メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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例によって独自解釈やら独自設定やらもろもろ注意

※前回から本作的な真相に迫っていく? 感じになっているので、未読の方は昔の方とかもお読みいただけると幸いです 
※メノスの森は真面目にやると無駄に長くなりそうだったので、申し訳ないのですがダイジェストです


#094.THE DEVASTATING TRUTH②

 

 

 

 

 

『ここは俺が喰いとめる。先に行け、黒崎一護。

 心配するな……、い(・)つ(・)か(・)追いつく。お前は、まだ生きている仲間を助けるんだ。

 蛮電灯! ゥルォアラァラァアアアアアアアア────オォゥッ! 』

『アシドォオオオオ──────ッ!』

 

 蛮族めいた唸り声をあげ、多数の大虚たちに襲い掛かる死神。

 天貝たちと戦っていた時に落下したここ「メノスの森」にて、一護たちに助力をした死神たる狩能(かのう)雅忘人(アシド)。かつてここに落ちてきたらしい海燕を助けたらしい彼は、どこか海燕のような面影のある一護たちがここを脱出するのに力を貸してくれた。

 最後の最後、中級大虚(アジューカス)に率いられた大虚たちの大群を前に殿(しんがり)をつとめ。解放した稲妻の螺旋渦巻く投擲槍めいた斬魄刀を、蛮族めいた叫びと共に振りかざし。

 

 彼一人を残すことに絶叫する一護と、そんな彼に堪えるような目を向ける天貝。「急ぐぞ!」と一護の腕を引き、織姫の盾に乗せて自らは瞬歩で走り続け、三者はともに地上へと脱出した。

 爆裂する霊圧と共に、一瞬で穴が塞がる地面────まるで「生き物のような」その凄まじい速度の、再生めいた動き。

 

「なんとか脱出できたか……、よし! 落ちたところからそう離れてはいない。これなら……、ん、一(・)護(・)?」

 

 落下して、多少なりとも情報交換をしたり。あるいは大虚と共に背中を預けて戦った影響か。一護に対する天貝の警戒は大きく解けたらしい。故に昏い表情をして、地面に手をつく一護に声をかけるそれも、どこか温かさがあって。

 

「黒崎くん…………」

「……今はまだ無理でも、それでもいつか…………!」

「…………狩能隊士を迎えに来る、か。そうだな。メノスの森でまた、彼がいるのと同じ場所にたどり着くかわからない。それでも、だな」

「………………嗚呼ッ」

「黒崎くん……」

「…………もう大丈夫だ、井上」

 

 ほんのわずかな期間、わずかな時間であったが。 

 それでも思うところがあるらしい一護の肩を、井上織姫はそっと撫で。

 心配かけて悪いと、強がるように微笑む一護に、同じような笑みを返した。

 

 ────そんな一護めがけて、見(・)覚(・)え(・)の(・)あ(・)る(・)様(・)な(・)蛇(・)腹(・)剣(・)の刃が放たれ、振り下ろされる。

 

 咄嗟に火輪で形成したよ(・)く(・)わ(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)剣(・)を使ってそれを受け止めつつ、包帯に巻かれた斬月で側面を雑に払うと。

 

「何しやがるッ!? って……、恋次!」

「よォ! …………ったく、水臭ェじゃねぇか。浦原さんもだけど、行くってんなら先に俺にも連絡入れろっての」

 

 遠征部隊の面々同様に、枯草色の濃い外套をまとった阿散井恋次である。一護に向けて一発、ケンカ腰に入れたと思ったら、そのまますぐに解放状態を戻し納刀。軽く手を上げるその目の下は、クマが出来ていたのを一護は見逃さなかった。

 

「連絡入れろってお前、副隊長とか言ってたンじゃねェのか……? いや、尸魂界からはルキアの救出は────」

「そいつはまぁ、アレだ。朽木隊長のお陰だ」

「白哉の……!?」

 

 衝撃を受ける一護に語る恋次。曰く「私が請け負った任は『日番谷先遣隊の全名即時帰還』まで。それ以降、尸魂界において各々の任に戻れというのなら────貴様は黒崎一護たちに助力する任が、まだ残っているだろう」とのこと。

 どういう言い訳だよ!? とか、それで良いのかよ!!? という一護のツッコミに「まだ上に虚圏への救出作戦を掛け合い続けてるし、隊長曰く許可が下りるかどうかの早いか遅いかってことだ」と笑う恋次。

 

