「それでサルゴンまでドクターに付いて行っちゃったわけ?」
「…う、うん……、」
マンティコアの告白に、ショートカットの金髪にフェリーンの耳を持つ少女は頬杖をつき、ことさら気怠げな表情で見詰めてみせた。
「だ、だめ…、だった……?」
「ダメってか…、ダメでしょ。」
仲良くなったばかりの友人のために何か気の利いた言葉が見つからないかよくよく考えみたものの、そうして浮かんできた言葉はさらに酷かった。
結局はそのままが一番ソフトなんだと断念した少女の頬が、意思表示するように柔らかくなって杖に沈み、椅子からハミ出した
「ってか、なんで追いっかけちゃった訳?」
返ってくる答えに若干の不安を覚えるものの、彼女には彼女なりのマンティコアへの想いがあり、それを考えると一応聞いておくべきなのだろう、というのが彼女の本音だった。
すると、待っていましたと言わんばかりに彼女の不安を煽り放題の無邪気な答えが返ってきた。
「ドクターの、役に立ちたい、から……、」
「…あーー、だよね?そうなるよね?」
まあ、マナの場合それ以外の答えは逆に想像できないっていうか…。
別にアタシは恋バナに花咲くようなキャラでもないし、それが「恋敵」になるなら尚更じゃない?
マナのことは大事にしたいし、一緒に楽しいこともしたいと思ってるけど…、いきなりこれはハードだわ……。
「…ウタゲ?」
「あ、いや、何でもない。ただ、なんて答えたらいいか考えてただけ。」
なんか疑わしい目で見てるし…。ホント、なんて言って切り抜けようか―――、
「……
え?!いやいやいや、マナっ?!だからなんでそんなにハードパンチャーなワケ?!待ったナシ?!
「カッコいいって、思う?」
「……」
絶妙にからかってくるじゃんよ。
…まあ、そういう天然なところがマナのポイント高い所なんだけどね。
「…まあ、ドクターは気遣いと仕事の鬼だから?端から見てる分にはカッコよく見える、かもね?」
う~ん、ゴマカし方が微妙に気持ち悪いなー。…でも、
「そう。ドクターね、誰も、見捨てないの……、」
「……」
マナの耳にはアタシの濁した気持ちなんかコレっぽっちも届いてなかった。話し方も少し熱っぽいし…。マナ、周りが見えなくるくらいあの人のこと、好きになっちゃったんだ。
「ドクターね、みんな助けるの…、すごく、カッコいい……、」
「……」
アタシだってあの人のことはイイと思ってる。だけど、アタシとマナじゃ、あの人に向ける目の色が違う。
そこに付け込む訳じゃないけれど…。
アタシにはあの人と同じくらい、マナが……。
ロドスに所属する一癖も二癖もある少女たちは、素顔も知れない上司に少女らしい初心な恋心を抱いていた。
そして、その「恋」もまた十人十色。
一人は、どの種にも属さない特異な体への
一人は、その存在に気付かれればいつだって居場所を奪われてきた。そうしてありもしない罪に怯えるようになり、満足に言葉にすることもできなくなった「臆病な
各々が
視野の広い者ならそれは「恋愛」に付きものだと捉え、あとは自分と相手の相性次第だとドッシリと構えるかもしれない。
それが情熱的な者だったなら、ハッキリさせず、狙われやすい「
しかし、彼は誰の懐にも飛び込まない。誰も選ばない。
なぜなら彼の人生において「恋物語」などという小さな幸せは、眼中にないから。より大きな使命によって掻き消されてしまっているから。
彼の視野に自分の幸せは映っていない。自分以外の幸せを模索し続け、今日も執務室でカフェインと即席麺と医療オペレーターの叱責を並べ、この世界の課題に奮闘している。
――――さて、多くの仲間に愛されながらその愛を昇華させようとしない罰当たりな男の話はさて置き、この世に殆ど「仲間」の残っていない彼女たちが出会ったのは、マンティコアのオペレーター適正演習が行われた翌日のことだった。
「ああ、ウタゲか。どうした?」
「……」
少女が野暮用で執務室を訪ねると、申し訳程度の白衣の上に真っ黒なフード付きコートを羽織り、真っ黒なシールドで素顔の隠れる
…けれどもウタゲは
「あ~、もしかしてドクター、例の新人ちゃんと話してたりするの?」
「よく分かったな。」
ヨカッター、知ってて。そうじゃなかったら今すぐに医務室に駆けこんで「ドクターを殺したくなかったら今すぐドクターに
「今も、そこにいるぞ。」
『…え……?』
そう言ってドクターと呼ばれる上司が指さしたのは部屋の隅に置かれた観葉植物だった。
「うわ、ドクター、めっちゃ避けられてるじゃん。」
「いや、それはお前が来たからだ。それまでは今
「…ふ~ん。」
なんか、釈然としない気分になった。
…でも、こんな形でも彼女に会えたこと自体はラッキーなのかもしれない。
「こんにちは~、」
……あれ、返事がない。
もしかしてアタシ、もう嫌われちゃった?
