ある夏の夜、レーベに誘われたマックスが見たものは…
*クロスオーバーは念のため。
ある夏の夜。
駆逐艦レーベに誘われ、ついていくと、なにやら大広間で日本の駆逐艦たちがワイワイガヤガヤ、座り込んでは楽しそうにおしゃべりをしていた。
「レーベ、マックス!こっちよ~!」
駆逐艦たちの声が飛び交う会場に、ひと際大きな声があがった。
名前を呼ばれたのでそちらにゆっくりと視線を向かわせると、小さな駆逐艦たちの中にまじって、これまた大きな子がとてもワクワクした様子でこちらに手を振っていた。
「どうやらビスマルクの方が早く着いてたみたいだね。僕たちも行こうか」
くすりと笑って、私に耳打ちしたレーベは、ひらひらと手を振り返しながら、周りの子にひけをとらないくらいに大はしゃぎするドイツの戦艦の元へと歩いて行った。
しかし私はどうしてか、固まってしまっていた。とにかく顔が熱くて仕方がない。言いようのない恥ずかしさ。なにかこう、友だちと一緒にいたら、偶然自分の身内に会ってしまって、それだけならまだしも、思いきり絡んでこられた時のような感覚に近い。
(目立ち過ぎなのよ!)
周りを見渡してみても、ビスマルクの頭だけが群衆の中からポツンと抜け出ていることから考えるに、どうやら本当に彼女以外は小さな駆逐艦が一同、勢揃いしているようだった。
そしてビスマルクたちが陣取って座る場所へと向かう最中、大きなテレビが壇上に一台、ドンと置かれているのが目にはいった。
「ようやく来た!もう始まっちゃうわよ!」
ビスマルクとレーベの間に腰を下ろした途端、それまでうるさいくらいに騒がしかった大広間がシーンと静かになった。気が付くと、テレビが点けられていて、皆がそれに注目していた。
隣に座るビスマルクは、体をうずうずさせていた。一体、これから何が始まるというの?私は固唾をのんで、テレビの映像がコマーシャルから切り替わる瞬間を見守っていた。
…………
………
……
…
大広間に駆逐艦たちの歓声があがる。時には劇中の音楽に合わせて、ハミングや歌声が響いた。
もちろんビスマルクも駆逐艦たちが歓声をあげるところで歓声をあげ、ご機嫌な様子で鼻歌をうたっているのが隣に座っているのでよく分かった。
「日本の駆逐艦の子たちに誘われてね。僕だけじゃ心細かったからビスマルクたちやマックスのことを誘ったんだ」
今ここにいるドイツ艦以外はちょっと予定があったみたいなんだけど、とレーベが小さな声で教えてくれた。そして私にそう囁いた彼女は、すぐに視線を壇上のテレビへと戻した。どうやらレーベも楽しみだったらしい。
「キャー!見て!!ト●ロよ、ト●ロ!!」
大興奮のあまり、指をさすビスマルクを横目に、ああ、そうか、今日は日本の人気アニメ映画が放送される日だったか、と私はようやく気が付き、納得した。
「楽しいのは分かるけど、もう少し声を抑えてね」
やんわり周りから注意されるビスマルク。なんだかまた顔が熱くなってきた。
「出たぁ!猫●スよー!!!」
あ、もう顔から火が出そう…。
しかしそんな私もいつしか素敵な映像とストーリーに引き込まれていたようで、エンディングでは、皆にまざって、あの有名な歌を口ずさんでいた。
「ふぅー、面白かった~」
放送終了と共に、大広間には駆逐艦たちの一仕事終えたような声があちらこちらであがり、それにまじって欠伸の声もチラホラと聞こえ始めた。そして、おやすみー、と声を掛け合い、会場をあとにする子たちも増えてきた頃。
見るとレーベはとても満足した様子で体を伸ばし、欠伸をかいた口を手で覆っていた。そうね、もう時間も遅いし、寮に戻りましょうか、と私も立ち上がって、凝り固まった体を上に伸ばした。
「ねえ」
呼び掛けられたので目を遣る。思いつめたような顔をして、ビスマルクが膝を抱えて座り込んでいた。
「明日、みんな非番よね…?」
その時、ビスマルクがニヤリと悪魔のような笑みを浮かべたので、私とレーベは観念して、抱き合って震えた。
あ、これはまたビスマルクがすんごく面倒くさいことを企んでいるな、と直感で分かったからだ。
…………
………
……
…
次の日、私たちは鎮守府最寄りの駅からいくつか電車を乗り継いで、都会から離れた、緑の生い茂る深い山に来ていた。私とレーベ、そしてビスマルク。そして昨日は居なかったけど、オイゲンも一緒だ。
「探すわよ、ト●ロを!」
電車の中では何度尋ねても、はぐらかされてしまったが、登山道の入り口に来てようやく、ビスマルクは本日山へと来た目的を話した。胸を張り、得意気な表情で。
