鯨に戯れて   作:佐伯寿和2

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毒針を隠す少女 その六

無事、マンティコアにロドスオペレーターとしての認可が降りた。

所属部隊や任務の種別などは検討中だが、その間に彼女が少しでも他のオペレーターたちとの関係を築いてくれることを祈るばかりだ。

 

ちなみに、あの演習で得られたものはマンティコアとの信頼関係だけではなかった。

「え?私が、ブレイズさんと…?」

メランサはブレイズに余裕がある時に限り、彼女との特別訓練が組まれることになった。

フェリーン同士、感覚が似ているからなのか。あの演習でブレイズと組んだメランサの動きには何か変革をもたらすような兆しが感じられたとドーベルマンは言っていた。

戸惑いながらも、メランサはその突発的な提案に喜んでいた。さらには、

「それ以外でも暇があったら一緒に遊ぼうね!」

ブレイズも可愛い後輩たちを気に入ったらしい。連絡先を交換し、さっそくお茶会の日取りについて談笑していた。

 

『え…、いいの……?』

ドーベルマンはマンティコアに取り付けた発信器や麻酔諸々の拘束具も、任意の期間中に一度も作動することがなければ解除するという約束を交わした。

「ロドスに奴隷を買う習慣はない。君がそういう目的で内部に潜入したのではないと判断できれば対等な関係であるのは君にとって当然の権利であり、ロドスにとっては絶対の信条だからな。」

『…わかった…、私、がんばる……、』

「ああ、今後、君と訓練に励めることを楽しみにしている。」

マンティコアの十分な「誠実さ」がドーベルマンにも伝わり、二人の間にもロドスの未来に大きく貢献する関係が築けたようだった。

 

 

 

 

 

――――サルゴンのとある地区、荒野

 

「ドクター、どうした?なんかボーッとしてねえか?疲れたならおぶるぜ?…いいや、()()()()()()()()()()?」

「…いいや、大丈夫だ。少し気になる子がいてな。その子について考えてただけだ。」

マンティコアがオペレーターとして加入してから数日、私はノイルホーン含む行動隊A4と数人のオペレーターを連れて新規の契約を結び、今は帰り道についていた。

…ちなみに、私が雪山で女性オペレーターに()()()()()()()()()()()()()()――実際は小脇に抱えた荷物のような扱いだったのだが――、一部オペレーターの間で鉄板のネタになっていた。

そして、悪意のある冗談を無視した私の発言は、新たなゴシップを生み出そうとしているらしかった。

「…おいおい、そりゃ本気で言ってんのか?他の女が黙ってねえぞ?!」

最近カードで負け越しているというノイルホーンは、「貸し」を返せるネタが手に入ったと嬉々として騒ぎ始めた。

しかし、コイツは大事なことを忘れている。

「言いたいことはそれだけか?私がお前の勤務態度の悪さを捏造できることを忘れるなよ。」

「だったら皆、一蓮托生だな。ホラ、お前らもドクターに言いたいことあるだろ?」

今日の仮面(マスク)がよほど気分にマッチしているのか。鬼のオペレーターはめげずに、同僚を巻き込んでまで上司(わたし)に喰ってかかってきた。

 

「ちょっと待った…、」

だがしかし、巻き込まれたノイルのカード仲間たちは一瞬たりとも彼の側につくことなく、自然と口論の焦点は「厄介な先輩」へと移っていった。

「だいたい兄貴はいつもそうだ。何かっていうと都合が悪くなったら俺たちを巻き込んで誤魔化そうとするんだ。」

「確かに、この間のカードでも負けたのは俺たちの配り方が悪いからだって言ってたな。」

「おいおい、そりゃあ三日も前の話だろ?…あぁ、あぁ、俺が悪かったよ!だけど今はドクターの女癖の悪さを直してやろうって話だろ?」

「そりゃあ、ドクターが兄貴の何百倍も魅力的だからだろ?しょうがねえよ。」

「あ、さてはお前ら、ドクターにビビってんだろ!クソ、味方に付ける奴を間違えちまった!」

そうして延々と続くかと思われた誰も幸せにしない不毛な遣り取りは、同行する女性オペレーターの手で一刀両断にされた。

「お前たち、まだ任務は終わってないんだぞ?集中しろ。だいたいノイルホーン、お前はドクターをなんだと思っているんだ。」

やはり、日頃の行いというものはバカにできない。私は一言も返すことなく勝ち星を手に入れようとしていた。

そうして自爆していく憐れな友人を見守っていると―――、

 