「ウタゲ、彼女の声が聞こえないならこれを付けろ。」
そう言ってドクターが差し出したのは小型の
「…でもドクターは、それなしで喋れるんでしょ?」
「いいや、私もそれができたらと思うんだけどね。なかなか難しいものらしい。」
ってことは直前までコレ、ドクターが使ってたんだ……。
「…ふ~ん、あー、もしもしー、聞こえる~?」
『…こ、こんにちは……』
コレ、思ったよりくすぐったいなぁ。それに、やっぱり
「話の腰を折って悪いけど、ウタゲ、私に何か用があったんじゃないのか?」
「ああ、いや、休暇申請を出しにきただけなんだけど……。」
ドクターのデスクの脇にはいつもの通り、目を背けたくなるような書類の山が龍門のビル群みたくひしめいてる。
…もしかしてこの子、ドクターの手伝いに来たのかな?
フェリーン耳の少女は迷った。
今、この場で自分の我がままを口にするかどうか。
別にアタシは、今すぐにドクターとどうなりたいとか考えてないし。今すぐ彼女に言いたいことがある訳でもないし……。
……ううん、多分、それもウソだ。
「ねえ、ドクター。この子、しばらく借りてもいい?」
『…え……?』
アタシが観葉植物さんを指して言うと、ドクターは少しだけ真剣にアタシたちを見比べた。
「…私よりも彼女に直接聞いてくれ。君が彼女にパワハラを働かないと言うなら私に止める理由はないよ。」
「何それ、アタシってドクターにはそんなキャラに見えてるの?」
言いながら部屋の隅に向かってチョロチョロと手を伸ばしてみた。
「もう少し右だ。マンティコア、彼女の手を握ってやってくれないか?」
「…お、これ?!」
いまいち触れてる実感はないけれど…、指はそんなに長くない。太くもないけれど、少しゴツゴツしてる。
「マジでいるんだ。てっきりドクターのイマジナリーフレンドかと思ったよ。」
「それが本当だったら毎日、執務室は賑やかで仕方がないだろうな。そして誰も寄りつかなくなるだろうさ。」
「ご、ゴメンって。ジョークだから、怒んないでよ。」
割と本気でイジけてる。ドクターって、そんなカワイイポイントもあったんだ。
『…こにち、こん、にちは……』
「あ、ゴメンゴメン!こんにちは~。それで、マンティコアちゃん?少しアタシとお茶しない?」
『……』
……あれ?やっぱりアタシ嫌われてる?
