沙綾と祭りに行きたい人生でした……

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山吹の君に誘われて

高校2年の夏休み。

来年の夏は勉強漬けが確定しているので、プールやら海やらゲーセンやらと、今年のうちに出来ることをやっておこうと考えた俺は、ひたすらに夏休み中遊び倒していた。

なのだが。

 

『ごめん、彼女と回る』

 

『いかない。 花火見るだけでしょ?』

 

『デートするから無理。 あと花火の時川沿いに来んなよ』

 

『あつい』

 

なんと、夏祭りに誘った友人が尽く全滅。

一応、現地で誰かに会えばそこから一緒に行動も出来るし、1人なら1人で遊びようはある。 とにかく夏祭りで遊べるだけ遊びたい俺は、気持ちを切り替えて家を出て、

 

「お、きたきた。 遅いよー」

 

家の前に何故か、浴衣姿の沙綾が居た。

 

 

 

 

 

 

 

沙綾の履いた下駄が、アスファルトを歩く度にカラカラと音を立てる。

あの後、せっかくだしという沙綾の謎理論で一緒に夏祭りを回ることになった。 何がせっかくなのか、そもそも何故家の前に居たのか、さっぱり分からない。

 

「何となく宙が1人で夏祭り行く気がしたんだよねー」

 

「まだ何も言ってないけど」

 

沈黙に耐えかねたのか、沙綾があからさまに目を逸らしながらそう言った。 これもう自白だろ。

別に沙綾と回るのは嫌じゃないんだけどさぁ。

 

「何処まで手回した?」

 

「なんのことでしょう。 私は何となく宙を迎えに来ただけだよ」

 

「今その言い逃れは無理がある」

 

「花火8時からだって」

 

思いっきり話を逸らしてくる。

まぁ、おそらくはウチの家族と雑な理由で断った友人達……もしかしたら、俺の友人大半に声をかけたのかもしれない。 SNSでフォローしてるから、俺のフォロー欄から探すのはそこまで難しくなさそう。

 

暫く横顔を見つめ続けていると、やがて少しずつ沙綾が小さくうめき声の様なものを上げだした。

 

「言う必要ある……?」

 

「無いけど、それ言ったら俺と沙綾が一緒に回る必要も無くない?」

 

「…………おじさんとおばさん」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

いや、えっ? ウチの親協力者なの? 特に何かされた記憶ないけど? ていうか友人達は本気であんな理由で断ったってこと?

 

この歳で初めて、知らない方がいい真実というものを身を持って体感した。 今のは衝撃の一言すぎる。

 

「香澄ちゃん達は?」

 

「別のお祭りを皆で回ることにしてる。 今日は2人っきりだよ」

 

「最高じゃん。 美少女と夏祭りデートとか漫画でしかありえないと思ってた」

 

「宙ばっかりじゃなくて、私も最高の気分にさせてよ」

 

「期待しないでほしい」

 

話しながらだと時間はあっという間で。 2人だけだった道は次第に人通りが多くなり、交通規制の向こう側に無数の出店が所狭しと並んでいる。

 

「まずはクレープかりんご飴」

 

「え、普通かき氷とか焼きそばじゃない?」

 

「じゃあそれで」

 

早速行動を開始する。 狙うはなるべく安いかき氷。

そうして歩き始めて実感したのは、祭りなのでやはり人通りが多い。 具体的には、どの方向を見ても目の前に人が居る。 歩きづらいことこの上ない。

正直恥ずかしくてしょうがないけど、はぐれるのはアレなので沙綾の手を握る。 ドラマーらしい手だった。

 

「顔、赤いね」

 

「うわ、ここぞとばかりに弄ってきた。 もう離す。 離せ」

 

「離していいよ」

 

「ドラムやってるせいでおれより握力強い」

 

片手じゃ振り解けないってまじ? 同い年の俺より身長低い女子に負けるの自尊心傷つきます。

沙綾もそれを分かってるような顔でニマニマしていて、でも顔が良すぎてあんまりイラッとしなかった。 美少女すげえ。

 

「あ、かき氷200円だ。 あそこで買うぞ」

 

「安いとこ探してたんだ……」

 

「誰だって安いとこで買いたいに決まってんじゃん。 だからこうしてこのかき氷屋には列が出来てる」

 

200円かき氷の屋台には、他のかき氷屋の倍近い列が出来ていた。 これが今の日本を象徴していると言っても良い。

 

「何味がいい?」

 

「えー、そうだなぁ。 私はメロンかな。 奢ってくれるんだ?」

 

「当然。 イケメンだろ?」

 

「顔はそこまででもないと思うけどね」

 

「言葉のナイフ」

 

「でも私は好きだよ」

 

