※ルキアパートにつき今回も本作な真相に迫っていく? 感じになっているので、未読の方は昔の方とかもお読みいただけると幸いです
戦闘は既に佳境────少なくともリリネットにはそう見えた。
リリネットへの攻撃を明確に庇うと確信したドルドーニは、一護の動きに合わせて時折彼女へと竜巻を差し向ける。
途中、浮かぶ黒い炎の剣だけで対応しきれなくなったのか、一護は戦闘スタイルを変えた。
『発火────
後頭部で縛っている赤いリボンが光り、一護は斬月を横に一閃。周囲を漂っていた六つの刃が解け、その炎が一護の全身を包む。
さながらフードつきのコートのような見た目になると同時に赤い腰帯が巻かれ、全身から放たれる霊圧とともに紅葉のような赤い霊子片が散る。
次の瞬間、先ほどまでよりはるかな倍速でドルドーニに斬撃を加え、返す刀でリリネットの背に手をやり軽く抱き上げて複数の竜巻から彼女を庇う一護。そのまま超高速移動でもって、相手の攻撃の射程圏から距離をとり斬月を構える。
己の装甲や肩の一部が砕けたドルドーニ。噴き出す血と霊圧。傷により戦力の低下がみられるだろうが、そんなこと気にもせず血が迸る側頭部を押さえて、ニヤリと笑った。
「……成程、待ちわびたよ
「…………知らねェよ。けど、正直あんまり使いたくなかったンだよなァ」
前にグリムジョーから代わり映えしねェって文句言われたし、と少し微妙な顔をする一護であるが。一護の体感で言うとこちらの姿の方が速く動けるので、今回リリネットの救助には必要なことであった。
あったのだが……、ドルドーニの竜巻をなんどか直撃し、さらには一護の高速移動に振り回されたリリネットは目をぐるぐる回しており、なんとも締まらないところだ。悲壮さよりも残念さが際立っているリリネット。意外と余裕あンなコイツ。
さて。ドルドーニの放つ竜巻には虚の髄で構築されたような口が存在し、あたかもそれが一つ一つヒドラの頭のような様相を呈しているのだが。リリネットを抱えながらも斬月の側面を構え正面から受けた一護は、
霊圧によって霊力を無理やり全身に回した、完全なごり押しである。目を回しながらもこれには「おぉ~」と感心した様子のリリネットは、やはりどこか余裕がありそうだが。その風のヒドラの連撃を何度も時間差で重ね、向きを変え、多方面から徐々に徐々に一護に迫るドルドーニの技巧は、かなり卓越していると言えよう。
「────何ッ!?」
「はァ────!」
とはいえそれさえ、霊圧のごり押しが通じるのだから状況は不条理極まりなかった。
どう考えても
本人はどう思っているか定かではないが、独特の異音を慣らして踏み込みその場から一瞬消え、ドルドーニの背後に回る一護。
掛け声と共に斬りかかる彼のそれを、両腕を交差させ
あっさり砕かれるその鎧により勢いが落ちたこともあってか、ドルドーニの腕は
「つーかさっきから、何で結構リリネットのこと狙ってンだ? 仲間だろ、あんたの」
「……その言葉も本来、烏滸がましいのだがな」
「あァ?」「あー、えっと……、うーん?」
どちらの立場の物言いなのかは定かではないドルドーニのそれだが、一護の立場からすればリリネットをとても低く見た物言いである故に反発的な反応にならざるを得ず。対して腕の中のリリネットは、微妙に居心地が悪そうな顔をしていた。
ただ、続く一護の言葉はとても、ドルドーニにとっては意外なもので。
「あんたから伝わってくるのは、
その上で、俺はアンタをぶっ倒す!」
「────────」
あまりにも、真っすぐすぎた言葉であった。
一護自身ルキア救出に気が逸ってはいるが、それはそうとして正面から戦いたいと乞われたその感情は、決して無下にしない。
いまだ青い
それらが変にミックスされて出力された一言のそんな言葉に、ドルドーニは流石に一瞬唖然として、そして笑ってしまった。
腹を抱えての大笑いに、気恥ずかしくなった一護は「何だよ!?」と叫ぶ。
「嗚呼そうだな……、ならば、
「てめェ絶対今バカにしたろ!? 呼び方変わってねェけど! なんかスゲーそういう声してやがるぞテメェッ!」
「フハハハハッ! だがそれもまた良し! ならば存分に吾輩と、力のすべてを酌み交わそうでぇあないか!!
