冒険の書が完結しない    作:翔田美琴

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1話 冒険の書が終わらない?

 それは最後の大魔王との闘いまでにさかのぼるのだろうか? 

 見覚えのある、見慣れた王の姿。

 見慣れた王は彼らをいつものように激励の言葉で送り出す。

 しかし。当の男性勇者である彼、レムからはどうも見覚えがある、既視感を感じる、そんな激励の言葉だった。

 

「では、行くがよい! レムよ!」

 

 不思議な既視感を感じた彼は内心首を傾げつつ、パーティと共に今は大魔王との最終決戦の前夜、とある街の宿屋にて時を過ごしていた。

 勇者レムのパーティを構成するのは以下の3名。昔は盗賊として鳴らしていた現在の職業は戦士のハザード。前職は名を知られた魔法使いから現在は賢者として活躍する賢者オグス。そして最初期から僧侶として勇者と過ごした女性僧侶のアネット。

 大魔王との闘いの前夜。

 彼らは冒険の間に通い慣れた宿屋にて宿泊して前夜を過ごした。

 大魔王の本拠地は永遠の夜が支配する世界であり、その世界で宿泊しても一晩を過ごした気分になれない。

 故に太陽のある世界にて、昼夜を感じる世界の方でいつも彼らは宿を取っていた。この日もそうだった。

 

「いよいよ、明日は大魔王との闘いだな!」

「長かったよね。この旅も」

「どうしたんだ? レム? 考え事に耽って?」

「俺達は魔王を倒したんじゃなかったか?」

「寝ぼけているのか? レム」

「口に出しても現実の一文の足しにもなりませんよ」

「でも大魔王を倒す前に夢を見たなら縁起がいいかもですね」

「待ってくれ。混乱している。整理させてくれ。昨日の『冒険の書』は?」

「おいおい。それを確認しないと今日の日付も判らんのか?」

「決戦前で気持ちもわからないではありませんが、レムらしくないね」

「皆さん。最後の闘いの前ですよ。誰でも緊張はしますよ?」

 

 そう最後の闘いの前に俺は大魔王をこの手で確かに倒したはずだ。倒したはず。だが冒険の書は魔王を倒した前の記録で終わっている。

 彼はその当日を思い出す。

 

「なあ。賢者オグス」

「どうした?」

「突然ですまないけど『時の砂』という道具は時間を巻き戻すんだったよな?」

「ああ。だがその存在はあくまで文献によるものでこの世界には現存しないはずです」

「賢者の読んだ文献の範囲でいい。その時間ってのはどのくらい巻き戻すんだ?」

「そう長い時間は巻き戻せないようです。ある本では魔物との一戦程とありました」

「そうか…なあオグス。時間を丸一日さかのぼるような呪文なんてないよな」

「一つだけあるけど、あれは『この日』の時間の昼夜を逆転させるだけの呪文だから昨日とかにはさかのぼる事は出来ないよ」

「だよなぁ」

「一体、どうしたんだよ? レム」

「そうだな。この話をしている時点で俺だけが頭がおかしい事を言ってるからな」

「時間の大切さはあなたが一番判っているはずです」

「判った。整理がついた」

「これから話す事は何の冗談でもなんでもないから笑わないで聞いてくれ」

「へぇ、あのレムが珍しく勿体づけている」

「結論から言えば、俺は大魔王をこの手で倒しているんだ。一度は必ず」

「おいおい。俺達はこれから大魔王を倒しに行こうとしてるんだぜ」

「そうなんだ。俺の記憶と皆の記憶は違うんだ。俺には妙な既視感を感じるんだが」

「決戦前夜に大魔王を倒す夢を見たなら縁起がいいよね」

「でも引っかかるんだな。どの辺りの記憶が引っかかるんだ?」

「俺は確かに大魔王を倒した。その後、平和になった世界も少しだが体験している。だけど、これを見ろ」

「これって確か、私達の冒険の記録を綴った『冒険の書』ね」

「そう。これの更新が大魔王を倒す前の『記録』で止まっている」

 

 冒険の書。彼らの世界の冒険者は彼らの旅路の記録を国を治める国王に記録を付けて貰う、というのを手馴れた冒険者達は全員している。

 自分達の旅路を余す事なく書かれたものだ。

 