「止まってください。」

 

賑やかな遠足の帰り道を、一行の先頭をいくトカゲ族(サヴラ)の一言がいつもの殺伐とした戦場(しょくば)へと一変させた。

そのまま彼はしなやかな動きで物陰へと移動すると双眼鏡を取り出し、リスクの正体を見極め始めた。

「どうした、12F(トゥエルブエフ)。ウォッカの湧き出すオアシスでも見つけたか?」

同僚の忠告もなんのその。今日の「定時」はとっくに迎えたとでも言うようにノイルは軽口を叩き続けた。

一方の12Fは、そんなどうしようもない冗談にも律儀に応える完璧な紳士であり、なおかつ優れた斥候であり続ける社会人の(かがみ)だった。

「ハハッ、そんな珍百景を見つけたのならぜひとも泉に私の名前を付けて頂きたいですね。それはさておき…ドクター、野盗です。物陰が多く、数は特定できませんが少なくとも十人はいるようですね。」

私が隣に並ぶと、12Fは手短に答えた。

「うへぇ、こんな荒野でまでよくやるな。」

「それにしてもお主、目が良くないのに毎度、よく気が付くのう。」

同じサヴラの弓兵が同類の術師の感覚の鋭さに感心していた。統計的に、術師よりも弓兵の方が五感に頼るところが多く、それ故に弓兵の方が感覚的に優れていることが多い。

育ちの違いか?二人の詳細な出生は未登録だが、12Fの立ち居振る舞いを見ていると幼少の頃から「危険」と身近な関係であったような印象を覚える。

「ただ臆病なだけですよ。…サルカズのようですね。近接が9、弓が5、術師が1。見える限りではそれで全員のようです。まだ、こちらには気付いていないようですね。」

彼もそうだが、サヴラは滅多に自分の身の上を大っぴらにしない。取り上げられれば「大したことない」と自嘲気味な謙遜をしてやり過ごす。

私はそんな彼らがロドスを「居心地の良い場所」と感じてくれているのか。時々、不安に思う。

 

「ドクター、どうする?」

契約を交わした町とも近い。それに、奴らは一つの隊商を襲ったばかりらしく、(くつろ)ぐ傍らには野晒しにされたままの遺体がいくつも横たわっている。

あのままでは野生の獣たちが集まり、この一帯の交通、物流が滞る可能性も生まれる。だが、

「…感染者は確認できるか?」

私たちはあくまで外部企業だ。サルゴン国に籍がある訳ではない。大っぴらに「自己主張」をする訳にはいかない。

特にこの一帯での酋長や皇帝(パーディシャー)間での抗争は激化している。ちょっとしたショックが大惨事を招く可能性は十分にあり得る。

一応、余所者にも「防衛権」は適応されるが、ロドスは「利用される立場」になってはならない。

やるのなら「正当な理由」を持ち、短期間で、立つ鳥濁さず。これが最低条件だ。

理想を言えば、その手柄をスマートな形で彼らに譲渡できれば今後も良好な関係を保つ助けになるのだが。

 

「おそらく、全員が感染者かと。」

「そうか…。皆、集まってくれ。臨時作戦を伝える。」

荒野の直中、赤土色の大地をホワイトボードに全員の配置と役割を簡単に書き上げた。

「おい、起きろ。ドゥリン、作戦だぞ。」

「…えぇ?お仕事終わったんじゃないの~?」

ディランに負ぶさる小人を含め、こちらは8人。数で劣ることはいつものことだ。

それに、戦闘(したしょり)でやることは大して変わらない。大事なのは事後処理(しあげ)だ。

 

「では、行ってきます。」

「相手方を急がせる必要はない。あくまで優雅(スマート)に頼むよ。」

「ハハッ、俺の生まれはロンディニウムですよ?ボロなんかでませんから。」

打ち合わせを済ませ、バディとディランを契約を済ませたばかりの取り引き先まで走らせた。

「……」

「ドクター?」

突然、明後日の方をジッと見詰める私を、隊長のヤトウが気遣うように声を掛けてきた。

「ああ、すまない。では諸君、仕事に取り掛かろう。」

…ただの気のせいなのかもしれない。だが、取り敢えず今のところは()()()()()()()()()()()

