ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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烈戦 ディアボロス

 

 ただ1人、自分の写し鏡であるジークフリードと向き合い、ぼうっとこの先を考える。

 これから母艦アイテールが向かうのは、4度目の正真正銘戦場。

 その戦場で行ったことを思い出していた。

 

 戦いの最中、背中を撃たれそうになる味方をフォローせずにはいられず、その行動によって敵に背中を向けたのはメッサーさんにも言われたとおり。

 この数日、訓練の休憩時間でずっと考えていた。

 

 この行動はある意味で、俺の()()だったのかもしれない。

 どれだけ無理をしても羽を狙う様に。

 向き合って、対峙してもその行動で殺めない選択を取るハヤテやミラージュさんに対して、俺は向き合うこともせず、ただ背中を向けて逃げていた。

 

 多分、ゼルヘスを焼いたパイロットたちの様になりたくないと思ってしまっていたのだろう。

 だがこれは戦争で、相手は巻き込まれた罪のない民間人ではなく、明確な殺意を持ってこちらに銃口を向ける敵。

 そしてヴォルドールでメッサーさんが言った様に、命を失う覚悟を持って戦場()に出てきた軍人だ。

 ならば俺もそれ相応の覚悟で対峙しよう。

 

 味方の援護を言い訳に、逃げるのをやめる。

 仲間、市民は守り、敵は叩く。

 する事は変わらない、ただ順序が変わるだけだ。

 『仲間を助けて敵に向かう』から『敵を落として仲間の援護』に。

 

  

 「レイン!

 今日こそあの()()()()、見返してやろうぜ!」

 

 目を細めて見上げていた視線を背後へ方向転換すれば、そこには何か、缶とリンゴを手に持ったハヤテの姿。

 ここに来る事があまりない、珍しい来客に以外さを感じながら、『ほら』と彼が投げた缶を受け取った。

 

 渡されたのはウィンダミア印のリンゴジュース。

 こういう時に固形物を持ってこない様にしたり、興奮して変化した右目に驚かないあたりハヤテも俺に慣れたものだ。

 

 リンゴジュースをありがたく受け取り、お礼として激励を返した。

 

 「ああ、そっちも頑張れよ!」

 

 「おう!」

 

 また何処かへと歩いていくハヤテを見送り、ジークフリードに視線を戻す。

 物言わぬ鉄の鳥は、その羽を操縦者である俺に使わせて文句の一つも言う気配がない。

 これも一種の信頼か、と頬を緩める。

 

 

 

 ヴァールの反応に向かうアイテール内のドック。

 忙しく機械の動く音を背に、収納されたジークフリードのコックピットへ飛び乗った。

 コンソールを操作して確認を行い、整備は万全と自身と誇りを持った瞳で語るガイさんに感謝のグッドサインを返した。

 

 「帰ってこいよ!」

 

 「はい、もちろん!」

 

 キャノピーを閉じ、第3種兵装━━宇宙用装備のスーパーパックが装着されるのを待つ。

 外では緊急フォールドを終え、すでに戦場である惑星イオニデスへと到着していた。

 

 発進カタパルトへと向かう中でシートから全身に伝わる揺れが、戦場に自分がいるという事実を強く確信させてくれる。

 カタパルトに並べられ発進まで秒読みの段階、Δ1、アラド隊長より通信が届く。

 

 「Δ1よりΔ5、Δ6へ。

 お前たちにとっては初の宇宙戦闘だ、大気圏内との重力の差による機動の違いや推進剤の残量に注意しろ。

 Δ6は特にな。」

 

 「「了解!」」

 

 宇宙ではVFの燃料は限られている。

 だからこそスーパーパックで推進剤を補強し、機動力と継戦力を補っているわけだが、常に全速力で飛べないというのはかなりもどかしい。

 

 「歌は愛!」

 

 「歌は希望!」

 

 「歌は命!」

 

 「歌は元気!」

 

 「聴かせてあげる、女神の歌を!」

 

 ワルキューレの歌を合図に、Δ小隊全機が一斉に飛び立った。

 ガンポッドを取り外し、代わりにコンテナへ取り付けられたフォールドプロジェクターが宇宙を漂うデブリにワルキューレのステージを映す。

 

 『Walkure Attack!』

 その歌はヴァール発症者たちを惹きつけ、ステージを映したデブリに気を取られたヴァールを次々と無力化していく。

 

 「ちょっと待っててよ......!」

 

 ただ壊すためにジークフリードを追う3機を背後につけ、デブリ帯を駆ける。

 向かってくるだけであれば対処は容易い、アステロイドの目の前でバトロイドに変形し、壁の様なアステロイドを蹴って進行方向とは逆の方向へUターン。

 必然的にガラ空きになった2機の翼を打ち抜き、その隙を狙って放たれた1機の機銃をピンポイントバリアで防ぎながら接近、四肢を切り落とした。

 

 「つ......ぎ!?」

 

 一連の流れを終えて次のヴァール発症者を探そうとしたが、翼を撃ち抜いた2機が足掻く様に機銃を乱射した。

 予想外の出来事に驚愕しながらもガウォークで距離を離し、ファイターのスピードで2機の腕、脚を撃ち抜く。

 

 そう、ここは宇宙。

 翼を撃ち抜いただけではVFは地に落ちず、故に完全な武装解除を求められる。

 意識の外へ行っていた常識を心に引き戻し、冷や汗を拭う。

 

