今回は主に一部独自設定注意です
※今回カットした分の話を前回末尾におまけでまとめました
永遠にも近く感じる、無呼吸。
朽木ルキアに向けてアルトゥロから放たれた示唆は、少なくとも彼女の精神を一度殺しきるだけの衝撃があった。
だがそれでも、彼女はそれで止まることはない。
少なくともルキアの手には────志波海燕の手との間に、彼から受け取ったものが残っているのだから。
だからこそ、思い至った。
思い出したように咽せ、咳き込み改めて深く肺に空気を満たし。睨みつけて、言い放つ。
「海燕殿を……、あの方を愚弄するな!」
微笑んだまま小首を傾げるアルトゥロに、ルキアは叫ぶ。彼の提示した現実に、感情を有りっ丈ぶつける。
「貴様は言ったな。崩玉は、周囲にある魂魄の意思を束ねて現実を変えると。
であるならば……あの方は、自分の
そして……、例え自分の想いが届かないと気づいてしまったのだとしても。そうだとしても。
「海燕殿を殺してまで想いを届けようなどと、そこまで私も壊れてはいない……! 例え貴様の言うように、そういった暗い念が胸の内にあるのだとしても。それだけが、ヒトの心の全部ではない!」
「…………」
「
「────フフ」
「何が可笑しい!」
怒鳴るルキアに「失敬」と断りを入れてから、アルトゥロは何か新しいものを発見した学者か何かのように、興味深そうにルキアを見てくつくつと笑った。
どの仕草一つとっても、海燕では有りえないものだった。
「いや、失敬。まさか完全に感情方面から反論されるとは思っていなくてね。だがそういった視点は大事だろう。護廷隊士としていずれ人を率いる立場となるならば、心に対するその捉え方は忘れないようになさい」
「……何目線の発言だ貴様、それは」
「さてね。
…………そうだね。確かに崩玉は周囲にある魂魄の意を束ねると言った。で、あるならば。少なからず生存に傾いても不思議はないだろうと言うのが、君の物言いだね。志波海燕の死は崩玉の効力によって誘導されたものではなく、君達の無力故にそう流れてしまっただけだと。
私としては、そちらの方が残酷にも見えなくはないが」
「──────」
その物言いがどうにも癇に障る。
おそらく一生涯、相いれることはないだろう。視点と思想から物を説かれるような……、天月晩翠の元に居た時以上に、語る相手の何かが、自分とは異なりすぎている。
先ほどの震えも忘れるほどの怒りが、憤りが、ルキアの全身を駆け巡り────自分に突き付けられているものから、目を逸らすことが出来ていた。
「ただ、君のその理屈も私の論を崩すことにはつながらない。
……崩玉によってその状況が現実を間借りして具象化した時に、崩玉に束ねられる意思は決して君達だけではないからだ。
「貴様…………ッ」
「そこには君の苦手としていたあの男の
「……今何を言った?」
さてね、とやはり微笑んで軽く流すアルトゥロ。
明らかに音が
重要なのはそこではない、とアルトゥロは指を立て。
「少なくとも同じ世界にいて、君達の周囲に居た存在が何であるかを思い出してみると良い」
周囲と言われても、ルキアに把握できるのは4っつしかない。
自分と、海燕殿と。そして戦っていたあの性根の腐った虚……、一護に因縁のあるグランドフィッシャーと良い勝負をするあの虚と。
「浮竹十四郎。護廷十三隊、十三番隊隊長」
当たり前のようにその存在を把握し、口に出すアルトゥロは。
「
「…………何?」
訝しむルキア。少なくともこのアルトゥロが極端な嘘をついて自分を騙ろうと、そこまでは思えていない。浦原喜助のように、推測をそれらしく語っているのではと思わなくもないが、基本的には本人が事実と断じてることを騙っているのだろうと思える。
その指摘には……、嫌な説得力が含まれる。
(私は……、浮竹隊長について何も、知らない)
性格や振る舞いが明るく、生真面目で、どこか抜けていて。それでも護廷十三隊隊長として並々ならぬ覚悟と、人の意思を尊重する人だというのは知っているが。
初代死神代行がどうとか、何の話だ?