「苦しかろうが何だろうが、先遣隊の任務自体は完全には消えちゃいねぇってことらしい。

 その上で朽木隊長としては、実際に許可が下りる前に『許可が下りたことを想定して先に隊士を派遣する』っつーのは、隊長の判断としてギリギリ間違っちゃいねェんだと。

 ま、こっちに送られたのは浦原さんが色々手伝ってくれたからなンだがよ」

「掟はどうなってンだよ、掟は!」

 

 白哉のかつての発言を受けての一護の絶叫を前に、恋次もまた「いいんですかそれで!?」と自らが隊長にツッコミを入れた時の映像が脳裏を過る。ニヤリと、ら(・)し(・)く(・)な(・)く(・)。それでいてどこかルキアが不遜に笑うような、そんな笑みを浮かべた朽木白哉は。

 

 ────掟には意図があり、私にも意図がある。

 ────ならば私もまた、我が義を正す。

 

 ────誇りの意図を護るために、我が意図を、誇りを、可用するならば……それ即ち、我が亡き妻と父になんら恥じることはない!

 

 そんな風なことを得意げに言ってたというのを聞き、一護は「マジかよ……」と、子供らしく困惑していた。なんとなく声音が以前会った時のそれとは違って聞こえたのもあり、困惑は深い。

 さて。そんな恋次にわずかに遅れて石田やチャドたち、および遠征討伐部隊の面々も走ってきた。合流した面々にそれぞれ反応する一護と、それとは別に天貝は自らの部隊副隊長に声をかけた。

 

「貴船(きふね)、どういう状況だ?」

「…………まことに不服ですが、現・六番隊副隊長からの協力要請という形で来ましたからね。否とは言えませんとも」

「何をそんなに嫌そうな顔してるんだ? お前。性格の悪さはともかく仕事はちゃんとやってたろう」

「性格について言及する必要ありましたかね!?」

 

 いきなりの天貝の零した発言に、眼鏡をキラリと光らせてツッコミを入れる貴船。

 ともあれ、一護もまた石田たちから状況を共有された。

 

 

 

「つまり、あの城みてェなとこまで送ってくれるっつーことか?」

「さっき僕らの戦闘中に阿散井くんが殴り込みをかけてきてね。なんだかんだ、そういう話になった」

「ま! 立場上は俺の方が偉ェってことにはなるからな。遠征討伐部隊、実力はともかく部隊の位置づけとしちゃ護廷隊より下みてェだし」

 

 

 

 恋次いわく。現世における虚の同行の先見調査隊の任務の一環として、ここに来たので協力を要請したということだ。これにより一護たちの立ち位置は、正体不明の霊力を振るう魂魄集団から、死神の協力集団ということになった。

 ……石田雨竜は少し嫌そうな顔をしていたものの、厳密には護廷十三隊の正規の手順から外れている独断の動き=尸魂界の死神に助力している訳ではない、という言い訳がギリギリ成り立つということなのか、少し諦めたらしい。

 

 と、話はまとまったな、と天貝が一護たちに声をかけた。

 

「地獄蝶からの通達はないが、手続き上はまぁ……、問題はないはずだ。それに、あそこに仲間が捕らわれているんだろう?」

「……嗚呼」

「正誤の秤、だ。なら、お前たちは助けに行くべきだろう。……何、帰りに合流出来たら、逃げる助力くらいは出来る」

「それは────」

「死ぬって意味じゃないぞ? あの、狩能隊士もそうだ」

 

 短い間だがよろしく頼むと、一護に改めて手を差し伸べる天貝。

 ああ! と、その手を取った一護に、彼は一つだけ注意する。

 

「ただ、これだけは忘れるな────大虚が中心となっている以上、その実力は君たちの想定をはるかに超えているだろうが。だからといって、著(・)し(・)く(・)弱(・)い(・)大(・)虚(・)が(・)い(・)た(・)の(・)だ(・)と(・)し(・)て(・)も(・)、積(・)極(・)的(・)に(・)は(・)殺(・)す(・)な(・)」

「……どういう、ことだよ?」

「魂魄のバランスの問題だ。死(・)神(・)が(・)本(・)来(・)管(・)轄(・)す(・)る(・)世(・)界(・)は(・)3(・)世(・)界(・)。現世、尸魂界、そして虚圏(ウェコムンド)だ。ここの魂魄の量もまた、世界を安定させるためには必要になってくる」

 

