メゾン・ド・チャンイチは事故物件(物理)   作:黒兎可

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例によっていつもの分と、チャドと石田の第一戦ダイジェスト注意…?

※今回はイラスト付きです


#097.ENCOUNTERS WITH THE UNKNOWN★

 

 

 

 

 

「一護気を付けろ! そいつ、“十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)”だから! 昔、十刃だっただけあって、スタークほどじゃないけど強いぞ!」

「グリムジョーとどっちが強い!」

「あっゴメンそれはグリムジョー」

「えっ?」

「スタークもあたしも、あいつは虚界期待の新人って感じで見てるし」

「えっ? えっ?」

 

「……………………」

 

 すん、という顔をしたドルドーニ。リリネットの物言いに思うところがありそうだが、反論しないのは本当にそうだから恥の上塗りになると思っているのだろうか。

 彼の両方の手刀と、柄のない出刃包丁めいた斬月との鍔迫り合い。背後からかかったリリネットの一声に、一気に双方微妙な空気になってしまった一護たちである。少なくとも明らかに気落ちしてる顔を見て、なんだか罪悪感が湧いた一護だった。

 

 実際に強くはあるのだがより高い霊圧を知っていると、確かに少し悩んでしまうところがあるくらいの感覚。

 なんなら卍解とやらをしていた梅針の方が霊圧が高かった気がする一護であるからして、フォローがうまく出来る気もせず……、そもそもフォローする必要もないと思い出して斬月を振り払った。

 

「……フッ、確かに吾輩は元『七罪刃(エスパーダ)』。現十刃(エスパーダ)に比べれば力も劣ろう。だがッ!」

「…………ッ!」

 

 瞬間、足を一護に叩き込み、体勢の崩れた一護を叩きのめすドルドーニ。壁に激突し、隣りのエリアの通路まで弾き飛ばされたらしい一護は下方を確認すれば、そこには既にドルドーニの姿はない。

 

「何を探しているのだい、某や(ニーニョ)」

「────ッ! 閃(きらめ)け・斬月ッ!」

 

 咄嗟すぎて斬月の切っ先だけを、ドルドーニに向ける一護。解号に応じてか、一護の斬月から渦のように霊圧がほとばしり、それは一護を中心として全方位に衝撃を放った。ほとばしった霊圧は光をともない、ドルドーニを襲う。

 

 流石に想定外の挙動だった故か「ブッ」とも「ヌッ」とも擬音として形容し難い音を立て、空中で一護に踵落しを決めようとしていたドルドーニは姿を消す。一瞬霊圧の感知が他者から出来なくなったドルドーニは、数秒した後地面にて現れ、勢い余ったかかと落としが炸裂して着地地点を蹴り砕いていた。 

 ……結果、ドルドーニの右脚は石英のような白い白亜の城の地面にめり込んでいた。「ぬぅううううん!」とか必死に抜こうとして顔が大変なことになっており、リリネットが「何やってんだよ……」と、漫符なら冷や汗をかいているような困惑をしていた。

 

「ふんにゅうううううううう────ぱァ! よし抜けた!

 ふぅ。全く中々焦らせてくれるじゃないか坊や(ニーニョ)……。防御は脆いが、反応と足場の変化への即応も悪くない。人は見かけによらないな、案外修羅場をくぐってきているようじゃないかァね? えェ!!」

 

「…………大体格上ばっかだったからなァ、相手してきたのが」

 

 最初の方はそうでもなかったけど、と言う一護は滞空したまま。

 霊圧の衝撃波が抜けた彼の周囲には、四つの黒い剣のようなものが浮遊している。より正確には、両足の下にもう二つほど存在しており、一護はそれぞれ両足を乗せている。それらの剣は黒い炎をまとっており、肩にかついだ一護の斬魄刀を含めて七つの刃がそこにあった。

 

 ニヤリ、とドルドーニは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ふぅん、それが坊や(ニーニョ)の始解ということか。吾輩相手にはそれでコト足りるといいたいのかな?」

