「━━ただいまー......?
皆どこかに行っとるんかね?」
帰宅したフレイアが怪訝な顔をして、辺りを見回す。
暗い店内は物々しい雰囲気を放っており、まるで眠っているようでもある。
誰か居ないのか、と店内を探す為歩き出した瞬間、盛大なクラッカーの音が彼女の耳をつんざいた。
「どわわ、なんねなんね!?」
あまりの驚きにルンを飛び上がらせて後ずさる。
その驚きに満足したように店内の照明が光を取り戻し、末妹のエリザベスが音頭をとった。
「せーのっ!」
「「「お誕生日おめでとー!!」」」
これを持って、サプライズは無事成功という事になる。
「た、誕生日?
━━ああー! 今日、私の誕生日!」
まあ本人が忘れていたという事もあったが、成功は成功。
2人の欠員が居ながらも、誕生日パーティは最高のスタートを切った。
「......もうっ!」
電話を耳にくっつけて返事を待つが、通話が開始される事はない。
行方の知れない2人の准尉に、ウェイター姿の少尉は苛立ちを隠せない様子であった。
その後はこの類のイベントでは珍しく美雲・ギンヌメールが参加しワルキューレ勢揃い。
星団1豪華なバースデーソングに、思わずフレイアが感涙してしまうほど。
「メッサーくんも準備手伝ってくれて、ありがとう。」
「いえ......
隊長から全員参加と言われていましたので。
それに、クロニア准尉からも電話で。」
「レイン君が?」
「はい、『間に合わないかも知れないから、準備を手伝ってほしい』と。」
「ふふっ。
あの子、意外とマメなところがあるものね。」
こうして、
今はただこの瞬間を、メッサー・イーレフェルトとして楽しもうと思う。
「━━子供ん頃、戦争が始まって。」
フレイアが語り始めた、彼女がワルキューレオーディションに向かおうと思ったきっかけ。
辛い思いも悲しい思いも寂しい思いも、どれもこれも歌が吹き飛ばしてくれた。
歌は凄いと、そう思った。
だからこそオーディションに向かい、危険を冒してまで密航という手段を取った。
不思議とシンパシーを感じる。
俺もカナメさんの歌に何度も助けられたからこそ、ここにいる。
辛い気持ちも苦しみも、彼女が洗い流してくれた。
彼女達の、ワルキューレの歌は数多の人を救う歌だと確信している。
その挨拶の最中、場を荒らさぬよう忍び足で入ってくる2人組。
ハヤテとレインだ。
「どこに行っていたのか」とミラージュが問い詰めるが、2人とも「ちょっとな」とはぐらかす。
「━━私、今日で15歳になりました。
これからも悔いのないよう、ずっと歌い続けます!」
感動の涙を堪え、両手で作ったワルキューレサインを突き出した。
明るい笑顔が、部屋中を照らす。
「みんなー!
見てみてよ、外!」
まるで初めてのものを見たように、エリザベスが窓の外を指してはしゃぎ始めた。
ハヤテとレインの方を見れば、してやったりといった表情を見せて拳を突き合わせている。
扉を開けて外を見れば、ラグナに似つかわしくない一面の銀世界が広がっていた。
「雪......雪!
雪ごりー!」
まるでリンゴを目にした時と同じようなテンションのまま、フレイアはウィンダミア人特有の身体能力で銀世界に飛び込んでいった。
その後を追い、ハヤテも歩き出す。
「......お前たち2人のプレゼントか。」
「いや、これはハヤテのです。
俺は俺でちゃんと置いておきました。」
「そうか。」
手すりに肘を置き、まるで兄弟を見守るように2人を見つめるレインの頭に手を置いた。
鳩が豆鉄砲を受けたような顔をする彼を尻目に、子供達を見守るカナメさんの横へ立った。
震える手を押さえ、空を見上げて口を開く。
「......カナメさん、今日はお別れを言いに来ました。」
「え、お別れって......」
「俺の身体はヴァールに侵されています。
アルブヘイムの、あの時から。
でも完全に発症する前に聞こえてきたカナメさんの歌のおかげで、俺はこうして2本の足を使い立てている。」
「そんな......」
「ドクターからヴァールの発症と回復の繰り返しで内臓を損傷していることを聞いたときには、黙っているか迷いました。
だけど今日飛んでみて、仲間を......Δ小隊を信じてみたくなったんです。」
「じゃあ、どこの星に?」
「ララミス星系の星で、教官になる手筈になっています。
アラド隊長の計らいでジークフリードも持って行っていい、と。」
「そう......
━━戦争が終わったら、歌いに行くわ!
それまで向こうの星で、頑張ってね!」
「はい。
待っています。」
「......行っちゃうんですね。」
安らいだ表情で空を見上げるメッサーさんにコーヒーを手渡し、2人柱を背に座り込んだ。
少しだけ聞こえた2人の会話から、メッサーさんがΔ小隊を抜ける事はわかった。
でも、何故だろう。
望んだ事、彼が死ぬ事なく生きていってくれることは嬉しい事なのに、こうして別れが目の前に見えると、寂しさが募る。
「別に永遠に会えなくなるわけではない。
平和になれば、星を越えてまた会えるだろう。」
「似たような事、父さんにも言われました。
結局、貴方を越えられなかった。
果たしてこんな俺が白騎士に勝てるのかな......」
「━━お前なら出来るはずだ。」
びっくりした。
そう言って不安を打ち払った彼の顔は今までに見たことのないほどの笑顔で、カッコよくて、まさに憧れの体現。
そうだ、教官が出来ると言ってくれたのに自分が信じないでどうする。
コーヒーを一気に飲み干し、立ち上がって伸びをする。
「......そうですね、メッサーさんができるって言うなら出来るんだ!
俺たち頑張ります、だから...... だから、遠い星で見守っててください。」
「ああ、勿論だ。」
雪を踏み締め、チョーカーを外す。
後ろ側についた装飾品の瞳くらいのフォールドクォーツを引きちぎり、ポケットに入っていたチェーンと組み合わせてネックレスを作り、手渡した。
「粗雑ですけど......餞別です!
たまーにこれを見て、Δ小隊のことを思い出してくださいね!」
「......ああ。」
日が落ち切った空、裸喰娘娘の電気が消えた。
手負いの死神は空へ飛び立ち、それを見送る。
またいつか、会える日を手に入れるために。
俺の空を飛ぶ理由が、ひとつ増えた。