「大丈夫だ、彼女は優しい人だよ。」
「え、何それ?もしかしてアタシ、恐がられてんの?」
「気にするな。少し人見知りなだけさ。君が本当に私利私欲で彼女に近寄っているんじゃなければ自然と心を許してくれるよ。」
「うわ、ドクターそれ、アタシの印象悪くしてるの分かって言ってるよね?」
「ハハ、マイナスからスタートした方がウタゲの個性的な魅力に気付きやすいだろうと思ってね。それを知ってる私なりのお節介さ。」
「…ちょっとさ、ドクターはたまに意味わかんないこと言うよね。」
そういう所が、ちょっと迷惑だってのに……。
――――ロドス艦内、カフェテリア
ドクターの勧めで簡易モニターとカメラも借りてきた。
これでバッチリ顔も見えるし、会話も弾むはず……とはならなかった。
マンティコアは思ったよりも本気でアタシに怯えてた。まるで、そうしていないといけないみたいに……。
「あのさ、名前、なんて呼べばいいかな。」
『え…、マ、マンティ、コア……、』
「あ~、違う違う。コードネームじゃなくて、友だちとしてなんて呼べばいいかってこと。」
『…と…、友、だち……?』
「そ。アタシね、アナタと友だちになりたいんだー。」
彼女の事情は軽くしか知らないけど、それでも本名があるのかどうか怪しいし。そもそも今のアタシたちの関係で、そんな深い所に土足で入る訳にもいかないから。
むしろ、アタシは
「う~ん、そうだなー。マナ、もしくはマナティなんてどうかな?カワイイと思うんだけど。」
思いつきにしては「マナティ」がアタシの胸に結構深く刺さった。
…でも、かなり警戒されてるみたいだし、あんまりアタシの趣味を丸出しにしない方がいいのかな。定着したらカワイソウかもだし。
『……』
「アタシのこと、苦手?」
モニター越しの彼女が余所々々しげに頷いた。
――――私は、それが許せなかった。
…と、言い方が悪いか。訂正、アタシはそれがすごく悲しかった。悲しかったし、受け入れたくなかった。
「そっか~、でもアタシはさ、アナタとは仲良くできる気がするんだよね~。」
『…ど、どう、して……?』
彼女にだって選ぶ権利くらいある。そんなこと分かってる。
でも、アタシはアナタのことが知りたい。
…だって、悲しくない?こんな広い世界で、アタシたちが同じ船に乗ってるのって相当奇跡的なことでしょ?それなのに、友だちになれないなんて……。
アタシはイヤなの、そんなの。だから……、
「ん~、なんて言うかな…。フィーリングってやつ?そんなの感じたりしない?」
仲良くなろうよッ!
『…わか、らない…。でも…、なぜか、ウタゲの匂い、少し、懐かしい感じ、する……。』
でしょ?でしょ?!わかってんじゃん!ってか、しれっと名前呼んでんじゃん!
なによ、知らない間にデレてんじゃん!……っと、落ち着け…、落ち着け……、
「嫌じゃない?」
『…うん……、』
「マナって呼んでもいいかな?」
『…うん……、』
やった、ヤッタ!!なんだ、アタシってばやれば結構できる子じゃん!
俯く顔にはまだ余所々々しさは残ってるけど、それでも一歩近づいたことに変わりはないよね!