「あァ? あー ……、まァ始解っちゃ始解なンだけどなァ」

「うむ?」

 

 斬月の形状自体が始解の状態から戻らなくなっていることと、周囲に火輪の刃が浮かんでいることに相関関係はないのだが。それをどう説明しても上手く言える気のしない一護は、ドルドーニの勘違いを訂正するのを放棄した。そもそも経緯も状態もややこしいことこの上ないのである。

 ちなみに「改号を唱えると衝撃波が出て攻撃に使える」というのは、現在の状態になった斬月で浦原と斬り合っていた時に発見した一護である。「戦隊モノとかの名乗りシーンじゃねェんだから……」みたいな感想に内在世界でそんな一護と全く同じ表情で全く同じ感想を漏らしていたホワイトがいたかもしれないが、それはさておいて。

 

「で、あるならば。吾輩とて坊や(ニーニョ)を舐めている訳にはいくまいな。……できれば卍(・)解(・)と(・)や(・)ら(・)を見たかいところだが、それはまだ贅沢というもの

 旋(まわ)れ・暴風男爵(ヒラルダ)────!」

 

 腰の斬魄刀に手をかけるドルドーニ。中途半端に抜いた状態で解放されたそれは、一護の解号のように旋風を伴い、砕けた床の砂埃のようなものを巻き込んで衝撃を放った。

 咄嗟に先(・)ほ(・)ど(・)の(・)ド(・)ル(・)ド(・)ー(・)ニ(・)と(・)同(・)様(・)の(・)音(・)を(・)立(・)て(・)た(・)歩法で、全く反応できていないリリネットの前に立った一護は、自分の周囲を待っていた黒い刃一つを手に取り前方に投げる。

 

「────月牙(げつが)〇(えん)字衝(じしょう)ォ!」

  

 斬月を振るうことなく、斬月ではない刃であったはずのそれは。投げつけた動きに合わせてブーメランのように回転したと思えば、それ自体が一瞬で円形の月牙へと変化して一護たちの前に盾のように展開される。

 放たれた霊圧の旋風は一護たちめがけて動いていたが、それらをうまく投げつけた円形の月牙は巻き込み、殺しきれなかった衝撃は床に刺して突き立てた斬月で受ける一護。「うわあああっ!」と子供みたいな悲鳴を上げるリリネットとて、そんな風に庇われた結果吹き飛ばされるようなことはなかった。

 

 旋風の向こう、螺旋めいた髄の鎧を両足と肩にまとったドルドーニは。そんな一護の動きに対して、胸を張り好戦的な笑みを深めた。

 

「守ると決めた相手は守る。自分が有利に戦いを進めるために、目的と手段を入れ替えないか。

 優しいね坊や(ニーニョ)、しかし意思の強さも感じる」

「ンな大層な話じゃねェよ。仲間がいたら頼るし、大変そうなら助ける。そんなくらいだっての」

 

 ドルドーニの旋風を防ぎ切り、一護の元に戻ってきた刃。さきほどまで両足についていた刃2つもまた空中に浮かび、リリネットと一護を六つの刃が、炎が、囲う。

 何これ? 何これ? と。ちょっとおっかなびっくり、ワクワクしていそうなリリネットを気にせず、一護とドルドーニは互いの戦意を高めていた。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「すまない、ガンテンバイン……。あんた相手に両(・)方(・)第(・)一(・)段(・)階(・)なんて、手を抜くような真似をして」

 

 倒れ伏す、爆発のように鮮やかなオレンジのアフロヘアをした破面。背中から倒れ、意識を失っている様子だ。

 そんな破面を前に、茶渡泰虎は両手を握る。裂けた右肩上部のパーツが閉じると同時に、刃のような器官が伸びた左腕────平子たちとの修行で目覚めた白い片腕の手のひらもまた閉じる。

 

「だがあんたのお陰で俺は、この先戦い抜ける確信を持てた」

「……さ、ど…………、やす…………ッ」

「ありがとう。……感謝など、あんたからすれば屈辱かもしれないが。拳を交えた相手だ、本心を偽ることはできない」

 

