冒険の書が完結しない    作:翔田美琴

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2話 勇者の既視感

 魔王城の城門前。

 そこは禍々しい空気が流れている。

 勇者レムからしたらやっぱり来たことがある。既視感に襲われていた。 

 

「魔王城城門だぜ!」

「禍々しい魔力を感じます」

「どうです? レム殿」

「やっぱりこの門には既視感があるよ」

「よし。乗り込むぞ」

「俺に任せろ! 城門、開けろー!」

 

 しかし出待ちをしていた魔物に戦士は真っ先に攻撃される。

 

「グアっ!! 出待ちとは卑怯な!」

「アネットは回復。オグスは補助と攻撃呪文を叩き込め!」

「了解! 勇者が描いた絵より怖いわね」

 

 城門での悶着があったが、概ね、勇者レムの書いた地図の通りに進む勇者パーティは、勇者を除いて少し呆気にとられる。

 

「うお。ここまで全部、レムが教えた通りじゃねーか」

「我ながら驚きだな」

「本当に勇者レム殿の教えて頂いた通りの城の間取りでしたね」

「まあ、そうだな」

「勇者様は一度、大魔王を倒した事があるのは本当のようですね」

「後はこの宝物庫だけだよ」

「うお。この宝物庫。宝箱、いっぱいじゃん!」

「あっ! だめです! ハザードさん! それはミミックが潜んでいる宝箱!」

 

 ミミックはいきなりハザードに噛み付くと、すぐさま死の呪文をかけて、ハザードを殺した。

 

「アーーっ! 余計な事まで再現しなくてもいいのに!」

「蘇生させます」

「いや、まずはこいつを徹底的に叩くぞ!」

 

 そして勇者パーティはさして消耗せずに大魔王がいる魔王の間の眼の前までやってきた。

 

「やっぱり見覚えあるな。この陰気な雰囲気もさ」

「強大な魔力を感じます」

「勇者殿。でも今回は魔王には闘いを挑まないんですよね?」

「ああ。とりあえず検証したい事があるので一旦、引き返す! 大人しくしてろよ、魔王め」

 

 勇者レムは迷宮脱出魔法を唱えた。

 どうしても腑に落ちない事がある彼らは、何の検証をこれからするのか勇者レムに訊いた。

 

「で、どうするんだ?」

「まずは宿屋に向かう。魔王は明日、倒す。その前に確かめたい事があるから冒険の書を記録しに行こう」

 

 そして王に謁見した勇者パーティは冒険の記録をする『冒険の書』に現在の事を書き込んでもらう。

 

「そなたらの冒険の記録をこの冒険の書に書き込んでよいか?」

「はい」 

「しかと記録した。今すぐにでも旅立つか?」

「はい」

「では、行け! 勇者よ」

 

 一通りの手続きをした後に戦士ハザードは口をはさむ。

 

「なぁ、前から思っていたけどわざわざ何で王様に冒険の書を書き込んでもらわないとならないんだ。俺達で書き込めばいいものを」

「古くからある様式美みたいなものですよ」

「頭が少し悪い戦士殿には馴染みの薄いものかも知れないな」

「よし。宿屋に向かおう」

 

 そうして宿屋に向かうと、勇者が気になる既視感について話そうとするが、戦士ハザードはさっさと眠りにつく。

 

「明日は大魔王との最終決戦だ。きちんと体力も魔力も回復してゆっくり休んでくれ」

「じゃあ、お休み」

「で、今日の一連の行動は何だったのですか? 私にはわかりかねますが」

「それは、これまた突飛な話になるが『冒険の書』だ」

「『冒険の書』? どういうことでしょうか?」

「仕掛けはよくわからないが、おそらくこの冒険の書には、俺が体験した時間の巻き戻しに関係している」

「どうしてそう思える?」

「明確な根拠は二つ。前の記憶では大魔王を倒したあとに冒険の書が一度も更新されなかったこと。それと自分が巻き戻しによって送られた時間が最後に冒険の書に記録した瞬間だったことだよ」

「そうなんですか?」

「偶然にしては出来すぎだと思ってな」

 

 賢者オグスは勇者レムが持つ『冒険の書』がそんな大層な代物には見えない。

 

「冒険の書ってそんな大層な代物なのかな。ただの冒険の日記帳みたいな認識だがね」

「俺も最初は同じだったさ。しかし、気になり出したら止まらなくなってな」

「仮に時間の巻き戻しがあるとしたら、その冒険の書の正体は何かしら?」

「それまでの時間を刻みその時点を巻き戻しの着地点にするとんでもない代物だな」

「賢者ならどう名付ける?」

「時の保存書。私ならそう名付ける」

「時の保存書?! 今まで当たり前に使ってきたその日記帳が?」

「そう。時間を保存するアイテム。そう考えると一番しっくりくるんだよなぁ」

「その仮説が正しいとして最後に時間を保存したのはつい先刻になるね」

「そう。魔王城攻略、大魔王討伐前。ここだ。真の最終決戦前夜だ」

「ようやく私にも、勇者レムが確かめたい事の意味をわかったよ。もし冒険の書がカギならばこれから先に巻き戻しが発生した場合、その巻き戻される時点は、最初に勇者レムが記憶の食い違いを自覚した時点よりも、後、という事になるはずだな」

