ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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信頼 ゲットレディ

 

 「━━レインです。」

 

 出勤前の朝、コンコンと2度ノックする。

 「入れ」と了解が出ると同時に、神妙な面持ちのまま扉を開けた。

 部屋の中は飾り気無く、主の性格を端的に表している。

 

 ベッドに座り上着を着替えているメッサーさんの前に立ち、疑うような声色で先日のことを問うた。

 

 「......昨日隊長から聞きました。

 前に話してくれたアルブヘイムの一件、あれメッサーさんの話だったんですね。」

 

 惑星イオニデスより帰ってきた日、帰り道で話した()()

 違和感を突き止めるためアラド隊長に話を聞けば、

「それはメッサー本人のことだ」と。

 

 惑星アルブヘイムにて起きたヴァールシンドロームを制圧する際に仲間を失い、瀕死の所を隊長が助け出した。

 それに加えてヴォルドールで見せた彼の血走った目、顔に浮かび上がる血管。

 

 「メッサーさん、ヴァールになってるんですよね。

 だからこそ白騎士との戦闘で精彩を欠いた。

 これ、アラド隊長以外の人は知ってるんですか?」

 

 「......隊長だけだ、他には話していない。」

 

 「症状が再発してる事は?」

 

 沈黙が部屋を暗く染める。

 その行動はある意味で、彼の答えでもある。

 であれば、どうするのか。

 

 「何も。

 今まで通り任務を続けるだけだ、基地へ戻れ。」

 

 「このまま空へ出続けていれば、いずれ暴走する。

 そうなってまで戦場を飛びたいんですか!?

 ヴァールの発生していない他のケイオス支部でも、空は飛べるはずなのに!」

 

 「俺の事は俺が1番よくわかる。

 大丈夫と分かっているからこそ、任務に戻ると言う選択をしているだけだ。」

 

 それでも、と言い続ける。

 目の前に空を飛んで死ぬかもしれない恩人がいるのに、ここでどうして引き下がれようか。

 

 言い合いを続ける中で、不意に机へぶつかった。

 その衝撃で机の上から小さな腕輪が落ち、歌が流れ始めた。

 ホログラムで映し出されたその歌の名は『AXIA(アクシア)』。

 カナメさんの声が、その腕輪から流れ続けている。

 

 「これ、カナメさん......」

 

 「......俺の事は黙っていてくれ、時が来れば、自分で打ち明ける。」

 

 腕輪を拾い上げ、彼はその頭を垂れた。

 余程知られたく無いのか、「頼む」と呟いて下を向いた彼の心が分からない。

 だがその姿に、これ以上追及する気も起きなくなった。

 

 踵を返して扉へ向かう。

 ドアノブに手をかけ、振り返らずに一言、言葉を残した。

 

 「━━俺は今、貴方の言葉もあって皆を信頼できている。

 だから貴方も、俺たちを信用して任せてください。

 それじゃあ。」

 

 バタンと音を立て、扉が閉まる。

 濁った水に沈められた心は、未だ浮上する予兆を見せぬまま。

 ただ歩き、エリシオンへと向かう。

 

 「......信じる事、か。」

 

 

 

 

 数日が経った。

 ラグナの青空を自適に飛ぶ。

 その後ろから迫る3機のジークフリードが放ったペイント弾をガウォークへの高速変形で避けながら、ヴォルドールで向かい合った白騎士の事を思い出していた。

 

 驚くほど鋭く、潰れてしまいそうなほどのプレッシャー。

 やはり『ダーウェントの白騎士』の名は伊達では無く、力量の差は大きい。

 だがここで『仕方がない』と諦めていてはどうしようも無いのだ。

 

 『速え! 

 後輩がここまでの技術持ってたら、このチャックさまの立つ瀬がねぇってのに!』

 

 『いつの間にこんな......!』

 

 『追いつけねえ!?』

 

 3機による波状攻撃。

 その隙間をローリングで避けながら、空の太陽へ機首を上げ、機体をその光の中に隠す。

 

 振り返り、AIによるロックオンが切れたのを確認して反転、攻勢にかかる。

 ロックオンを外した状態でペイント弾を連射、規則性の無い攻撃を避けるのに手一杯になったところへ、バトロイドに変形して慣性そのままに手のひらで触れる。

 

 「1、2、3!」

 

 ハッキングを終え、コントロールを奪った3機をバトロイドに変形させて1機1機胸部へペイント弾を撃ち込んだ。

 コントロールを返し、手のひらを振ってファイターへ変形して空へと舞い戻る。

 

 勝ちは勝ちだが、これでも恐らく白騎士には勝てない。

 もっと速く飛ばなければ、俺はメッサーさんの代わりになり得ない。

 彼が離脱しても問題無いように、強くならなければならないのに。

 

 左手で目頭を押さえ修正点を頭でまとめていると、鳴るはずの無いアラートが鳴り響く。

 回避行動を取り後ろを振り向けば、黒色のジークフリードが迫る。

 

 ━━そうだ、ここで彼に勝てば。

 気合を入れて操縦桿を握りなおし、胸を借りるつもりでシザース機動へ突入する。

 不可視(スモーク)にされたヘルメットの向こうにある表情を振り切って、今は単純にこの模擬戦へと挑む。

 

 「負けるつもりはないですよ、メッサーさん!」

 