 

「警告は?」

穏健派の12Fは私に一応の確認を取った。

「必要ない。彼らを庇ったと誤解されるような行動は一切なしだ。徹底的にやってくれ。」

ブリーフィングはすでに終わっている。一部の人間は彼のそれが作戦を理解していないからなのではないかと疑うかもしれない。

だが、誰もしない「暗黙の了解」を指摘するからこそ、私は彼に全幅の信頼を置いているのだ。

そうすることでより、全体に作戦の意図を周知させることができる。実に見事なサポートだ。

 

恵まれた人材に満足していると、浮かれる私を一喝するかのように、終始騒いでいた部隊の特攻隊長が声色を変えて聞き返してきた。

「…ドクター、もしもの時はヤっちまっていいんだろ?」

明らかに普段と様子が違う。今にも先走って事態をややこしくしてしまいそうな空気を漂わせている。

「どうしたノイルホーン重装オペレーター。今の自分が何者かも忘れたか?なんだったら戦闘が終わるまでお前だけここでカードを切っていてもいいんだぞ?」

「……チッ。冗談だよ、ドクター。俺は”ロドス・アイランド”の人間だ。殺しはしねえ。」

「そうだ、それでいい。」

 

…周期的なものだろうか?

ベテランとまでは言わなくとも彼はロドスに就いて十分に長い。そんな彼が今さら()()()()()()()()()のは、そういう「生理的衝動」に襲われているからではないかと考えられた。

…いや、であれば同じ種族のヤトウが平常なのはおかしい。それとも、男女で差があるものなのか?

それに、今まで散々彼のいる作戦に同行してきたが、こんなことは初めてだ。

もしかすると、趣味のマスクがそれを増長しているのかもしれない。

今後はその辺りも考慮して彼に与える任務を選択するべきだろう。

 

ロドスの社員(オペレーター)には、求める人材の特殊性から不都合な情報を秘匿する権利がある。

彼が教えたくないというのなら我々が現場で汲み取るしかない。

それが、()()と彼らの間で揺るがない信頼関係を築くための唯一の手段なのだ。

私は戦場へと出立する彼らを見送りながら、その一つ一つの背中にしがみ付いているであろう「過去」を想い、常に「絶対の勝利」を約束することしかできないのだ。

 

 

 

――――野盗たちは仕事を終え、疲労した体を休めながらも周囲への注意を怠ってはいなかった

 

「…何かいるぞ。」

敵の一人がこちらの気配に気付いた。さすがに自分の縄張りでの身の守り方は心得ているようだ。

こちらにハンデを与えてはくれそうにない。

私は双眼鏡片手に無線機を口元に運んだ。

「敵がこちらに気付いた。プランC、状況開始だ。」

『了解』

開戦の狼煙は地味に、そして確実に上げられた。

さすがと言うべきか、敵も遅れずに対応してきた。

「敵だ、展開しろ!」

数こそ減らせなかったが、弓矢とアーツで先制のダメージは与えられた。

「さすがはサルカズ、上手く躱しおる。」

「臨戦態勢に入るのも早かったですもんね。」

さらに言えば、野盗の割に連携と機動力に優れている。おそらく、()()()()()()に属していた、もしくは()()()()()か…。

下手に素性を調べない方がお互いのためだろう。

「では、ワシはここを離れるが、くれぐれも無茶はするなよ。」

そう言い残すと、(まだら)な黒鱗を(まと)うサヴラは岩陰から飛び出し、持ち前の脚力でポイントを変えながら野盗たちをチクチクと打ち続けた。

 

「うおぉぉりゃあぁぁ!!」

…ノイルは普段通りの、頑強な「盾」としての役割を十分に熟していた。

もしかすると先程の遣り取りは、暴走するかもしれない自分を律するために敢えて私に釘を打たせたのかもしれない。

彼らのことは彼らが一番理解している、ということか。

戻ったら酒の一杯でも奢ってやろう。()()()()()()()()()()に、私は細やかな敬意を捧げた。

 

「気を取られるな、おそらくコイツは囮だ!周りへの警戒を怠るな!ファードル、付与しろ!」

…あの大剣の男が司令塔か。そして「ファードル」、お前が第一ターゲットだ。

「ドゥリン、あの男に集中できるか?」

『まっかせて~。』

小人の術師を前線へ向かわせ、駆け回る弓兵のサヴラに援護の指示を出す。

「ファードル!?チッ、なら俺が!…ボルト!?」

大剣の男は()()()()()が次々と倒れていく状況に取り乱し始めた。そして、お前は()()()()()()()()()。最後の「奥の手」は自分自身。違うか?

