えられぬ壁などあろうはずもないのだから」
アルトゥロの言葉に、ノイトラとグリムジョーは視線を背ける。鼻で笑うバラガンに、何も言わないウルキオラと頭をかくヤミー。眉間に皺をよせ思いつめたような表情のハリベルと、そんなハリベルに気づかわし気な目を向けるリリネット。
「さて……、ザエルアポロ。
「問題ありませんよ? えぇ……、いつでも。設備の配置は完了しています」
(……何故
困惑するルキア。久しくかどうかは微妙だが、
おそらく自ら────理由を考えるなら
叫谷自体は自然発生するものらしいので別に不思議はないかもしれないが、それでもこの場で破面たちが口に出すということに、ルキアはなんとなく嫌な予感を覚える。
とはいえ各々の面々が茶を飲み終わったり角砂糖をほうばったり(※ノイトラとネルくらいだが)、あるいはルキアの頭を撫でて「またね~♪」などと気安く退去していった後。
アルトゥロに促され、ロリとメノリがルキアを連れていくことになっているらしく、特に逆らう気もなかったのでルキアもそれについていく。何かしら目的はあるのだろうが、
そんな彼女が部屋から出て、室内の声が聞こえなくなった後。
ルキアについていこうとするリリネットの腕を引いて止めていたスタークが、アルトゥロに確認した。
「で、××××様。あんた、あのお嬢ちゃんをどうするつもりなんだ? 一護たちのところに居る時から気にしてたらしいってのは知ってるんだが」
「……!」
アルトゥロと名乗っていた彼をまた別な名で呼ぶスターク。
内容が内容であったためか、リリネットもスタークに文句を言う前に姿勢を正し、真剣な目で彼を見る。
「あんたにもいくつか、複数の意図があるのは理解しちゃいる。パトラスたちの救出を許可してくれたことも、
ウルキオラについては、あんまりうまく行ってないだろ」
「フフ、さてね」
アルトゥロは姿を変えず、声も変えず、少しだけ息を深く吸って吐いた。
「……まあ、そうだね。『君が』朽木ルキアのことを気にするのは、そこまで不思議なことではない。彼女の出生に関して、私が
魂魄のレベルで言うなら、ザエルアポロよりは君の方が近いだろう」
「どういう意味だ?」
「────、えっ?」
スタークは訝しみ、反対にリリネットは何かに気付いたように顔を青くする。
偶然もあり望んでそうなった訳ではないようだが、と前置きをした上で、アルトゥロを名乗る男は続ける。
「リリネット・ジンジャーバック。君が特に朽木ルキアを気にするというのも示唆的といえば示唆的であったかもしれない。
「じゃ、じゃあ……、ルキアは、あいつって────でも、おかしいじゃないかっ!
叫ぶリリネット。状況はつかめないまでも、何か黒崎一護たちに対しておそらく何かしら巨大な不利益のあるだろう情報がそこにあるのだろうと、スタークは腕を組んだまま目を細めて、状況を見守る。
「君は孤独のなんたるかを知る────私以上に。嗚呼、だからこそ彼女が一人なことに、気づいていたいんだろう。朽木ルキア、彼女の姉たる朽木
「そ、それって……?」
「さて…………私が手間をかけた上で、朽木ルキアに何を期待するのか、だったね」
××××と呼ばれたその男は、スタークたちに背を向け、後方の扉へと足を進める。
「本来であれば彼女の魂魄、その内側に眠る
「いまいち話が見えねぇんだが……」
「第一案を直接的に言うならば────」
そして××××は。
一瞬、その一言だけ志波海燕の姿と声を止め、また別人の姿と声で。
「────彼女の事実を詳らかにして、それが真実であると彼女に証明することで。私の言葉が彼女の精神に浸透することで。朽木ルキアが『自らの罪に向き合う』ことで。
つまり
……だから、君の戦いの意図には反しはしないはずだ、スターク」
足を進め退室した彼の言葉に、スタークは無言。
対してリリネットは……、何かを思いつめたような表情になって、グリムジョーたち他の破面たちが退出した出入口へと向かって駆けだした。