柄にもなく有頂天になってたら知らない間に、しゃなりしゃなり、お上品な
「…ウタゲ、大丈夫?疲れてるの?」
「い、いや、ラナ姉、違うよ?イマジナリーじゃないよ、リアルフレンドだから!」
「い、いまじなりー?よく分からないけれど、要するに独り言じゃないのよね?」
アタシは慌てず落ち着いて、マナが周囲に気付かれにくい体質であることと、先日、ロドス艦内に響き渡った警報器の原因であるお騒がせな女の子であることを織り交ぜて紹介した。
ラナ姉は理解力のある人だし、普段からあまり動じない性格もあって、すんなりとマナのことを受け入れてくれた。
「へぇ、ここに人がいるのね。全然分からないわ。」
『…こ、こん、にちは……、』
「はい、こんにちは。それにしても珍しいわね、ウタゲがあんなに積極的に話し掛けるなんて。」
「へ?」
ラナ姉のやんわりとした言葉は時折、狙い違わず的の中心をズバッと射抜いてくる。それも細っこい弓矢なんかじゃなく、ゴリゴリのコンバットナイフで。
「そ、そう?アタシっていつもこんな感じじゃない?」
「…そうね、私の勘違いだったみたい。ごめんなさい。」
それに彼女はアロマセラピーのプロだから、「表面」の部分よりもむしろ「隠してる」方が見えやすいのかもしれない。
だから気付きこそすれ、ズカズカと立ち入ってくることもない。
「まあ、なんていうかさ、マナと気が合う気がしたのは本当だけどね。」
「へえ、マナっていうのは本名なの?」
『…う、ううん、ウタゲが、付けて、くれた…、ニック、ネーム……、』
「あら♪」
…なぜだろう。いつもなら他の子とは違う、シックな感じのオシャレを語り合う良い友だちのはずなのに。
今はとてつもなく、ウザい。
例えるなら、久しぶりに会った親戚のばあちゃんみたいな……。
マナに気付かれない程度に彼女を睨むと彼女はすぐにアタシの
「ふふ、ごめんなさい。なんだかウタゲがいつもと様子が違うから、ちょっと揶揄ってみただけよ。だからそんなに恐い顔しないで。」
「まあ、いいけど。」
『…ウタゲ、この人は……?』
「ああ、ごめん。紹介してなかったね。」
アタシはマナにラナ姉の紹介と、付き合う上での「注意点」を説明した。
ラナは本名だということ。コードネームは「パフューマ―」で、ロドスでの彼女の役割は精神面での医療をサポートすること。
そんな彼女の最大の特徴は、とにかく鼻が利くということ。
数日間洗わなかったオペレーターたちの靴下の臭いすら嗅ぎ分けた時は皆が妙に感動して、拍手喝采が巻き起こった。それと同時にラナ姉の不興も買ってしまい、アタシたちは洗わなかった日数と同じだけラナ姉の辛辣な言葉の餌食になったこともあった。
「料理が得意だからって大量のゴキブリやゴカイを調理させられてるようなものよ?どれだけあの汚物をアナタたちの口に突っ込んであげようと思ったことか…。むしろあの程度で済んだことに感謝して欲しいくらいだわ。」
こんな感じで、ラナ姉は静かに怒るタイプの人だった。
アタシたちはぎこちないながらも談笑し、マナにロドスでの普段の過ごし方を簡単にレクチャーした。
「それじゃあ、アタシはまだすることがあるから温室に戻るわね。」
『…お、温室……?』
「そう、ドクターに造ってもらった艦内の庭園よ。いろんな種類の花を育てているし、必要な人には植木鉢で提供することもあるわ。興味あるかしら?」
『…花、好き……、』
「あら、そうなの?多分、私かポデンコっていう女の子がいると思うから時間があれば訪ねてきてちょうだい。…ああ、ポデンコは気の小さい子だからあまり驚かさないであげてね。」
『…わかった……、』
不思議な感覚だった。
出会ったばかりの人と、
…なんだろう、これ……、
『…お、おはよう……、』
翌朝、ウタゲは渡したいものがあるからとマンティコアを呼び出した。
「あー、おはよう、マナ~。」
『……』
不思議な気持ちだった。
声を掛ける前、ウタゲは他の人と楽しそうに話していて、私は近付くのを
…
嫌なら、帰ればいいのに……、
…私は、ウタゲに、会いたかったの……?
