ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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覚悟 スケアー

 

 夕焼けの景色、外では鳥が鳴いている。

結局あの後惑星イオニデスは占領され、今回も敗北したと言うことになる。

 そんな戦闘終了後の自由時間、各々が休息をとる中でひとり、マクロス・エリシオンの中を当てもなく彷徨う。

 

 地図でもなければ迷ってしまいそうな廊下を、何も持たず、何を考えるでもなく歩き続ける。

 いくら歩いても景色は変わらず、ただただ無機質な迷路を歩くのは気を紛らわせるための行動だったのかもしれない。

 

 もう何度目かもわからない曲がり角を曲れば、そこにあるはずもない巨壁にぶつかり尻もちをついた。

 ぶつけた鼻の痛みに悶えながら見上げれば、そこにはフライトデータと睨めっこするメッサーさんの姿。

 

 「准尉、ここで何をしている?」

 

 「いやあ...... 特に何をしているわけでも。」

 

 そうか、と優しい声を残し去ろうとした彼の後ろを、カルガモの子の様に付き従って歩く。

 互いに何をいうわけでもなく、そのままエレベーターへ乗り込んだ。

 

 「......今回の戦闘、悪くはなかった。

 詰めの甘さこそあれど、戦果を挙げたことは評価に値するだろう。」

 

 「そう......ですか。」

 

 珍しく褒められたことに驚き、視線を彼に向ける。

 だが素直に喜べない心が、その視線を地に伏せた。

 

 「人を殺したことに後悔しているのか。」

 

 「いえ、後悔はしてません。

 ......でも怖さはあります、ここから人に向けて引く引き鉄が、軽くなってしまうんじゃないかって。」

 

 後悔は微塵もない。

 自分の行動を誰からも否定されたとしても、自分だけはその行動を肯定しなければならないから。

 そうでもしなきゃ引き鉄を引くのも、何もできなくなる。

 

 ただ、()()は別だ。

 こうして人を殺し、透明な水溜まりの様な心に赤黒い血が混じっていって、最終的にはそれに染まってしまうんじゃないか。

 人を撃つことも、コックピットに照準を合わせて撃つことも躊躇わなくなるのが、たまらなく怖い。

 

 「━━それは、パイロットの誰もが持つ恐れだ。

 チャック少尉も、ミラージュ少尉もハヤテ准尉も、アラド隊長だとしても、皆、人を撃ちその人生を一生重荷として背負い続ける事は怖い。」

 

 「それは、メッサーさんも?」

 

 「当たり前だ。

 だが、奪った者が帰ってくる事はなく、その荷の重さに背を折り下を向き続けては何も変わらない。

 だから俺達は前を向き、空を飛ぶ。

 覚悟を持って命を奪い、その命と引き換えに一つの幸せを守る。

 それがパイロットの覚悟だ。」

 

 彼なりに励まそうとしてくれているのだろうか?

 メッサーさんの言う通り、下を向いて項垂れて、ただ立ち止まっていては何も始まらない。

 緩んだ覚悟を結び直す。

 

 命懸けで、守る者達のために、理不尽に負けないように。

 

 「......みんな、敵も味方も命懸け。

 なら俺も中途半端な覚悟でいるわけにはいかない、もっと強く、緩まない様に覚悟を強めなきゃ。

 ━━ちょっと訓練、付き合ってもらえませんか?」

 

 「今日は休め。

 休息をとり明日に備えろ、それができたら明日付き合う。」

 

 「はい!」

 

 元気な返事と、まっすぐな瞳で感謝を伝える。

 メッサーさんの頬も少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ気がした。

 エレベーターが規定階への到着を告げる。

 

 

 

 

 「あれ、フレイア。」

 

 「あ、レイン。

 その......大丈夫やった?」

 

 メッサーさんと別れた先、アイテールの甲板へ向かう道でフレイアと出会った。

 当たり障りのない心配を見るに、すでに俺が敵機を落とした事は知らされているんだろう。

 

 「ああ、大丈夫。

 そっちこそ何か言われてたでしょ、何言われたの?」

 

 「......実は。」

 

 

 「━━そうか、裏切り者、か。」

 

 俺と戦った機体が言った『裏切り者』と言う言葉。

 それを巡り美雲さんに強く叱られたらしい。

 天真爛漫でいつでも元気なフレイアがここまで深く考え込んでいるのを見るに、相当深く刺さったのだろう。

 

 「まあ傷つくよね。

 しょうがない、無視しちゃった方が身のためではある。」

 

 「でも......」

 

 「━━じゃあ君は何者?」

 

 寄りかかっていた壁から離れ、フレイアの目を見て向き合った。

 瞳の奥まで見つめる様に、じっと視線を動かさない。

 

 「えっ?」

 

 「名前は?」

 

 「フレイア・ヴィオン......」

 

 「で、ワルキューレのメンバー。

 それでいいじゃん、ウィンダミアの、とかじゃなく()()()()()()()で。

 裏切り者だなんだって、それは空中騎士団の都合であってワルキューレ、フレイアの知るところじゃないのさ。」

 

 「そう、かねぇ?」

 

 「そう。

 だから俺もただのレインとして、今日敵機を落とした。

 ワルキューレは歌いヴァールを治して、俺たちΔ小隊はワルキューレと市民を守る。

 そこに勝手に介入して裏切り者だって怒ってるのはあっちなんだから、覚悟を締め直して無視してやればいい。

 攻撃してくる様なら、俺たちが守るから。」

 

 座っていたフレイアが立ち上がり、固く握り拳を作る。

 頭のルンは先ほどより輝きを増し、彼女が通常運転とまでは行かなくとも、いくらか持ち直したことを示している。

 

 「......うん!