 仮に最上級大虚(ヴァストローデ)級が数体殺されたとしても流魂街の魂魄量に影響が出るくらいには問題が生じるからな、と。説明が難しいのか、天貝は困った風に苦笑いを浮かべた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 現世と尸魂界との間には断界(だんがい)と呼ばれる空間が存在し、魂魄の行き来はここを介して行われている。

 現世における死神の主業務の一つたる魂葬(こんそう)は、さまよう整(プラス)の魂魄に対して斬魄刀を用い、通行証を発行。同時に地獄蝶を呼び出して、その誘導を以って尸魂界まで送り届けることになる。

 基本、地獄蝶は尸魂界管轄の死神が扱えるものであり、この地獄蝶が存在しない状態での境界の行き来は非正規の手段となる。

 

 正規と非正規とで何が違うかと言えば、拘突(こうとつ)との遭遇率になるだろう。

 

 ほぼ百パーセントの確率で、地獄蝶に導かれた断界の移動は拘突という気流現象との遭遇が存在しない。

 一方、確(・)認(・)さ(・)れ(・)た(・)方(・)法(・)以(・)外(・)で(・)紛(・)れ(・)込(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)魂(・)魄(・)が断界に長期間残り続けるのは不都合があるのか、霊現象として拘突というものが、災害として存在している。

 

 驚異的なスピードで異物に迫り、接触すれば100年前後の単位でその侵入した時間軸がずらされて、外界へと放り出される。

 大概の魂魄は、この際の時間の急激な変化に耐えられずに死亡してしまうため、かつてこの地は現世への通路であると同時に流刑地の一つでもあった。

 

 そこに、非正規に手段を以って魂葬されたのが朽木(くちき)緋真(ひさな)だと────アルトゥロの言葉に、ルキアは頭が一瞬真っ白になった。

 

「私の、実の姉……? いや、バカな。そんなもの居るわけがなかろう」

「本当にそうだという確信は、あるのかい?」

「当たり前だ。そもそも私は捨て子で…………というよりも、貴様の物言いでは緋真様は赤子だった私を抱えてはおらぬではないかッ」

 

 浦原喜助が何かしたのだとしても、わざわざ姉妹でいる魂魄を使いはしないだろうと。そんな無駄な手間をかけないだろうと、負の信頼感があるルキアだった。本人が聞けば「アタシもそこまで極悪非道じゃないつもりなんっスけどォ!?」と絶叫してきそうなものだが、ルキアの内在世界で袖白雪が腕を組んで何度も首肯してるので、両者の見解は一致している。

 

 そもそも何でそんな話をさも真実のように語っているのか。というかあの方の名前など知り得ないだろう普通は、とか。それらの点について問い正せば「調べたからね」と「耳が良いもので」しか返答が返ってこず、ますます困惑が深まる。

 

「そうだね。少なくとも過去方向に100年飛ばされるはずだった彼女が、数十年で済み、かつ魂魄が崩壊しなかった────その前後で一人だったという事実に、もう少し補足しよう。

 崩玉(ほうぎょく)というものの能力について、先ほどこう言った。瞬時に魂魄の種族境界などたやすく取り払うことができる代物と。本来なら霊王から名指しで、開発者たる浦原喜助が即刻抹殺すべき大悪人と名指しされうるだけの、そういった物だ」

「……貴様、何と言うか、嫌いなのか? 浦原について知っておるようだというのは物言いで分かるが、あやつのことが」

「さてね」

 

 それではぐらかせると思っているのか。

 涼し気に流し言及を控えたまま、アルトゥロはルキアに説明を続ける。

 

「その崩玉だが、能力については厳密に言うと異なる。瞬時に魂魄の種族境界を取り払うことができる物体、ではない。それさえ可能な物体であるということだ」

「……やはり要領を得ぬが」

「具体的に言おう。人(・)間(・)、死(・)神(・)、虚(・)、滅(・)却(・)師(・)、付け加えれば霊(・)王(・)の(・)一(・)部(・)を素材とするこの道具は、一言で言えば……自らの周囲にあるものの心を取り込み、その意を受けて具現化するものだ」

 

 そう言われたところで意味不明なことに違いは無い。

 ルキアの訝し気な視線を、志波海燕の姿は少し考慮した。

 

「理解が難しいだろうが、崩玉は周囲にある魂魄の意を束ね、もっとも適切な形でそれを実現させうる能力を持っている。

 浦原喜助はその本質に気付いていなかった……いや、薄々察していたかもしれない。だからこそ、その在り様の危険性に気付いて破壊を試みた」

「…………」

「破壊出来ていないのではないか、と。つまり、そ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)。

 どれほどお題目を唱えたところで、研究者としての彼は未知の物質たる崩玉の破壊を、心の底から望みきれてはいなかった。だからこそ、封印という中途半端な方法の開発に成功した」