否それ以前の問題として本当にこの男は、何を、どこまで知っている?
海燕殿があれほど信頼を置いていること。義兄たる朽木白哉……、「本当の意味で」義理の兄だと知って、自身の生まれについて突きつけられた事実からもはやどのような感情を向けたらよいか頭の中がぐちゃぐちゃな相手ではあるが、そんな彼が推薦したのだと使用人たちの噂話から聞き、隊の中の陰口で聴きもした。
…………というか、自分とほとんど差のない身長をしている少女のような先輩隊士(十席)から「あまりに聞くに堪えないレベルで陰口が横行してて流石に居心地が悪いから、浮竹隊長の薫陶があっても所詮はヒトの集まりでしかないと軽く絶望してますよ、とりあえず副隊長には密告したので今後良くなっていくとは思いますけど」とか面と向かって早口に言われたこともあったような気がするが、それはさておき。
(浮竹隊長は、誇りを守る戦いと言った……)
命を守るための戦いと、誇りを守るための戦い。
隊長は言葉で、あの人は生き様でそれをルキアに教えてくれた。
殺された妻への誇り、部下たちへの誇り。何より何もできずに屈することを認められない、自分自身への誇り。
そしてその戦いを守らせるために────────。
(……
目の前の相手が、アルトゥロが、自分とは異なる倫理観や価値観で生きていることはわかっている。だからこそ、その物の見方も一つの事実なことは、理解できる。
死神として育まれてきた今までの、半世紀には満たないまでも数々の経験。その根幹に、杭を打ち込んだということさえ目の前の男は何とも思っていないだろう。
ルキアとしても
あの人は隊長を海燕殿に譲るつもりだったとも聞いたことがある。
その選択に悪意はないと断言したい。
だが────。
「──志波海燕が死んだとしてもそれを良しとする、という判断を。果たして崩玉は受理せずにいただろうか」
「……………………!」
「そしてもう一つ、君は知らなければならない────」
「────何故その志波海燕の魂魄が、今では黒崎一護を形作る根幹の一部に組み込まれるに至ったのか。それを以ってようやく、君は君自身の罪を問うべき段階にまで至る」
※ ※ ※
天貝たちと別れ、距離感が狂うほどに巨大な虚たちの城へと侵入した一護たちは。
道の果て、5つに分かれた分岐点でそれぞれ分かれることにした。
黒崎一護。
茶渡泰虎。
石田雨竜。
井上織姫。
阿散井恋次。
基本はこの5人がそれぞれの道として、貴重な回復能力持ちゆえに井上の補佐に平子真子と矢胴丸リサが入る。
何故か当たり前のようについて来ていた雨竜のメイドたるナナ(今回は天狗の面を被っている)は、当然のように石田雨竜と共に行くらしい。
[滅却師のサポートですので]※スケッチブックのカンペ
『そうだね、メイドさんそういうの得意そうだし!』
きゃっきゃと「頑張ってね!」と謎の応援を眠ナナに投げる井上織姫。表情は分からないまでも、腰を折って頭を下げ、おさげが揺れる。
その様を見て「なんっかどっか、ホンマ有りえへんところで見覚えがあるよーな無いよーな気がするけど気のせいか?」とリサに訊く平子の姿があったが、特にその話に進展があるわけもなく。
(……まァ、平子たちが居るなら大丈夫か)
本当は、織姫を一人で行かせたくはない一護の心理はあったが。できることなら自分が一緒に行きたいと思ってはいたのだが。
『皆で頑張ったって言えないと、私、朽木さんに胸を張って友達だって言えなくなる気がするから……!』
胸元で手を握り、きっとした表情で一護にそう言った織姫。
その意志の強さには折れる形となったものの、それでも未練がましくつい工法を何度も確認していた一護であったが。
『…………そこに隠れてるやつ、出て来いよ』
『……隠れていたわけではなく、様子を伺っていたのだがね。だがカンが良い────とうッ!』
分岐した先の道中、まるで鳥居のような形をした装飾が続いた先。
ほんのわずかに霊圧のぶれを感じ取り、上空を睨んでそう言った一護。
果たしてその相手は…………、着地をした瞬間に「ぐきッ」とか足元から音を鳴らして「
その後、何やら拘りがあるのか歌って踊って何かポーズを決めたらしい*1その破面は、
思わず気が抜けてしまいそうであった一護であるが、彼は石田の言葉を忘れていない。
『────より虚の本能に近ければ近いほど、より低級であればあるほど、その姿は人型から崩れる』