下げて上げるという単純な作戦は、単純故にめちゃくちゃ効果的だった。

ナイフでグッサリいった傷口から甘い蜜をたっぷり注がれて、俺は普通に照れまくった。 手を繋いだ時よりも顔が熱い。

自分があまりにも押しに弱い事実を知りつつ、精一杯取り繕って呼吸を整える。

 

「魔性の女め」

 

「残念。 恋する乙女でした」

 

今日は凄い積極的に口説いてくる。 心臓が跳ね回るけど、自分も顔を赤くして恥ずかしがってるのはとても可愛い。

 

並び始めて2分ほどで列の先頭に辿り着く。

お金を渡して注文すると、早速かき氷機担当の人が手早く氷を盛って店主さんに渡した。 店主さんはそれに慣れた手つきで、2つのかき氷にそれぞれ緑とピンクのシロップをかける。

 

「お待ちどおさま。 祭り楽しんでね!」

 

そして笑顔。 作業も接客も凄くて、普通に感心してしまった。

 

屋台の前から離れた俺は、かき氷が零れないように、そっと沙綾の手を引いて道の端に寄った。 ひとまずはこの、丁度いい店先の空間を借りるとしよう。

ピンク色に染まったかき氷を口に運ぶ。 いかにもかき氷らしい食感と、シロップの甘さ。

 

「かき氷って普段食べることないから、特別な感じするよね」

 

「分かる。 祭り以外で買おうとは思わないもんな」

 

「だよね。 かき氷買うなら普通にアイス選んじゃうなぁ」

 

「かき氷食べながらする会話では無いよな」

 

カップの表面に着いた結露が、何となくかき氷の涙のように見えた。

 

「1口交換しよ」

 

「俺メロン嫌い」

 

「味は一緒じゃん」

 

「なら交換する必要ないだろ」

 

なんて言いつつ、押しには勝てずに差し出されたスプーンを口に入れる。

味は同じはずなのに、俺の脳がこれを不味いと訴えている。 人体の不思議だ。

 

「おいしい?」

 

「名前が良くないわ。 メロン味じゃなくて青リンゴ味にして欲しい」

 

「じゃあ次は宙ね」

 

「だろうと思ったけどさぁ」

 

軽く開けられた口に、スプーンでかき氷を放り込む。

あーんの食べさせる側は慣れたものなので、大した緊張もなく自分のかき氷を与えて終わった。

冷静に考えて、手を繋ぐのは恥ずかしくてあーんが恥ずかしくないのはおかしくは無いか。

 

適当に話しながら氷を口に運び、たまに相手に食べさせる。 暑さで溶ける事もあり、かき氷はやがて随分と軽くなった。

 

「あ、もう無いわ。 思ったより早く食べた」

 

「私ももうちょっと。 小学生の頃とかは結構多くて、途中で飽きたりしてたよね」

 

「つまらないとこで成長を実感した」

 

祭り用で設置されたゴミ箱にゴミを捨てて、再び人混みの中に足を踏み入れる。

時間が経ったことで人通りも増え、さっきよりも歩きづらい。 手を繋いでいても、時々はぐれそうになったくらいだ。

 

「次たこ焼き食べよ」

 

「いいよ、半分こね」

 

屋台に近づくと、生地のやける香ばしい匂いとソースの匂いがより濃く匂ってくる。

たこ焼き屋さんはカッコイイおじさんで、「可愛い彼女さんに」と言って、出来たばかりのたこ焼きをパックに入れてくれた。 可愛い彼女と呼ばれた沙綾は、特に恥ずかしがる様子もなく応えていた。

 

「これどっかに座って食べたいな」

 

たこ焼きの入った袋を持って、辺りを見回す。

さっきのような空いたスペースは幾つもあるけど、晩御飯の代わりだし、腰を落ち着けて食べたい。

 

「座って食べるなら他のも買おうよ。 たこ焼きだけじゃ足りないもん」

 

「だな。 商店街の方に行きながら色々買おう」

 

もしも祭りを一緒に回るのが友人達だったら、そのへんの段差にみんなで座るところ。 だけど、沙綾は着慣れない浴衣だからちゃんと休める場所を選びたい。

 

道中、りんご飴や焼きそば等の食べ物を買いながら、商店街の方へと足を運ぶ。

寄ったいくつかの店では、たこ焼き屋さんのように沙綾のおかげでサービスをして貰った。

 

「結構空いてる」

 

「この辺は割と静かだね」

 

手を繋いでいない方に持った袋が重くなった頃、無人のベンチが見えてきた。

場所的に祭りの中心から離れているためか、人はそこまで多くなかった。 目の前のベンチに並んで腰を下ろす。

 

「座った瞬間急に疲れた。 お腹も空いた」

 