 

 だから残ってしまったのだと、彼は続ける。

 

「黒崎一護の死神の霊力を浴び、霊的素養の育った井上織姫は、友を護りたいと強く願った。故(・)に(・)最(・)も(・)そ(・)れ(・)が(・)可(・)能(・)な(・)形(・)で(・)実現し、彼女は瞬盾六花を手に入れた」

「…………! 貴様、何故その名を……ッ!」

「同じく黒崎一護の霊力を浴び、霊的素養が呼び覚まされた茶渡泰虎もまた、黒崎夏梨らや自らの守り切れなかった柴田少年のような子を産まぬためにと強く願った。故(・)に(・)最(・)も(・)そ(・)れ(・)が(・)可(・)能(・)な(・)形(・)で(・)実現し、彼は異形の腕を手に入れた」

「答える気はないと? ……いや、必要がないと言いたいのか」

「些事だからね。

 話を続けるが……、次は君だ。黒崎一護に霊力を譲渡しほぼ人間と変わりない存在となっていた君もまた、黒崎一護の死神の霊力を浴び、多少なりともその霊的素養を維持していた。その上でまた、自らの喪失を重ねた君は、彼を失わせまいと強く願った。故(・)に(・)最(・)も(・)そ(・)れ(・)が(・)可(・)能(・)な(・)形(・)で(・)実現し────君は朽(・)木(・)緋(・)真(・)と(・)同(・)じ(・)能(・)力(・)を(・)使(・)い(・)、振子雪と言う名の斬魄刀のようなものを作り出した」

「……緋真様と、同じ能力?」

 

 そこで立ち上がったアルトゥロは、宙を見上げ両腕を広げる。

 瞬間、ルキアの脳裏に走るいくつもの記憶────。

 

「1つの形ある物を、己の望む形で2つに分割することが出来る能力だ。それは片方が失われた場合、残った側を本体として吸収し、継続して残り続けることが出来るようになる」

 

 ────かつて平子にさらわれた一護が理性のない虚となった際。その一護から伸びる振子雪(スノーホワイト)の鎖を引いた際、虚の一護とは別に魂魄の、人間のままの黒崎一護が抜け出た、その時の光景。

 

「虚と化した黒崎一護から、黒崎一護の魂魄核を持つもう一つの黒崎一護を分割して形成し。形成された黒崎一護に、虚の本能のみで暴走した本体を殺させることで、虚の本能を抑えたという実績を持った状態の黒崎一護を改めて、本体として残すことに成功した」

 

 皆で協力し、最終的に虚の一護を一護自身が倒した際────そ(・)の(・)身(・)体(・)が(・)崩(・)れ(・)て(・)解(・)け(・)、一(・)護(・)自(・)身(・)に(・)吸(・)収(・)さ(・)れ(・)た(・)映像。

 

 ────あるいは、かつてヘリファルテと呼ばれた……本来はパトラスとかいうらしい中級大虚に一護が殺されかかった時。

 

「浦原喜助のお為ごかしのような言い訳に従って差し出した自らの斬魄刀とその内在世界とを、黒崎一護のそれと同調させ。君(・)自(・)身(・)の(・)斬(・)魄(・)刀(・)と(・)彼(・)の(・)斬(・)魄(・)刀(・)、双方から君自身が扱えるだけの形の霊力を分割して複製し、疑似的に斬魄刀の代わりとした」

 

 聞こえた袖白雪の声と、一(・)護(・)の(・)斬(・)魄(・)刀(・)の(・)息(・)遣(・)い(・)とを聞き、そして叫び引き抜いた、振子雪(スノーホワイト)。

 

「そのどちらもが、かつて朽木緋真が望んだ一つの事柄に端を発した能力に由来する。スターズ・オブ・ジェミニ……、仮に名付けるならそれが適切だろう」

「分割すると、そう言ったな? ならば何をだ? 緋真様は何を望んだのだ────」

 

 そして、同時にルキアの目の前に、有り得ざる光景が展開される。

 それは夜半、月が見える流魂街。戌吊だろうことは一目でわかる。そこにおいて、ま(・)る(・)で(・)自(・)分(・)自(・)身(・)の(・)生(・)き(・)写(・)し(・)のような女性が、複数体の虚に追われていた。

 

