ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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問答 オプティミズム

 

 「不吉ない雨......」

 

 ヴォルドールの空は太陽を隠し、しとしとと落ちる水滴が土を泥濘ませる。  

 レインコートで身を隠していても、天候に便乗して吹く低い気温は肌を指すように冷たい。

 

 今回はレイナ、マキナさん、チャックとの4人グループで潜入している。

 とは言っても別に俺たちがハッキングするわけではない。

 主にΔ小隊は荷物持ち、やるべき事はその道のスペシャリスト(レイナ・プラウラー)がこなしてくれる。

 

 幸いというか、遺跡が現れたことによる地形変化は少ない。

 地図を作る手間が省けたのは幸運だった。

 機材を木の幹に設置して、作業を進めるを

 

 「よし、これで迷子にならなくて済むな。」

 

 「......一安心、ですね。

 でも、警備を掌握していると言っても少し静かすぎる気もする。

 不穏だな......」

 

 「気にしなくてオッケー。

 私のウイルスはチクチク、ウィンダミアには破れない......!」

 

 「レイレイカッコいいー!

 そういう一面もきゃわわー!」

 

 何度目かな、もう回数を忘れるほど見たこの2人の絡みに苦笑いをする。

 でもまあ確かに、レイナのウイルスは凄いものだ。

 俺のVFに積んである対無人機(ゴースト)、対ヴァール用のウイルスにはかなり助けられている。

 実績のあるものだから大丈夫だろう。

 

 「じゃあ行きましょうか、遺跡に。」

 

 気を取り直し、目標に歩き始める。

 心の隅に不安を残したまま。

 

 

 

 「━━あれ?」

 

 「お、どうした?」

 

 今俺は、手元のデバイスでそれぞれの場所を確認している。

 誰が遺跡についたとか、誰に異常事態が起きたなどを発信機で確認していた、のだが......

 

 「いや......フレイアとハヤテが離れ過ぎてる。」

 

 「トイレじゃねえの?」

 

 「だとしても、お互いに逆の方に歩いてるのはおかしい気がする。」

 

 考えうるのは別れて道を探しに行ったとか。

 だが、フレイアはそういうのが得意な人間ではない。

 居場所がバレれば失敗の作戦である以上、彼女は周りのことを考えて無理はしないだろう。

 

 だとすれば何か、予想だにできない()()が起きているのでは?

 ......ハヤテのお父さんの事もある、心配でならない。

 

 「俺、ちょっと様子を見てきます!」

 

 「あっ、おい!

 ......2人分の荷物はきちーぞぉ?」

 

 荷物をチャックに押し付け、発信器の示す方へ走り出した。

 少し小刻みな動きを見せ、あるところで止まった。

 何も起きていないことを祈り、雨と同化しながら落ちる汗を尻目に走る。

 走り走って木々を抜ければ、前線基地を思わせる簡素な倉庫。

 

 その中を見れば焼きリンゴと......

 

 「......何やってんすか?」

 

 それを頬張るカシム・エーベルハルトと、その人と仲良さげに地元話をしているフレイア。

 俺の心配を返してくれと言いたくなる気持ちを抑えながら、両手を上げてドン引きの声が出た。

 

 「え、レイン!?」

 

 「......敵意は無いのか?」

 

 「━━フレイアが変な動きをして、それが心配で走り出したから武器なんて何も持ってない。

 もし人質になってるようなら俺が代わるって言おうかと思ってたんだけど......

 まあ、安心したよ。」

 

 「うう......」

 

 どうせ剣を向けられれば、この至近距離でウィンダミア人のそれを避けることなんてできない。

 逆らうつもりはなく促されるままに箱の上へ座った。

 

 「そう言えば、レインはどこの村に住んどったん?」

 

 「村って...... ああ、ウィンダミアでの事か。

 ウェアデール村って名前だった気がするなあ。」

 

 「ウェアデール? エクスデールの山向こうのか?

 ならクラウス兄さんを知っとるんか?!」

 

 クラウスなんて懐かしい名前。

 もちろん覚えている、俺が村に来て最初は優しくしてくれた人たちの1人だ。

 あの人が作るリンゴジュースは凄い。

 その辺の人間が作るのでは、まして量産品ではあのリンゴの香りを最大限に引き出したあの液体を作ることなど無理だろう。

 

 「もちろん知っているよ、あの人の作るリンゴジュースを越える香りには出会ったことが無い。」

 

 「おお、香りだけじゃのうて、味も絶品でなぁ。

 品評会のジュース部門は1位を取るよりも2位3位を争う世界になっとったもんよ。」

 

 ふと、急にカシムが笑い出した。

 その理由は...... まあ、わからないわけじゃ無い。

 殺し合っていた敵が地元の話がわかるやつだと知れば、なんだか馬鹿らしくなるものだ。

 

 「━━よし、食え。」

 

 「ありがたく。」

 

 串に刺されて良い色に染まった焼きリンゴを差し出され、疑うことなくそれを受け取った。

 今日ぐらいは、今まで避けてきた焼きリンゴを食べてみるのも一興だろう。

 

 「んでな、ウチの村とウェアデールの間で結婚したエーリカの三兄弟が、こりゃ手のつけられんやんちゃ坊主どもでなぁ!」

 

 「あー、あの三兄弟凄いっすもんね。

 俺もよくいじめられてましたよ。」

 

 「嘘、レーブングラスに婿入りした時には借りてきた猫みたいやったよ?」

 

 「あの三兄弟が借りてきた猫とは、見逃したのが悔やまれる!」

 

 

 そこそこ楽しいひと時だった。

 それゆえに、なぜウィンダミアと俺達は戦わなくてはならないのか。

 戦争を終わらせて、そこで終了ではいけなかったのか。

 疑問は募る。

 

 「━━フレイア!!