 『直上よりウィンダミア機!』

 

 メッサーさんからの通信に、頭上を見上げる。

 緑の光を放ちながら、扇状に散開するVFの姿が見えた。

 数を確認すれば、1機2機増えている。

 

 ヴァールの無力化を優先しようとすれば、赤色のビームがそれを遮る。

 一眼飛び方を見てわかった、俺を撃とうとしたあのドラケン、あの時(アル・シャハル)蹴り飛ばしたヤツ。

 

 『我らを邪魔するか!』

 

 「上等......!」

 

 向かい合い、複雑なアステロイドの間を縫いながらシザース機動で撃ち合う。

 VF系統の、いわば運命とも言える宇宙での燃料問題。

 それは相手側も同じはず。

 

 おそらくではあるが、あのリル・ドラケンが奴らにとってのスーパーパック。

 その証拠に奴らは地上戦と違い、分離していない。

 あれさえ奪えればかなり制限できるはず。

 

 シザース機動を繰り返す中でチャンスを伺い、消極的に機銃を撃つ。

 あくまで狙う目的では無く、隙を生ませるための行動。

 問題はこれが通用するかどうかだが━━

 

 『もらった!

 落ちろ、気味の悪い風!』

 

 かかった。

 必殺の意図を持ったガンポッドの一撃を、アステロイドを蹴った反動で軌道を変化させ避ける。

 ガラ空きの横っ腹に手を伸ばし、機動力を奪おうとする。

 

 「なんっ......くそ!」

 

 『ハッ、ルン無しも役には立ったか!』

 

 伸ばした手が触れたのは新統合軍のナイトメアプラス。

 予想外の事態に困惑し、目の前のドラケンを易々と逃してしまう。

 

 触れたナイトメアを機能停止させ追おうとするが、そうは問屋が卸さないと言うかの様に大量のナイトメアプラスが浴衣を阻んだ。

 

 「退いてもらう!」

 

 どうこう考えている暇はない。

 奴がワルキューレを狙う事は過去の戦闘からも明らかである以上、早急に追わなければワルキューレが危険だ。

 アサルトナイフを取り出し、ナイトメアへと向ける。

 

 幸いにも連携をとって行動はしない様であり、ただ動きこちらへ射撃を続けているだけの様だ。

 1機1機丁寧に四肢を切り落とし、撃ち抜く。

 

 残り2機。

 ここまで来れば強硬策の一つも取れる。

 相手のガンポッドをサマーソルトの要領で蹴り飛ばし、ファイターへ変形しその勢いで背後へ全速力で離脱する。

 

 正味推進剤が残るかどうかはわからないが、今はそれよりもワルキューレの事だ。

 通信でα、β小隊が抜かれたという報告が聞こえてきた。

 操縦桿を握る力がより強くなる。

 

 「やらせるかぁ!!」

 

 使い切ったスーパーパックをパージし、慣性そのままにワルキューレを狙うドラケンへ殴りかかった。

 ターンし避けられこそしたが、僅かな時間を稼いだ事でハヤテが間に合い、奴を追い払う。

 

 甲板に這いつくばった機体を起き上がらせ、ワルキューレ全員の無事を幸いに思いまた空へ舞った。

 本体に入っている推進剤はあるがスーパーパックと同じ調子で使っていればすぐに切れるだろう。

 警戒を強めて先程のドラケンを追う。

 

 

 『グーラ小騎、レスター小騎、2人とも参加はまだだったな?』

 

 「はっ、ヘルマン大騎!」

 

 『私が追い込む、2人のどちらかが落として見せよ!』

 

 「「ダー(了解)!」」

 

 『グーラ、今日は俺が勝たせてもらうぜ!』

 

 「いいや、僕が落として見せる!」

 

 

 「ハヤテ、見失った?」

 

 「ああ、想像以上に速え!」

 

 ドラケンを追ったが想像以上に足が速い。

 辺りを見回し警戒していると、ミラージュさんの救難信号が緊迫とした空気をもたらす。

 

 『メーデー、メーデー!』

 

 「ミラージュさん!?」

 

 声の方向に向けば、3機の機体に追い詰められ、スーパーパックを剥ぎ取られたジークフリードが足掻く姿。

 意思の共有なんてする暇もなく、2人一緒に飛び出した。

 

 ついにはガンポッドも奪われ、完全な無防備状態。

 2機のドラケンに銃口を向けられ絶対絶命の状況。

 どどめを刺そうとする2機のうち一機をハヤテに任せ、帰りのことなど考えず推進剤を使う。

 

 その時の俺の表情がどうだったかは、言わないほうがいいだろう。

 横でハヤテの放った銃弾が直撃する姿をスルーし、もう1機のドラケンの機首を鷲掴み、勢いのままアステロイドへ叩きつけた。

 

 「もう......奪わせるかぁー!!」

 

 『ひっ......悪魔...!』

 

 背部に刻印されたウィンダミア王家の紋章を突き破る様にミニガンポッドを突き刺し、引き金を強く引く。

 ぼこぼこと丸石畳の様に機体表面が赤化していく。

 

 『ぐっ、うあぁぁ!』

 

 一瞬の後に爆発し、爆炎の中へ機体が包まれる。

 

 しばらくして黒煙を纏い現れたその機体は、鮮血の赤で染められたかの様な、悪魔の形相をしていた。

 

 

 




 
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