『…なに、してるの……?』
ウタゲは、唐突に用途のわからない棒状のものを数本取り出したかと思えば、私の手を取り、それで――画面越しに――爪を擦り始めた。
「ん?ファイルかけてるんだよー。マナ、手入れしてないでしょ?うわ、ここ割れてんじゃん。ダメだよー、女の子なんだからオシャレには気を配らなきゃ。」
『…よく、わからない……、』
「ま、アタシに任せときなって。」
薄いシートに高価そうな複数のジェル。手慣れた様子で荒野の少女の爪の割れや凹凸がみるみる間に補修されていく。
「じゃあ、仕上げいくね~。」
彼女は持参したスカイブルーのマニキュアで黙々と、丁寧に塗り上げていく。
『……』
「…ん~?どうした~?…ああ、なんかリクエストがあれば言ってね~。部屋に戻れば他にもいろいろ色があるから。」
彼女の言う「オシャレ」はよくわからない。だけど、今のウタゲの顔は今までになく真剣で、どこか……、
『……』
「…オシャレは嫌い?」
『…わからない…、でも、これ…、いい色……、』
「でしょー。マナのこと見た瞬間、ビビッときたんだー。きっと似合うってねー。」
『……』
「ぃよし、できた!どうよ、似合ってるんじゃない?」
ウタゲは少し引いてモデルの全身を眺めると、フェリーン耳をピクピクと陽気に動かしながら満足そうに笑った。
「うんうんイイじゃん、イイじゃん。思った通り、マナは澄んだ青が似合うと思ってたんだ~♪」
…わからない。何がそんなに楽しいの……?
体と頭の疲れを癒す食べ物も、砂嵐を避ける家もある。それだけで十分じゃないの?
…でも……、
自分の指先を眺めてみた。生まれて初めて、まじまじと……。
見れば見るほど不思議な感じになった。
そこには今、今までに数えるほどしか見たことのない見惚れるような青空があった。
……信じられない。それはオアシスも羨むような青で。砂嵐もビックリして逃げていくような綺麗な青なの。
「えーっと、あんま気に入らなかった?まあ、他にもいろいろデザイン変えたりデコったりするのも楽しいよ?」
『…う、ううん……、私、これ、好き……、』
本当に、不思議な気持ちが渾々と湧き上がってくるの。
自分が沢山の人を殺した「
――――使い方の分からない言葉があった。
ただ、なんとなく、何度か仕事仲間に使ったことがあった。だけど、彼らにはなんの反応もなく、意味なんてないんだと思っていた。
だけど今は、自然と、「ここなんじゃないか」と思えた。
『…ウ、ウタゲ……、』
「ん?」
彼女は本当に
それが、怖がる私を勇気づけてくれているような気がした。だから……、
『…あ、あり…、ありが…、とう……、』
「……へへ、いいよー。」
不意に、喉の渇き一つ潤せないような小さなオアシスに、荒野を呑み込むような大きな波紋が立った気がした。
彼女の笑顔が、私の中の不思議な気持ちが、私の
この「言葉」はそのためにあったのかもしれない。
だけど、いつでもいい訳じゃない。ウタゲのような、あんな顔で笑ってくれる誰かと同じ気持ちになるために口にする言葉なのかもしれない。
だから……、
『…ありがとう……、』
初めての気持ちにのぼせた少女はもう一度だけ、おそるおそる呟いた。
それからは自分からウタゲに会いにいくことが多くなった。
温室にも行った。メランサの部屋や、私の入職を手伝ってくれたアンセルにも花を贈った。
他にも、私のことを知ってくれた人のところにはなるべく、忘れられないように通うことにした。
それが大事なんだって、ウタゲに教わった気がしたから。
…本当に、ウタゲには大切なことを教えてもらった。私がいた場所では必要のなかったことを。
それが私の不思議な気持ちをどんどん現実にさせてくれるんだってことを。
それなのに……、
私は「あんなこと」をしてしまった。
「ドクターやアーミヤに許可を取らずに作戦に参加したんだよね?」
「…うん……、」
ウタゲは、いけないことをしたのに何もわかっていない私を叱った。……わからなかった。だって、ドクターを助けられたら、それは良いことじゃないの?
「ドクターから何か言われた?」
「…ううん……、」
「そっか。じゃあ、まず謝ってきた方がいいね。」
「……」
ウタゲは私にもわかるように大事なことだけを口にした。
だけど、私にはわからない。ロドスは人を助けるところじゃないの?できるだけ人を殺さないようにするところじゃないの?
