冒険の書が完結しない    作:翔田美琴

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4話 やっぱり冒険の書は終わらない

「よくぞ、戻った! 勇者よ! では行くがよい」

 

「え…?」

 

 やはり見慣れた既視感から始まった。

 

「前から思っていたけど、何でわざわざ王様に頼んで『冒険の書』の記録を頼まないとならないんだ。俺達で勝手に書き込めばいいじゃん」

「儀礼的な様式美ですよ。今までだって欠かさずやってきた事でしょう?」

 

 聞き覚えがあるやり取り。

 これは夢じゃないよな。

 そうだ。また時間が巻き戻された。

 

「あの王様。ちょっとお聞きしたい事があります」

「どうしたのじゃ、レム。随分と思い詰めた顔をして」

 

 勇者レムは肌身離さず持ち歩く『冒険の書』についてのあれやこれやを根掘り葉掘り聞き回る。

 それは傍目から観るパーティーメンバーからすれば不思議を通り越して不気味すらあった。

 もちろん、パーティーメンバーの記憶は大魔王討伐の前の日の記憶になり、自分だけが大魔王を2回も討伐したという記憶が残っているのだ。

 

「レム。お前、随分と『冒険の書』について根掘り葉掘り聞いていたな」

「疲れているのではないでしょうか?」

 

 受け入れ難い事実……だが自分の意識は確かにここにある。

 彼は重い口を開いた。

 

「にわかに受け入れがたい事だがどうやら俺は2回目の大魔王討伐を俺はしたらしい」

「何を言ってるのですか? レム殿」

「ここで話すのも憚れるから宿屋に行って話すぞ」

 

 そうして近くの宿屋に向かうと勇者レムはこの時間の賢者オグスではない別の未来のオグスから冒険の書が『時の保存書』というのを話していた事を当人に話す。

 その賢者自身にも突飛過ぎる内容だったのだが、持ち前の賢さなりで話の筋は何とか判る様子だった。

 

「別の未来の私がこの冒険の書を『時の保存書』と名付けたのですか?」

「ああ。さらにこの冒険の書はある性質を持つのが確認できた。って言っても俺の視点で語られる事だからにわかに信じられないだろうけど」

 

 勇者レム曰く、どうやら『冒険の書』というのは大魔王討伐を果たした時点では、ただの旅路の日記帳になってしまう事。

 そして大魔王を倒した瞬間に世界中の王から冒険の書に記録をする能力というか権限が無くなってしまう事。

 そしてさらに言うと自分自身は2回も大魔王討伐を果たしてしまったというのだ。

 

「でも私達はこれから大魔王を倒しに行くんですよ」

 

 僧侶アネットは尤もな事を言った。

 そう。仲間たちには記憶のループがされていないのだ。勇者である自身にしかこの時間の巻き戻しがされていない。

 しかし。これで何となくだが『冒険の書』の秘密というか、『時の保存書』の仕組みみたいなものが見えてきた。

 これから3度目の大魔王討伐をする勇者レムにはもはや大魔王を倒す事が『冒険の書』の検証みたいなものになってしまった。

 

「とは言っても俺が大魔王討伐を2回も果たしたなんて信じられないだろうから、その証拠となる大魔王の明確なデータを明かしてみるか」

 

 と、紙にしたためた大魔王のデータを事細かに話す勇者レム。

 

「大魔王の体力は戦士ハザードの通常攻撃の50回分。それでこれが大魔王の行動パターンだ。奴は第2形態になるとほとんど凍てつく波動は撃たないからサポート魔法をかけるならこの形態だな。吹雪と炎をどうにかすれば勝てる相手だ」

「これから闘う相手の詳細なデータを提示できるなんてスゲェわ」

「でもこれだけ詳細なデータがあれば未知の相手でも勝てる確証を持てるから不思議ですよね」

「よし。今夜はこの宿屋で泊まる。明日は大魔王との決戦だからよく休んでくれよ」

「つーわけでおやすみ〜」

 

 戦士ハザードは誰よりも早く寝室に向かい休んだ。

 賢者オグスと僧侶アネットは思うところがあるらしい。

 時間の巻き戻しにあったという勇者レムの話を聞きたかった。

 

「冒険の書もとい『時の保存書』はどうも大魔王が倒される事で得体の知れない何らかの力によって世界中の王様にも影響が及ぶらしい」

「この『冒険の書』がですか……」

「突拍子もない話だろう。でも実際に俺にはそれを実感できるんだよ」

「あの時の根掘り葉掘り聞いた話は?」

「王様に『冒険の書』の仕組みを聞いたのだが、王様すらもこの仕組みはわからないらしい。そうなるとこの見えざる力の前では無力な駒でしかないのか……」

「突飛な話ですね」

「疲れているんですよ。レムは」

「ああ、すまない」

「俺視点では証明されてしまった。皆だって魔王城の攻略は済んでいるんだろう? 一番最初に巻き戻しが起こる時点から時間が進んでいる。冒険の書の効力は決定的だ」

「……」

「前回の大魔王討伐で幾つか重大なヒントを得たが、まず大魔王を倒して時点で冒険の書は効力を失う。王様すらも影響してな。そして討伐後に祖国の王に謁見すると時間が巻き戻される……いいや。正確には」

「何が始まってしまうのですか?」

「わからない……わからないけど、どうしようもないから時間を巻き戻すしかないって理屈が出来上がっている」

「言ってる意味が解らないよ、レム」

「要するに王への魔王討伐の報告が巻き戻しの引き金になってるという認識でいいだろうな」

「だったら祖国の王に魔王討伐後に会わなければいい話では?」

「え…?」

「流石に真っ先にそれは考えた。しかしどうにも上手くいかない気がする」

「何故に?」

「勘だ。根拠がない。だから今回は実際に検証してみる事にする」

 

 しかしながら彼らには何もかも急展開過ぎて何が何だかである。

 

「ちょっと待って下さい。私達はやっぱり大魔王にはまだ会った事がないから話の展開が追いつかないです」

「そうなんだ。突拍子がなさすぎるんだよ。私達はまだ君が過ごした未来の時間を一欠片も経験した事が無いんだよ」

「そうです。大魔王を倒した後の世界なんて簡単には想像できないし」

「そうだよな……」

「最終決戦前に混乱させてすまない。忘れてくれていい……」

 

 宿屋の寝室にて深いため息をつく勇者レムだった。

 そうして朝がきた。

 

「おはよう、皆。体調はどうだ?」

「ばっちりです」と賢者オグス。

「すこぶる快調よ」と僧侶アネット。

「ちょっと待ってくれ。風邪引いたかも。後は鼻水が」

「先に部屋で休んだのにか?」

「とにかく、魔王城へ乗り込むぞ」

 

 得体の知れない時間の巻き戻しに苛つく勇者レムは逸る気持ちで大魔王の居城へと急いだ。

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