ミーティングルームにて。
「クラゲチップス...... たしかに、匂いはほぼクラゲだ。」
「レインも食べると良い。
非常に、美味。」
落ち着きなく室内を歩き回っていれば、自然と目につくテーブル上の空袋。
覗き込んでみれば残った一袋の中から1枚のチップスを手渡され、鼻に抜ける潮の匂いに感心する。
レイナさんに勧められるままそれを口に投げ込み、サクサクと小気味のいい音を立てて噛み砕いた。
「......サクサクした無味の菓子としか言いようがないです。」
「クロクロ、本当に味を感じないんだねー。」
「クラゲのおいしさを感じれないなんて、人生の大半を損してる。」
「そんなこと言ったって......」
まあ味こそぜんぶ同じだが、正直ホンモノのクラゲよりこちらの方が好みである。
ホンモノはブヨブヨとして噛みきれない不快感が強いが、このチップスなら香りを楽しみながらサクサクとした食感ですぐに食べれる。
今度、給料日に数袋買っておこう。
チップスを飲み込むと同時に自動ドアが開き、待っていたぞと皆一斉に立ち上がった。
傍に艦長を伴って現れた隊長の顔は、今までに無いほど真剣な様子。
「待たせたな。」
部屋の電気が落ち、ホログラムが宙に投影された。
惑星ウィンダミアⅣ、そしてウィンダミア王国。
ラグナから800光年先にあり、その周囲を次元断層と呼ばれる特殊なバリアーで囲まれた惑星。
そしてそのウィンダミア王国が所有し、空中騎士団が操るのがSv-262 ドラケン
「━━新統合軍のパイロットが操られていたのも、ウィンダミアの?」
「恐らく......。
ヴァールに関与しているのは一部だけ、強力な生体フォールド波が感知されたものだけと本部は見ているわ。」
カナメさんからの返答を受けたメッサーさんの顔が曇る。
ヴァールの発生場所に現れ、その病を直そうとする人達を仕留めんと攻撃を加えるだけ加えて去って行く。
ウィンダミアのやっていることはまるで実験。
ヴォルドールでのヴァール発症者に統率を取らせるまでの実験に過ぎなかったというのだから、常に冷静なメッサーさんであっても怒りに顔を曇らせるのは当然だろう。
「惑星ヴォルドールでも、俺たちが見た様に多くの新統合軍兵士が操られ、ほぼ無血降伏だったらしい。」
「一つの星をいとも容易く......」
「んなこと、どうやって?」
「歌が聞こえたわ。
あれは......男の子の声。」
歌。
空に響き、頭に入り込んで来たあの歌。
数機の統合軍機があの歌を合図にする様に動きを変えたことからも、その歌が原因である事に疑問は無い。
あるとするならば、歌が聞こえた、と言った美雲並びにワルキューレメンバー達にしか聞こえていない、という事か。
「......聞こえたか?」
「いえ...... ワルキューレメンバーにだけ聞こえたのでしょうか?」
「俺にも聞こえたぜ。
レインもそうだろ、きっと。」
「......うん。」
困惑するミラージュさんの推測に、ハヤテが鋭くメスを入れる。
無論俺も聞こえていた。
「聞こえたなんて言うほどのものじゃなく、感じ取れた程度だったけど。
たしかにメロディーとかはわかったよ。」
「時空を超えて届く歌声......