「…クソッ、テメエら、散らばるな!…何!?」

「アードが狙われてやがる!?何なんだ、コイツら!?…ウワッ!」

サルカズは自他ともに認める戦闘種族だ。その最たる『力』が彼らの潜在的能力を大幅に底上げする「巫術」だ。

元となる「古代の巫術」は今は失われて等しい。現在――確認される実例こそ少ないが――出回っているものはその劣化版だろうと思われる。

劣化版とはいえ、これを受けたサルカズはどんな人間でも一人ひとりが「戦車」に変身してしまう。とてもじゃないが一対一(タイマン)で処理できるような相手じゃない。

だから私は常に術師(おまえたち)に目を光らせていたんだ。

 

――――数分前のブリーフィング

 

「それはつまり、あの中に偽装している術師がいるということか、ドクター?」

仮面をつけた女性剣士は私の作戦の意図にいち早く気付いた。

「そうだ。遠目ではハッキリと確認できないが、敵に負傷者は一人もいないように見える。隊商にはそれなりの護衛が付いているはずなのに、だ。」

サルカズはそもそも戦闘に長けている。だからといって、サルゴンの護衛が無能な訳がない。

彼らが「無傷」というなら、まず間違いなく例の「巫術」を体得している者が存在する。

そして、彼らが(おご)り高ぶった()()()()()でない限り、「切り札」を使うからには「奥の手」を隠し持つ戦術の定石を心得ているはずだ。

「巫術師」が一人ということはない。

さらに言えば、「サルカズ」という種族の性格を考慮に入れるならば、彼らはこと「戦闘」に関して容赦がなく、こちらに戦局を譲らないように徹底的に立ち回るだろう。

例え、私たちが「切り札」を使って彼らの「切り札」が二枚討ち取られたとしても、彼らはもう一枚を切ればいいだけの話だ。

とはいえ、「巫術」の習得が容易であるならこの世のサルカズ全員が心得ているはずだ。

これまでの「巫術師(かれら)」との遭遇率からみて、あの規模なら3人が限度だろう。

 

「だったら、どうしてその二人が怪しいと思うんだ?」

「確かに。”戦車”を作り出せるほどの切り札なら、剣や盾の後ろに置いておきたいというのが心情だと思うが?」

「そこは厳密には2パターンに分かれる。」

レンジャーが言うように、「切り札」はそうそう簡単に討ち取られるような場所に配置したくないというのは当然の心理だ。

だが、相手の中に敵の考えの裏を掻くような「指揮官」がいるのなら話は別だ。

状況を把握した敵は当然「巫術師」を集中攻撃する。

もしも、残りの「巫術師」が隣接するように配置されていたとしたら、敵はその流れで順々に討ち取ればいい。

だがもしも点々と現れたなら、敵はその度に矛先が翻弄され混乱状態に陥るだろう。

前、中、後ろの一人ずつが「巫術師」という想定をするのが妥当だ。

そして、お前たちの周囲への警戒レベルで私はプランC――後ろ、前、中の順に当たりを付ける作戦――を選んだ。

 

――――現在、戦闘中

 

偶然にもチャードが仕留めたボウガンの男が「巫術師(あたり)」だったのは大きい。

そして、リーダー自らが「巫術師」というのも少し驚かされた。

だが、もう詰みだ。サルカズ。

 

一度、統制を欠いてしまった集団はもはや、一人ひとりを相手にしているのと変わらないほどに脆い。

全員を無力化するのにそう時間は掛からなかった。

 

「さすがはドクター殿、見事な作戦でしたね。」

「私はこれしか能がないからね。」

「ご謙遜を。戦闘にしか興味のない人間がこんなにも見事なプランで、しかも死傷者を出さずに鎮圧できるわけがありません。アナタは間違いなくロドスで、いいえ世界でも有数の指揮官と言えますよ。」

もしかすると、この紳士的なサヴラは今の仕事よりも()()()()()に適正があるんじゃないか?