 命はそこに置いていくと。助か幸運を祈ると。

 そう言い残し、茶渡は足を進め────。

 

 

 

「よォ、オメーがオレん所一番乗りか?」

 

 

 

 逃げろ、というガンテンバインの声に振り向いた茶渡が見たのは、月輪の刃が上下に向けられ連なったような、ひょうたんを思わせる鎌。それを持つ背の高い、眼帯のようなものをした破面。白い髄の死覇装もそれらしい形をしておらず、凄まじく鋭い目つきと耳まで裂けるほどに両方に持ち上げられた頬が印象的だ。

 むろん悪い意味で……、好戦的な意味で。

 

「…………」

「へェ──────? こっちから来いってか」

「は、歯向かうな!! そいつは次元が違う、逃げろ茶渡泰虎ッ!!!」

 

 ごくごく自然体に、右腕を前に構えてボクシングスタイルをとった茶渡。

 両腕共に異形になっているものの、ま(・)だ(・)腕(・)ら(・)し(・)い(・)腕(・)の(・)形(・)状(・)か(・)ら(・)変(・)化(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

 そんな茶渡に対して、目にもとまらぬ速度で鎌が振(・)り(・)下(・)ろ(・)さ(・)れ(・)、振(・)り(・)上(・)げ(・)ら(・)れ(・)る(・)────。

 

「────ッ!」

 

 その動き一つ一つに合わせて、茶渡は右腕でいなすように角度をつけ、刃の動きをそらした。純然たる技術である。側面同士でぶつかった腕と鎌は、双方の霊圧差に引けを取らずに鈍く弾き合い、その一撃を致命傷とするのを躱した。

 目を見開くガンテンバインと、ニヤリと嗤う大鎌の破面。

 

「見えてンのか? テメェ」

「そういう訳ではないが……、刃(・)の(・)殺(・)気(・)は(・)と(・)こ(・)と(・)ん(・)叩(・)き(・)込(・)ん(・)で(・)か(・)ら(・)こ(・)こ(・)に(・)来(・)た(・)」 

 

 ────ええか? 茶渡。お前に明確に足らんモンを教えたる。戦闘経験や。

 ──── 一護みたいにギリギリのギリギリでアホみたいに戦うような状況で、辛うじて幸(・)運(・)に(・)も(・)命を繋いで、その経験値を次に生かす様な。ンな重ねんでもええような苦労とか、全然してヘンやろ。

 

 脳裏に過るのは平子真子のその発言。色々と文句をつけていたものの、何だかんだ面倒見が良かった仮面の軍勢(ヴァイザード)たち。そのうちで最も論理的と直観的にと、中間としてわかりやすい物言いをしてくれたのが、平子のそれだった。

 六車は面倒くさがって肉体的に叩き込む側に回るし、鳳橋は茶渡の特訓相手には向いていないとのこと。猿柿は乱暴そうな印象に反して著しく理論派でむしろ石田とかと気が合いそうな風だったしと、皆それぞれパターンが異なる。

 なんだかんだそんな彼らへの反応を見た上で話した平子は、よく人を見ていると言えた。

 

 その結果、虚化した彼らの霊圧を常時浴びながら、刀剣を中心に疑(・)似(・)的(・)な(・)死(・)線(・)をさまようような稽古をつけられたのが、ここのところの茶渡泰虎であった。

 織姫がつかまらなかったため本当に致命傷を狙うまではいかずとも。どういう霊圧の揺らぎでどういう風に自分が傷つけられるか、刃の先に無意識的に集中した霊圧はどこを起点に散るのかなど。

 

 頭脳と肉体、双方に詰め込まれた故に、彼はそれを今、実践でものにしている最中。

 そしてもう一つ、刃をはじいた時の相手の握力、その手ごたえから察したものがあった。

 