 って、なんでレインも!?」

 

 「ふっ!」

 

 終わりと言うのは唐突にやってくる。

 銃を構えたハヤテがそれをカシムに向け、今にも引き金を弾かんと言う剣幕で現れた。

 だがそこへいるはずのない(レイン)と言うイレギュラーがあった事で隙が生まれ、見逃さなかったカシムに一瞬で無力化される。

 

 「お前も来ていると思っていた。

 ......まあ、座れ。」

 

 「ぐっ、はぁ?」

 

 今の彼は騎士ではない。

 だからこそ殺さないし、俺たちを連行する事もしない。

 先程までの表情から一転、覚悟を問う漢の顔でカシムはこちらを見つめた。

 

 「システムの破壊。 

 それが、お前(フレイア)の出した答えか。」

 

 見透かされていたと言う事実に驚きはない。

 少数で潜入し、遺跡近くに肉薄していると言う情報があればすぐに判断できる事だ。

 俯いたフレイアに対し、カシムは優しく詰めていく。

 

 「ウィンダミア人はウィンダミアの風にしか生きる事はできん。

 まして、お前の隣にいるのは地球人だ。

 このままでは辛くなるだけだぞ。」

 

 「何を勝手に......」

 

 「地球人、年は幾つだ。」

 

 不満を声に込めて反論しようとしたハヤテを遮り、カシムはその年齢を問うた。

 「17」と帰ってきた年数に感慨深い顔で胸元から写真を取り出し、それを見せる。

 

 小さな子供が、青空の下でウィンダミア式の敬礼を行う姿。

 彼の息子で、生まれたのは彼がちょうど17の時。

 

 ウィンダミア人は時の流れが他星人とは全く違う。

 平均年齢は30であり、それゆえ結婚は10代前半に行う者が多数。

 フレイアのように15まで独身なのは少数派なのだ。

 

 彼は言う。

 ウィンダミア人は親からリンゴの苗木をもらい、それを生涯かけて大事に育てる。

 自分が父親から譲り受けたのは6歳の頃。

 父は育ったリンゴの木を見て風になったが、自身はたとえ今から息子に苗を渡そうとも、実がなるのを見届けることすらできないかもしれない。

 

 それは地球人とウィンダミア人の決定的な違い、相容れないもの。

 言ってしまえば、『アラサーになってしまった、焦っても仕方ないから明日から頑張ろう』が地球人。

 『アラサーになってしまった、いつ風になってこの世をさるかわからない、今日子供に何かを残せるよう頑張らなくては』がウィンダミア人だ。

 

 時間に対する認識、重きを置く点がズレている。

 だからこそ、彼はフレイアを心配している。

 流れる時の違う他星では生きづらくなるだろうと、「国へ帰れ」と、「自分が力になる」とまで。

 だが。

 

 「━━帰らん!」

 

 彼女には一緒に歌いたい人がいて、歌いたい歌があって、その歌を聴いてほしい(ハヤテ)がいる。

 彼女にとっての安息の場所。

 彼女が生きる風が流れる場所は、ワルキューレなのだ。

 

 「だが俺たちの時間は、地球人と歩くには短過ぎる。」

 

 「━━だったら、何倍も何倍も、()()()()()()()()な時間を過ごせば良いじゃねえか!」

 

 ハヤテの言ったその言葉は、若さ故の楽観かもしれない。

 それでも短い時を存分に楽しみ、生きると言うのは、短命な者が出来うる最高の人生なのだ。

 

 フレイアもその道を歩く事に迷いは無い。

 その証拠に、ルンは曇天を照らすように光り輝いている。

 

 

 「━━警告音?!」

 

 瞬間、歌と共に警告音が倉庫内に響いた。

 この歌声はおそらく美雲さんのものだろう。

 

 「行け、俺が騎士装束(これ)を着る前に。」

 

 「見逃してくれるんかね?」

 

 「......俺も何が正しいかはわからん。

 だが、戦いを終わらせさ白き翼に戻るため。

 白い花咲くリンゴ畑に戻る日まで!

 ━━俺は、翼の騎士だ。」

 

 俺は、その姿に、本当の騎士を見た。

 戦争の最中でありながらも自身の心を強く持ち、たとえ敵であろうとも誇りを持って接するその姿。

 黒く染まってしまった空中騎士団の、白の姿。

 

 「青騎士の息子...... レイン・クロニア。

 ヘルマン大騎がお前の事を『ウィンダミアの正当性を揺るがす』と言っていたが、お前は何を知っている?」

 

 「......父さんが、青騎士として1番脂の乗っていた時の父さんが翼を折るに至った、その理由を知っているだけです。

 そこに至るまでに、ウィンダミアがやった事も。

 それと、謝罪を。

 以前のヴォルドールで貴方に失礼な物言いをした事に。

 貴方は、俺が思うよりずっと気高い騎士だった。」

 

 「そうか。

 空で会えば容赦はせんぞ。」

 

 「ああ。

 あんた、名前は?」

 

 「カシム・エーベルハルト。」

 

 「......ハヤテ・インメルマンだ。」

 

 驚愕の表情を見せたカシムを背に、遺跡へ走る。

 今はただ空を飛び、守るだけ。

 

 その他は全て、帰った後だ。

 

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