敵か味方か?を自分なりにロールプレイしてみた 作:金曜日(うんのよさ)
俺の名は暁 灯火。私立美波学園に通学する何処にでもいる高校生、だったんだけど…
そうした日常は、ある日、唐突に終わりを告げた──
「やりましたね、灯火君」
「いつも一緒に戦ってくれてる若木たちのおかげだよ、ありがとう」
「べ、別に改まってお礼を言われるようなことじゃありませんけど……」
この僕の隣で何故か顔を赤くしながら座っているザ・大和撫子な女学生(これで帰国子女なのだから分からないものだ)こと『若木 萌』のもう一つの顔との出会いが僕の運命を大きく変えた。
新学期の夜、部活で遅くなって近道を通る最中、モンスターと出くわしたのだが、その時の僕はまだ正真正銘、何の力もない高校生で。
無謀にも周りの人を逃がそうと生身で立ち向かって成長に合わせて新調したばかりの制服をボロボロにしていたところを、そのモンスターを追ってきていた若木に出会った。
しかし、訓練こそ行っていたものの、実戦経験にはまだ乏しかった若木はモンスターの一撃を受けて意識を失ってしまう。
その時だ。コクを名乗る謎の男と出会ったのは。
僕は勿論、若木さえも一瞬で戦闘不能にしたモンスターを一撃で両断して現れたコクという男は、最初、彼も若木の仲間で、若木を助けに現れたんだと思った。しかし…
『あーあー、満を辞して出て来たのにすーぐやられちまって、情けない女』
その口から放たれたのは仲間を心配するものとは到底思えない酷薄な言葉、そして……
『いや、情けないのはお前か…? こんな雑魚にビビって、守るって言った女がやられるの指を咥えて見ていただけって。まぁ、俺が来なかったらどうなってたかは明白だけどよォ?』
その悪意の矛先がこちらに向けられた時、僕は情けないことに腰を抜かして逃げ惑うことしか出来なかった。
『ぐッ!?』
『ヒャハハハ! やっぱりてめえは弱いな、灯火ぁ!』
『?!何故、俺の名前を?』
『あ?そんなもん一々敵に尋ねてんじゃねーよ!見知らぬ不審者に物を聞くんじゃねーってママに習わなかったのかよ!』
何故、僕の名前を知っているのか、何故、僕が若木に守るって言ったことを知ってるのか、何故、僕を殺そうと攻撃して来るのか、分からないことばかりで、でも一つ確かなことは、このままだと間違いなく殺されるということだけだった。
『チィッ……やっぱ、その女より弱ぇな……まあいいや。とりあえず、もうちょい頑張ってくれや。このままだとお前ら殺されちまうぜ?』
『殺される…?』
『お前を狙ってるのはさっきみたいな雑魚だけじゃねえ。そして、お前が弱い癖に周りに死なれるのが怖えって甘ちゃんなせいで、お前を呼び寄せる為に周りの人間も狙われる。この女みてえにな?』
その言葉に、僕は微かな違和感を感じた。
言葉は悪かったし、殺そうとしている張本人が皮肉を言ってると解釈することも出来た。
しかし、聞き方によっては、その言葉は俺に対する警告や忠告のようにも聞こえたからだ。
『……わ、若木に手を出すな!』
それでも、とても味方には思えないこの男から若木を守らなければと声を張り上げる。しかし、それが男には気に食わなかったらしい。
『ふん、我が身の危機は他人事だが周りの女に手を出されると話は別か。とんだ偽善者だなァ!灯火ぁ!!』
男の剣幕に思わず怯むが、これは僕のオリジンだ。一度全てを失った僕は二度と失わない為に戦う、その為なら命だって惜しくはない。
『だが、安心しな。そいつは俺が有効に活用してやる。強くなる為の踏み台としてなぁ!』
『ふざけるな! 誰が貴様なんかに……』
『ああ? やめて欲しいなら素直にお願いしますって言えばいいんだよ! おら、言えよ! 俺は優しいからな、聞いてやらなくもねぇぞぉ!?』
『こ、の……調子に乗るなぁっ!!!』
挑発に乗ってしまって殴りかかった僕は、確かに男を捉えたが、それはあっさり受け止められてしまう。
そして、男が反撃に放った斬撃に吹き飛ばされて地面に転がされる。
『ぐっ、うぅ……』
