社長が手伝いに来ます。
数万人が考えた話ですが、まあ…課題曲ということで…
「本当に、本当にすみません、行ってきます」
「謝ることはない。ゆっくりしてくるといい」
ノルンが里の家族と旅行に出ることになり、俺は快く送り出すことにした。正直なところ、快く見えているかはわからない。
結婚してから、ノルンが長く家を留守にするのは初めてだからだ。寂しくないと言えば噓になる。
だが、ノルンには、できるだけ悔いのない人生を送ってほしい。親族と会えるなら、会っておいたほうがいい。
「…じゃあ、行ってきますね」
小さな両の手で俺の手を握る。少しうつむいた顔には、駄々をこねる少女のような表情が見える。
抱きしめようかと思ったが…やめた。
「あのー、一か月もせずに帰ってくるんで…ラブシーンやめて貰っていいですか?」
ルーデウスだ。明日、シャリーアを立つということで、今日ノルンを迎えに来た。
「兄さん…今いいとこなんですけど!」
「目の前でイチャイチャされる身になれよ」
「それ兄さんが言います?」
二人はとても仲がいい。いつも賑やかだ。
「まーまー!」
二人の声に合わせて、ルーデウスの足にくっついていたルイシェリアが、大きな声を上げた。
「ルイシェリア、お母さん行ってくるね、ごめんね」
「大丈夫だ。謝ることはない、行ってこい」
ノルンが抱き上げたルイシェリアを、横から抱き取る。
二人が何か言いあいながら出発するのを、ルイシェリアは不思議そうな顔で見ていた。
夕方まで一緒にその辺りを散歩した後、半分眠ったルイシェリアを抱いて帰り、寝ている間に夕食を用意した。
ノルンがよく作る、米と刻んだ肉と野菜を煮たものだ。これなら食べられるだろう。
「まーまー?まーまー?」
目を覚ましたルイシェリアは、ノルンがいないのを不審に思っているようだった。
抱き上げてあやしていると…家の外から、誰かが近づいてくるのが分かった。
抑えても抑えきれない、あふれ出ている禍々しい雰囲気…オルステッドだ。呪いを抑える魔道具をつけているが、背筋に走るものはある。
「ルイジェルド・スペルディア…俺だ、邪魔をするぞ」
雰囲気に反して律義に入口で声を掛けられる。
「構わん、入ってくれ」
奴が家にくるなど、珍しいことだ。
何か大きな荷物を背負って、禍々しさと共に入ってきた。
「ルーデウスに、一人でルイシェリアの世話をしている、お前のことを見てやってくれと頼まれたのだ」
ルーデウスが?
…信頼されていないということか…魔大陸でも子供を拾って親元に届けるまでは世話をしていたのだが…
「奴がお前を信頼していないということではない、お前も仕事があるだろうと、手が多いほうが良いだろうという判断だ」
…そうか…それならば良かった…
「ルイシェリアが喜びそうなものを持ってきた。室内でも遊べる玩具と、菓子と…」
「今から食事だ。菓子の話はするな」
魔道具の下のオルステッドの顔が、恐ろしく歪んだのが分かった。
ーーオルステッド視点ーー
ルイジェルド・スペルディアは寡黙な男だ。
ルイシェリアに食事をとらせる間、会話はなかった。
これは奴が寡黙な男だからであり、俺が歓迎されていないわけではない。
「…俺も今から食事にするが、お前も一緒にとるか?」
「ああ…そうだな…」
俺の返答に奴が驚いたように見えたが、呪いのせいであろう。
「大丈夫だ、つけたまま食事ができるよう、装備は改良されている」
「…そうか…」
大丈夫だ。
「泊まっていくつもりか?歓迎しないわけではないが、女手がないから手は届かんぞ」
歓迎されていないわけではない。
「俺は世話になりにきたわけではない。ノルン・スペルディアが戻ってくる頃までは、いるつもりだ」
「…お前は忙しい身であろうに、そんな時間があるのか?」
これも奴が言葉にうまくないせいの発言であり、俺に早く帰れという意図があるわけではない。
「大丈夫だ…急ぎの用事はない。それに…」
ルイシェリアが幸せでいるところが、見たい。
つらく苦しい生を送っていたルイシェリアが、今回のループで、初めて家族の笑顔に囲まれて育っている。
しかし、それを伝えて、俺のループを悟られることはあってはならない。
「…お前の子供は可愛いからな」
ルイジェルド・スペルディアの警戒心が上がった気がするが、それも奴が意図したところではないだろう。
ルーデウスがよく泊っているという部屋を借りることになった。
奴が作った食事は、ルイシェリア用と同じ味付けなのか、ほぼ味はなかった。
明日は俺が作ったほうが良いのかもしれん。
俺が持ってきた積み木で遊んだあと、ルイシェリアは目をこすり始め、ルイジェルドに抱かれて寝てしまった。
手持無沙汰であったので、持ってきた荷物から紙を出し、寝ているルイシェリアを描いた。
このような幼少期のルイシェリアを、間近でゆっくり見られるのも初めてだ。
記録しておくのも良いだろう。
「…上手いものだな」
横から俺の描いたものを覗いたルイジェルドが呟いた。
今回はルイジェルド・スペルディアが人に心を開いていたので失念していたが、そうだ、奴と親密になるには、こちらに向こうから興味を持たせるのが重要であった。
こちらから距離を詰めようとすると、逆に距離が開く。
野生動物の餌付けを想定するとやりやすい。
「…お前も描こうか?」
「不要だ」
距離の詰め方が早かったようだ。
ーーーーー
翌日の早朝…スペルド族の村に設置された転移魔法陣が、新たな光で輝いた。
「本当に父さんも来るんですか?」
「世話になっているルイジェルド殿のお手伝いができるんだぞ!?そりゃあ行くに決まってるだろう!」
「父さんは世話になっていないでしょう。僕は頼まれて行くんですから、迷惑かけないようにしてくださいね」
「私はお前のオムツもかえたことがあるんだぞ!?必ず役立って見せる!」
…娘と二人で静かに過ごしたいという、ルイジェルド・スペルディアの願いはかなわない。
ああっ、ルイジェルドさんがかわいそう!