Δ小隊として初の戦闘から数週間。
ウィンダミア王国の侵攻はとどまることを知らず、既に3つの惑星が占領された。
Δ小隊は2回の戦闘を行い、2度の敗北を味わう。
ヴァール発症者という現地調達可能な兵士を操れるというアドバンテージはあまりに大きく、ケイオスのα、β、Δ小隊の3つを合わせても物量の差で攻められれば守る手も届かない。
戦闘終了後の帰路、ドックに集められた4人が仏頂面のエースに向かい合い、改善点を聞いていた。
ただその顔は強張り、今度は何を言われるかと戦々恐々としている様に見える。
「チャック少尉、シザース起動時のエネルギーロスに気をつけろ。」
「
「ミラージュ少尉、右後方の警戒が甘い。
アラド隊長のフォローがなければ落とされていた。」
「はい......」
忖度の様子など一切なく、ズバズバと改善点を言い当てて行く。
並びで言えば、次は俺の番。
覚悟を決めて耳を澄ませるが、メッサーさんは背を向け、解散とだけ告げてその場を後にする。
これには流石の俺も、その後に控えていたハヤテも彼を呼び止めた。
「ちょっと待てよ!
呼び止めておいて俺たちには何もなしかよ!」
「そうですよ!
改善点が無いなら無いで、先に戻っていていいぐらい言ってくれても!」
「......そうか、
向けられた目に思わずたじろぐ。
それは失望のこもった視線、この世で最も恐ろしい感情。
「まず、特殊兵装を使用した戦闘は目を見張るものがある。
敵の小型
......だが、ドッグファイトで不利になった機体すぐにフォローしようとするその行動が、
冷たく放たれた事実に力強く、悔しさを噛み締めた。
確かに追い詰めた敵機を撃とうとした時、視界の端に厳しく追われているハヤテ、チャック、ミラージュが映りそちらへとフォローに向かう事は多い。
だが、それは俺に味方を見殺しにしろと言っているのと一緒。
「......じゃあ、追われて落とされる可能性のある味方を見殺しにしろっていうんですか!」
「
お前の行動は心配が故の行動に見える、事実准尉もそう思って行動しているのだろうが、それは不信の裏返し。
ミラージュ少尉もチャック少尉も、お前が思うほど弱くは無い!」
「っ......!
だとしても......」
「准尉は傭兵ではなく小隊の一兵士だ。
隊に所属する兵士である以上同僚のことを心配して集中を切らすより、目の前の敵機に集中してその目の良さを活かせ。
......フォローに向かう背中を、空中騎士団に撃ち抜かれたくなければな。」
「......了解!!」
子供の癇癪の様に大声で、まるで抗議する様に納得を示す。
いくらメッサーさんの言葉とは言え、容易く頷くわけにはいかないのだ、これだけは。
「俺は!?」
「論外だ、話す価値もない。」
「はあっ!?」
「はあ〜〜......」
馬鹿みたいに大きいため息をつきながら、ハヤテからもらったそんな良い匂いのしないエナジードリンクを飲む。
まるで液状の何かの様に脱力し壁に寄りかかりながら、今日の発言と意地を張った自分の行動を悔やんだ。
実際フォローしに行って仕留めきれなかったことなんて3、4回あったし。
事実に苛立って感情そのままに言い返していては、それこそ本当に後ろから撃たれて死ぬ。
わかっている、が。
「それは、俺の飛び方の否定なんだよ......」
「おい、大丈夫かよ?
メッサーのやつ、もっと言い方ってもんがあるだろ。」
「まあ、昔は説教すらなかったけどなあ。」
顔を赤く染めたほろ酔いのチャックが、まるで昔を懐かしむ様に口を開いた。
ミスをしたとして、昔はじっと見つめてくるだけで終わり。
正直あの身長、あの顔でそんなことされたら萎縮するどころではない。
あくまで昔の話とは言え、心底そんな状態のメッサーさんが教官でなくて良かったと思う。
「あの目で、”何も感じない”なんて言われると......」
その会話に反応して、部屋の隅で項垂れ、ルンを真っ黒に染めているフレイアがため息を吐いた。
......どうやら、ワルキューレのメッサーさん枠は美雲さんらしい。
「ほら、リンゴジュース。」
「ん、あんがと、レイン。」
シンパシーを感じながら、燃料代わりのリンゴジュースをプレゼントする。
キンキンに冷えているというわけでもないが、それでも美味しい温度。
彼女はそれを一息に流し込み、ルンをいつもの色に戻して元気に立ち上がった。
「でもかっこいいんよねー!
