明けの空には暗雲が立ち込める。
地方領主の私兵が山麓の廃砦に向かって一晩が経ち、東の空には暗雲が確認できる程度に日が昇ったようだ。
風は温く、不快な空気が漂う。
雨が降ることが決められたような風の温さは、陰鬱な殺戮が起こることを予期させる。
俺は前線基地となったテントに足止めを喰らい、眠ることなく一晩をあかした。
テント周辺には教会から派兵された“聖歌隊”がガチャガチャと鎧の金属音を鳴らし整列を始めた。
竜騎兵とは違い聖歌隊の装備は簡易だ。
いや、竜騎兵が特別重装備なだけだか。
聖歌隊は教会が抱える即応部隊であり、数十年前の聖天使との大戦を教訓に、闇祓いを必要とする事態を早々に摘み取れるよう結成された集団だ。
大陸の各地域に部隊ごとに点在し、各地域を束ねる司祭長の要請で担当地域の闇を食い止める。
一人一人の練度は流石に竜騎兵の上位どころには劣るが、それでも街をうろつくゴロツキや傭兵崩れなど相手にならない腕前を持つ。
魔除けの装身具を首から下げ、魔力への対抗力を上げる腕輪を装備した姿は、見る者が見れば魔と闇に対抗する姿と捉える。
それ以外の装備は一般の兵士と変わらず、金属製の鎧に視野を確保するための顔前面が空いた兜。
手には背の高さ程度の槍に腰には剣。
そして口元を隠す布。
目は死人のようで幾多の修羅場をくぐり抜けたことが読み取れる。
彼らは無駄口を叩かない。
最小限の会話に声量。
だが日々の訓練の賜物か、隊長格の男の「並べ」の一言で整列となった。
取り決められた待機時間はまもなく終わる。
この地域は宗教勢力よりも土豪から成り上がった現地貴族である領主の一族が強く、教会への派兵要請も遅れに遅れた。
気づいた時には寒村の住人は半分消え、廃砦からは獣とも違う遠吠えが毎夜聞こえるようになっていた。
人同士の争いならば人間国家や亜人種(一昨年の条約で公的な場では侮辱に当たると改めて明記された)では軍隊の出番だが、魔の者や夜の住人は闇祓いの仕事だ。
だが領主は宗教勢力の介入を嫌い、教会の登場を遅らせ更には「明朝までに戻らぬときだけ、指揮権を移譲する」とだけ一方的に申し付け自分は40の私兵とともに砦へと向かっていった。
「ドラゴンテイル、同道されますか」
「そうさせてもらう。あんたたちで仕事が済めば俺も楽だ」
テント前で聖歌隊の様子を見ていた俺に隊長格が声をかけてくる。
鉄火場に突撃する準備もせずに様子を眺める若造に対しても警戒の声なのは、俺がドラゴンテイルであること、そして滲み出る聖歌隊以上の修羅場を経験した雰囲気によるものなのだろう。
「このあと、領主の補佐官から委任状への署名を受け出立します」
キーパーズギルドの正式要請とも言えるし、ドラゴンテイルの自主的な討伐とも言える微妙な立場ではあるが、闇払いとしての実力は大陸でも轟くジャイアントヒルの分派を管理下に置くのは重要だろう。
俺でも同じ立場であれば同道を提案する。
隊長格の言葉を受け、俺は一度テントの中に戻り荷物と装備を整える。
吊るされたランタンの灯で、テント内の装備が鈍い光を放つ。
まずは短剣を二振り。
大振りの方は銀製。主に吸血鬼用だ。
もう一振りは万能用。特に使用用途を限定せず使う。
クロスボウは小型のモノ。
矢の発射台は2連装になっており引き金を引くと同時に二本飛ぶ。
常人であれは矢の装填に両腕を使い時間も係るが、常人離れしたジャイアントヒルの出身者は苦もなく弓矢と変わらぬ速さで扱える。
ジャイアントヒルにいる兄貴分は巨人の血だが、俺の薄まった竜の血でも楽々と装填できる。
もう一つはスリング。革製で適当に身体に巻き付かせておけば良い。
弾としては油壺と聖水の入った壺をそれぞれ2つずつ。
こぶしより少し大きい程度で肩がけの鞄にしまう。
こういった小物はドラゴンテイルの師匠は好まないがジャイアントヒルの大師匠は「絶対に持て」と言ってくる。
ジャイアントヒルの大師匠は巨人の血は引いておらず常人の体格で、装備などを周到に準備することを厳しく教えてくれた。
ぶっきら棒で、師匠に輪をかけた厳しい訓練をしてくる。
「死にたくなければ、喰らい尽くせ」と10歳の時にジャイアントヒルの大森林に置いてきぼりにされたことは忘れていない。
あの金髪ジジイ、いつか一発ぶん殴ってやる。
そして流派秘伝の大剣だ。
この剣は特徴品だ。
剛剣のジャイアントヒルとは違う。
我らドラゴンテイルは名前の通り、竜の尾を持つ。
それは鋼でできた竜の尾だが。
俺の名前はケイオン・バンド
ジャイアントヒル(巨人の丘)から派生したドラゴンテイルリバー(竜尾谷)から派遣された闇祓い。
5日前、ルッカのオヤジから書簡を受け取った。
あの疫病神のハーフエルフは面倒事以外では連絡をしてこない。
どうもジャイアントヒルはあの中年ハーフエルフとは浅からぬ縁があるようで、困りごとを自分の手駒ではなく俺たちジャイアントヒル分派に押しつけてくる。
装備をすべて身につけたとき聞こえてきたのは狼のような遠吠え。
砦の方角だ。
狼と違うのはその遠吠えが低く重いのだ。
普通の動物とは違う、巨躯で知恵があり、悪意を併せ持つ遠吠え。
俺たち闇祓いを呼ぶ声だ。
大急ぎで書いたよ。
そのうち文面を少し調整するかも。
悪魔狩りを読んでいれば、この主人公がいつの時期のキャラクターとして描かれているかわかると思う。