「…………硬いな、あんた。俺もタフさには自信があったが、少しショックを受ける」

「ハッ! 歴代十刃(エスパーダ)最高硬度の鋼皮(イエロ)を持つこのオレを、ノイトラ・ジルガを比較対象にするだァ? ズイブンとヤキが回ったなァ!」

「そうでもない。だから俺は、ま(・)だ(・)立っている」

「あァ……?」

 

 本来なら先ほどの一撃で沈んでいただろうという確信さえある茶渡。

 だからこそ、今まで重ねてきたものを信じて、改めて構え直す。

 

「ま(・)だ(・)馴染み切ってなくてな。あいにく、本領発揮までウォーミングアップになってしまうが……、そこは文句を付けないでくれると、嬉しい」

「アーアー何言ってっか判らねけどなァ────少しは全力出して、愉しませてみせろよォ!」

 

 ゲラゲラと笑っているようで、その視線は冷たく。

 大鎌を振り回すノイトラを名乗った破面を前に、茶渡は一度深く深呼吸をした。

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 女性の破面、チルッチ・サンダーウィッチを下した石田雨竜。

 破面、というよりも虚相手に霊子の分解と収束を延々と用いて相手を削り切り、その上での打破であったものの。そ(・)れ(・)が(・)可(・)能(・)な(・)こ(・)と(・)が(・)滅(・)却(・)師(・)と(・)し(・)て(・)正(・)し(・)い(・)か(・)ど(・)う(・)か(・)という点については気づかず、彼は同伴していたメイドと共に走っていた。

 

「彼女に対してあれで良かったのでしょうか、雨竜様」

「? 何を言っているんだいナナさん」

 

 ちらりと横を振り返る雨竜。メイドのナナは、一護もいない居ない状況ゆえか、気を抜いて仮面を外しており。相変わらずの少女めいた美人ぶりとど(・)こ(・)か(・)懐(・)か(・)し(・)い(・)感(・)覚(・)を雨竜に与えてくる。

 そんな彼女は無表情のまま、彼の戦闘とその結果について振り返っていた。

 

「いえ。まだ使いこなしていないからと許可されていなかったにも拘らず、黙って持ち出された貴重な『魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)』の一本を使われましたが。それにもかかわらず、彼女を殺しきらなかったことに」

「……別にそこまで僕も、物騒な主義主張を持っている訳ではないのだけれどもね」

 

 とはいえ、それはそうとチルッチの鎖結を射抜いた雨竜である。……もし破面の人体構造が、人間の霊構造と同一であるならば、という但し書きはつくが。少なくとも死神に寄っている虚である以上、そのあたりも元(・)の(・)人(・)体(・)に(・)寄(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)だろうと仮定してのこと。

 霊力発生源である器官の損傷、完全破壊ではないとはいえ少なからず霊体に多大なるダメージを与えることに違いは無い。もはや追ってくることはできないだろう。

 

 ……その上で生かされるというのは、それなりに屈辱的な一撃だろうと思った雨竜であるが。そういえばここに来る前に井上織姫の手で傷一つなく霊力のみを整へと堕とされた(滅茶苦茶意味不明なことをした)破面を見ていたこともあり、罪悪感のような感情はあまりない。

 少なくとも、回復の余地はあるのだから。

 

「命の選択権は勝者にある。さっきの戦い、勝者は僕だ。だとたら、彼女の流儀に僕が合わせる必要はないね。ただ…………」

 

 ────破面(あたしたち)は兵士で、七罪刃(エスパーダ)はその統領……!

 ────敵を殺して勝つために生まれてきたあたし達に、赦された敗北なんて無いのよ!