それをしてるのがドクターなんでしょ?だったら私がドクターの役に立てば、それはロドスにとって良いことでしょ?
……でも、本当は、なんとなくわかってた。
「…マナ、いい機会だから覚えておきな。”殺し屋”を止めたからって、アンタのやることなすこと全部がキレイになってる訳じゃないんだよ。約束を破れば信頼を失くすし、ウソを吐けば誰もアンタを頼らなくなる。そして、その”約束の中身”や”ウソ”を決めるのは周りの皆なんだ。もしもマナがロドスの皆と一緒に生きたいなら、これからはそういう努力も必要になってくるんだよ。」
「…わからない…、けど、行ってくる……、」
私は、「悪いこと」をしたんだ。
「……」
どうしてだか、ウタゲの顔が泣いているように見えた。
「……ウタゲ…、」
「ん?」
「…ありがとう。」
「え?」
「私も、いつか、ウタゲに、そう言ってもらえるように、頑張る。だから、傍にいて、欲しい…の……。」
「…うん、いいよ。」
あの時よりも控えめだけど、私でもウタゲを笑顔にさせられた。不思議な言葉だった。
「いってらっしゃい、マナ……、」
私はロドスに入って大切な人ができた。
とても、大切な人。
それは、ロドスに入る前に偶然出会ったこの三人の
一生懸命、私を見つけてくれる不思議な人たち。
「ありがとう」
何度も言いたい。何度も、笑ってみたい。
大切な人たちと一緒に――――、
※「ドクターね、みんな助けるの…、すごく、カッコいい……、」
強襲クリアボイスをイメージして書きました。アレで私は撃ち抜かれました(笑)
※ドクターの鉄兜(マスク)
ピ○シブ百科事典さんによれば、ドクターのあれは金属製なんだそうです。
※龍門(ろんめん)
私たちの世界でいう「北京」のような都市です。今回はその中でも栄えてる中心部のことを指しています。
※数日間洗わなかった靴下の臭いを嗅ぎ分ける
むしろ、臭い方がそれぞれの臭いの特徴が出て分かりやすい…のかも?(笑)
※ファイル
爪ヤスリのことを英語で「ネイルファイル」というそうです。
※ドックタグ
兵士が戦死した際、身分を証明するための(首から下げるタイプの)認識票のことです。
「アークナイツ」原作のマンティコアのボイスで「人が存在していた証、集めるの好き」と言っていますが、私解釈では、
自分で殺して集めるのではなく、埋葬されず戦場に放棄された死体。仲間に捨てられた死体。誰にも顧みられない存在に同情したんじゃないかなと思っています。
朽ちるまで荒野に置き去りにされるくらいなら、せめてその「存在の証」だけでも私と一緒に行こう。
みたいな感じじゃないかと。
※マンティコアとウタゲ
実際に、原作のマンティコアの「回想秘録(サブストーリー)」で、安静にしていたマンティコアの宿舎前までウタゲがやって来るというシーンがあります。
どうして「ウタゲ」なんだろう?と思った時、「あっ!」と思いましたね。
「マンティコア」はペルシャ発祥の怪物、マンティコアをモチーフに。
「ウタゲ」は日本の妖怪、
(一般的に認知されている)マンティコアは人頭にライオンの胴体、サソリの尻尾。
鵺は猿の頭に狸の胴体、虎の四肢、そして蛇の尻尾。
「……シナジー!」(実際にそう叫びました(笑))
ということで少しやり過ぎた感もありますが、二人だけの回をもうけてみた次第です、ハイ。
※全くの余談
今回の限定ガチャで貯めてた20回分の資源全部溶けましたね。課金もしましたよ。「ああ、天井か…」と思いきや、280連で出るという(笑)
「そこまで行くなら300まで逝けよ!」と心の中でツッコみました。(口にしてしまうと次回が恐いので思い止まりましたけどねwww)