「ええっと……はい、何とか分かりました…??」

「アネットでこうならハザードの頭は爆発してるな。知恵熱出す前に」

 

 そこでアネットはこういう提案を出した。

 

「なら、レム。その『時の保存書』が本当なら……魔王を倒した後にでも記録を残せば良いんじゃないかしら?」

「もっともな意見だね。その時点、その時点を記録すれば巻き戻されるリスクも減るのではないかな?」

「……それは……よく憶えてないけど無理だったような気がする」

「何でですか?」

「どうも大魔王を倒した後だとその『冒険の書』はただの冒険の日記帳になって意味合いが無くなるっぽいんだ」

「何故だかわからないのが引っかかる」

「何かこう、不確定要素が多すぎるような気がするね。この際だからはっきり言うが、私はまだ彼の話を信じ切れて無いんだ」

「興味深いと付き合ってきたけど、いくら何でも話が荒すぎるように聞こえるぞ」

 

 賢者オグスはカップのコーヒーを一口含んで話す。

 

「全て真実だとして魔王討伐後に記録すればいいだけの部分でお茶を濁すんだ?」

「そうだな。むしろ鵜呑みにされるのも不安だったところさ。賢者みたいな批判的思考は逆に欠けてはならないと思うね」

「ありがとう」

「だけどな、オグス。これだけは信じて欲しい。俺の行動する理由は皆が魔族もいない平和な世界で自分の人生を謳歌してくれる。平和な世界を過ごしてくれる事を望んでいるだけだ」

 

 そこで僧侶アネットは過去にこの勇者レムがやらかした事を暴露した。

 

「その割にはモンスター闘技場にて馬鹿みたいに手に汗握っていたわね。『おっしゃー!』って」

「後はほら。砂漠の玄関口の街で明らかに売り女と一晩……」

「こら。何をニヤニヤしてるんだ、お前ら」 

「結構なあ。あーんな娘とか、そんな娘とかと」

「言わないでいいからな」

 

 賢者オグスは切り替えて、冒険の書こと『時の保存書』の話を続ける。

 

「とにかく『時の保存書』が機能するのは魔王討伐前のみという前提で考えるべきだよね」

「あ、ああ。良いのか? 信用して?」

「実は少し揺さぶりをかけただけです。申し訳なかった。もとよりレムがどう答えようとも私は平和な世の中が訪れるその時まで、ついていく所存だよ」

「ありがとう。オグス」

「私もですよ」

「ありがとう。アネット」

 

 戦士が休む部屋の奥からはハザードがいびきをかいて寝ている声が聴こえた。

 

「ハザードは相変わらずだな」

「あれで名うての盗賊だったんだから面白いよな」

「それじゃ俺達も寝るか。明日こそ大魔王討伐だ」

 

 そうして夜が明けて、朝がきて待合室にて集合する勇者パーティ。

 

「おはようございます!」

「皆、よく休めたか?」

「万全だよ」と賢者オグス。

「私も大丈夫です」と僧侶アネット。

「何か、肩こりが。後は首も痛い」

「寝違いしたのか? まあ、いい。行くぞ!」

 

 彼らは大魔王の居城へと瞬間移動呪文で向かった。

 勇者レムからすれば一度は勝った相手らしいが彼らパーティメンバーからすれば未知の相手である大魔王。

 その落差に奇妙に感じつつ魔王城の城門前で彼らは話し合いをする。

 

「今回こそ、大魔王と闘うんだよな?」

「ああ。魔王城の中はもう探索した後だからな」

「ガサ入れを済ましたダンジョンの探索って緊張感がどことなく欠けるよな」

「まだ、肩こりが治らない。首も痛てぇ~」

「作戦は?」

「今回も俺の命令の通りに動いてくれ。勝てるはずだ」

「了解だ」

 

 そうして彼らは既に探索を済ませた魔王城なので最短距離で大魔王の下へ走り抜けていく。

 大魔王の間の前の扉。

 彼らは息を飲み、武器を片手に立っている。

 

「最後の闘いだな。肩こり解消したぜ。首が痛いのも治った!」

「行きますか?」

「行こう」

 

 扉を開けると大魔王の姿が奥から出てくる。

 

「我が居城へようこそ。勇者レムよ」

「大魔王……か」

「お前に聞きたい事がある。何故、貴様らは人間共の為に闘う? 貴様らのような力ある者がどうしてあのようなクズ共の為に闘う?」

「俺達は人間だ。魔物ではない。人間が人間につくのは真っ当ではないか?」

「ほう……? ならば、我が下僕共。こやつらの苦しみを、痛みを、絶望を我に捧げい!! そして地獄で後悔させてやるのだ。人間側についた事をな!」

 

 最後の闘いが始まった。

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