 

 自らの虚としての一部を捨ててまで、雨竜に勝とうともがいたチルッチのその姿を思い出し。雨竜は少し目を細め、口元をしかめる。

 

「…………朽木さんのことがなければ、ヒトとしてそこまで嫌える相手じゃなかった。それだけのことですよ」

「虚であっても?」

「滅却師の誇りにかけて、ああいう信念みたいなのを持った相手(バカ)をよく見てきてるせいで、ですかね? 僕もよくわかりません」

 

 少しだけバツが悪そうに視線を逸らす雨竜に、ナナは少しだけ上を見て思案し。

 

「…………なるほど、友達の黒崎一護のような方が大好きということなのですね」

「一体全体、どこをどうこねくり回したらその結論に至ったんですか貴女ッ!!!!」

 

 石田雨竜、渾身の絶叫である。どこも掠ってないしそもそも黒崎なんて好きでもなんでもないし友達でさえないですよ!? と。漫符的にはメガネが白く曇って視線が見えないし、頬っぺたはちょっと赤いかもしれない。

 まあまあ良いではないですか良いではないですか、などと無表情棒読みで、片手で口元をかくしてちょいちょいと手招くようなしぐさのナナ。当然無表情で、絵面は壮絶に違和感マシマシである。

 貴女は僕をどういう人物にしたいんですか!? と本人もいまいちよくわからないツッコミを入れる雨竜であったが。

 

 走っていると、やがて棟を抜けて晴天の空の下に出る。さながら城壁の警備網のように、石造りの城で兵士たちが上から下々を見張る様な見張り台のように。高いその位置から、廊下のように伸びる先はまた別な塔。

 

「これは……、天球? いや、確か外から見た時にドーム状の天井をしていたな。

 …………これ全体が、青空のプラネタリウムみたいなものか? 一体なんでこんな」

 

 城の外部構造を思い出しながら困惑する雨竜と、ほどなく隣に立つナナ。なお、そんな彼女の手には先ほど使用された霊子兵装「魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)」の柄が握られており、うっすらと光っている。どうやらそこに少しでもと霊圧を込めているらしいが、いまいち上手く行っていないらしい。

 

「ナナさん、貴女は無理にやらなくても良いですよ? さっきだって色々、身体をはってもらいましたし……。滅(・)却(・)師(・)と(・)し(・)て(・)の(・)能(・)力(・)が(・)弱(・)い(・)っていうのは知っていますから」

「しかし雨竜様…………」

「……とにかく、そう遠くないところに茶渡君の霊圧を感じる。相手の霊圧も並じゃない、場合によっては合流か遠距離射撃を────」

 

 

 

『────多分出来ないわよ? ここ。外でも見たと思うけど、建物とか遠近感が狂う感じに作られてる……のかしら? 私も何発か撃ってみたけどあんまりうまくいかなかったし』

「────────ッ!?」

 

 

 

 突如、自分たちの背後からかけられた声に反応する雨竜とナナ。

 わずかに出が遅れた雨竜は別として、猛烈な速度でサバットめいた上方後ろ回し蹴り上げをするナナ。その一撃を前に、破面だろうその相手は右手をかざし。

 

『あら……、虚血装(サングレ・デ・メンティーラ)』

 

 瞬間、赤(・)黒(・)い(・)霊(・)圧(・)の(・)幾(・)何(・)学(・)模(・)様(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)何(・)か(・)が(・)衣服と手袋の上に走る。

 その腕でナナの蹴り上げたる踵を正面から受け止める形になった、どこか道化師を思わせる破面。がきん、と金属質な音が響く。

 声や体格からして女性なのだろう、石田よりは身長が低い。仮面の頭頂部、角のようなそれから伸びた円形の、ドクロ模様が内部にほんのり浮かんでいるその独特の仮面をつけた破面は、無表情に足を構えたままのナナのその状態を受けたまま……、少しだけ視線を下にそらして。

 

『うっわ、えっ……? えっと、だだだいぶ、凄いの履いてるわね貴女。雨(・)竜(・)く(・)ん(・)の趣味? えぇ……? 叶絵ちゃんも、竜ちゃんにここまでアレなのはしてなかったと思うんだけど……、さ、最近のコは進んでるわね……』

「一体何の話だ!? というかナナさんも何履いて来てるんですかッ!?」

 

 雨竜の位置からはちょうど見えないタイトでとんでもないレベルのミニスカートのまま蹴り上げたナナのそれを前に何やら寸評しだした女性破面に、雨竜はもはや条件反射レベルでツッコミを入れた。面食らったのも無理はない。

