俺は俺。
変わりようのない事実を抱いて上衣をロッカーに突っ込み、パイロットスーツの圧迫感に慣れるよう手を一度二度開き、閉じる。
正味、父さんがケイオスにいるのは都合が良い。
平和になったらまた会うという約束を果たすのに、この関係は最短を取れる。
何より無事だったことが嬉しい。
見た目通りぶきっちょな人だから、割とその辺でのたれ死んでいてもおかしくなかった。
形見のネックレスを手首に巻いて、部屋を出た。
ちょうど扉の前を歩いていたマキナさんに出会い、バルキリーの相談に乗ってもらった。
操作感度をもっと上げて欲しいとか、速度が欲しいとか。
結構無理を言っている自覚はあるけれど、今のジークフリードでは
困った顔でデバイスを弄る彼女から、不意に額への一撃を受ける。
コン、と拳を軽く当てた彼女の表情は、どこか嬉しそうでもあった。
「━━嬉しかったなあ。
クロクロ、初めてヴォルドールに行った時は辛そうだったもん。
見るからに『私は何かを隠してまーす!』って感じで!」
ヴォルドールでの......
ああ、戦闘後のことか。
あの時は申し訳なかった、余裕が無かったとはいえマキナさんに冷たい態度をとってしまったことは事実。
今更ながらと頭を下げようとすれば、両手の人差し指と中指、計4本の指で止められ跳ね上げられる。
それは笑顔のワルキューレサイン。
覚悟とか感謝とか...... いろいろなものがそのポーズに集約されて、心に伝わってくる。
「謝らないの、
「過去のこと......」
「そう!
クロクロにはいっぱい助けてもらっちゃってるし、今回だって色々あって話してくれたんでしょ?
それだけやってくれたんだから、もうそれはいいの!」
そうかもしれない。
何があったって過去は過去、人は先に進むからこそ人なのだという言葉は誰が言ったものだったか。
こうやって話したことにより俺の心も幾らか軽くなって、前に進もうとする第一歩を踏み出せた様な気がするのだ。
どんなに辛いことだって、抱え込むのをやめてしまえばここまで人は解放される。
1人で背負う美学なんて、そんな物は必要無かったんだ。
「......ありがとう、ございます。」
「うんうん、どういたしまして!
クロクロのジクフリちゃん、少しガタが来ているところがあるから、この作戦が終わったらオーバーホールしちゃおうか!」
「はい、それをしてもらうためにも生きて帰ってこなきゃ、ですね。」
ワルキューレの歌がついている。
飛び始めた頃はそれに対して、深い感情を持つことはなかった。
綺麗な歌声だなとか、そんな事ばっかりで。
でも今は違う。
彼女達の歌は勇気であり、誰かを守る力でもある。
その力に背中を押されて、俺たちΔ小隊は空に舞うのだ。
「がんばろー!」
「......はい!」
頭を撫でられて染まった頬に平手をかまし、覚悟を決めて前を向く。
色々なものを背負う覚悟を持って、ただ前へ進むのだ。
笑顔で彼女と拳を突き合わせて、格納庫へと足速に向かう。
今回の作戦はこうだ。
まずヴォルドール内のレジスタンスを適当な星で戦闘させ、空中騎士団が制圧しに出てくるであろうところに颯爽とマクロス・エリシオンが現れる。
だが、これは
本隊であるα、β、Δ小隊はその錯乱の隙に惑星アルヴヘイムへと侵入、ワルキューレの戦術ライブで遺跡を起動させフォールドゲートを展開してウィンダミアへと向かう。
この作戦、レジスタンスやエリシオンが敵を引きつけるところまでは上手くいくだろう。
マクロス級は艦長が誰であれ脅威になりうるし、決してスルーしていいものではない。
つまるところこの作戦は、
「ウィンダミアへの片道切符になるかもしれん、総員、腹を括れ!」
「「「「
隊長からの激を受け、心を締め直す。
もちろん、アルヴヘイムという星に思うところがないわけではない。
メッサーさんの故郷であり、新統合軍時代の彼が仲間を失いヴァールに蝕まれた場所。
手首に巻いたネックレスのフォールドクォーツを握りしめ、天に掲げる。
俺はここにいるぞと、見守っていてくれと伝える様に。
「......導いてくれ。」
満を持してライブが始まる。
だが、前までの様な力はない。
何故か? それはすぐにわかった。
「フレイア......」
彼女は未だ迷っている。
それは無理もないだろう、好きな人、歌を届けたい人が、自分の歌でヴァールに近づき傷ついた。
いくら言葉だけで自分を奮い立たせたとて、その事実は心の奥にストッパーとして刺さり続ける。
証拠に、フォールド波が上がりきっていない。
これではフォールドゲートが開くことは永劫無いだろう。
『━━何やってんだフレイア、しっかり歌え!』
自分を気にせず歌え、とハヤテが声をかけるが、それでも曇った彼女のルンが光を放つ事はない。
それどころか口をつぐみ、歌が止まってしまった。
次の瞬間、バシン! と強烈な音が鳴り響いた。
見れば、美雲さんがフレイアの頬を平手打ちしているではないか。
今一度覚悟を問い、ワルキューレの使命を忘れるな、と見せたワルキューレサインはフレイアのルンに今一度種火を宿す。
「本気で歌え、フレイア!」
その種火を消さず、まるで風を与え燃え上がらせる様に、ハヤテの声が遺跡に響く。
「お前が歌ってくれねえと、俺は気持ちよく飛べねえ!」
「でも......それじゃハヤテが、ミラージュさんやレインが!」
「信じて!
ハヤテは一度行ったことは曲げない!
死ぬほど頑固、だから!」
説得の最中、想定よりも早く空中騎士団が現れる。
機首のマーキングから見て、ユッシラ兄弟とカシムの機体。
隊長より迎撃の指示を受け、空へと舞い上がった。
「フレイアはフレイアの信じる歌を歌え!」
ハヤテが。
「フレフレ!」
「フレイア。」
「フレイア!」
「行くわよフレイア、あなたを含めて5人でワルキューレなのだから。」
ワルキューレが彼女の内にある炎を燃やし、昂らせる。
それはルンピカとなって遺跡に光を灯し、ワルキューレが誰か1人でもかけてはいけないことの証明となる。
「━━はい!
わたし、歌います!」
そしてまた歌が響き始めた。
美雲さんと向かい合い、グッと親指を立てる。
驚きこそしたが、あの場で最善なのは
それを行った事へのグッドサインにワルキューレサインで返答をもらい、俺の役目を果たすために迎撃に向かった。
『ワルキューレを守る』、『ウィンダミアを迎撃する』。
どちらもこなすことに大変さを感じることはない。
今の俺の翼は、
色々なものを抱えているからこそ、先へ進むんだ。