────リリネット様をそこに置け。今の大口が虚仮ではないことに期待しよう」
「上、等ッ!」
そしてリリネットを後ろに下がらせ、霊圧は欠片も通さないと
「けど言った傍から悪ィな。今日、急いでるのもマジだから────あんたに時間はかけられねェ!」
「ならばかかってくると良い!
そして周囲に九つの首のように、巨大な髄の顎を持つ竜巻を発生させながら、ドルドーニは見た。
一護が斬魄刀を横薙ぎに軽く振るうと同時に、その軌跡から黒い炎が迸り。
それらが一瞬で六つの黒い刃に変化したのを。
「……月牙天衝ォ!」
そして斬魄刀をドルドーニに差し向けると同時に、六つの刃は一瞬で
「………………無念。だが、見事……ッ」
「って、いやそうじゃねェだろ!!? 馬鹿! 避けろッ!!」
六つの月牙がそのまま超巨大な霊圧の津波となった。奔流が少し動くだけでも
そんな意味不明な威力を前にしかしそれでも、ドルドーニは立ち向かうことを諦めず。
思わず叫んでしまった一護の声に、リリネットが「何その掛け声!?」と当然のツッコミを一護に入れていた。
※ ※ ※
「────フフッ」
「……何を笑っているか、貴様」
「いや、申し訳ない。彼も侮っている訳ではないのだろうが、本心から殺し合いをしたい訳でないから仕方ないのだろうね。微笑ましい、というのも少し違うかもしれないが」
「だから何を笑っている。…………前に雑談下手とは言っていたのは、最近納得できる気がするが。あまり会話する気がないであろう、貴様」
何故その志波海燕の魂魄が、今では黒崎一護を形作る根幹の一部に組み込まれるに至ったのか。それを以ってようやく、朽木ルキアは自身の罪を問うべき段階にまで至る。
そう語ったアルトゥロは、しかしすぐに表情を変えてどこか楽しそうに微笑んだ。
その落差があまりに意味不明すぎてツッコミを入れてしまったルキアである。
こういうの変な気安さのようなものもまた、彼女自身自覚していないが相手の物言いを素直に受け入れてしまっている証拠の一つなのであるのだが。そのことに無自覚故に、彼女は徐々に、徐々に、何かを突きつけられていた。
「そう、だね。……
(…………呼び名はともかく、シリーズと言ったかこの男は)
他にも似たような虚を作っていたというのは、先ほどアルトゥロ自身が語っていたことだが。
特にその虚自体を特別視していないような物言いが、やはり癪に障る。
「志波家にて埋葬されたのち、志波海燕の遺体を構成していた霊子は分解され、本来なら尸魂界の大地へと還るはずだった。ギリギリ
「…………?」
霊位、とはまた発音の違う、聞きなれない霊威と言う単語。そこに違和感を抱きつつも、ルキアはアルトゥロを睨み彼の言葉の推移を観察する。
「分解された霊子は、通常の魂魄体であるならば、五匁六分の魂魄核が剥離し、現世へと流転。人体を構成していた霊子は結合崩壊を起こし、徐々に土くれへと変わっていく。さながら器子から五匁六分の魂魄が遊離する現世における死と同様にね。
それ故に、墓の下を掘り起こすようなことを誰もがするはずはない────1月も経たず、そこにはもはや、志波海燕を構成していた霊子は全て消え失せていたというのに」
