いつもと比べてかなり騒がしい裸喰娘娘の店内。
右手に皆それぞれの酒、ジュース、茶などの入ったジョッキ、コップを待ちながら、開始宣言を待つ。
これは明日に行われるランドールでのライブ、その晴れ舞台でデビューするフレイアとハヤテの少し遅れた歓迎会。
「オホン!」と軽く咳払いをし、話し始めたアーネスト艦長の長話をオペレーターのニナさん、ワルキューレのマキナ・中島さんが中断させ、乾杯の宣言が行われた。
皆がグラスやジョッキを掲げ、歓喜の声を上げる。
もちろん、俺もリンゴジュースの入ったコップを掲げ、歓迎会を祝う。
......とは言え、誰かに話しかけに行くとか、それぞれが集まって仲睦まじく話している間に突っ込んでいくとか、そういうのはできない。
正直アル・シャハルでハヤテとフレイアに話しかけれたのなんかVFから飛び降りて興奮していた事からできた事だし。
俺の本質は人に話しかけるのが少し怖いタイプ、いつもは強がっているだけだ。
「......」
「......」
だからこうして、メッサーさんの隣に座ってジュースを飲んでいる。
実はメッサーさん、割とデカい。
前に聞いたら191センチあるらしく、166の俺と比べたら親と子ぐらいの差だ。
それだけ差があるからこそ、なんかでっかいフクロウの隣にいるみたいで安心する。
「よっ、楽しんでるか?」
「アラド隊長。」
そんな時を過ごしていると、酒の匂いを体に纏った隊長が現れた。
グラスに入った酒の量は多い様に見えないが、おそらく度数が高いのだろう。
アルコール臭がりんごの香りを吹き飛ばす。
「そういやレインもウィンダミアから来たんだったか?
王国も大騒動か、一日中に2人も脱走するなんて。」
「まあ......生まれは違いますけど、確かに大変かも知れませんねー。
━━そう言えば、『青騎士』って知ってますか隊長?」
「ああ、独立戦争で『ダーウェントの白騎士』と同等の活躍をしたエース。
俺やメッサーも何回かやり合ったが、それが?」
「父です。」
「は?」
知ってるならちょうど良かった。
こうしてあの人と同じパイロットという職についた以上、彼の活躍というか凄さを知りたい。
あの人、気を遣っているのか自分の話をしようとしなかったから。
「あんまりパイロットであるあの人のことを知らないので、知ってるなら教えて欲しいと思って。」
「あー......」
一旦グラスを置き、困った顔で笑いながら隊長が腕を組む。
やはり父がウィンダミアの軍人だというのは不味かったか?
でも遅かれ早かれバレていたと思うし、まあ、今言っておくのが最善策だろう。
「......まあ、ロマンのある飛び方をするVF乗りだな。」
「ロマン?」
VFと関連して出てくる言葉ではない。
よほど変な飛び方でもしていたのだろうか、そんな邪推をしていると、メッサーさんがようやく口を開く。
「バトロイドの操縦を得意とし、機銃の使用を嫌って一撃を重視していた。
転換装甲で頑丈になっているのをいいことに、正面からの突進でファイター形態のこちらの翼を切り落としてくる。
ここまで言えば、お前の父親がイレギュラーなのが分かるだろう。」
「イレギュラーというかバカじゃないですか!」
メッサーさんの話に頭を抱えながら、ウィンダミアの自宅でした勉強の光景を思い出す。
あの時俺はノートに強く書かされた『ファイターで突進するな』という文、完全に自戒じゃないか。
「まあそんな飛び方をするが、絶対にコクピットへ攻撃を当てないことでも知られていた。
俺の部下たちもその行動に助けられてたよ。」
「へえ、思うことがあったのかもしれませんね。」
突進の件は置いておくとして、それに関してはあの人なんだな、と納得できる。
優しい人だから。
しみじみとウィンダミアで生きた7年を思い出しながらジュースを啜っていると、こちらを見るアラド隊長の目が上下に動き始めた。
