ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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残光のAXIA

 

 「━━今回のウィンダミアによる襲撃は、あくまで偵察の可能性が高い。」

 

 メッサーさんを見送って2日3日した頃、朝早くに惑星ラグナへウィンダミアの機体が現れた。

 白騎士を抜いた5人の騎士を相手に応戦、撃退したものの、その行動の真意までは計りかねる。

 

 それこそウィンダミアに支配されていないブリージンガル球状星団の主要な星はラグナと、アル・シャハルの2つ。

 

 順当に駒を進めてきたと言われれば頷くしかないが、なんとも言えない気持ちの悪さが胸元に渦巻いている。

 

 「問題は何を見にきたか、だが━━」

 

 「1機、隠れるようにして戦線を離脱する機体がありました。

 あの風は......恐らくですけど、テオ・ユッシラの機体です。  

 それこそ以前ワルキューレが出向いた遺跡の方に。」

 

 「......目星をつけてきた、というわけか。」

 

 じわりじわりではあるが、確かに近く、足元にまで音は近づいてきている。

 コツコツと響く、あのブーツの音が。

 

 とりあえず今日は解散となり、模擬戦のためドッグへと赴く。

 その道すがら、ハヤテと軽く駄弁っていた。

 

 「......にしても、メッサーのやつには驚いたよなあ。

 まさか()()()()()()で戦線離脱なんてよ。

 勝ち逃げされたみたいで悔しいけど、まあ仕方ねえか。

 ......レイン?」

 

 「え?

 ああ、胃腸炎ね!

 何にしたって病気は大変だからさ、遠い所でちゃんと治してくれることを願うよ。」

 

 結局、カナメさんと俺、アラド隊長とアーネスト艦長以外はメッサーさんがヴァールによって離脱したことを知らない。

 

 『頼む......!』

 

 メッサーさん最後の願いである以上、口を開くわけにもいかないだろう。

 

 「━━いなくなった彼の代わりに、俺たちが頑張んなくちゃ。

 空中騎士団にたいして1人少ないんだからさ。」

 

 「おう、空中騎士団に目にもの見せてやろうぜ!」

 

 抜けた穴を埋めるために、俺は手を伸ばす。

 めいいっぱい千切れるくらいに伸ばして伸ばして。

 そうしなければ、彼のいなくなったその隙間は、埋めるどころか隠すことすらできないだろうから。

 

 

 

 惑星アル・シャハル。

 砂漠が多く暑い日が続くこの星で、緊急事態と言って差し支えない出来事が起きていた。

 アイテールからの通信を、風の歌が響く頭で受け取る。

 

 「アル・シャハルでヴァール発生!

 新たに配備された統合軍も一瞬で敵のコントロール下に落ちた!」

 

 「━━風の歌、前よりハッキリと......!」

 

 以前よりも強く、しかし網をすり抜けるように細く。

 風の歌は頭に入り込む。

 

 「プロトカルチャーの遺跡が歌に反応しています!」

 

 ミラージュさんの報告を受けて下を見れば、確かに青白い光を遺跡が放っている。

 ヴォルドールでも見られた兆候。

 

 それに対抗するように流れ始めたワルキューレの歌、そしてそれを潰そうと現れた空中騎士団と交戦に入る。

 

 『くっ、こいつら......!』

 

 『挟み撃ちかよ!?』

 

 人数が1人減ったことによるディスアドバンテージは大きく、じわじわと押されていく。

 だがたった1人の不在を嘆き、後ろを取られている暇はない。

 背後についていたボーグを振り切り、チャックのフォローへと向かう。

 

 「やらせない!」

 

 『━━助かったぜ、Δ6!』

 

 上にして背後、落とすなら絶好のポジションについた。

 まるで犬の尻尾のように機首を振り回しながら狙いをつけさせないよう足掻いているが、その程度でロックオンを外すほどやわな操縦をしてはいない。

 

 コンテナに接続されたガンポッドを展開しトドメを刺そうとした瞬間、さらに上から横槍が入る。

 

 一瞬で喉元に突き刺さるような太刀筋。

 機体の色を見るまでもなく、キース・エアロ・ウィンダミア━━

 白騎士が来たと、心で理解した。

 

 「白騎士......!」

 

 「......死神、どこにいる......?」

 

 崩れた体制をガウォークを経由しながら立て直し、向かい合ってのドッグファイトが始まった。

 

 放たれる機銃をローリングで避けながら、誤差の許されない戦いが繰り広げられる。

 回避機動を描きながら機銃を放ち、互いに向き合った瞬間機体下部のガンポッドが火を吹いた。

 

 寸分の狂いもなく放たれたそれは激突し、視界を遮る黒煙を作り出す。

 煙を盾にロックオンを切り、リル・ドラケンを使った機動で背後を取られ、翼を撃ち抜かれた。

 

 「ぐううっ!」

 

 損傷こそすれ、欠損には至っていない。

 戦う意志を見せるが、白騎士の視線がこちらに向いていないことを、風を見て気付いた。

 こちらを見ずに意識を死神━━メッサーさんに向けていたと。

 

 「......くっそぉ!!

