「おはようございまーす。」
クラゲ送りから1日、何事もなかったように出勤する。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこちらを見るハヤテ達の顔に微笑みを返してから、Δ小隊の制服へと着替えた。
胸ポケットには忘れずに、ラミネート加工をしてカードのようにした押し花を仕込んでおく。
「大丈夫なのかよ?
昨日のクラゲ送りにも来なかったのに......」
「もう大丈夫だよ。
色々託されたんだ、休んでる暇もなければへこんでる暇もない。」
「なら、いいけどよ......」
そう言えば携帯へ連絡が入っていた、とポケットから取り出して確認する。
そこにはカナメさんからメールで『明日、重要な作戦会議があるから、忘れずに来てね。
私も誰にだって負けないぐらい強く歌うから!』
と。
思わず笑みが溢れた。
同じ大切なものを失って、それでも前へ強く歩き出す仲間。
メッサーさんの思いを受け継いだ仲間からの言葉を胸に受け止め、会議部屋へと歩き出す。
「じゃ、先に行ってるね!
待ってるから!」
「......なんか雰囲気、変わりましたね。」
「おう、こいつぁまるで......
『夫に先立たれたがそれでも気張って元気に生きようとする未亡人』みたいになっちまったな!」
「何言ってんだ?」
「男ですよ......」
「ぐおっ、冷てえ!?」
珍しく、いつも使っている部屋とは別の会議室が賑わっている。
戦争が始まった初期に契約の確認をした場所でもあるここにはラグナ支部の人間だけでなく、他星の人間も数多くきていた。
マクロス・エリシオンの右腕、ヘーメラーに来ていた数多くの輸送船にも合点がいく。
「ほへー...... いっぱい来とるんねー......」
「なんたって、球状星団中の部隊や占領された星の生き残りが来てるからな。
ケイオスも一枚岩じゃあないってことよ!」
「━━あ、始まるみたいですよ。」
まるで自分のことのように語るチャックを鎮め、大きく広がったホログラムの下をくぐってくるアーネスト長官へ注目がかかる。
「諸君!
よく集まってくれた。
懐かしい顔も多数見受けられるが、申し訳ない事に今は昔話をしている暇はない!
早速始めさせてもらおう!」
前置きを極限まで減らし、最低限の照明も落とした部屋にとある星図が映し出された。
ただの星図に疑問の声がこぼれる中、その星々から放たれた光が線を結び、ある形を作り出す。
それはプロトカルチャーの遺跡を持つ惑星を頂点として結んだ結果、ブリージンガル球状星団内の星全てがその領域の中に包まれるという事実。
「これは、もし全ての星がウィンダミアに占領された場合に起こりうる最悪の展開。
星団70億の人間たちがヴァールと風の歌に怯え、兵士は操られる終わりへのシナリオ!
ウィンダミアがこのシナリオを完成させるために必要なのはラグナとアル・シャハルのみ、すでに秒読み段階に入っている!」
ざわつきが大きくなった。
そう、これは球状星団の正真正銘、危機。
人々が笑えないほどの不自由の中で辛うじて掴み取った自由が、無情にも霧散しようとしているのだ。
そのざわつきを諌め、艦長は神妙な顔で本題へことを進めた。
「そこで先手必勝、奇襲作戦をかける!
手始めにワルキューレの歌を伴ってヴォルドールへ攻撃を仕掛け、風の歌を誘う!」
「これまでの風の歌による攻撃が、24時間以内に連続で行われたことはありません。
おそらくはクールタイムが必要なのだと考えられています。」
「そのクールタイムを狙い、歌が聞こえてくる前にウィンダミアを━━」
突如、警報が鳴り響く。
それは空中騎士団の訪れを意味し、途端に緊張感が強まった。
来たか、と立ち上がり、自身の機体へ向かおうとする他支部の隊員たちへ、アーネスト艦長の怒号が響く。
「Δ、α、β小隊以外は、この場で待機しろ!
ここで諸君らが出ればこの奇襲作戦のために隊員を集めたことが露見する!
