「Ai、居ないな」
『居ないですね~』
マスカレーナを伴ってDen Cityへと繰り出した俺達は行方不明となったAiを探しながらCafé Nagiへと歩を進めていた。途中でネットワークと接続されている機器があったら視線を止めてAiが居ないか探してみたりしているがその成果は出ていない。
とは言え、俺はAiがどこに行ってしまったのかを知っているのでそこまで必死になって探している訳では無い。
マスカレーナもまた、こんな野良のネットワークにAiが潜んでいると本気で考えている訳では無いのでその返事も適当だ。
「ところで、その……最近どうなんだ? 藤木とは」
『なんですか、その思春期の娘に声を掛ける不器用な父親みたいなムーブは』
「いや、単純に気になって」
遊作の力になって欲しいという思いから『I:Pマスカレーナ』のカードを託した訳だが、マスカレーナと藤木達が仲良くやれているのかは一応ずっと気にしているのだ。
まあ、遊作の
『そうですねぇ……遊作君は私に対して何か制限を掛けたりなんてしないので自由にやらせてもらっていますよ』
「あ~」
こう言っては悪いが遊作は他人に対して余り興味を持たなさそうだしなぁ……とは言わずに心の中にしまっておく。
取り合えず、Aiと同じ様に彼の決闘盤に繋ぎ留められているという訳では無さそうなのでそこは安心した。まあ、そんな事する意味も無いしな。
『やかましい同居人とシェア決闘盤してるので、そこはうんざりしそうになる事もありますけど……ここは暇する事がないと良い様に言っておきましょうか』
「はは……それは……」
この間学校で遭遇した時もマスカレーナとAiが小競り合いを繰り広げていたのを見ていたので納得だ。毎回あれをやめさせられている遊作には後で謝っておこう。
『翔一さんは良い人ですよ! 彼もガジェット系が好きなので話もよく合います!』
「へ~、草薙さんってソフトだけじゃなくてハードも好きなんだ。でも確かに、キッチンカーを拠点に改造するくらいだからそっち系も得意なんだろうな」
翔一さんって誰だ……と思ったが、草薙さんか。
あの人が下の名前で呼ばれる印象が全くなかったから一瞬分からなかったぞ。
「何にしても、ちゃんと仲良くやれている様で安心したよ」
『当り前じゃないですか~。私が問題を引き起こすなんて事はしないので!』
逆に不安になるフラグの様な事を言っているが、彼女からするとネットリテラシー弱弱の俺の方がよっぽどトラブルを引き起こしているのだろう。それに、何よりも慎重さが必要な仕事を生業としている彼女はその見た目と言動以上にしっかりしている。
ここは素直に彼女の言葉を信用する事にしよう。
『あ、そう言えばこの間私のメッセージに対してラッセさんが返信して来たじゃないですか?』
「ああ、あれな。藤木の決闘盤から送られてきたって事をすっかり失念して素でマスカレーナ相手に送る文面で返しちゃったんだけど、藤木は何も言ってなかったか?」
『ええ。でも、あの返信文を先に読んだだけでは意味が分からなかった様で、すぐに私が送った写真付きのメッセージに気が付いて確認した遊作君の筆舌に尽くしがたい絶妙な表情は傑作でしたよ。写真に撮ったので後で送りますね?』
「まじで? そんなの見たいに決まってるじゃん」
☆
マスカレーナとそんな他愛のない会話をしながら歩いていると、今日も今日とてDen Cityの広場でやっていない日の方が多いんじゃないかと話題の草薙さんのキッチンカー、Café Nagiが見えて来た。そして、今もキッチンカーの販売窓は閉じられており、閉店状態であった。
「草薙さーん。世良です」
「世良君か!? すまない、今は手が離せない! そのまま入って来てくれ!」
俺はキッチンカーの中に入ることが出来る扉をノックしながら声を掛けると、中から草薙さんの返事が聞こえて来た。だが、その声は非常に切迫しており、何かが起こっている事が伺える。
『何やら非常事態のようですね』
「ああ。兎に角、中に入って草薙さんに話を聞こう」
とは言った物の、恐らく今は遊作がライトニングと対面している場面であろう。いや、ここに来るまでに少し時間がかかっているのですでに遊作とボーマンの
俺はマスカレーナと頷きあい、キッチンカーのドアに手を掛ける。
「……あれぇ?」
『何をしてるんですかラッセさん? 早く入りましょうよ』
「いや、それはそうなんだけど……」
俺はドアを開けるために手に力を入れるが、キッチンカーのドアはびくともしない。押戸と引き戸を間違えた? あるいは横にスライドするタイプだったか? そんな可能性を考慮して色々な方向にドアを動かそうとするが、結果は変わらない。
「……鍵が閉まってる」
『えぇ? 翔一さん、慌てすぎて鍵が閉まっている事を忘れてるんでしょうか?』
「うーん……無いとは言えないけど、ちょっと考えにくいな。マスカレーナ、悪いけど中に入って草薙さんに中から開けて貰う様に言ってくれないかな?」
『わっかりましたー!』
精霊の彼女であれば人間界の物体に遮られることなくすり抜ける事が可能だ。問題はどうやって精霊が見えない草薙さんと意思疎通をするかだが、つい先ほど俺のパソコンを好き勝手に弄り倒していた彼女であれば遊作と草薙さんが使っているコンピューターを介して何とかしてくれるだろう。
……遊作と草薙さんと言う凄腕ハッカーがPlaymakerという秘匿性の高い活動を行うにあたって使用しているパソコンのセキュリティは相応に固いと思うのだが、マスカレーナは大丈夫だろうか? まさか人間が使うサイバーセキュリティ技術が精霊の彼女を害せるとは思わないが、少しだけ心配である。
『……ッ! ……なんだ!? ……マスカレーナ? …………どうやって……』
中から草薙さんの困惑した声の一部が聞こえてくる。
どうやら大丈夫そうだな。
おそらく俺のパソコンにした様に、草薙さんが見つめているディスプレイに突然マスカレーナが映し出されでもしたのだろう。
マスカレーナが改修して作り出した俺や遊作の決闘盤に組み込まれている精霊を疑似的に実体化させる通称ガラテアシステム。あれを応用して人間世界のパソコンに干渉していると思うのだが、これを使えば精霊に対して防御手段を持たない人間世界のシステムは丸裸も同然だろう。
俺はもしかしたらとんでもないモノを世に解き放っているのかもしれない……。
怖いから余り深く考えない様にしよう。マスカレーナが積極的にこの世界を滅茶苦茶にしようとする事は無いと信じている。信じてるぞ、マスカレーナ!