そう思わされるほどに自然な賛辞だった。

「いい気分なところ悪いんだけどよ、ドクター。」

作戦は成功、さらに負傷者なし。文句の付けどころのない大活躍をしたはずのオペレーターの一人が声色を曇らせて寄ってきた。

「誰だか分からねえが、俺たちを援護した奴がいる。ヤトウやレンジャーのおっさんも確認してる。連中が不自然に倒れる姿を見たんだ。」

「…そうか。」

作戦を開始したと同時に、私の傍から「何かが欠ける」ような空気を感じ取ったから、何かしらしているだろうとは思っていた。

「もしかして、ドクターは何か分かってんのか?」

「見当は付いているという程度だ。」

どうしたものかと悩んでいるところにレンジャーが駆け寄ってきた。

「ノイル、どうやらワシらの見間違いではなかったようだ。正体不明の足跡があったぞい。」

「男か女かわかるか?」

「小さかったな。断定はできんが女だろう。加えて言うなら、()()()()じゃ。とても荒野を歩くような履物ではなかったぞい。」

「…行方は掴めそうか?」

「残念じゃが、それは難しい。戦闘した形跡以外は何も残っておらん。」

それなら取り敢えずサルゴンの兵が()()を捕まえることもないだろう。

 

…だがさて、どうしたものか。拘束具の記録は後でクロージャにでも頼んで改竄(かいざん)するとして、そもそもその拘束具が役目を果たしていないという事実は厄介だな。

何かの拍子に二人に気付かれでもすれば、彼女の雇用を不利にしかねない。

「どうする、ドクター。追うか?」

彼女といくらか言葉を交わして、僅かでも信頼を得られた感触はあった。だが、ここで彼女の「若気の至り」を追い詰めればどういう反応を示すか、あまり想像したくはない。

「がんばる」という言葉にウソはなかったと思う。ただ、我々の常識的な分別が彼女に備わっていなかっただけのことだ。

だがここで、ノイルホーンたちに発見されれば嫌でも報告書に書かなくてはならない。

それは実質、解雇通知になる。

 

「…いや、いい。恥ずかしがり屋を追い回して嫌われたくはないだろう?」

…また、二人で話せる場があればいいのだが。

「ハッ、相変わらずだな。だからドクターはロドスの女連中に好かれるんだよ。」

「…この程度で男の株が上がるのなら、お前もそうすればいいだろう。」

私が不自然な指示を出している以上、下手にノイルを責めることができないことだけが悔やまれる。

「ハハッ!冗談だよ、ドクター。その代り、今日はドクターの奢りで飲みに行こうぜ。なあ、お前ら。」

「え、いいんですか?!」

「いやいや、兄貴、そりゃ恐いものなしにも程がありますって!」

コイツ、私の記憶力が人一倍いいことを未だに(あなど)っているな。…だが、だからこそ付き合いやすいというのもあるか。

それに、そもそもそのつもりでもあったしな。コブ付きというのは想定外だったが。

 

「ノイル、あまりドクターを困らせるんじゃない。」

「ヤトウ、これは男同士の友情ってやつなんだぜ?」

「…そう、なのか、ドクター?」

「なんだったらヤトウも一緒に飲むか?」

私が答えるよりも早く、この機会を逃すまいと同族のノイル(かれ)が前のめりに尋ねた。

「わ、私は酒を飲まない!…それに、男の友情とやらに私を混ぜるということは、お前は私をそういう目で見ているということか?」

ヤトウも――彼女は純粋に「陽の光」が苦手な体質なのだが――ノイルと同じく仮面を付けている。

仮面に隠れているが、彼女が今、本当に怒っているというのはピンと張った声色が十二分に物語っていた。

「兄貴、そういうところですよ。」

「うるせえな。これが俺の持ち味とも言えるだろ?それにな、ヤトウ。男の友情どうのってのは冗談にしても、たまには腹を割って話せる場があってもいいと思わねえか?」

「…そうだな。ドクターがそう言うのであれば、考えておこう。」

「いや、言ってるのは俺だろ!?」

「ハッハッハッハ。諦めい、ノイル。お前さんがドクターに敵う訳がなかろう。」

「そうですね。ドクターへの敬愛は老若男女を選びませんからね。」

戦闘が終わった直後だからか。全員がそういう空気を求め、思い思いの言葉を(たずさ)えて(つど)ってきた。

「過大評価、甚だしいな。私を嫌う者は確かにいるよ。ロドスでそれらに会わないというのはただ、皆が寛容というだけさ。」

現に、最も身近なフェリーンは私を見つければ常に眉間に皺を寄せるのだから。

「…ねえねえ、もうアタシ、眠ってていい?」

常に睡眠不足の小人族(ドゥリン)だけがマイペースに、我々を残して安住の地へと旅立っていった。

 