まるで『風の歌い手』みたいやね?」
「確か、ウィンダミアの伝説だよね。」
「そ! 『ルンに命の輝きを』ちゅーてね!」
フレイアが疑問と共に何の気無しに発した風の歌い手という言葉。
その単語自体は父さんから聞き及んでいた。
とは言え話している時にポロッとこぼれ落ちたもので、深くは知らない。
いくら問おうとも、話してくれなかった事もあるが。
「ところでレイン。」
不意に隊長から名を呼ばれた。
恐らく父さんに関連することだろう、知っていることだけを話す。
「このウィンダミアの動き、父親━━
青騎士から、何か聞いていなかったか?」
「騎士団のことを話したがる人ではありませんでしたから、重要なことは何も。
ただ、アル・シャハルでの別れ際に戦争が始まる、だから騎士を止める、とだけ。」
「......戦争が始まる。
その言葉通りになった、というわけか......」
惑星ラグナ、マクロスエリシオン内部。
ケイオスラグナ支部のメンバーが集められた会議室は暗く、張り詰めた空気も相まって物々しい雰囲気を形成している。
そこで説明されたのは、依頼内容の変更。
これまではヴァールへの対応のみを契約内容として行動してきたが、ここに新しくウィンダミア王国の侵攻に対する防衛が増える。
言うなれば━━
「━━つまり、ここからは戦争ってわけだ。」
そう、戦争。
つまりこうして集められたのは、戦争に参加するのを嫌い除隊するかしないかの意思を聞くため。
まあケイオスは民間企業、あくまで抜ける抜けないは自由だ。
Δ小隊のメンバー、ワルキューレの皆んなが口々に契約の更新を宣言するなかで。
「ハヤテ、レイン。
お前たちはどうする?」
「ん......」
「戦争、か......」
「まあ良い、考えとけ。」
俺とハヤテは決めあぐねていた。
後頭部に手を回して上を見上げるハヤテと対照に、机に突っ伏して悩む。
色々な考えを交差させていると、美雲さんからフレイアへ爆弾発言が飛び出した。
「ケイオス本部は、あなたをスパイではないかと疑っている。
......もちろん、あの新人さんもね?」
「す、スパイッ!?」
「スパイ。」
「美雲!」
たまらずカナメさんからの静止が飛ぶが、美雲さんは止まらない。
ファンやマスコミからも同じ意見が挙がっていると言葉を突き刺して行くが、それを途中で遮りフレイアが立ち上がった。
「大丈夫!
1日でも早く信じてもらえる様に、ごりっごり!
頑張ります!」
気丈に振る舞うが、その顔の焦りは隠せていない。
だが、そうやって負けない意志を全面に出していけるのは、彼女の『飛べば飛べる』の精神が成したことだろう。
会議室を出て帰り道。
遠回りをしながら色々と考える事にした。
夕陽が水面に光を放ち、反射されたそれが目を細めさせる。
ケイオス、Δ小隊は俺の職である。
食い扶持を持たなければ生きていけない、ゼルヘスでも教えられる基本の事だ。
だが、こうして入隊して飛んで、空に魅了されて。
生きて行くために必要な事以外で、俺自身の意志でやったことって何だ?
やってきた行動の全てを把握してるわけじゃないが、よくて1、2。
最低で0かもしれない。
夜風も出てきて肌寒くなる中、路地にて遊ぶ3人の子供を見つけた。
女1人に男2人。
自分含めた3人の友人関係を思い出すのは、さほど難しいことではなかった。
「━━3人とも、もう夜だよ?
帰らないと親が心配するよー!」
「「「はーい!」」」
素直な子たちだ、自分の足元を猛スピードで過ぎ去って行く。
微笑ましく思っていると、うち1人が盛大に転んだ。
駆け寄り抱き起こし、傷ついた膝を水道で洗ってあげた。
ついでだからと、あることを聞く。
「......三人はさ、仲良し?」
「うん、仲良し! あったときからずーっと一緒なの!」
「そうか。
離れ離れになるのは嫌?」
「いやーっ!」
それさえ聞ければ満足と、応急処置を済ませてまた送り出した。
待っていた2人が手をひき、今度は転ばない様にとスピードを落として走って行く。
思わずゼルヘスにいた頃の友達を思い出し、感傷に心を震わす。
離れ離れになるのは、そりゃ辛い。
だからこそ、ゼルヘスで起こった悲劇を、アル・シャハルで見送った母親と赤子の死を繰り返させないために、俺は空を飛ぶ。
やりたい事は決まった、あとは明日を待とうと裸喰娘娘へ足取り軽く帰って行く。
戦う覚悟はできている。