 振り切れない!」

 

 「少しは風に乗ったが......

 ! 来たか!」

 

 とどめを防ごうとバトロイドに変形しピンポイントバリアを展開したが、何故か不発に終わる。

 地上に着地し空を見上げれば、隕石のような輝き。

 

 「嘘だろ、あれは!!」

 

 今ほど目の良さを恨んだことはない。

 何故ここに来た、来てしまった。

 

 姻戚を思わせる光を発しながら現れ、スーパーパックをパージしたそのVFを誰が見間違えよう。

 

 パーソナルカラーの黒に、死神のマーク。

 

 「Δ2、エンゲージ!」

 

 手負いの死神が、空へ舞い戻ってきてしまった。

 

 「━━状況は聞きました!」

 

 『メッサー!?

 無茶な真似を......!』

 

 「俺はまだ、Δ小隊の隊員です!!」

 

 「何で......!」

 

 呆然としていた身体を叩き起こし、傷ついた翼を引き摺ってワルキューレ達の下へ向かう。

 先程戦闘中に見えた青い光、それに巻き込まれたフレイアと美雲さんが倒れたと通信が入った。

 ここが好機と狙う空中騎士団の攻撃を阻止するために飛び出した。

 

 動揺はある、困惑もある。

 だが今は、自分のできることをするしかない。

 

 ワルキューレに迫るドラケン3機に突撃し、1機の機首を掴み手刀で切り落とした。

 メッサーさんも参戦し、テオ・ユッシラの機体を撃ち抜く。

 だが隊列の真ん中、ボーグの射撃は止められず、ガンポッドの一撃がワルキューレに襲い掛かる。

 

 「ぐうっ!」

 

 防御に向かおうとすれば、ガラ空きになった足を撃ち抜かれ動きを止められた。

 ビームは速度を変えず、ワルキューレへと迫って行く。

 

 直撃するかしないかの瀬戸際、メッサーさんの機体がピンポイントバリアで攻撃を防いだ。

 離脱すら3機を尻目に倒れたジークフリードから降り、砂埃に塗れて倒れていたカナメさんを抱き起こす。

 

 ガウォークに変形して開いたキャノピーを見れば、顔に血管を浮かび上がらせ、瞳に血をたぎらせたメッサーさんが姿を見せる。

 

 彼は一つの決意をしたように、カナメさんに願いを託した。

 

 「━━歌ってくれ、カナメさん!」

 

 「メッサー君!」

 

 「歌ってくれ、俺がヴァールになりきる前に!」

 

 彼女は後ろを振り返った。

 フレイア、美雲。

 2人のエースは気を失い、歌える状況に無い。

 

 ならば。

 

 「━━わかったわ、メッサー君!」

 

 彼女もまた、覚悟を決める。

 今この時だけ、エースに返り咲くように。

 その覚悟に敬意を表し、彼は優しい顔で敬礼を見せた。

 

 「......ありがとう、カナメさん。

 レイン准尉、ワルキューレを頼む!」

 

 「はい!

 出来うる限りのサポートをします、だから......

 帰ってきてください!」

 

 こくりと小さく頷き、キャノピーが閉じる。

 流れ始めた音楽は彼のブレスレットにも入っていた、『AXIA』。

 

 飛び立ち向かってきた3機のドラケンが吐き出した小型機の射撃をスピードを落とさず避け切り、機銃とガンポッドの射撃で一瞬の内に殲滅する。

 

 残った2機のリル・ドラケンがメッサーさんを追おうとするが、それはザオ・ユッシラの機体にドッキングしていた物。

 すでにコントロールは奪っている。

 

 「なっ!?