......やれるか、アラド。」
「ああ、勿論だ。
Δ小隊、行くぞ!」
「ワルキューレも!」
走り出しドックへ向かう最中、ミラージュがアラド隊長に呼び止められた。
何かヘマをしたかと振り返るが、何かを咎めようとは微塵も考えていないことをその表情が教えてくれる。
「━━ミラージュ、中尉に昇進だ。
本来なら奇襲作戦の時に伝えようと思っていたが、ちょうどいいと思ってな。
今回の防衛から俺の副官になってもらう。
お前がΔ2だ。」
「私が、Δ2......」
「俺は総司令官になった艦長の補佐として、作戦の全体を見る必要がある。
......お前に、Δ小隊を任せるぞ。」
「あっ......はっ!」
どこか嬉しさよりも困惑が強いミラージュの表情と、それを和らげようと見せた笑顔が交差した。
となれば俺たちも繰り上がり、ハヤテはΔ4、俺はΔ5。
重い重いこの繰上げを噛み締めながら、守るべき空へと舞う。
「レイン、取り敢えずお前のいう通り、全部マックスにしておいたが......
こんなの本当に操縦できんのかよ?」
「出来ますよ、人間はやろうと思えば前を向いてなんでも出来ますから!」
ガイさんとハイタッチをかわし、キャノピーを閉じた。
カタパルトに乗せられ、一斉に空へ飛び立つ。
ワルキューレの新衣装もお披露目だ。
「いけないボーダーライン」のイントロが、心を高鳴らせる。
「全機、フォーメーションエレボス!」
隊長のその一言で、それぞれがドラケンIIIと相対する。
「ふう......」
落ち着き払って、熱風放つドラケンの背中を追う。
おそらくはヘルマン・クロースの機体、ならばどこかで焦り粗雑な対応を仕掛けてくるだろう。
その一瞬を待ち、心を冷静一色に染める。
「くっ!
クレイルの息子め、前までの風とはまるで違う!?
別人か?!」
「......」
右に避けようとすれば右へ、左は避けようとすればコントローラーを右へ。
簡単なことだ、
なれば警戒するのはガンポッドの一撃のみだが、それは√機動で手を払うように避けられる。
「くっ!」
現状を打開するためにガウォークへ変形し、一度視線を切ってこちらを向いた瞬間。
お前は詰みだ。
「━━かかった!」
ガウォーク形態の背部に展開されたガンポッドをバトロイドへと高速変形して、回し蹴りを喰らわせへし折る。
その衝撃へ崩れたバランスを咎めるように右をミニガンポッドで、左をコンテナに接続したガンポッドで撃ち抜いた。
「があっ!
この数日でここまで......!」
「これで━━」
ピンポイントバリアを乗せた拳を慣性に従い落下する敵機へ突き出そうとするが、そのバリアは敵ではなく弾を防ぐために回される。
上空からの攻撃に右腕一本で防御姿勢を取れば、そこにいたのは黒い翼。
「来たか、白騎士!!!」
「貴様が死神との一騎打ちを邪魔した報い。
ここで風になる事で支払ってもらおう!」
ヘルマンのリル・ドラケンを奪い取り、翼へとドッキング。
離れる直前にその機体を下へ蹴り飛ばし、ファイターで白騎士の背中を追う。
もう前とは違う。
その背中に張り付き、何をしようとこの目で見抜く。
回避なんぞさせない。
リル・ドラケンの機銃も展開して強烈な弾幕で手ぬるい機動を咎める。
白騎士の風ごと切り裂き、その上部へと肉薄した。
互いにバトロイドへと変形し、剣とナイフがぶつかり合った。
風が深く交わる。
「俺の人生、最初で最後の敵討ちだ!
俺の勝ちで終わらせてもらう!」
「━━いいぞ!
お前も風を吹かせるか、暴風雨のような風を!!」
「うおおおお!!」
ぶつかり合う剣戟の中を、ハヤテのガンポッドが切り開く。
唐突な衝撃が両者を襲った。
「ハヤテ!?」
「レイン!
ここは2人で追い詰めるぞ!」
「......ああ!」
参戦したハヤテにスピードを合わせ、深いところで連携を取りながら白騎士の逃げ場を塞いでいく。
耐えきれず分離したリル・ドラケンにミニガンポッドを突き刺しながら、ピンを抜いた手榴弾のようになったそれを奴の進行方向に蹴り飛ばした。
起こった爆発を避けたところに、ハヤテが立ち塞がる。
もらった、と引き金を引こうとしたその時。
「地球人があああ!!」
「━━避けろ、ハヤテ!!」
「なっ、があっ!」
コクピット近くへ死角からのビームが直撃した。
高出力で放たれたその一撃は機体を貫き、黒煙を上げながら落ちて行く。
「とどめ......!
