あの戦闘から数日が経った。
ハヤテは軽い怪我こそあれど無事で、美雲さんも復活してワルキューレに合流している。
流れで俺も精密検査を受けた。
風の歌による感覚の同調、空中騎士団に起きたことが何なのかを探るために。
真相に迫る結果は得られなかったが、右目にある星の中に生体フォールドクォーツが入っているのがわかった。
ウィンダミア人のルンにもそれが入っている事から、恐らくフォールド波が特殊な作用を及ぼしたのだろう、と。
正味、医者の言っている事はよく理解できなかった。
専門用語の多さもそうだが、何よりハヤテとフレイアの事で頭がいっぱいで。
あの輝きは、言うなれば行き過ぎたシンクロでの暴走。
戦場で歌う以上、戦場を飛ぶ以上、ソレはお互いの意志で克服できる様なものではないと。
ハヤテが飛ぶのを止めればフレイアは曇り、フレイアが歌うのを止めればワルキューレは欠けてしまう。
一つでも欠けたら意味を失ってしまうこのギリギリの戦場、どちらを失っても手痛く、『自分は良いから貴方は』と押し付け合う2人は見るに堪えなかった。
「アラド隊長、どうかお願いします。」
「私からもどうか......」
だからこそ、今こうして隊長にハヤテの復帰を進言している。
互いを思うが故にぶつかる
それはミラージュさんも一緒だ。
「━━で、隊長はどうやって言いくるめたんだよ。
実験の結果はまだ出てねえだろ。」
「......俺たちが全ての責任を負う事を条件に、2人の出撃許可を貰った。
もしまた暴走して誰かに危険が及ぶ様なら、俺がハヤテのコントロールを奪って墜落させる。」
驚愕の表情で、2人はこちらに視線を向けた。
そう、これは
本当は撃墜なんてさせたくないし、暴走しないと信じたい。
でもそれは必ず起こる、だからこそ俺はハヤテを落とす事への覚悟を胸に抱くのだ。
もしそれが起こってしまったとして、嫌われるのは俺だけで十分だから。
「......わかった。
だけど、もう暴走なんてしない。」
「俺も、そう信じてるよ。」
今日はウィンダミアに総力を上げて反抗する作戦の決行日。
この晴れない心は何処へ持っていけば良いのかと、思いがどこかで軋む音がした。
マクロス・エリシオン。
アイテールの先端に宇宙を観に来れば、そこには先客がいた。
美雲・ギンヌメール。
その深く赤い綺麗な瞳は、際限なく広がりどこまでも続く宇宙を見通す様。
失礼、とひとつ前置き、彼女の横にある手すりに寄りかかった。
「━━取り敢えずは良かったです。
ハヤテは飛べて、フレイアは歌える。
隊長とミラージュさんには感謝しないと、これ以上の事はありませんから。」
「そうね。
私達は歌って貴方達は飛ぶ。
単純だけどそれで良いのかもね、今は。」
そう言って俯いた彼女の目からは憂いが溢れ、その声は自身が何者であるかを見定められていない、何も知らない街に放り出された迷い子の様な幼さを感じる。
こうやって宇宙を見ていたのは彼女なりに怖さを誤魔化すルーティンだったのかもと、理解した。
「はい。
何者であろうとも好きな事をやっている間は、その時間だけは......
それはワルキューレもΔ小隊も同じ。」
「━━でもね、ずっと思っていたのよ?
貴方は何でそう、立場をすぐに切り替えて考えられるのかって。
だってそうでしょう?
フレイアがあれだけ『裏切り者』の一言で揺れていたのに、貴方は狼狽えるそぶりも見せない。」
「ああ、それは...... また今度で。」
それを言うには、まだ心の準備ができていない。
むしろ言わずに今生を終えたいとさえ思ってしまう。
そうやってのらりくらりと疑問を避ける俺に、彼女はふふ、と悪戯っぽく笑った。
「そう、私は良いけれど......
謎の多い男は嫌われるわよ?」
「お互い様ですね。」
「ふふっ。
......私だって怖いんだから、しっかり守りなさい?
ワルキューレで私が
「ホント、妖艶な3歳児だな......」
空口を叩き合って、互いに笑みを浮かべたまま会議室へ足を進める。
彼女はクローン、それも3年前に生まれたばかりの人。
それでも俺にとっては美雲・ギンヌメールというワルキューレのエースだし、その対応が変わる事はない。
女神は何があろうと、女神なのだから。
その道中、急いだ様子で段ボール箱を持ったオペレーターさんに出会った。
彼女は確かミズキ・ユーリさんだったか。
可愛らしいクラゲを頭に乗せた彼女から段ボールを受け取り、何事かと顎に手を当てた。
「これは?」
「ぜぇ、ぜぇ......
え、えっと、ラグナを出る前に届いていた荷物みたいで、倉庫に入っていたのを見つけたんです〜。
受取人にレイン少尉が指名されていたので、お届けに〜。」
「ありがとうございます、えっと......」
ハンコの押された部分を見れば、発送元はケイオス・リスタニア支部。
マクロス・ギガシオン所属の......
「......嘘。」
「? どうかしたのかしら?」
「美雲さん、急ぎましょう。」
理解できない様子の彼女を引っ張り、足早に会議室へ向かう。
何よりも驚きが勝り、落ち着いてなんていられなかった。
差出人はケイオスリスタニア支部のマクロス・ギガシオンより。
青騎士、クレイル・アズールその人であった。
「━━で、これが届いていたってわけか......」
「はい。」
会議室のデカすぎる机の上に段ボールを無造作に置いて、包装を破く。
亡命したとしても一応敵惑星の騎士だった男だ、何が入っているか分からない。
隊長監視の元、中に入っていた小さな箱を引き裂いた。
「......これは、録画機?」
鬼が出るか蛇が出るかと開いてみれば、現れたのは肩を透かす様な小さな録画機。
耳に引っかかるタイプのもので、投影も可能な様だ。
「見たところ、危険物というわけでもありませんが......」
「しっかし何でレインの親父さんがケイオスに居るんだ?
一応ウィンダミアのすげえ人だったんだろ?」
「......アル・シャハルに降ろされてから連絡もありませんでしたから、あまりその辺は。」
録画機を机に置きホログラムで投影しながら、手元の手紙を読んだ。
そこには昔を思い出す懐かしい書体で、簡潔な文が添えられていた。
長い文章を書くのが苦手な人だったな、と思わず笑みがこぼれてしまう。
『もしもの時のため、これを送る。
まずはチャプター1を見て、もし、もしウィンダミアの国王に会う様であれば2を見せろ。
これをどう使うかはお前次第、無事を祈っている。』
読み終わると同時に、古い映像が流れ始めた。
最初に映ったのは綺麗な綺麗な星。
緑豊かで星の首都には巨大な花を咲かせそうな蕾が見え、それは宇宙からでも視認できるほど。
「......綺麗な星、だな。」
「レイン、父親は何でこんな━━
......レイン? おいレイン?」
「ここ、は。
ここは、ここはここは。」
息を切らし、冷や汗が頬を伝う。
もう見ることは無いと思っていた。
俺にはもう関係の無い、帰りようも無い遠い遠い故郷の星の映像を父さんは送ってきたのだ。
震える声で絞り出し、この映像にある星の名を呟く。
「この星の名は、
地球統合軍とウィンダミアに
向き合う時が、来た。
恐れるべき過去、悲しき思い出、苦しみの慟哭。
俺が立場を切り替えて考える事を得意になった、俺がウィンダミアに住む事になった、その理由を。
友と仲間と、