 

 

 「負けたぁー!!」

 

 その夜、裸喰娘娘にてリンゴジュースをガブ飲みする。

 普通に負けた。

 

 ......本当に、何故メッサーさんがフォールドレセプターでは無いのだろうか。

 

 今日会議室で聞いた事だが、この世にはヴァールになりにくい耐性を持った人間がいるらしい。

 それがフォールドレセプター。

 ワルキューレはそのフォールドレセプターを集めたグループであり、オーディションはそれを探し出すための場。

 

 ちなみに、俺とハヤテもフォールドレセプターらしい。

 そのレセプターが持つフォールド波が共鳴した結果、先日のヴォルドールでハヤテが見せた飛び方が実現した。

 

 この場合、共鳴したのはフレイアとハヤテ。

 

 正味、俺がフォールドレセプターであるよりも、メッサーさんがレセプターであれば......

 

 そんな取り止めのない考えをぐるぐると頭で回していると、俯いた頭の上にタブレットが乗せられた。 

 こんなでっかいタブレットを裸喰娘娘にまで持ってくるのはマキナさんしかいない。

 

 「クロクロ、荒れてるねー。」

 

 「......なんか珍しいな、今までは模擬戦で負けてもこんなにはなってなかったんだが......」

 

 「ふーん。

 ━━でね、実はなんだけど、なんと明日!」

 

 

 

 「━━よし、頼まれてた買い出しは終わりかな!」

 

 ビニール袋の穴に腕を通し、多様なものの入った袋をガサガサと揺らす。

 レシートともらってきたメモを照らし合わせ、忘れがない事を再確認した。

 

 今日は休みの日であり、なんとフレイアの誕生日。

 そのパーティの為の買い出しを、俺とミラージュさんとハヤテの3人が頼まれた。

 

 その買い出しを終えたからには、次にやらなければいけないことがある。

 

 「......で、ミラージュさん。

 女の子がもらって嬉しいものって知りません?」

 

 「自分で調べればいいでしょう......」

 

 「しょうがねえだろ、プレゼントなんて何あげればいいかとか分かんねえんだから。」

 

 「そうですよ、女の子の考えなんて俺には未来永劫わからないでしょうし。」

 

 そうして駄弁りながら、3人固まってミラージュさんの携帯に目を通した。

 映し出された画像は分かりやすく可愛いものだらけ、さすが女の子に人気らしい『デイジーデイジー』を読み込んでいるだけはある。

 

 「にしても高えな......」

 

 「こんなものな気もするけどね。

 さて、行こうか。」

 

 手始めに画像1番上のアクセサリーショップから手をつけようと歩き出す。

 怪訝な顔をして立ち止まったままのハヤテの手を引き、まるで好奇心に満ち溢れた少年のように歩き出した。

 

 

 「......わっかんねぇな。

 あいつ何もらったら喜ぶんだ?」

 

 「私より貴方の方がよく知ってるんじゃ......」

 

 「いつも歌とリンゴばっかだからな、分かんねえんだよ。」

 

 「んー......」

 

 キーホルダーを見る2人をよそに、1人でぬいぐるみなどを吟味する。

 なんとも、プレゼントとは何を贈ればいいのか。

 

 今まで誕生日など祝った事が無いのがあまりに深く響いている。

 こんな事になるんなら父さんの誕生日でも祝ってやればよかったか?

 でも誕生日の日は大体家にいなかったので、祝おうとしても虚しくなるだけか。

 

 しかし本当にわからない。

 とりあえずミラージュさん達と合流し、次の店へ向かうこととした。

 

 

 

 夕暮れ、ベンチに座って深くため息を吐く。

 結局、俺とハヤテは目ぼしいものを見つけられず、未だ手持ち無沙汰の現状。

 どうにもプレゼントというのはよくわからない。

 

 「......なあ、レイン。

 ウィンダミアって何があるんだ?

 フレイアのやつ、りんごのことしか言わねえからさ......」

 

 「あー......

 本当にリンゴしかないからなぁ......

 あと思いつくのといえば、発掘されるフォールドクォーツと、騎士団と、ルンと......」

 

 「そう言えば、レインのお父さまは空中騎士団に居たんですよね?」

 

 「そうだけど......

 今、どこにいるのかな。」

 

 ふと投げかけられた質問から、昔を懐かしむ。

 不器用な人だった、料理を作れば失敗して卵を焦がし、剣の扱いは美しいの一言で表せるのに、薪を割ろうと一度斧を持ち上げれば、薪では無く台座代わりの切り株が真っ二つ。

 

 それにあの人は、ウィンダミアの物の中で1番━━

 

 「「ああっ!!」」

 

 気づきを得て、ピッタリとあった歯車に思わず大きな声がこぼれた。

 どうやらハヤテも気づいた様子で、同時に立ち上がり合わせた目から同一のものと確信する。

 

 「ミラージュさん、荷物持って行って!」

 

 「は?

 一体何を......」

 

 「いいから持って行ってくれ!

 忙しくなる!」

 

 とりあえず物をミラージュさんへ託し、2人思い当たる場所へと走り出す。

 業者がまだ店じまいをしてないことを祈りながら走る。

 その顔に苦はなく、フレイアの喜ぶ顔を思い浮かべ、2人頬を緩めて走った。

 

 

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