「もう一度、ヴォルドールに?」
会議室の中で事を聞く。
モニターにはヴォルドールの遺跡に出現した巨大システムの画像が写っており、夕焼けの陽を受けて紫に奇しく色めく前時代の遺産は雄々しく天をついていた。
たしかにそこへ潜入し、実際触れて確かめて見ないことにはアレが『銀河に歌のフォールド波を響かせる』以外の事は知りようも無い。
だが、ヴォルドールには既に潜入している。
その際はいとも容易く潜入を看破され、俺は手と腕を、メッサーさんは二の腕を負傷した。
正味、いい思い出は無い。
それに━━
「......メッサーさん。」
どうにも、彼の顔が浮かんでしまう。
後悔は常に背後をついて周り、些細な引き鉄で心を襲うのだ。
それはカナメさんも同じ。
何にもならないと分かっていても、つい、下に視線を落としてしまう。
「また猫惑星に潜入だってよ?」
「......ふぇ!?
あっ、そ、そうなんね......」
「どうしたよフレイア、なんか最近変だぞ?」
やれやれと言った風にフレイアに語りかけたハヤテの言葉を、彼女は上の空といった感じでスルーしかけた。
素っ頓狂な声をあげて宙に浮かんでいた魂を引き戻し、どこかうわずった声で当たり障りのない答えを返す彼女に、ハヤテは体調でも悪いのかと怪訝な顔でフレイアを見つめた。
よく見てみれば彼女の顔は紅潮し、ルンは小さく明滅。
やはりと言うか何というか、この前の誕生日から彼女のハヤテに対する心は変わったように思える。
前に彼女の結晶化について話したときも、何より先にハヤテの名前が出てきていた。
......それが、まあ所謂恋、という奴ならば俺は応援するけれど。
問題はハヤテがフレイアの事を仲のいい女友達ぐらいにしか思ってなさそうなところだ。
「でも何でヴォルドールに?」
「協力者がいるの。」
と、他人の色恋に思考を回すのは終わりにして、本題へ頭を戻す。
マキナさんが問うた何故ヴォルドールなのか、と言うのは自分も気になっていた。
先も言った通り、俺たちは既にその星へ潜入している。
1度はともかく、2度目に関しては絶対に侵入させまいとするウィンダミアの気持ちもあるだろう。
どんな星より、今はそこに侵入するのが困難な筈だ。
しかし、カナメさんは協力者がいる、と言った。
「あ、この人...... あの子供たちの。」
映し出された画像には、ヴァール特有の血管の隆起が無くなり、エースとしての矜持を取り戻した表情の新統合軍、アルフレッド・ララサーバル大尉。
どうやら彼女が言うには、ワルキューレの歌で抗体を手に入れた数人がウィンダミアに対しレジスタンス的な活動を行なっているらしい。
それに加えて、現在ヴォルドールの駐留ウィンダミア軍は拡大した戦線の維持の為に数を減らしているとのこと。
「たしかに今行った方がいいのかも知れませんけど......
軍が完全にいないわけではないですよね?
降下方法はどうするんですか?」
「ああ、一筋縄では行かないだろう。
━━そこで、だ!」
自信満々にお出しされた隊長の作戦。
それは驚くほど有効で、まさに発想の勝利と言えるものだった。
「━━うおっ、ワルキューレ!?」
「何だ?!」
銀河ネットワークから配信される天気予報やニュースはノイズと共に一時中断。
歌と共にワルキューレのロゴが映し出され、そのロゴを貫き突き出された剣から放たれる炎は、人の形を取った。
まさに
「「「「女神の歌よ、銀河に響け!」」」」
興奮と熱狂が、支配された星を包んだ。
燃え上がった種火を消さぬように、さらなる燃料、新曲『チェンジ!!!!』が始まった。
直接その端にいないと言うのに、映像を見るだけで身体が燃え上がる。
だがこの配信、ただ市民を勇気づけるだけのものではない。
配信データにはレイナ特性の自立型ウイルスが仕込まれており、それが銀河ネットワークに繋がっているありとあらゆる通信デバイスに感染。
指数関数的に増殖し、全てに侵食していく仕組み。
これによりウィンダミア側の電子機器にもワルキューレの配信が映し出され、その影に隠れて俺たちはヴォルドールに潜入出来る、という作戦。
「やりすぎじゃねえの?」
「案ずるな、ちゃんとその分のサービスも用意してある。」
確かに、ハヤテの言う通りやり過ぎな面も否めない。
だがちゃんと文句が出ないようにやっている、と隊長は言う。
モニターを見れば、映像内のマキナさんの胸に謎のリンクが記されており、それをタップした人の元には何というか......