「確かにこの冒険の書の最後の更新は、故郷のあの城で書いたな」

「なのに、俺の記憶には大魔王を倒したという確かな手応えさえ残っているんだ」

「記憶の改竄かしら? だとしたら相当な魔力の持ち主よ。誰の仕業かしら?」

「記憶の書き換えなら、我々にも及ぶのでは?」

「なのに勇者のレムしかされてないのは妙な話だよな」

「脳筋ハザードからその言葉がくるとは思わなかった」

「うるせー! これでも元は盗賊だったんだぞ! 脳筋じゃねー!」

「記憶の書き換えじゃなくて、時間の巻き戻しと言った方がいいかもしれん」

「確かめる方法は?」

「擬似的にならある。何せ実際に体験したことだからな」

「興味深いですね」

「つまりどういうことだ?」

「勇者レムにはこの先に起こる事が判るんですよ」

「マジか。それ!」

「ああ。まずはこれから行く大魔王の城はかなりカツカツだったが隅から隅まで探索した。ついでに大魔王もその足で倒した。俺の記憶ではかなり接戦だったが勝った」

「中にあった宝物は?」

「祈りの指輪と賢者の石と僧侶用の光のドレスと他は呪いの武具だったかな」

「全部、中身を知ってるのかよ」

「そりゃあ一度探索したダンジョンくらいは、パーティを率いる長としては把握しておかないと務まらないだろう」

「ええ。そのお陰て私達は危険な迷宮からも生還できましたし」

「宝物の中身がわかると興ざめだな」

 

 元盗賊ハザードは文句をこぼしたが賢者オグスの納得しかない言葉が飛んでくる。

 

「宝物の中身が予め判るなら避けられる危険は避けられる。効率的に回らないとな」

「ついでにミミックという偽物宝箱にハザードは2回も死んでるぞ」

「じゃあ2回とも私の蘇生魔法で生き返してあげたんですね。感謝してくださいね! ハザードさん」

「感謝しておくよ」

「ルートは、門から入って、小部屋、階段、宝物庫、大広間」

「おお〜! レム、全部知ってるのかよ」

「まあな。そのへんはさっき話したからいいとして」

「なるほど。つまりダンジョンをしらみつぶしに探索したのは間違いないのですね」

「当たり前だ。ダンジョンを隅から隅まで探索しないのは冒険者として失格だしな」

「その後、探索を終えたあとに脱出する事は?」

「できなかった。奥に大魔王の間があってそのまま倒しに行ったから、逃げる事もできなかったしな」

「結果は俺達の勝ちだった。かなりの接戦だったけどな」

「肝心要のその後は?」

 

 すると彼、勇者レムの記憶は曖昧になり、その後は、靄がかかったように憶えが全くない。

 

「……すまない。王様に謁見した事までは記憶にあるがその後はわからない……」

「その後が肝心なのにですが」

「すまない……。宝箱の中身は先程の通りだからな」

「今回は確かめたい事があるから宝箱は全て回収する」 

「確かめたいこと?」

「まあ、それはおいおい話すから。これで魔王城の中はこんな感じになっている」

「次に出現する敵は、拙い絵だがこんな奴とかこんな奴とか。これでドラゴンまででたよ」

「下手っぴだな」

「和みますね。かわいい絵です」

「言っておくが凶悪だからな。絵に騙されて「聞いてないよー」は禁止!」

「特にこいつやこいつ……ほとんど全部、要注意な魔物だな。流石、ラストダンジョン」

「全部、観たことがある姿、上位亜種みたいなものかもな」

「特にこいつは極大爆裂呪文を唱えてくるから注意しろよ」

「魔王はこーんな奴で、最初の形態は2回行動だが、第2形態になると3回行動になる。攻撃は氷の呪文と凍える吹雪と凍てつく波動と通常の殴り攻撃。特に凍える吹雪には気をつけた方がいい。魔法によるサポートは凍てつく波動に注意したい」

「事前情報知るだけで対策が打ちやすいな」

「そうだな」

「じゃあ、これから魔王城の攻略を開始しよう。ただし今回はアイテムの回収だけにするからな」

「何で?」

「アイテムを貰えるなら貰っておく。その上で体調が万全の時に闘いに行く。確かめたい事があるからな」

「装備は今使っているものでいいか?」

「呪文はどうします?」

「適当でいい。てゆーか何とかなった」

「突入時刻の時間合わせはしますか?」

「しなくていいや。欲を言えばあの時の再現ができれば少しは楽なんだろうけど」

「よーし! 何かよく判らんけど、いよいよだぜ!」

「皆で頑張りましょうね!」

 

 そうして彼らは魔王城の城門までやってきた。

 

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