『なんで私ばかり……! これも、あの、死(・)神(・)さ(・)ん(・)のせい? 一体なんで────ッ! 私に、戦う力なんてないっ!』

「あれが、緋真様……?」

 

 声すら自分と同じだ。ただ雰囲気はしおらしく、生まれの良さを感じさせる。

 そんな彼女が幸(・)運(・)に(・)も(・)死神たちが到着するまで虚を振り切り、どこかの納屋に隠れた、そんな光景。

 

 そんな存在しない記憶のようなものが目の前で再生されている────あ(・)ま(・)り(・)に(・)も(・)生(・)々(・)し(・)い(・)せ(・)い(・)で(・)リ(・)ア(・)ル(・)タ(・)イ(・)ム(・)に(・)感(・)じ(・)て(・)い(・)る(・)ルキアに、アルトゥロは続ける。

 

「自らに異物が埋め込まれている事実に彼女は気づいていなかった。魄睡に組み込まれたそれは、間違いなく彼女の霊的な存在感を、周囲の虚に良質の魂魄と錯覚させるだけの霊力を垂れ流すことに成功していた。

 そんな彼女が。戦う意志一つなかった彼女が望むものと言ったら、一つしかない」

「…………」

「自(・)ら(・)が(・)知(・)り(・)う(・)る(・)魂(・)魄(・)のみが、自らの持ち物でしかなかった彼女が。た(・)だ(・)た(・)だ(・)虚(・)に(・)襲(・)わ(・)れ(・)な(・)い(・)日(・)々(・)を(・)送(・)り(・)た(・)い(・)と、生き残りたいと。そう願うことのどこに疑問があるだろうか」

 

 だからそう願い……、崩(・)玉(・)は(・)そ(・)れ(・)を(・)受(・)理(・)し(・)た(・)。

 

「彼女にとって想定外だったのは、その出力のされ方だろう」

 

 突如、納屋の中の緋真は口をおさえ、藁の中でもがく。

 そのうちに、強大な霊圧がほとばしり。周囲へと爆散して、納屋を破壊した。

 

 雨がしんしんと、降りしきる。

 

「彼女自身が虚に付け狙われる理由。崩玉を取り込んだことによって成長した自らの霊性。そして、あるいは崩玉そのもの。そういった一切合切を含めて、彼女は自らの魂魄から放棄することを意図せず願ってしまった」

 

 藻掻く緋真はやがてその動きを止め。おぎゃあ、おぎゃあと、どこからか声が聞こえてくる。

 

「結果はある意味致命的だった。死神としてそれなりの霊力を持ちえただろう程まで成長してしまった魂魄が、虚からすら襲われないほどに風(・)前(・)の(・)灯(・)ほ(・)ど(・)の(・)霊(・)力(・)へと置き換えるために、自ら分割した魂魄の量は、いかほどのものだったか」

「……待て? それ、では…………ッ」

 

 身体を起こした彼女の足元には……、ただ、そこにいつの間にか当然のように。衣一つまとわず赤子が一人、放置されていた。

 

「魂魄核を失っていたが故に、その分離した肉体は本来の彼女の物と同等の姿をしていなかった。……結果として意図せずだろうが、その魂魄核は崩(・)玉(・)が(・)代(・)わ(・)り(・)を(・)務(・)め(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)。妥当な形だろうが、かくしてここに、すべての素養を持ちうる核を持った赤子が産み落とされた。

 ────天月晩翠が絶賛する訳だ。正しく彼の目的としていた計画において、その赤子の存在は福音そのものだ。

 そ(・)の(・)魂(・)魄(・)の(・)在(・)り(・)様(・)の(・)特(・)殊(・)さ(・)もしかり、崩(・)玉(・)と(・)い(・)う(・)存(・)在(・)しかり」

 

 ここまで言えばわかるね、と。

 呆然とするルキアに、アルトゥロは笑みを深める。

 

 

 

「かくして。特殊な能力を持てど、それを発揮できる霊力がないほどに病弱な魂魄として残った本体たる、朽木緋真と。

 そんな彼女の持っていたほぼ全ての力を奪い取る形で、霊界に産み落とされた存在。────それが君だ、朽木ルキア」

 

 

 

 故にこそ朽木緋真は、その命を遠からず散らす運命にあったのだがね、と。

 

 ……話し疲れたのか。瞳から光を失ったルキアを前に、全く気にせず自らのカップに入った紅茶を一口含んだ。

 

 

 

 


 

 ……ぎゃー、う゛。

 

 

 

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