少しいかがわしい映像が映し出された。
男たちは目をハートにしてそのリンクを連打する。
「ま、こんな感じで映像コンテンツの販売もできるって寸法だ。」
「......よくやるよ。」
ため息を吐きながら、その視線をライブへと戻した。
熱狂もライブも未だ終わる気配はなく、その歌は銀河へ力強く響いている。
「ん。」
「お、ありがとな。」
自販機で適当な飲み物を買い、ハヤテの方へ放った。
先程フレイアが歩いて行った道を指差し、そっちへ向かう事を促した。
「俺の奢りだから、フレイアに渡しといてくれる?
ハヤテの方が彼女も喜ぶだろうから。」
「何だそれ。
まあ、今度俺からも何か奢ってやるよ!」
走っていく彼を見送り、自分のものを購入して差し入れに向かう。
少し歩けば、タオルで汗を拭き休憩中のカナメさんがいた。
「差し入れです。」
「あっ、ありがとう、レイン君。」
隣にあった小さな段差に座り、天井から降る光を手で遮った。
「カナメさんの歌、とっても良かったです。
力強さと言うか何というか...... 美雲さん達にも負けない何かを感じました。」
「うん......
私も、メッサー君に誓ったから。」
「......正直、ヴォルドールに行くのが怖いです。
ずっとよぎるんです、後悔だとか何だとか。」
「わかるけれど...... それでも私たちは進み続けなきゃ。
託されたんだから、ね?」
「......はい。」
少しして、エリシオンのブリッジから銀河ネットワークへの侵食率が100へ到達したことが報告された。
同時にワルキューレのライブもフィナーレを迎え、汗を流して歌い続けた彼女たちへ尊敬と労いの拍手を送る。
だが、これで終わりではない。
ここからが作戦の本題、ヴォルドールへの潜入だ。
アイテールの区画へ足を運び、会議室でそれぞれのグループ分けを行う。
しかし、ハヤテが遅い。
トイレに行ってから結構経つが未だに現れる気配がなく、腹でも痛めたかと心配していると、鬼の形相で扉を開いて彼は隊長に詰め寄った。
「━━どういう事だよ?!
俺がウィンダミアと関わったらダメって、どういう意味なんだよ!」
強い疑念が込められたその言葉は、その場にいる全員に困惑を生んだ。
それを気にする様子もなく、ハヤテは重ねて捲し立てる。
「あんたとキノ少佐と親父は、ウィンダミアに居たんだな?」
「聞いたのか?」
「親父が何だってんだよ一体?!」
きっとこれは、先日隊長が誤魔化した事。
よほどの事なのか隊長の顔には一切の余裕がなく、憂いに満ちた表情で問われたことに対し事実を返した。
「━━ウィンダミアに次元兵器を落としたのは、
......お前の父親だ。」
あまりに強すぎる衝撃。
あのVF-22に乗っていたのは、ウィンダミアに癒えない禍根を残したのは、ハヤテの父親だと。
誰しもがショックを受ける。
Δ小隊も、ワルキューレも。
ハヤテ本人も、被害を受けたウィンダミアに生きていた、フレイアも。
「ハヤテは、どっちだ?」
「......何が。」
「ハヤテ・インメルマンというただの人として飛んで来たか、ライト・インメルマンの息子として空に魅了されたか。」
「......」
「前者だって言うなら、気負うな。
人には
お父さんがハヤテにパイロットだと教えなかったのは、仲間を討たれた怒りとか何だとかを持って行ってほしくなかったからだろう。
君はライト・インメルマンの息子の前に、ただのハヤテインメルマンなんだから。」