浦原から聞いたという石田のその言葉は、おそらく真実なのだろう。
少なくとも虚圏に侵入した時よりは、はるかに高い霊圧を感じていたのだから。
だが────。
「さァ覚悟せよ死神! ……死神で合っているよな?」
「あ、あァ……。何か悪ィな、死神らしい恰好してなくて」
「良く分からないが、貴様が謝ることではなかろう死神。ふぅん……、味わいはある格好なのではないかな?」
「あァ? あァ……、サンキュー?」
「うむ。……うむ?」
何の話だ。というか何だこの空気。
そもそも登場から半分くらいギャグなので一護としては納得しかない空気であるが。
どうしても白けそうになる一護に「ええぃ!」と頭を振って気を取り直すドルトーニ。緊張感が抜けそうだったのはあちらも同様らしい。
「破面No.103! このドルトーニ様が、貴様をここで叩き潰して────」
「──ぁぁあああああッ! あっゴメン! でも邪魔ァ!」
「────何、だと……!? ガハッ!」
とはいえ、そうやってポーズをつけたドルトーニが、そのまま戦闘を開始することは叶わなかった。
突如上空から、何かワイヤーみたいなのにぶら下がって揺られるように下りてきた……、端的に言うとスパイダ〇マ〇かタ〇ザ〇みたいな動きをした少女に、ドルトーニは後頭部を蹴り飛ばされた。
うわわわわ! と、少女も少女でその動きのせいでバランスを崩したらしく、そのまま手がワイヤーから外れて投げ出される。
「……って、いや大丈夫かよ!?」
「────あああああ! あ? あっえっと……、アリガト」
そのまま一護に頭突きをかましそうな風に放り出された、涙目で絶叫している少女。日頃のケンカ慣れやら死神代行としてのカンが戻ってきているのか、突発的な少女の動きに合わせてさっと数歩動き、その腹の下に腕を入れるようにして肩に担ぎ、膝を折って衝撃を殺してやる。
流れるようなお米様抱っこである。なお「アリガト」とは言ったが、一護の顔の横にあるのはヘンなショートパンツみたいな髄の死覇装に覆われた小さいおしりだけであった。
想定外の一撃に白目を向いて倒れているドルトーニを起こすより先に、いったん少女を下ろす一護。
「って、お前…………、破面か?」
「な、何だよ……。そーだけど、何か悪いかよっ!」
そして、流石に驚かされた。
その頭部には角が片方折れた、ヘルメットのような仮面。骨の眼窩のように穴の開いた部分が左側にかかっており、構造的にサングラスのようなレンズでも入っているのかそちらからは目が見えない。
色素の薄い色の髪に、ボーイッシュな見た目。ただ活動的であるためか、色々と露出は多めに見える。もっとも身長で言うと朽木ルキアとどっこいどっこいといった風で、全体の雰囲気が子供でしかないこともあり、色気など皆無なのだが。
ちょっとふらっとして一護の袖を「ごめん」と言いながら掴んでバランスを保って、しっかりと立ち見上げてくる。
顔立ちもルキアより幼く、自分の妹たちを連想する一護。
そんな少女が一護の顔を見て目を見開いた。
「オレンジの頭……、ヘイゼルっぽい目……」
「あァ?」
「なんかこう眉間に皺よってて、悪党みたいな面構え…………! 聞いてた通り、お前もしかして黒崎一護だろ!」
「あァ゛? ……いや待て、後半の悪評みてェなのお前に教えたの誰だァ……?」
一瞬で語調が変わり、漫符なら青筋が頭部に浮かんでいそうな一護の壮絶な悪党面はともかく。
何故か一瞬とても喜んだ顔をして一護の死覇装(?)の腹部を掴み、そして彼の胸元に自分の額を叩きつける少女。思わず「ぐおッ!?」と普通に痛かったせいで反応してしまった一護だ。あまりに霊圧が低すぎるのと、妹のような見た目のせいで動揺しているのかもしれない。
その少女の破面は、そのまま声を震わせて言った。
「このままじゃ……、ルキアが殺されちゃうから! なんか意味わかんない方法で殺されちまうから! だから、急がないと!」
「……ッ!? お前、なんでルキアを────」
胸元から見上げてくる少女の破面は、明らかに焦った様子だ。そして声も、演技らしさが欠片も無い。というか、なんとなくその言葉や感情に嘘はないというのを一護は察した。具体的に理由には出来ない感覚であったものの、それでも少女の両肩に手を乗せ、少し落ち着けと声をかけ。
「なんでルキアを殺すんだ? っていうか、お前そもそも────」
「────リリネット様……?
