パイロットスーツに着替え、隠しておいたバルキリーを操作し着陸させる。
ここからは速攻勝負、できる限り
伸ばされたガウォークの腕を駆け上がり、キャノピーを開き搭乗。
出撃前にシステムの確認は済ませてきた、今回は全工程を省略し早々に飛び上がる。
振り返れば、遺跡には万全のワルキューレたち。
親指をグッと立て、彼女達の歌を背に警戒を強める。
一つ不安を挙げるとするならば、遺跡とフレイアという組み合わせだろう。
アル・シャハルでの事もあり、ここまで悪化することのなかった彼女の結晶化が進行する可能性が捨てきれない。
......だが、止める権利は俺にはない。
ここで歌うのを止めるというのは、彼女が生きている場所を、ワルキューレという戦場を奪う事になる。
先程カシムに対し切った啖呵を聞いたものとしては、そんな事は出来ない。
『僕らの戦場』の歌詞にもあるように、この瞬間俺たちは戦場に咲く命なのだ。
花は咲いてこそ価値があり、彼女にとって咲けるのはワルキューレとして歌うこの、今この瞬間。
『10時方向、敵!』
彼女との約束を守り続ける正当性を心に言い聞かせる暇も無く、黒い翼は現れる。
左に見えるルンの輝きを抑えないヤツは放っておき、じっと右の、誇り高き騎士を見つめた。
「来るか、カシム・エーベルハルト。」
「......」
今この瞬間に置いて、焦りだとか情だとかは全く一切これっぽっちも存在しない。
『各機ドローンを展開後、迎撃に向かえ!』
「了解!」
指示通りドローンを射出し、空中騎士団と交戦する。
だがひとつだけはドローンを残しておく。
何があるかわからない以上、それへの対抗策は持っていて損はない。
『仕留めた、ワルキューレ!!』
ほら来た!
他に目もくれずただ真っ直ぐに、ボーグの風が通り過ぎた。
機銃でドローンによるバリアを破り、ガンポッドの一撃を持って仕留める体制へ入った。
「「右に、習えと、誰もが今日を生きてる━━!」」
しかし、前とは違う。
フレイアは引かない。
裏切者と呼ばれる事を恐れず、ただのフレイアとして歌いたい理由のために歌う。
それは心の進化、誰にも折れない魂の強さだ。
そして彼女が成長するってことは━━
「━━ハヤテ、フレイアのフォロー!!」
『ああ!』
同期の俺たちも成長していると言うことだ。
俺からボーグまでの間には、いくつかの機体、言うなれば障害物がある。
普通にガンポッドを放てば間にいるミラージュさんに当たり、ワルキューレと彼女は端的に言って死ぬ。
だからこそ残して置いた、この
バトロイドへ変形させ力強くそれを握り、ターゲットを定める。
『いいか?
狩りっていうのはな......』
「......こうやってやる!!」
父親に教えられたことをカシムとの会話から思い出し、強く回転をかけてそれを放った。
それは強い下回転を持ち、ミラージュさんの機体の下をくぐり抜けてガンポッドへ直撃する。
視覚外、意識の外から来た攻撃へ狼狽えるボーグを追い詰めるように、ハヤテの追撃が奴を追い払った。
「カバーナイスだ、ハヤテ!
......ハヤテ?」
『はっ......はっ......!』
通信からはあの元気な声は聞こえず、犬の様に息を吐く音しか聞こえない。
えも言われぬ不穏さを感じ取り、レイナへと連絡を取る。
「レイナ、ハヤテがおかしい!」
『わかってる!
生体フォールド波が上昇、フレイアと激しく同調している!』
「それって......」
『そう、
メッサーさんと同じ。
それが意味するところを考える暇もなく、宇宙から別隊が現れた。
白騎士を筆頭とした、空中騎士団本隊。
「白騎士様のところには行かせないよ!」
「テオ、ザオ、連携で追い詰めるぞ!」
「はい、ヘルマン大騎!」
「この......小賢しい!」
白騎士に肉薄するハヤテをサポートしようと思えば、先んじてそれをブロックする3機のドラケン。
2機までなら余裕で対処もできようが、3機となれば話は変わってあしらう事は難しくなる。
伸ばした手を助けたい友達にではなく敵に掴まれ押し戻されるような感覚。
それにもどかしさと微かな苛立ちを覚えながら、こいつらを処理にかかる。
今はただ、ハヤテが
『━━♪』
「があっ......!?」
予兆なく響き始めた風の歌。
だが今までとその毛色は違い、頭に猛烈な負担を掛けながら体と心を押し潰そうとしているような、とてつもない力。
その歌は機体にまで影響を与え、異常検知のアラートがコクピットに鳴り響く。
朦朧とする意識の中、『今度こそ』とワルキューレに迫るボーグ機を追おうとした、その時。
「━━なんだ、これは。」
混濁する意識の波。
まるで夢の中にいるようなうわついた意識を叩き起こしたのは、右目から見えた意識を失った人々の群像。
その中には虚ろな目でルンを点滅させる空中騎士団の姿もある。
緊急事態ゆえ、手は選んでいられない。
口の中の肉を思い切り噛み、出血と共に意識を現実へと帰す。
怖い。
何かと繋がるような感覚に震え、恐怖を抱く。
何が起こったか理解できないまま、息を整えた。
見れば、白騎士をハヤテが追っている。
機体に纏う光はまるで命を散らしているかのような、あの日アル・シャハルで見た光。
「━━ハヤテ!
戻って来れなくなるぞ!」
『うおぉぉぉお!!!』
白騎士以外の空中騎士団が動きを止めた事を確認しハヤテに呼びかけるが、答えは理性を失った叫びのみ。
機体に纏うその輝きは黄金を超えて燃え盛るようなオレンジに変わり、それはまるで
「まさか、フレイアも!?」
止めようと追うものの、混濁する意識に、途切れ繋がらない集中力とマイナスが重なり、追いつくまでに至らない。
「ハヤテ!!
戻ってこい、お前までそっちに行くな!!」
届かない。
どれだけ手を伸ばしても届かない。
刹那、歌が止まった。
風が凪いだ。
手綱を握るものが無くなった天馬は羽を失い、地へ落ちて行く。
「ハヤテ!」
重力に引かれて落下するバルキリーの機首をバトロイドで掴み、全力でエンジンをふかした。
それでも速度は落ちず、機体各所が悲鳴を上げる。
その最中に聞こえてきたのは、透き通る様な美しい
その声に共鳴し耐えきれず爆発したプロトカルチャー遺跡を尻目に、2機のバルキリーは地上に激突した。
それが、何なのかは分からない。
ただ一つ、口から血を流しアラートに包まれた俺に言える事は。
「......怖い。」
その一言だけだった。