「……何を、言っている?」
「メタスタシアもまた、テンタクルスのシリーズの一つとして。
だからこそ、ここ
「────」
バカな、と。
ルキアは言葉を続けることも出来なかった。
「もとよりそうして再構築されることを前提として、メタスタシアは設計してあった。ただ予想外のこともあってね。ここに、崩玉の影響が見受けられる。
アルトゥロは続ける。虚圏の白亜の砂丘において、再度生み出された志波海燕。
その霊体は────メタスタシアを乗っ取った志波海燕として再構築されていたと。
「海燕、殿…………!?」
「故にこそ、私が彼を回収するよりも先に、
多少時間はかかっていたが、あれはとても良いものだったよ。知っているだろう? 君は、志波海燕という男を」
絶望的な状況でも諦めず、自らの力で覆した。
その所業は嗚呼、なるほど。ルキアとして、アルトゥロに言われてもそう違和感はなかった。
自分の胸に手を当て、アルトゥロは目を閉じてから微笑む。
「もとより私の姿は、
黒崎一護に志波海燕を重ねるまでもなく、常に君の心を苛んでいたのは志波海燕だった。そんな君が、罪悪感から逃れるために……目前で殺した志波海燕の、その人格の完全な生まれ変わりを望まないはずはなかった。違うかい?」
「……そのような、子供のような願いなど────」
「子供の願う荒唐無稽な願いだからこそ、
志波海燕はこの大地で再び生を受け……、君が再会を願ったのを、その魂魄が死ぬ直前に願われたが故に。その段階で彼の運命の半分は決まっていた」
とはいえもう半分を決めたのは私だがね、と。
アルトゥロはルキアの目を見据えて、微笑み、
「
それを聞いた瞬間、ルキアに選択肢はなかった。
即断即決すらなく、彼女は斬魄刀を抜き声もなくアルトゥロに斬りかかっていた。
先ほどまでの重圧も、恐怖も、その全てを吹き飛ばし。ただただ有りっ丈の怒りを、殺意を刃に重ねて斬りかかった彼女。
その切っ先を指先で挟んで止めながら。
「今でも思い出せる。あれはまさに、勇気の勝利だ。もはや孤軍どころか自分の魂魄の安定性すら定かではない。愛する者も、仲間も、すべてが混然一体となり自分自身があやふやになって、自我崩壊を引き起こしても不思議ではなかった状況で。
それでもなお
あのような存在がいるからこそ、この世界には価値がある。やはりこればかりは、とても
「黙れ、貴様、何を言っている……!? 貴様が、海燕殿を語るな……! 語る資格などあろうはずもない!」
「誤解を、して欲しくはない。彼を虚の側へと転じさせたのは、私の純粋な好意からだ。
──── 一度虚に乗っ取られ死に、妻も仲間も失った彼が。もはやまともな死神と呼べない存在となった彼が。この虚圏に残り続けて反撃の機会を百年単位で待てるような、そんな人格であるはずないだろう。早晩、こちらに襲撃をかけて、ただ無駄に喰われるだけで終わるに過ぎない。
であるならば、少しでも彼の、志波海燕という死神が生きた証を残し、より後世のために
「────黙れと言っている!