何故、スターク様も伴われずにこんな場所に…………!?」
「ッ、って、ドルトーニじゃんか! うわあッ、めっちゃ久しぶり!」
そして、先ほどそのリリネットというらしい彼女に足蹴にされて気絶していたドルトーニが、後頭部をさすりながら立ち上がって彼女を見ていた。
リリネットは久々に友達に会ったような嬉しそうな風に、ドルトーニはどこか恐れを抱いたように。両者の反応はやや異なるものの、どちらも似たような大きなリアクションだ。
だが、一護はそれよりもドルトーニの言葉が気にかかった。
「……スターク? えっと、お前、リリネットって言ったか? スタークと何かあンのか?」
「あるのか、じゃあなくって、一応あたし従属官ってコトになってんし。スタークの」
あとついでにこっちに来てからルキアの世話してたの、あたしだし。
リリネットのその発言に「マジかよ!?」としか言えない一護。言い回しからしてこの少女はスタークの部下なのだろう。妙なところで縁が繋がったものだという素直な驚きが声に滲んだ。
……と同時に「悪党のような面構えをしている」的な情報が
「……状況はわかりませぬが、それでも何故、そこの死神に縋りつかれているのですかな?
朽木ルキアと言いましたな。…………まさか情が移ったとでも?」
「
「…………」
そしてリリネットから放たれたあまりにもあんまりな発言に、一護は反応に困った。
ちょっと心優しすぎないか、というか。見た目通りに女の子らしい発言と言うべきなのか。
ただそれらの流れをもって、スタークの部下だという自称に間違いはないだろうと確信する一護である。ドルトーニが細く睨むように彼女を見たのとほぼ同時に、リリネットを背に庇うように一歩、前に出た。
「どうしたのかね? 死神。
我らは敵同士。私と貴様が相対するのはよくわかるが……、何故、
(その方……?)
言い回しにどこか違和感があった一護だが、それには触れず背の斬月に手を付ける。
「状況も事情もなんっつーか、全然わからねェことは多いけど。少なくともいきなり、背中から撃って来たりはしねェだろ? コイツ」
「コイツって言うなー!」
「あの方をコイツ呼ばわりか…………」
何故か一瞬頭を抱えたが、気を取り直して拳法のような構えを取り直すドルトーニ。
「護廷十三隊は虚の寝返りなど許さない。当たり前に情報を拷問して吐かせて斬る組織だったと思ったがね」
「知らねェよ、そんなの。俺は人間で……、死神代行だ」
布が解けた斬月を両手に持って、構える一護。巨大な刀身を前に、ドルトーニがどこか愉しそうにニヤリと笑う。
「だからそういう、死神の道理とかしがらみみてェなモンは知ったこっちゃねェ。
俺にわかるのは、コイツがスタークの部下だって言うなら……、コイツがルキアを助けたいって言うのなら。それを、俺は信じても良いってことだけだ!」
「……そうか、
フッ……! ならば、行くぞ
────元
ドルトーニの闘志を受け、一護は斬月を振りかぶり。
相手もまたそれに応じて右脚を蹴り上げ。
「…………そっか。こりゃ、
そんな一護の背中を、どこか悲しそうに見つめるリリネットの姿がそこにあった。