「私も。 さっきのたこ焼きまだ暖かいよ」

 

袋から取り出されるたこ焼きのパック。 出来たてほどでは無くとも、未だ手に熱を伝えている。

1つ口に入れると、ふわふわの生地や大きめのタコが濃いめのソースと相まって普通に美味しい。

 

「かき氷の人も優しそうだったし、あと色々おまけして貰ったし、いい人多すぎて心配になるわ」

 

「あと、色んな人が私のこと『可愛い彼女さん』だってさ」

 

「沙綾は誰が見ても可愛いよ」

 

「はぐらかした」

 

沙綾はわざとらしく頬を膨らませながら、たこ焼きを口に運んだ。

要するに、さっさと告白しろと言われてるんだろうけど、沙綾が知らないだけでこっちも色々準備してる。

 

「ほら、焼きそば。 あーん」

 

「ん。 ……美味しいけど、答えない気まんまんじゃん」

 

「そんな事ないよ。 ほらあーん」

 

サプライズをバラしたく無いので、物理的に口を封じる。 焼きそばは味や少し焦げてるとこも含めて屋台らしい味だった。

最初は口封じに抵抗の意志を見せていた沙綾も、4口目あたりで白旗を上げ、ジト目を向けてくるだけになった。

 

「都合が悪いと無理やり口塞ごうとするの、昔から変わってない」

 

「変わらないっていい事だよ」

 

「悪びれてない……」

 

悪びれるも何も、俺はただ焼きそばを食べさせただけで悪いことはしていない。

 

焼きそばを食べ終え、フライドポテトを袋から取り出す。

食べ物は買った分だけでもだいぶ量がある上、おまけしてもらった分まで含めると、2人分かどうか怪しいレベル。

 

手を付けてないものは持って帰っても良かったけど、なんとなくイケそうな気がしたから、最終的に全部食べた。 全然キツかった。

口の中に残る濃い味をミントのガムで上書きする。 上書きしないと油っぽすぎて気持ち悪い。

 

「沙綾どっか行きたいとこない? 花火まであと20分くらいあるけど」

 

「その前に宙、休憩しなくていいの? 」

 

「もう何も食べたくないだけだし動けるよ」

 

寧ろ、歩いたり遊んだりで体を動かさないと精神的に楽になれない。

食事でそこそこ座っていたから疲れは取れたし、沙綾が行けるタイミングで行動再開したい。

 

「私ももう大丈夫だし、宙がいいなら行こっか」

 

「おっけー行こう。 ゴミも捨てたいし」

 

来た道を辿り、出店が立ち並ぶ賑やかな通りに戻ってくる。

祭り用のゴミ捨て場をまた利用させてもらって、ついでにすぐ隣の店で追加の飲み物を買う。

 

「じゃ、何する?」

 

「んー……スーパーボール掬いとか?」

 

「金魚じゃないの?」

 

「金魚は飼うのがね……」

 

「あー」

 

確かに、俺も金魚を飼うのが面倒くさくて金魚掬いをしなくなった。 その点スーパーボール掬いはただの遊び道具だから楽か。

 

「どこにある?」

 

「あそこの、綿あめの隣」

 

「おっけー。 行こ」

 

人混みの中を歩くために、また沙綾と手を繋ぐ。

今日は沙綾と手を繋いでる時間の方が多いから、繋いでいないと逆に違和感があった。 今はちゃんと、しっくり来ている感じ。

 

「多く取った方が勝ちね」

 

「へぇ〜。 言っとくけど、私、負けないよ?」

 

「何があっても俺には勝てないね」

 

 

 

 

✻ ✻ ✻

 

 

 

8月5日

 

今日は数年ぶりに宙とお祭りに行った。

ポピパで祭りに行くのとはまた違って、終始ソワソワして落ち着かなかった。 心臓がずっとドキドキしていた。

宙とは、食事以外ほとんどの時間手を繋いでいて、男の子っぽいゴツゴツした感じの手は案外握り心地が良い。

前半は一緒に色んなものを食べて、後半はスーパーボール掬いとか射的で遊んだ。 何故か宙はスーパーボール掬いがびっくりするくらい上手で、最終的に取ったぶんの大半を店に返していた。

 

だけど、この辺は花火のせいで印象がだいぶ薄れてしまった。

 

最後の花火。

これまでのデートとかの中で、宙も絶対私の気持ちに気づいてる。 私だって気づいてるから間違いない。

なのにあんまりにも告白されないから、今日の花火を見計らって私から告白しようとした。

そうしたら、宙は (ぐちゃぐちゃに文字が塗りつぶされている) は想像と違って、ミント味だった。

 

 

 

 




沙綾は曇らせるだけが華じゃないです(断言)

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