ステージに立った時とか、キレイな髪がブワッて!」
「メッサーの飛び方も......
青い空に一筋、スッと真っ直ぐな線が伸びて......」
「ああ、綺麗だった。
経験も努力も、俺たちとは違うんだって思い知らされる。」
「ジークフリードの扱い方もね?」
「う”。」
マキナさんのその一言に思い当たる節があり、焦りと冷や汗が止まらない。
他人事の様に窓際へ近づき、外の夜空を見ることで誤魔化そう。
「ハヤハヤなんてもう大変!
一回飛んだら徹夜明けのお肌みたいで最悪......」
「ボロボロ、カサカサ。」
「その点メサメサのジクフリちゃんは睡眠バッチリ!
まるで赤ちゃんのお肌みたいに━━」
「スベスベ、モチモチ、プルップル。」
「えっと......?」
VFの扱い方を女性の肌に見立てた評価に、既に酔いが回り頭の回転が錆つき始めたチャックがわかりやすい説明を求めた。
その顔はまるで何もわかってないことを一瞬で悟らせてくれる。
「操縦の負荷が少ないってこと。」
「ああー......
じゃあさ、レインのやつはどうなんだ?」
「ミイラ。」
「ミイラァ!?」
「ごめんなさい......」
ハリーさんたちメカニックには悪いことをしたと毎回思ってるので、許してほしい。
するとハヤテとフレイアがおもむろに立ち上がり、ベランダへと歩き出した。
すれ違いざまに見えたその瞳は、煌めく星と見間違うほど美しく光り輝いていた。
「悔しいけど、
「そうなんよ、隣で踊ってても見惚れちゃうんよねえ。」
「お前もそうだろ、レイン。」
遅れて立ち上がり、ベランダで空を見上げる2人の横に真っ直ぐに立つ。
煌めきは増すばかりだ。
「━━うん、教官としてもパイロットとしても、越したい目標だ。」
「ああ、だからよ。」
「うん、絶対負けん!」
「明日の訓練で!」
「実戦で!」
「見返してやんだかんねー!」
「......そういえば、お前はどうして飛ぼうと思ったんだ?」
飲んだものの片付け中、ふとハヤテから問われた。
顎に手を当てて考えるふりをする。
実のところ、ウィンダミアからアル・シャハルに来てハヤテたちと逃げている間、別にVFに乗ろうとか思った事はなかった。
それこそ一回だけ父さんに乗せられて飛んだ事はあるし、そこで飛んでる時の風を好きになったのはあるがそれで飛ぼうと思った事もない。
となると、やはり。
「あー、アル・シャハルで瓦礫を避けて、離れた時あったじゃない?」
「ああ、あの時の。」
「あの後逃げ惑った先で...... 目の潰れた、下半身が瓦礫の下敷きになった母親と、鉄の棒に胸を貫かれた赤ちゃんを見つけてさ。
頼まれて赤ちゃんを母親に抱かせようとしたんだけど、腕の中に抱かせた時にはもう死んでた。」
「......悪いこと、聞いたな。」
「いや、大丈夫。
で、アンノウン...... いまは空中騎士団の放ったミサイルが原因で彼女達が傷ついたのは想像に難くなかったから、もう彼らの攻撃であの人たちみたいな人を生まないために、俺は飛ぶんだよ。
守るために、飛ぶ!」
「そうか......
じゃあ、メッサーに珍しく噛み付いたのも。」
「そ、守るなっていうのは誰にしたって、俺の飛び方の否定な様に感じたから。
......まあ、守りながら飛んでもやれるってところ、これから見せてやるけどね!
片付け終わり、戻って寝よう。」
片付けを終えて電気を消し、部屋の前でハヤテと別れる。
自身の部屋に入ってすぐ、首のチョーカーに触れて目を閉じた。
「......守れるさ、きっと。」