『ラッセさんラッセさん!』
「あ、おかえり。鍵は開けて貰えた?」
『それが、大変なんです! どうやら現在キッチンカーのシステムに謎の介入を受けている様でして、キッチンカーのドア、窓全てにロックが掛けられてしまっているようです!』
「んんん???」
キッチンカーのシステムに介入? そんな話あったか?
『どうも、影響を受けている部分が非常に限られていた事と未知の方法によるアクセスで、翔一さんも今まで気が付いていなかったみたいです』
「そんな事が……草薙さんは無事なのか? 藤木も居るだろ?」
『翔一さんの身に何かされているという事は無い様です。遊作君と尊さんは現在LINK VRAINSにログイン中です。今の所ログイン中の2人にも特に影響は無いみたいですが……』
「……」
草薙さん、遊作、尊達自体には特に被害は出ていない。ログイン中の2人の様子も問題なく確認できているという事は、草薙さんが操作しているコンピューターにも特に異常は出ていないのだろう。それなら本当にキッチンカーの鍵が開かない様にしているだけ?
一体何のために? 中の人物を外に出させないようにするため? もしくは……外に居る人物を中に入れない様にするため?
『それと、これは翔一さんにはまだ話していないのですが、この件の犯人は恐らく……
「精霊の仕業……か。また光のイグニスに影響された連中だろうか?」
この間起こったサイバース世界への拉致事件。結局あれはライトニングが直接精霊に働きかけて起こした出来事という訳では無かったみたいだが、『人攻智能ME-PSY-YA』がライトニングの意思を慮って独自に行動した様であった。
そうなるとまた前回の様に光属性サイバース族のモンスターが行動していると考えられる。いや、ME-PSY-YAが最期に残した発言からライトニングに精霊についての情報が渡っている可能性は高い。そうなると、今度こそライトニングが主体的に精霊を利用している可能性は否定できないか。
まあ、あの光のイグニスが精霊という不確定要素を活用するとは思えないが、可能性を排除してしまうのは危険だろう。
『残念ながらそこまではなんとも……ただ、もしそうだとしたらラッセさんにもっと直接的なアプローチをとって来ると思うんですよね』
「確かに……それこそこの前みたいに精霊界に拉致って行くなり、あるいは直接攻撃をしかけてくるなりしても良い訳だ。仮に俺を中に入れさせない様にしているとしても、こんな回りくどい事をする意味は無い」
うーむ、分からん。相手の意図がさっぱり読めない。
精霊案件として積極的に真相解明に動くべきなのか? それとも放って置いても問題のない案件なのか?
だが、少なくともこんな事は俺が知っている遊戯王VRAINSのストーリーの中には無かった出来事だ。異変である事には間違いない。
真実は分からないがライトニングと関連している可能性はやはり高いだろう。絶対に許さねぇぞ、ライトニング!
「とりあえず、マスカレーナはすぐにLINK VRAINSに居る藤木の所に行って欲しい。向こう側でも何かが起こっているかもしれない」
『わかりました! それでは、行ってきますね!』
「頼んだぞ」
マスカレーナは緩い敬礼の姿勢を取ったかと思うとそれだけ言って姿を消してしまう。LINK VRAINSにすぐに向かってくれたのだろう。
「さてと、それじゃあ俺は……」
取り合えず、待つ事しか出来ないな。うん。
店を閉めているキッチンカーの開かないドアをガチャガチャし続けていたら不審者として通報されてしまう。となれば、俺に出来る事は待つ事だけだ。Café Nagiのテラス席が出て居れば座る事も出来たのだが、今日は店をやっていないという事もあってテラス席は設置されていない。せめて体力を少しでも消費させない様にキッチンカーに背中を凭れて待つ事にする。
それに、ここに居れば精霊が何かしらのアクションを起こして来る可能性もある。精霊本人が何かしてくれば、それはそれで対応のしようもあると言う物である。
仮に荒事になったとしても俺にはミドラーシュが付いて居てくれるので、まあ大丈夫だろ。
「しかし、一体何が起こっているのやら……」
誰に聞かせる訳でもない俺の呟きはDen Cityの広場のざわめきの中に溶けていく。
『ごめんネ。でも、今は駄目。これはユーサクが解決しなきゃいけない事。今日はもう時間が無いから、また会いましょう』
「!?」
ふいに聞こえて来た少女の声。
俺は辺りを見回し、その声の持ち主を探したが該当しそうな人物は見当たらなかった。
「……誰だ?」
正体不明の少女の声が聞こえて来たのとキッチンカーのロックが解除されたのは同時だった。
(-⊡ω⊡)ゞクイッ『私もシステム系には自信があります』