 ......青騎士の息子か!」

 

 右手で飛行機の形を作り、彼の機体に随伴させる。

 網を抜けたなら、最後に残るのは白騎士のみ。

  

 リル・ドラケンを翼にドッキングさせ、コントロール権をメッサーさんに譲渡した。

 同じ土俵に立ったのなら、あとは自力の勝負。

 

 祈るように手を組み、死神と白騎士の、最後の戦いを見届ける。

 

 追う死神の放ったミサイルをリル・ドラケンの機銃で誘爆させ、作り出した黒煙の帳から不意をつくように、お返しのミサイルが放たれる。

 

 白騎士の反撃にも動じることなく全弾を避け、ターゲットをずらすことなく撃たれた機銃はミサイルポッドを撃ち抜いた。

 誘爆を避けるためにデッドウェイトになっていたポッドをパージし、その勢いのまま白騎士はシザース機動へと死神を連れて行く。

 

 撃ち撃たれ、撃たれては撃ち。

 互いに致命傷を与えられないまま、美しい軌跡が空を彩る。

 思わず「綺麗」と口にしてしまうほど美しく、流麗で、まるで命の残光が輝いているかのような。

 「今ここで死んでしまっても構わない」とでも言うような鬼気迫るマニューバが、流れる風を切り裂いて行く。

 

 次のステージへ命を散らすように、両者の機体が輝き始めた。

 機体全体を包むような黄金の輝き。

 空へ命の軌跡を描き、それと同時に均衡が崩れる。

 

 「もらったあぁー!」

 

 「くっ!」

 

 メッサーさんの一撃が白騎士の右翼に付いていたリル・ドラケンを撃ち抜いた。

 だが、爆風に機体を揺らし、その反動で機首を反転させて白騎士の放った機銃もジークフリードにドッキングされたリル・ドラケンを破壊する。

 

 爆風により炎の燃え移ったコンテナポッドをパージし、互いの機体が向き合った。

 決着が近づいて行く。

 

 「うう、ああぁー!!」

 

 叫び放った機銃が、残っていたリル・ドラケンという盾に防がれた。

 爆炎の影から、機首に取り付けられた機銃が正確にキャノピーへと迫る。

 

 「━━ダメだ!!」

 

 させない、ともう一つのリル・ドラケンのコントロールを取り、それを防いだ。

 一騎討ちに手を出したと言われるかもしれない。

 でも、だとしても俺は、自分の師に死んでほしくは無い!

 

 「青騎士の息子、再三この戦いの邪魔をするか!」

 

 「レイン......」

 

 「「うおぉぉ!!!」」

 

 シザース機動のまま、また幾度となくぶつかり合う。

 

 「私から、愛を盗む君が━━」

 

 ファイターと成り。

 

 「絶望するくらい、報われなくても━━」

 

 ガウォークで相対し。

 

 「ダイスキで、ダイキライ━━」

 

 バトロイドへ変わり、演武とみまがう苛烈な戦闘は終わりを迎えようとしている。

 2機のガンポッドが交差し、爆発した。

 

 「メッサーさん!」

 

 「メッサー君!」

 

 勝敗は、引き分け。

 互いにエンジンを損傷し、残光は消え落ちて行く。

 崩れ落ちるカナメさんを抱えて走り出した。

 

 何かを考えるより先に、あの人の元へと。

 

 

 

 「メッサーさん、メッサーさん!」

 

 出血し血まみれの彼の体を抱え、意識の覚醒を促す。

 閉じられていた瞳が開いた時の安心感は、何者にも変え難いものがあった。

 

 「メッサー君!」

 

 「......カナメさん、ありがとう。

 俺にとって、貴方の、歌は......

 ずっと俺の生きる意味であり、俺の命だった。」

 

 一つ二つ、雫が落ちた。

 それは彼の頬を伝わり、血と混じり濁っていく。

 

 「......レイン。

 助かった。

 それと、これを。」

 

 力無い手で渡されたのは、餞別として送ったネックレス。

 血に汚れ、黄色の鉱石は半分が赤く染まっている。

 

 受け取り、握りしめる。

 最後の時は刻一刻と近づいていた。

 

 

 「━━2人とも、あり、が......」

 

 彼の首が力無く曲がる。

 涙を零し立ち上がれないカナメさんに背を向けて、空を見上げた。

 視線の先には、2機のドラケンに抱えられて帰って行く白騎士の姿があった。

 

 「......うあぁぁあ!!!」

 

 自分の情けなさを嘆いた。

 もっとちゃんとしていれば、技量があれば。

 そんなことを考えても仕方ないと分かっているのに、頭の中を絶えず駆け回っているのだ。

 

 悲痛な叫びは空を裂き、何処までも響いて行く。

 

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