酔って潰れたかと一瞬思ったが、すぐに背後にメッサーさんがいる事を思い出し背を比べてるのだと勘づく。
まあ気づいたところで止められるものじゃない、吐き出された言葉を受け止める。
「お前たちその身長差だと、親子みたいだな!」
「え、でっかいフクロウとひよこですよ!」
反射的に口から出た言葉を止めようと口を塞ぐが時すでに遅し。
恐る恐る後ろを見ればいつも通り仏頂面のメッサーさんがいるが、気のせいかいつもより目の掘りが深く、その顔には影が差してる様に見える。
......次回の飛行実技、メニューがとんでもないことにならない様、今から願っておくことにした。
翌日。
マクロス・エリシオンから分離した船、アイテールが惑星ヴァルドール上空に到着し、VFを駐機させているドッグも騒がしくなり始めた。
パイロットたちが自機の最終チェックに入る中、俺は1人パイロットスーツに下半身だけ入れながら、部品の箱を運びメカニック達の手伝いをしている。
そう、今日のライブに俺は出ない。
だからこそ先日の宴会では俺の名前が一文字も出なかったのだ。
単純にダンスを覚えれず出れなかった、というのはなかなか心にクる物がある、だからこうして手伝いをして、気を紛らわそうというのだ。
向こうで聞こえるハヤテの喜ぶ声にいいな、と思いながらも、ただ自分の物覚えの悪さを悔いる。
「おーいクロクロ、こっち来て〜!」
苦い顔をしていると、急な呼び出しがかかる。
この独特な渾名の付け方、柔らかい声色、呼び出された先を探すのは容易である。
道中に頼まれた荷物を置いて、声の主が呼ぶ方へ向かった。
「おおー!」
そこにあった物へ思わず感嘆の声を上げて歓喜する。
それは念願の、俺仕様バルキリー。
「VF-31G ジークフリード!
特別チューンアップ仕様だよ!」
「私も手伝った。
ぶい。」
スパナ片手に元気な笑みをこぼすのはワルキューレの可愛い担当、マキナ・中島さん。
その横でクラゲスルメを噛みながらVサインを決めているのがレイナ・プラウラーさんだ。
見上げただけでわかる練習機とは比べ物にならないほどの性能に、思わず2人へ礼を伝えてしまう。
「ありがとうございます!」
「ヘルメットが嫌いなクロクロのために、ヘルメットをつけなくても操縦できるように調整したよ!
でも、危なくなったら
ヘルメットが無い分もっと危険だからね?」
「それに加えて、ジークフリードの手に特殊兵装をつけた。
それを作動させてヴァール感染者の機体とか、レインがアル・シャハルで落としたアンノウンの子機を触れば、ある程度コントロール出来る様になる。」
「操作は左の掌を飛行機に見立ててやってみてね!
それじゃあ私たちはこれで。
レイレイ、行こう!」
「ん、マキナと一緒なら、たとえ火の中水の中。」
嵐の様にさっていったその後ろ姿に、深く礼をする。
何にしたって俺の機体、今日使えなくとも嬉しい物だ。
せっかくなので、搭乗してみる。
「うん、悪くない。」
そう呟くほどに座り心地は良い。
キャノピーに貼ってある内容を見る限り、リミッターも外してある様だ。
どうやらメッサーさんが大丈夫だ、とOKを出したらしい。
ヘルメットの件も考えると、本当にあの人は優しい。
ただそれだけに、なんであそこまで冷たく当たるんだろうとは思うが。
そんな事を考えながらジークフリードの座席を堪能していると、カタパルトから5機のジークフリードが飛び出していった。
羨ましいと思う気持ちを押さえつけ、今日はただの見物人としてメカニックの皆とライブを楽しむことにした。
『不確定性☆COSMIC MOVEMENT』のイントロが流れ始め、ドッグ内の興奮も高まっている。
今日はフレイアのデビュー。
だからこそ俺の出番は要らない。
俺の出番が来た時は、ヴァールかアンノウンが現れ、皆が楽しみにしているライブが中断された時だ。
だからこそ今日だけは、俺は空に出たくないんだ。
そんな思いは容易く砕け散っていく事を、この時はまだ知らない。