両手で握って振り下ろした斬魄刀を止められ、そのまま刀を彼の指先から離すことがどうしてもできず。ルキアはその名を呼び、氷の結晶を思わせる刃を作り出す。
それを使って再度斬りかかろうとすれば……、一瞬で手元の斬魄刀を取り上げられ、峰打ちで腹を殴られて弾き飛ばされる。壁に激突して息が漏れ、手元から
特に気を害した様子もなく、奪い取った斬魄刀も投げてよこすアルトゥロ。
「話が、途中だね。
続けよう。その志波海燕だった虚は、私が当時作っていたテンタクルスの最新作……、最終作、その核へと流用することにした。死神に寄生し、その斬魄刀を奪い取り、あたかも自らが斬魄刀であるかのように振舞うことが出来る、そのような虚。
約四百年前のアルトゥロ・プラテアドによる瀞霊廷への侵攻戦争、その時に異形へと変貌したとある死神の情報を参考にした」
「…………ッ」
梅針と、そういう名の死神のことを嫌でも思い出すルキア。虚化した斬魄刀と融合し、もはや死ぬことでしか苦痛から解放されず。介錯として一護が殺さざるを得ず、彼の心に疵を残す死神のことを。
「結果として志波海燕の魂魄をも取り込み、その虚は。
私の不完全な崩玉の影響もあり、ここまではこちらの制御が利いていたといえるだろう────そこから先は、少々予想外の連続だったがね」
アルトゥロは語り続ける。現世にて、本来ならとある死神を瀕死に追い込みその上で寄生するはずだったろう虚は、ひょんなことから一人の少女へと寄生し。
その少女が、結果的に規格外の状況により
「…………ッ」
どこかで聞き覚えのある話である。不意にというべきか当然というべきか、脳裏を過るのは浦原喜助のトボけた顔だった。
「こうして、
「……最後の、一押し?」
困惑するルキアに、アルトゥロは目を細めて、微笑み。
「そこから十数年後。ちょうど現世に派遣された君は。志波海燕を殺したことで、強い罪悪感を、かなわぬことのない愛を、断絶への遠い苦痛を胸に秘めた君は、そこからの開放を願い続けていた────幼き日々を捨て死神として生きることさえ捨て去り、ただの人間として再び志波海燕の生まれ変わりと巡り合いたいと」
「…………待、て」
「一方、浦原喜助もまた
「それは────」
「故に、彼は君に嘘をついた。
────思えばそもそも。確かに一護の虚を封印することがなくとも、自らの霊体はあまりに死神の力を回復してはいなかった。義骸と連携さえとれなくなっていったことなども思い出すルキアは。その結果齎されるものがアルトゥロの語った一つの願いに、沿っていることに気付かされる。
そして、と。言葉が続けられないルキアの目を見て。その彼女の理解が追い付いていることを鑑みて。
「ここにもう一人、都合良く一人の少年がいた。彼は幼き日に母を目の前で虚に喰い殺され、普通の目に見えない脅威と言うものを身近に感じていた。
志波の血を引き、見た目から人格まで結果として志波海燕を彷彿とさせる少年。
志波海燕の魂魄核を有する、生まれ変わりとは言えないがそれに近いとはいえる存在。
自分の無力を心の内で嘆き、大勢の人を守りたいという熱が魂に刻まれていた……、そんな少年。
「かくして、崩玉は全ての願いを受理した────最も自然な形でそれが成立しやすいが故に。
朽木ルキアの力を黒崎一護にあけ渡し。
黒崎一護に守るための力を与え。
同時に、その彼の虚に眠る志波海燕の人格を呼び覚まし。
浦原喜助に崩玉を隠蔽するため、その手はずを整えさせ。
力を失った君はごく当たり前のように、志波海燕を秘めた黒崎一護と共に生活をし。
さながら本当に人間に生まれ変わったかのような、そんな生き方を
とある切っ掛けで目覚めた
「────止めろ。………………頼む、止めてくれ……」
ひざを折り、起き上がることの叶わない朽木ルキアの言葉を、アルトゥロは考慮しない。
「──大義名分を得た君は、これ幸いと黒崎一護との生活に依存し。
そうであるが故に、彼を守るためにと
結果として黒崎一護との魂魄としてのつながりを強め続け…………、第三者がどう入り込む余地もないほどに、志波都のような存在を許すことのないほどに、志波海燕の魂魄を縛り」
「
口調が少女のように崩れた朽木ルキアに、アルトゥロは、変わらず涼し気に微笑み。
「────黒崎一護という存在を介して、彼と、志波海燕と双方を自らにとって最も都合の良い場所に置き。あまつさえその内心や感情すら、自らに都合が良いようにあってくれと願った。
自らの罪悪感と、嫉妬と、独占欲と。そういったいくつもの醜い感情を、君自身を守るために……。朽木緋真という本体を殺しておきながら、彼女がどう望んでも出来なかった現世での生活を、最も自分に幸福な形で送ろうとしていた」
自覚はなくとも
アルトゥロの言葉に、ルキアの身体は震え。
声は乱れ、空呼吸を繰り返し────。
────