悪魔狩り 偽伝 影に潜む竜の尾   作:madamu

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続きの希望があったので。
アクションシーンはありません。


偉人の家系

「いい加減、少しはお仕事お休みになったらどうです?」

「いい加減、少しは大師匠のところに顔出したらどうなんだ?」

 

俺の目の前にいる30過ぎの女医に言葉を返したら、にこやかな顔をして消毒液に浸したガーゼを左腕の傷口にねじ込んできやがった。

彼女は世間的には「マーガレット・ガルシア3世」として知られている。

 

今も医学の聖地としてその地位を固める大都市エバプールで、顔なじみの女医のところに顔を出したら軽く一つ嫌味を言われた。

 

昨日、いや今朝といってもいい時間に一つ仕事をした。

相手の腕の伸縮によって、軽く引っ掻かれたので夜明けを待って彼女の家にお邪魔したのだ。

エバプールにおける上流階級地域にある屋敷だが、彼女の血統を考えればこの屋敷の10倍は広い屋敷に住んでも誰も文句は言わない。

上流階級地域でこれほどこじんまりした屋敷に住んでいるのは、やはりガルシア家の気質な気がする。

 

大偉人のマーガレット・ガルシアは俺から見れば大師匠の連れ合いだが、世間から見ると大師匠の方が偉人の名も無き夫らしい。

この名も無き夫は今ひとつ家族関係が希薄なところがある。

師匠曰く「父親というよりも今も女房の旦那だ」と言っていたので、父親という役目を果たすのは今ひとつ苦手なのだろう。

情が無いわけではないし、家族仲が悪いわけではないか、今ひとつ関係性が希薄なのだ。

「便りが無いのが元気の証拠」のつもりらしい。

 

こうして弟子や孫弟子が大師匠の血縁に顔を出して間をつなぐことをしている。

 

目の前の彼女が金の学士号を受賞した外科医で、軍事医療については第一人者で特に軍病院での医療体制を整理し、戦争における病院への攻撃を禁じる条約を複数の国家間で締結させた人物でもある。

 

外交官であり、キーパーズギルドの長であり、弟子筋にはシャレにならないスパルタ訓練をする男に笑顔を足すと彼女になる。

つまりは優しい笑顔を浮かべつつ消毒液に浸した布を傷口にねじ込む性格をしている。

 

「大おじい様のところには、おばあ様も顔出しているし、お母様も近くにいるから平気です。それにどう考えても私より長生きするでしょ」

 

手早く俺の傷口を縫い付け、さっと治療用具をいれた小箱を片付ける。

彼女の言葉は非難めいた音色はなく、朗らかに事実を伝えてくる。

 

大師匠こと大おじい様は今でも40代といった風貌だ。

 

【黄金の民】

長命種にして優良種。

高い身体能力に、知性に魔力。並の人間ではないその種族のさらに上澄み。

大師匠のあの調子ならあと300年は生きそうだ。

 

一方彼女は人並みに歳を取っている。彼女の母親も祖母も若々しさを残すが黄金の民の血は確実に薄くなったのだろう。

「あなたは竜種の血が入っているので長命でしょうから、私の代わりに面倒をお願いしますね。うちは小さいのが二人もいるので、大おじい様のいるところに連れて行くのも少し先になりそうですし」

 

彼女も母親だ。確か6歳と3歳の子供がいる。

旦那は医療器具の商売をしていて、1週間ほど前に別の街で食事をした。

商売人も大変だ。ここに帰ってくるのは今日だったかな。

 

大師匠のいる都市はここから距離もあり、またジャイアントヒルは子供連れで行くにはなかなか大変だ。

「ほらほら子供たちが起きてくる前に出ってください。顔見せるなら身だしなみを整えて。顔についた血も落として」

「今晩顔出すよ。土産は必要か?」

俺は椅子から立ち上がり、部屋の隅に置いたカバンと剣を掴む。

そこら辺にある菓子屋で土産代わりに何か買うかな。

 

治療用の小箱を片付けた彼女は、窓によりカーテンを開けた。

日差しが部屋に差し込む。

間もなく朝食の時間といったところか。

 

「大丈夫ですよ。上の子はジャイアントヒルのおじさん達のおとぎ話が楽しみですから、うまく話して下さい」

「あれか、【殺した】じゃなくて【やっつけた】の方か」

彼女は微笑む、子供時代に見せた明るい笑顔だ。

「そうそう。まだまだ闇払いを知るには子供ですから」

 

俺は少し難しく笑った。

「昔は大剣担いで闇払いになる、って言っていたが環境は人を変えるかね」

「大剣よりメスの方が生産性があることに気付いたんです」

ニカっと笑う。20年前に見た子供笑いだ。

やっぱり口の回る女の子には勝てそうにない。

 

「じゃあ、夜にでも顔を出すよ」

「旦那様も昼過ぎには帰ってくるからお酒を準備しておきますね」

 

屋敷を出ると小鳥の囀りと太陽の日差し。

闇払いは目立つ時間だ。

俺は闇に戻るべく、路地裏へと歩を進めた。

 

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