 あたし、ワルキューレメンバーとして歌う!

 美雲さん以外の誰に文句言われたって、ぜーったいやめん!

 飛べば飛べるんやから!」

 

 「うん、頑張れ!

 歌は元気なんだから!」

 

 気合い十分に歩き出したフレイアを見送り、俺も別方向へ歩き出した。

 彼女が入ってからのワルキューレの歌は凄く刺激的な、まさに病みつきになる振動を鼓膜へ叩きつける。

 5人揃ってワルキューレ、フレイアには是非とも頑張って欲しい。

 ただのワルキューレファンからの純粋な願いだ。

 

 

 

 夜。 

 結局遅くなってしまったと後悔しながら、エリシオンから町へ降りるためのモノレールへ乗り込んだ。

 あの後歩いていたら、シミュレーターが目に入ってしまった。

 戦闘後と言うこともあり修正したい点がいくつもあったことも重なり、つい、誘われる様にシミュレーターに入ってしまったのだ。

 

 結果、こんな遅くに帰ることになってしまった。

 別に多人数戦闘における発見とかはあったので、ただ時間を浪費した、と言うわけではないが......

 こんな姿をメッサーさんに見られたらきっと怒られる、だから急いで帰り、自室に逃げ込もうとしているわけ、だが━━

 

 「......なぜ、こんな時間までここに居る?」

 

 「あっ...... いやあ、はは......」

 

 『なんで!?』と驚愕したくなる心を抑え、取り繕った笑いを見せる。

 なぜか、モノレールの座席に座りこちらを見るメッサーさんが、そこにいた。

 

 

 

 「......」

 

 「......」

 

 客引きすら寄せ付けないオーラを放つ彼の横を、縮こまったハムスターの様にくるまって歩く。

 だんだん近くに迫ってくる腹痛に涙を浮かべながら、夜になってなお賑やかな商店街を抜けた。

 

 「そ、そうだ、昔話でもしましょうか!」

 

 「━━昔話?」

 

 どうにかこの張り詰めすぎて固まった空気を壊そうと、昔話を切り出す。

 そうポコポコと話す様な事でもないが、彼になら別にいいだろう。

 

 「7年前、惑星ゼルヘスで━━」

 

 

 

 「━━で、俺はウィンダミアに居たんです。」

 

 「......」

 

 俺がウィンダミアで生きてきた7年の軌跡、その中でも主要な出来事を話した。

 しかし、未だ空気は最悪のまま。

 それどころかさらに重くなった気すらしている。

 

 ミスったなあ、とため息を吐くと、隣にメッサーさんが居ないことに気がついた。

 どこへ行ったのかと首を振れば、後ろで立ち止まっている。

 体調でも悪くなったのかと駆け寄ると、先ほどよりもさらに遅く、亀の様な速度で歩き出した。

 それに合わせて自分も横についていく。

 

 「━━惑星アルブヘイム、マリエンブルグと言う街があった。

 開拓惑星でありながら成功を収め、首都から賑わいが消える事はなく、平和そのものの星だった。

 だが、2年前。

 ヴァールシンドロームにより首都は崩壊、駐留していた新統合軍も全滅した。」

 

 口を開いた彼が言ったのは、知らない星で起きたヴァールの出来事。

 それはヴァールの恐ろしさ、危険さを伝えるには十分すぎる情報。

 

 「......ヴァールっていうのは、恐ろしいですね。

 発症した人は完治せず対症療法で抑えながら、家族に危害を加えないか怯えて過ごし、襲われる人達は別人の様になった友人達から逃げ惑い、恐れ続ける。

 まるで悪魔の病気だ。

 それだけに、ヴァールを発症させてそれを奴隷の様に操る空中騎士団に苛立ちを覚えますよ。」

 

 制風権がどうとか言っているが、彼らは完全な治療の出来ない病気を押し付けてそれを利用し操っているだけ。

 どんな正義があったって、やっている事は最低だ。

 

 それはともかくとして。

 

 「なんで惑星アルブヘイムの事を?」

 

 「━━単なる、昔話だ。」

 

 昔話。

 その言葉を訝しみながら、裸喰娘娘へ到着した。

 自室へ入りベッドへ寝転がっても、今なお昔話と言った時のメッサーさんの顔が引っかかっている。

 後悔のような、悲しみを堪えたような顔。

 

 詮索しようとする頭を振って、瞳を閉じた。

 誰にだって知られたくない昔の一つ二つあるだろう。

 ただ体を休めることに集中し、涼しげな夜が過ぎる。

 

 

 

 





 
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