『あーあー可哀想に、泣いてやんの。女の泣き声も耳障りだけど男の泣き姿はぶっちゃけ見苦しいからさぁ……やめてくんないかなぁ?』
僕は痛みと恐怖、目の前の男から若木を守ってやれない自身の無力さに涙を流していた。
それを嘲笑う男に、僕は何も言い返せなかった。悔しくて仕方がなかった。
『く、ああっ』
『ヒャハハッ! おい、何とか言ったらどうなんだ!? んん~?』
『こ、の、卑怯者がぁ……!』
そんな時だった。白い輝きが辺りを包んだと思うと、
『何だ、これは……!?』
『灯火! 大丈夫?!』
『……!?』
気付けば幼馴染である綾崎文香に背中に庇われていた。
『ふ、ふみ、か……? どうしてここに……』
『あんた、こんなところに居るんじゃないわよ! 皆はもう避難してるっていうのに!』
『いや、それよりお前、その格好……』
『そんなのどうでもいいでしょ? それで、アンタ、誰?』
『人に名前を尋ねる時はまず自分から、と、お前のパパはそんな基本的なことも教えてくれねーのか。ヒッデぇ父親だなぁ』
お前が礼儀云々を語るのかよ、と場違いにも思ったが、
『アタシは綾崎。綾崎文香よ。それで、貴方は?』
そんな風に返した幼馴染に、素直!と思ってしまった僕は悪くないと思う。男は文香の態度に満足したのか、
『俺は、そうだな、黒(こく)とでも名乗っておこうかねぇ』
『コク? 変な名前。偽名?』
『別に好きに解釈していいぜ?仲良しこよしになりましょうって空気じゃないことくらい分かるだろ』
そのまま二人は戦闘に突入するが、素人目に見ても文香と男…コクとの力量差は圧倒的だった。
武器らしきステッキを弾き飛ばされた後は、最早コクの独壇場であり、文香は防戦一方だった。
『きゃっ!?』
『ヒハハッ! オラ、どうしたァ? このままじゃ死んじまうぞぉ!』
『やめなさいよ! なんでこんな酷いことをするの!?』
『そこの灯火ってアホ面に用があるからに決まってんだろ。お前がそれを妨害するから、俺は仕方なく攻撃してるだけだぜ?』
『灯火に何をするつもり!?』
『ああ? テメェにゃ関係ねぇだろうが』
その言葉を最後に、文香は勢いよく吹き飛ばされ、壁に衝突してグッタリしてしまう。
そして、その文香を踏み付けるコクの姿を見て、僕の中で何かが弾けた。
『やめろぉぉぉぉぉぉぉ!』
ーーーーー
あの後の記憶は曖昧だが、目覚めた炎の力でもコクには全く歯が立たなかったことは朧げに覚えていた。
ただ、僕がそこで完全に心を折られなかったのは、もう一つ朧げに覚えている言葉。
『ふん、少しはマトモな表情になったか』
自分達が生きているのは、コクという男の琴線に自分の何かが触れたのか、彼から見逃された為だ。
そして、僕はその時に感じたのだ。
自分は確かに弱いかもしれない。だから、自分の大切な人を守る為に強くなりたいと。
だから、僕は今ここに居る。
「若木、やはりあのコクって男のことは?」
「はい、目撃情報こそ確認されていますが、ネームドを含むモンスター達を狩っていること以外は不明です」
「そうか……」
あの後、文香達共々病院に搬送されたが、幸いにも三人とも命に別状はなかった。
だが、文香はただでさえ実戦経験が少なく、戦闘向けの能力でもなかった所に、モンスターでない、人からの悪意と暴力を振るわれたことでショックを受けてしまったようで、しばらく休みを取るのも兼ねて退院が遅れている。
そして、僕は彼女が退院するまでに、強くなることを決めた。
文香は僕にとって日常の象徴だ。家族のいない僕にとり、彼女の隣こそが僕の帰る場所みたいに思っていた。
しかし、それは間違いだったと思い知らされた。
彼女の祖父が参加していた研究、モンスターの存在、そして彼女がモンスターを人知れず狩る特別課外活動部の一員だったこと。
僕は、そうしたことを何も知らなかったのだ。
だから強くなって、文香に守られる自分でなく、彼女を守れるような存在になってみせる。
その為なら、どんなことでもやってみせる。
次回より再びオリ主視点