 

ロドスは、おおよそこういう少しネジの外れた連中の溜まり場だ。

被害に遭った隊商への黙祷を捧げたばかりだというのに身を寄せ笑い合い、今の時代を生き延びている。

私はそんな姿を限られた記憶に焼き付ける度に「ドクター」でいられる幸せを噛み締める。

お前はそんな私を見て「甘い」と言うだろう。

その通りだ。

本物の戦場は似て非なるものだ。簡単に人を殺す。私は「ソレ」を誰にするか選択しなければならない。

より多くの命を未来に繋ぐために、「作業」をしなければならない。

それでも、例え私が「戦争人間」に身をやつしたとしても、「私たち」は乗り越えなくてはならない。この時代を生き残らなければならない。

「今」という時から逃れられない命を、天から授かったからには。

私たちが”不治の病”を治すしかないんだ。

分かっているさ。

…だから、今はくらいは甘えていたい。

こんな世界を創った神だって、私にこれ以上の罰を与えたりはしないはずさ。

そうだろ?

 

 

――――数時間後、バティたちに頼んだサルゴンの()()が野盗たちを連れ帰ってくれた。

 

「まさかアイツらも目が覚めたら病院だったなんて思いもしないだろうな。」

取引先(かれら)も、今回、提供した新薬の実験台まで用意してもらえるとは思っておらんかったじゃろう。」

「ハハッ、まさにハッピーセットだな。皆お得で万々歳だ。」

この惨状を見た彼らが私たちを問い詰めることはなかった。そして、野盗たちの素性を私に尋ねることもなかった。

もともと指名手配されていた連中なのか。それとも、身内だったのか。何にせよ、次回の取り引きには十分注意を払うように伝えておいた方が良さそうだな。

「全員、船に戻るまでが遠足だ。これ以上遅れが出てアーミヤから小言を言われるのは私なんだからな。」

すると、鬼の重装オペレーターは性懲(しょうこ)りもなく北叟(ほくそ)笑み、私に囁いた。

「知ってるか、ドクター?そんなアンタらの様子を見てて和むオペレーターも結構いるんだぜ?」

…ロドスは、奥が深い。……もとい、闇が深い。




※ノイルホーンの舎弟
実際には舎弟ではありません。後輩ではあるようですが、彼の「回想秘録(サイドストーリー)」で見る限りかなりフレンドリーな関係なようです。
ちなみに、チャードはチェルノボーグ、龍門での苛烈な戦闘(多分、メインストーリーのこと)によりちょっとしたトラウマを抱えているようですが、この話はそれよりも前の話ということでお願いします。
この中に「ロンディニウム生まれ」がいるかは分かりません。適当に書きました。
(私のイメージでは「ロンディニウム」は「ロンドン」もしくは「パリ」的なイメージです。)
さらにちなみに彼らの職業はそれぞれ、ディラン(前衛)、チャード(狙撃)、バティ(補助)です。

※12Fの視力
どこかの場面で目が悪いというようなことを言っていた気がするんです。覚えてませんがwww

※ノイルホーンが暴走の兆候をみせるシーン
……なんか、原作をさしおいて設定をもうけようとしている節が見られますね(笑)
まあ、それだけ原作の設定とキャラクターたちに魅力を感じている証拠だということで許してくださいm(__)m

※(レンジャーさん)野盗たちをチクチクと打ち続けた。
なんだか書いてて妙にゲーム画面が連想できるのが私的にオモシロかったです(笑)

※「切り札は先に見せるな」「見せるな更に奥の手を持て、か」
果たして知っている人は何人いるでしょうか。
漫画家、冨樫義博先生の作品、幽遊○書の登場人物、蔵馬と黄泉が魔界で交わした言葉です。この漫画は私の青春時代のバイブルでしたねえ(どうでもいいww)
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