 と、何かが抜けるような独特の「ヴッ」とでも擬音で表現できそうな音を立てて、その場から消えた破面。

 

 いつの間にやら、彼女は雨竜たちよりも前方、城壁めいた今の場所の行く先、向かいの塔の壁面の扉の前に立ち、室内に入りながら。

 

『せっかくだから少しお話し、しましょう? 最(・)近(・)の(・)竜(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)の(・)こ(・)と(・)も(・)聞(・)き(・)た(・)い(・)し(・)』

「竜、ちゃん……?」

 

 そして妙に馴れ馴れしい彼女の物言いに……、きゃぴきゃぴとさながら井(・)上(・)織(・)姫(・)を(・)連(・)想(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)マイペースさを感じた雨竜は、なんとも言えない頭の痛さを覚えながらもナナの方をちらりと見た。

 ……メイド服の胸元のボタンをいくつか外して「これは敵を恥ずかしがらせる下着なのでしょうか」などと世迷言を呟いているのに当然ツッコミを入れるのはもはや定石か。

 

(というか誰だ、竜ちゃんて)

 

 破面の物言い、そんな馴れ馴れしい呼び名を許すだろう相手を雨竜は知らない。少なくとも自分のことではない。……というか、先ほど母親の名前が挙がっていたことを思い出した雨竜。片桐(かたぎり)叶絵(かなえ)。職場の都合もあって元の別姓を名乗ることも多かった、雨竜がよく甘えていた、今は亡き母親の名前であるが。

 

(…………まさか、あ(・)い(・)つ(・)のことじゃないよな……?)

 

 雨竜、思わず眉間に皺が寄る。済ました風に医院で新聞を読んでいるかもしれない父親(あの男)がくしゃみをしたかどうかは定かではないが、もし仮にアレが「竜ちゃん」などという呼び名を許していたのだとしたら、それは果たしてどんな相手だろうか。

 いや、そもそも虚相手に馬鹿馬鹿しいと頭を振りながらも。

 

 それでもなんとなく引き寄せられてしまったのは……、やはり織姫を連想する雰囲気のせいだろうか。 

 当然、ナナも三歩下がり控えてついて来ている。見る人が見ればツッコミどころ満載の有様だが、日常的すぎるせいか雨竜も感覚がマヒしていた。

 

 そして進んだ先、暗所の部屋の中。

 なんとなく地面から薄明かりがついており……、室内はどこか竜弦(父親)と共に訓練していた修練場を思わせる、直方体で編まれたような地形。

 

『ごめんなさいね~? こっちの方が説明が早いと思って。あと、表のアレって雨竜くんが思ってる通り人工太陽みたいなもの? だから、あんまり目に良くないかなーって思って』

「……それで? 貴女は一体誰、なんだ」

 

 雨竜の言葉を受け、彼女は仮面を外す。

 

 

 

「ムーロムーラン。第9破面、ヘルフォーク・ムーロムーラン────と、言って顔出してもわからないわよね……。

 えっと、いつもウチの一護がお世話になってます! 母の黒崎真咲です☆」

「────は? 黒崎の、お母さん……?」

 

 

 

 ……そしてこう「きゃるん☆」とかギャグ漫画であれば擬音が付きそうな変なポーズとウインクとを決めた彼女を前に、その発言を理解し、雨竜は目を見開いて頭が真っ白になった。

 なお隣のメイドは、特に何ら感想もなく無表情のまま……、先ほどのやり取りの結果胸の谷間に霊力切れの「魂を切り裂くもの(ゼーレシュナイダー)」の柄を挟んで霊力回復に勤しんでいた。井上織姫ほどとは言わずともメイドのナナのバストは豊満であった。

 

 

 

 

 


※ムームー(ムーロムーラン)のキャラデザ、90話にも追加しましたのでこちらにも正式登場? とうことで置いておきます。相変わらずざっくりなんですが、そこはまあご容赦ください汗

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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