ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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動揺 アイソレーション

 

 暗闇の続く無限の宇宙。

 その黒色の海原を行くアイテールの中で、目的地までやることもなく艦内をうろつく。

 やることが無いとはいえ、別に脳死で散歩をしてるわけでは無い、ちゃんと考えることは考えている。

 

 先のラグナでの戦闘中、おかしな事に風の歌が流れなかった。

 

 余程のことがあったのか。

 美雲さんは作戦会議にて、「あれほどの力を持つ歌、歌い手にも相当の負担がかかるはず」と言った。

 ということは、アル・シャハルでの戦闘にて歌えなくなるまで喉を震わせたのだろうか。

 考えど考えど、結局は個人の妄想の域を出ない。

 

 俯きながら歩いていると、同じく俯いたままの人間と頭から激突した。

 

 「あうっ!」

 

 「ふぎゃ!」

 

 鈍い音と共に2人で縮こまり、痛みに悶えて呻き声を上げる。

 

 滲む涙を袖で拭き取って顔を上げれば、そこにはルンを濁らせたフレイアの姿があった。

 ルンを見た視線を滑らせる様に頭を押さえる手に向ければ、そこにあったのは彼女の歳では()()()()()()()()()()()

 

 痛みも忘れて手を伸ばし、それが発生した手の甲を近くに寄せた。

 

 「なんで?!

 ━━なんでフレイアに、()()()が?!」

 

 綺麗な手を遡るように彼女の表情を見れば、驚いたような、恐怖しているような顔がこちらへと向けられている。

 

 

 

 結晶化。

 それはウィンダミア人の寿命が近づくにつれて発現する、皮膚が硬化した白い結晶。

 多くは20歳後半、大体27くらいから現れる死の予兆。

 だが目の前にある一部分が白く染まった女の子の手は、まだ16年しか生きていない。

 

 ベンチに座らせた彼女にリンゴジュースを手渡し、その隣へ座った。

 重苦しい雰囲気の中、最初にフレイアが口を開いた。

 

 「......アル・シャハルで、美雲さんと一緒に風の歌い手の記憶を見たんよ。

 燃える村、銀河...... 地面を抉って空いた、大きな穴。

 暗くて寒くて、怖くて。

 起きてみんなが近くにいたから安心したら、手にこれが......」

 

 「今からでも遅くない、医者に診てもら━━」

 

 「それはダメ!」

 

 力強く否定がぶつけられた。

 たじろぐ俺を尻目に、彼女は真っ直ぐ伸びる若芽のように前をみた。

 目には覚悟が宿っている。

 

 「あたしはここで、歌うのをやめたくない。

 ハヤテに、みんなにワルキューレのフレイア・ヴィオンとして歌を届けたいから!

 ......だから、レイン。

 この事は()()()()()()()()くれんかね。

 お願い。」

 

 まただ。

 また秘密を暴いてそれを隠してと頼まれた。

 何回同じことを繰り返すのだろうと、少しだけ自分のことが嫌になる。

 

 「......わかった。

 でも、せめてステージに出る時はそれは隠した方がいい。

 ばれたくないんでしょ?」

 

 「......うん、あんがと。」

 

 秘密を暴いて、なおそれを隠す。

 その行為は最早逃げなのかもしれないと、思わないわけではない。

 だけど俺はこの生き方を変えることなどできないであろうと、2人リンゴジュースでのどを潤しながら確信した。

 自分の生き方を自分1人くらいは肯定してやらなければ、何にしたって報われない。

 胸を張って生きて行くしかないのかもしれない。

 

 

 

 緊急の集合がかかり、緊張の走る中で深刻な顔のアラド隊長がその姿を表した。

 息を飲み、その口が開かれるのを待つ。

 

 「......アル・シャハルとラグナが陥落した。」

 

 「なっ!?」

 

 ざわめきが場を支配する。

 確かに、今ラグナにはマクロス・エリシオンの姿はない。

 俺たちが乗り込み今ウィンダミアへフォールドするのに最適な場所へ向かっている最中だ。

 

 だとしても、ラグナには星団中の生き残り。

 平たく言ってこの戦場を生きてきた精鋭がいたはずなのだ。

 それがこの短い間で陥落するなど、考えられない。

 

 「やられたな、ついこの前ラグナへ来た空中騎士団......

 奴らはいわば囮だった。

 奴らの思惑は、俺たちに敵方の戦力を空中騎士団の少数のみと思わせることだったんだろう。

 俺たちはその思惑にまんまとハマり、こうして宇宙へ飛んでラグナとアル・シャハルへ今まで見たことのないほどの戦力を向けてきた。

 ハインツ王の作戦か宰相の思惑か、どちらにしても知恵比べに俺たちは負けた、ということだ。」

 

 「じゃあ、マリアンヌや弟妹達はどうなったんだよ!?」

 

 チャックが珍しく声を荒げる。

 それもそうだろう、自身の預かり知らぬところで家族がヴァールになっているかもしれないのだ。

 気が気でないという気持ちは痛いほどわかる。

 

 だが、今引き返すわけにもいかない。

 ここで引き返しラグナへ戻っても、文字通り飛んで火に入る夏の虫。

 一網打尽でブリージンガル球状星団はウィンダミアの掌だ。

 

 アラド隊長は深刻な面持ちのまま、また口を開いた。

 

 「......無事だ、潜ませておいたケイオス(うち)の職員が迅速に身柄を護衛している。

 特別顔が割れているわけでもない、Δ小隊員のきょうだいだからと何らかの攻撃を受けることもないだろう。」

 

 「それなら......よかったぜ。」

 

 安堵の息を漏らすチャックに対して、隊長は未だ深刻なまま。

 その表情に疑問を抱いていると、アーネスト艦長が扉を潜り現れ、衝撃の事実を口にする。

 

 「......アル・シャハルにて、反応弾の使用が確認された。

 どうやら駐留していた統合軍が遺跡に対して使用し、敵味方共に相当な被害を出したらしい。」

 

 反応弾。

 絶大な威力を持ち、古くは対ヴァジュラ、対ゼントラーディとの戦闘にも使われた強力過ぎる兵器。

 宇宙ならともかく、星の中の大地でそれを起爆させればどうなるか、想像に難くない。

 

 モニターに映された画像には想像通り巨大な穴が一面の砂漠に一つの杭を穿っている。

 

 「プロトカルチャーの遺跡はその爆発によって共鳴し、巨大なシステムを現出させた。

 これにより、ウィンダミアの制風権は確立されたと言って間違いないだろう。」

 

 「作戦はどうするんです。」

 

 「それについては追って報告する。

 今はただ体を休めておけ、解散!」

 

 暗黒の海を掻き分けて、エリシオンは泳いでいく。

 どこに行くかも、何をするかもわからない本当の暗闇の中を、ただゆっくりと。

 

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