「ト●ロ?」
正直な話、私とレーベは昨夜の時点で、もう嫌な予感がしていた。そしてビスマルクのサプライズ精神には申し訳ないが、山へ行く、と告げられた時点で察しがついていた。
うんざりとした表情で顔を見合わせる私とレーベをよそに、オイゲンは事態をのみ込めないでいた。
「あら、オイゲンは知らないの?なら教えてあげるわ!」
オイゲンはト●ロのことを知らなかったようで、ビスマルクはそんな彼女にト●ロのことを、それは熱心に話していた。昨日、見たばかりだからか、かなりこと細かく語った。
オイゲンはそんなビスマルクの熱意に呑まれて、いや、吞まれなくても、ビスマルクの言葉をむやみやたらに信じてしまう彼女のことだ。説明が終わる頃には、完全にト●ロの存在を信じ切ってしまっていた。
「そんなモンスターが日本にいたなんて、私、知りませんでいた!さすが、ビスマルクお姉様です!!」
エヘン、と胸を張るビスマルク、それを尊敬の眼差しで見るオイゲン。私とレーベは頭が痛くなった。
とは言え、あれは、あくまで空想の中での出来事なのよ、とビスマルクに告げるべきなのだろうが、こうにも純粋にワクワクしているビスマルクを前にすると、ト●ロのいない、無味乾燥な世界の現実を告げるのは、残酷に思えた。
「それじゃあ、行くわよ~!!」
どうすべきか悩んでいるうちに、こうしてここまで来てしまったわけだが、張り切って進むビスマルクとその後を追随するオイゲン、諦めたようにフラフラとついていくレーベの姿を見て、私は覚悟を決めた。
うん、もうこのまま黙ってよう!
「緑が青々としていて綺麗ね~」
山の中をぐんぐん進んで行くビスマルク。きっと私は、彼女に純粋なままでいて欲しかったのかもしれない。
そして登山道をどれくらい登った頃だろうか。なかなか現れないト●ロに、最初はご機嫌だったビスマルクも徐々にイライラしているようだった。
「全っ然、ト●ロ居ないじゃないッ!!」
ギリギリと歯ぎしりするビスマルク。ここにきて、私はまた迷い始めた。やはり現実を知らせるべきなのではないか、と。
そして、考えるに考えていた時、思い出した。あ、そう言えば、ト●ロって子どもの時にだけ、貴方に訪れる素敵な出会いなんじゃなかったっけ?
そうだ!
「ねえ、ビスマルク?ト●ロってさぁ…」
「ん?」
ト●ロは、純粋な子どもの頃にだけ出会える、あちらからやって来る存在なの。だから私たち大人がト●ロを探しても、こちらから会いに行っても会えるものじゃないのよ、とビスマルクの夢を壊さずに、それとなく諦めさせる文言を語り始めたその時。
「見てください、ビスマルクお姉様!!!」
私の声を遮るようにオイゲンが叫んだ。そして一同がオイゲンの方に視線を遣ると、彼女はフンスと胸を張って、ある場所を指さしていた。
それは草木の生い茂る、登山道から外れた薄暗い獣道に他ならなかった。
「オイゲン、でかしたわ!!」
ビスマルクに先行の許可を得て、ビシッと敬礼を決めたオイゲンは草木をかき分けて獣道を進んで行く。その後にビスマルク、レーベ、そしてげんなりとした私が続いた。
「きっとこの道は、巨大な木のうろに繋がっているんだわ!あ、そういえば、マックス。あなた何か言いかけてたみたいだけど?」
「あ、もういいわ」
前の方からビスマルクの声が飛んできたけど、獣道を突き進む今となっては何を言っても遅い。行き着く先は未開の地か、断崖絶壁か、はたまた地獄か。私は、もう諦めていた。
「あ、そう。それじゃあ、気を取り直して!待ってなさい、ト●ロォォォォ!」
ビスマルクは雄叫びをあげ、ジャングルのような荒い道を、風を突っ切って進み続けた。そして突然、先行するオイゲンが叫んだ。
「ト●ロ!ト●ロです!ト●ロがいました!!」
オイゲンの声は上擦っていた。
え、そんなまさか!?前を走るレーベが振り向いたので、私は顔をしかめて見せた。
「ト●ロォ、会いに来たわよ~~!!!」
獣道の果ては明るく日が差し込んでいた。
興奮気味のビスマルクがト●ロの名を叫び道を抜け、レーベ、最後に私がそれに続いた。
そして私たちが見たのは…
「オイゲン、それはト●ロじゃないわ……………
クマよ!!!」
オイゲンと、彼女よりも一回りも二回りも大きな黒い熊が取っ組み合いになっている場面だった。
そしてその後…
ビスマルクと熊による大相撲が執り行われ、最終的に彼女が辛勝したことは、ドイツに帰った今でも度々、笑い話として語られるよい思い出となったのだ。
本日九時より、となりのトトロ!絶対に見てくれよな!