『━━陛下はあまねくその風の歌で、球状星団を奪い返してくださった。
制風権は確立されたのだ!
今こそ、淘汰されてきた人々のために宣言しよう...... 正義は我らにありと!
これがその証拠である!』
銀河ネットワークをハッキングし、流れ始めたウィンダミアの演説。
宰相、ロイド・ブレームが見せたその映像は、銀に色めく古きウィンダミアの空を、新統合軍のVF-22、シュトルムフォーゲルIIが悠々と飛行する姿。
その姿を見て数秒、マキナさんが誰より早くその装備の異常性に気づいた。
「━━機体の下についているこれって......
まさか、次元兵器!?」
その疑問を唱えたマキナさんへ視線が集まると同時に、映像内の兵器が起爆した。
それはアッと言う間に空を、山を、落とした機体をも巻き込み、全てを破壊する。
その爆風の色、覚えている。
父さんの誕生日だったのだから忘れもしない。
家から見えたあの爆風は、本当に全てを終わらせたのだ。
『次元兵器で我らの大地を穢したのは、新統合軍である。
彼らはこの虐殺を我らになすりつけ撤退、その後も巧みな情報操作でウィンダミアを苦しめた!
その上、未だ全銀河を支配下に置こうとしているのだ!
彼らの暴挙を止め全銀河を救うには、統合政府の中枢を叩くよりは他ない!』
聞くに堪えない演説だった。
携帯の電源を落とし、その場を後にする。
━━もし、このままウィンダミアが勝利宣言を下し、ブリージンガル球状星団における戦争が終わりを告げていたなら、申し訳ないが俺は安堵していただろう。
至極単純、もう戦闘で命を落とす民間人がいなくなるからだ。
だが彼らは、「まだまだ死者を増やす」と戦争の延長宣言をしたのだ。
自星と統合政府の間で決着をつければいい事柄を星団中に広げ、今度は全銀河に広げるつもりでいる。
誰も安心して眠れない、明日には友達が死んでいるかもしれない恐怖に怯える日々を押し付けるつもりなのだ。
結局、使命感で動く人間と、それに対抗する人間の間の争い。
それで1番辛く大変なのは、知らず知らずのうちに巻き込まれた何も知り得ない人間たちだ。
「......ああクソ!」
風の歌に反応して星々に現出したプロトカルチャーの遺跡。
それらが増幅して頭に響かせる無垢なる歌に、怒りの矛先をぐねぐねと曲げ、結局手近な壁に拳を叩きつけるにとどまった。
少しの時間が経ち、デブリと化した艦隊が転がる宙域へとΔ小隊が到着する。
『ひでえ......』
「......こんなの、大義を盾にした虐殺じゃないか。」
救助信号に導かれ到着したはいいものの、ここにあるのは既に残骸のみ。
生の気配を全く感じられない、まるで爆撃機が通った後のような場所でレーダーを全開にしてどうにか生存者を捜索した。
『━━こちらΔ4、生存者確認!
救助に向かう!』
2時間探して、結局助けられたのは1人のみ。
ゼロかイチかで言われればそれはイチの方が良いのだろうが、それでもこの惨状に絶望よりの悲しみが心は突き刺さる。
イチはイチでもこの状況は、100失ってから0.1を拾い上げたようなものだ。
「お前は......ロバート・キノ!?」
「その声、アラド......
アラド・メルダース、か......?」
「知り合いですか?」
「まあな。
何があった?」
どうやらそうらしい。
人間というのは思わぬところで繋がりがあるものだと感心しながら、彼、キノの上着から溢れた写真入りのロケットを拾い上げ、胸に置き直した。
「ああ、すまない。
......一瞬だった。
たった一機のドラケンが、風のように......」
「━━白騎士の奴だ。」
思い当たる節がありすぎる。
七機の戦艦で構成された部隊の隙間を縫い、たった一機で蹂躙できるパイロットなど、ウィンダミアには白騎士しか居ない。
風に愛され、空より恩寵を授かった男は未だなお、その力を鋭く尖らせ続けている、ということか。
細々とした声のキノを気遣い、隊長がドクターへとすぐに医務室へ搬送するように急かした。
しかしキノはそれを静止し、ハヤテに向けて感謝の言葉を送る。
「君のおかげで助かった、名前は?」
「ハヤテ、ハヤテ・インメルマン。」
その名を聞き、彼は明らかに動揺した。
まるでここにいるはずない幻影に驚かされた時の顔のように、頬から冷や汗を垂らしながら。
「インメルマン?
......まさか、ライト・インメルマンの......」
「え、親父のこと、知ってるのか?」
「アラド、お前どうしてあんな男の息子と......!」
アラド隊長の方に視線をやれば、予想外なことに対する焦りの汗がこめかみ近くを撫でる。
その汗が意味するところは何なのか、今はまだ、Δ小隊の大半が知らない事だ。
「あっ......
すまん、なんでもない。
助かったよ。」
キノはすぐさまに平静を取り戻し、視線を合わせぬままハヤテに簡素な礼を伝え、隔壁の向こうへと消えていく。
格納庫では異様な雰囲気が、Δ小隊を中心に作り出されている。
「......なんだよあれ。」
「さあな、親父さんとはウマが合わなかったんだろう。」
「あんたも親父と知り合いだったのか?」
「まあな。
親父さんは俺たちと同じ空を飛んだ、パイロットだった。」
「何で黙ってたんだよ?」
「そりゃあ......
聞かれなかった、からだな。」
この世には聞かない方がいいこともあるのだろう。
物憂げに俯いた隊長の表情からは、どこか諦めに近いような感情が読み取れた。
はあ、とため息を吐き、ハヤテの背中を叩いて歩き出した。
止まっていても仕方ない、今を生きているのだから前へ進まなくては。
「いって、なんだよ?!」
「ハヤテはハヤテだろう?
ひさびさにお腹減ったから、裸喰娘娘にご飯食べに行こうよ。」
「......分かったよ、ミラージュも行こうぜ。」
「ええ。」
2人を先に行かせ、振り返って隊長に目配せする。
これっきりだ、と。
彼は悪戯に笑い、俺たちと違う方向へ歩き始めた。
今はその時では無いというのなら、それを受け入れよう。
ただ、その手法はのちに自分の首を絞めることになることへの覚悟は、必ず必要になるが。