━━うあっ?!」
「邪魔だ、ボーグ・コンファールト!!」
狙いをつけたボーグの両腕をナイフで切り落とし、白騎士を尻目にハヤテの救出に向かう。
おそらくはもうもたない、脱出を促す。
「ハヤテ脱出!!」
「くっ、うおおお!!」
脱出の瞬間に放たれた爆炎に身を焦がしながら、ジェットパックを損傷したハヤテをその手に掴み、アイテールの上へ下ろした。
キャノピーを跳ね上げ、無事を確認する。
横からはフレイアの悲痛な叫びも聞こえてきた。
「おいハヤテ、大丈夫か!!」
「ハヤテ!」
「う、うう......」
傷つきながらも起き上がった彼の姿に、その場にいる全員が安堵の息を漏らした。
「不安にさせて!」と軽く頬をつねる。
「く、バッカ野郎......
白騎士に背を向けて助けに来るなんて、死ぬ気かよ......
メッサーにも、言われてただろうに......」
「目の前の敵より死にかけの友達を優先するのは当然だろ?
それに、絶対落とされないっていう自信が今の俺にはある。」
「はっ、言ってくれるぜ、親友......!」
拳を突き合わせ、空を見上げた。
やはり戦力は彼方の方が大きい、ウィンダミア人の強さが顕著に出ている。
すぐにでも戦線に復帰するべきだというのは、深く考えないでも理解できた。
仲睦まじげにフレイアと話していたハヤテがこちらを向き、グッドサインをしめした。
「よし、俺たちも行こうぜ!」
「行くって言っても、機体は?」
「当てならある!
最高のがな!」
少ししてカタパルトに現れたのは、VF-31
修復を急ぎ、緊急にハヤテ用のOSを移植した急造機。
彼は形を受け継ぎ、死神を背に空へ飛び立つ。
「ハヤテ、ボーグを頼む!
俺は白騎士を!」
「ボーグ...... このマーキングか!
わかった、やって見せろよ!」
「誰に言ってんのさ、親友!」
一本の草が枝分かれするように、それぞれ別のエリアへとと羽を傾けた。
「さあ、続きだ!」
「ようやくか。
来い、レイン・クロニア!」
正真正銘、一騎討ち。
思いを、誇りを、風をぶつけ合い、しのぎを削る。
シザースに突入し、機体性能抜きの実力の全てをぶつける。
この時を待っていた!
今まで細かにしか動かさなかったコントローラーを思い切り動かし、これから行う行動全てを本物に限りなく近いフェイントへと変えた。
「━━風が、読めん!?」
「真の覚悟はここからだ、キース!」
重ねて脚部コンテナから機動状態のドローンを取り出し、ブーメランの様に投げつける。
当然避けられながら反撃を受けるが、その程度くらいはしない。
ここからが真骨頂。
「くっ、これは......まるで道化師!」
操作権をワルキューレから俺に移し、手動で奴の機体へと襲い掛からせる。
蝗害を思わせるその光景は、白騎士の心へほんの一欠片だけの焦りを生み出した。
その焦りからくる苛烈な攻撃が、翼へ迫る。
「これが、殻を破った俺の覚悟だ!!」
エンジンを切り、暴風に乗ってふわり慣性のまま飛ぶ。
それは俗に『竜鳥飛び』と呼ばれるマニューバ。
1人ウィンダミアでたどり着いた、レインの中の飛び方、その答え。
「━━これだ、この暴風を!!」
「手に取るように、
お前の動きが!!」
機銃を放てばドローンの形をした蝗が襲い掛かり、リル・ドラケンを破壊する。
それでも白騎士は止まらず、爆炎を陰に一撃を見舞うが、その一撃は届く事なくローリングで見せた幻影に消えた。
その背中に一撃を見舞い、機銃が翼へかする。
反撃を加えんと急ブレーキを踏んで上を取った白騎士を追う様に、互いにガウォークへ変形して向かい合った。
「「うおおおお!!!」」
ガンポッドから放たれたビームを残っていたリル・ドラケンで防ぎ、爆炎の影からバトロイドが現れた。
背部ガンポッドを蹴り飛ばし、足掻き撃とうとした腕部機銃を蹴り上げて、腕部ミニガンポッドを左肩へと突き刺し、トリガーを強く引いた。
「俺
翼をもがれ、黒い鳥が落ちて行く。
抱えられて逃げて行く空中騎士団を見送って、最初で最後の敵討ちは終わりを告げる。
夕焼けの空、太陽へ向けて手首に巻いたネックレスを掲げた。
「━━俺は!
貴方を...... 越えれたよ、メッサーさん!
ありがとう、また、いつか!!」
評価等、よろしくお願いします。