ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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極限 ブレイク

 

 ハヤテ、ミラージュさんと共に戦線に戻るため、並び立って進んでいく。

 背にはワルキューレ、いつも通りならとても頼もしい状況なのだが、暴走という不確定要素のせいでこの歌に一抹の不安を覚えることも確かだ。

 

 『ぐっ......!』

 

 「ハヤテ?!」

 

 やはり来た。

 幾らか精神力で抑え込んでいる様ではあるが、目で見えてしまうほどに操縦が乱れていることからこの我慢も長くは続かないだろう。

 苦虫を噛み潰しながらも、ミラージュさんと共にハヤテへ声をかけ続ける。

 

 『Δ4! Δ4!』

 

 「━━ハヤテ! 12時方向に敵!」

 

 『......はっ!』

 

 被弾一歩手前で意識を取り戻し、回避軌道を描きながらドラケンとすれ違った。

 ひとまずそのドラケン、カシムはハヤテに任せ、似たり寄ったりの風の対処へと向かう。

 

 空中騎士団とは言っても上と下の差は大きい。

 カシムを上とするならば、今俺とミラージュさんが対峙しているのはよくて中、悪くて下だ。

 

 手数が多いだけの波状攻撃に時折反撃を入れ、最適、最高のポジションへと2機を誘導した。

 おそらく両サイドから詰めようとしているのだろう、狙うのはその作戦を実行しようとする瞬間、機体が交差する一瞬。

 

 1機ずつリル・ドラケンを奪い、翼に装着してタイミングをはかる。

 3、2、1......

 

 「━━ゼロ!」

 

 狙い通りの瞬間にバトロイドに変形して、手に持ったガンポッドで慎重かつ大胆に狙撃した。

 一石二鳥、直線に伸びた弾丸は重なった翼を撃ち抜いて、騎士は地上に墜つ。

 

 だがこれで終わりではない。

 すぐさまファイターへ姿を変え、ハヤテのカバーへと向かった。

 

 先程から視界の端でチラチラと見えていた()、あれは白騎士やメッサーさん、ヴォルドールでハヤテが見せた機体のオーバーロード。

 スッキリした頭で見ているからわかる。

 カシムのアレはルン()を削って到達しているものだ。

 

 「この鋭い風......カシム!」

 

 『ぐっ、うおぉぉぉお!!』

 

 「!?」

 

 それに加えて、最悪のタイミングでハヤテが暴走を始めた。

 彼の雄叫びは鋭く激しく、ナイフを振り回す暴漢のように眼に見えるもの全てへ攻撃を始めた。

 

 「暴走? しかし言ったはずだ、容赦はしないと!!」

 

 当然、それをカシムが見逃すはずもない。

 あまりの無理に軋む機体の音を聞きながら、彼の放ったビームガンポッドの攻勢よりハヤテを庇う。

 

 「あ、ぐっ......! 戻って来い、ハヤテ!」

 

 両腕が爆発し、ハッキングは不可能。

 だがまだ足がある、膝裏で右のミニガンポッドを封じるが、見境の無い今のハヤテは余っていた左のガンポッドで頭部カメラを撃ち抜いた。

 損傷甚大のアラートに耳を痛めながら、それでもカシムの攻勢よりハヤテを守る。

 

 ......メッサーさんが俺たちに進んで関わろうとしなかったのは、正解だったのかもしれない。

 事実今の俺はハヤテに情があり、例え何があってもその胴体に風穴を開けることはできないだろう。

 目を無くし砂嵐だらけのモニターを見つめながら、ガラ空きの背中を狙う銃口を感じる。

 

 『ハヤテ、レインー!!』

 

 放たれた光線を、すんでのところで割って入ったミラージュさんが防いだ。

 カシムに向けて機銃を放ち、追い払った背中をハヤテの銃口が狙う。

 

 「やめろハヤテ!!   

 お前のことが好きな奴に、これ以上牙を向けるな!!」

 

 『ハヤテ......ハヤテ!!』

 

 ミラージュさんも銃口を向けるが、そこから弾が放たれる事はなく。

 命をかけて彼の機体、その腰に抱きついて動きを止め言葉を届ける。

 もちろん、歌も一緒に。

 

 『ハヤテ!』

 

 「前を見ろ、ハヤテ!」

 

 「ハヤテ、わたしの歌......!」

 

 『━━ミラージュ、レイン、フレイア...... 俺は......』

 

 やっと帰ってきた!

 年甲斐もなく飛び上がって喜びたい気持ちを抑え、皮肉混じりにその帰還にグッドサインを送る。

 

 「━━大変だったんだぞ!

 ほら俺見ろ! 腕も頭も吹っ飛んじゃって!」

 

 『ああ......良かった......』

 

 「わあ......!」

 

 『ありがとう、ミラージュ...... フレイア...... レイン。

 お前たちの命懸けの想い、俺はもう絶対に暴走したりしない!!』

 

 涙がちょちょぎれそうだ。

 彼のその言葉は出撃前の願望に似たものとは全く違い、決して揺るがない想いに支えられた確信。

 ハヤテ・インメルマンが戻ってきたのだ。

 

 『......くる!』

 

 『「!!」』

 

 治りたて特有の鋭敏な感覚で敵機を察知した彼に従い、見えない状態ながら敵機に背部ガンポッドで牽制を放つ。

 

 いや、見えないのでは無い。

 ここに来ての成長、()()()()()()()()()

 いつだかに説明を受けていた、ウィンダミア人のルンにも生体フォールドクォーツが入っていると。

 その光だ。

 

 「━━凄えよく見える! さいっこうの視界だ!」

 

 右目に入ったフォールドクォーツを介せば、輝きを()()()()ことができるという発見に思わずテンションが上がってきた。

 秘密を共有したという爽快感、ハヤテの暴走という憂いが消えたことによる開けた視界、そして成長。

 

 今この瞬間が、最高の空!

 

 「━━()()()()()、ハヤテ! 上に3機いるから警戒を!」

 

 『『了解!』』

 

 『ハヤテ、レイン、フォーメーショントライデント!』

 

 思わずミラージュと呼び捨てにしてしまうほど。

 興奮をぶつける様に()()()のごとく各機で迎撃にあたり、おびき寄せた3機を俺たち背中合わせのジークフリードで打ち落とす。

 

 手数が減ったからと言って役に立たないわけじゃ無い。

 ハヤテミラージュが撃ちこぼした所を逃さず狙い撃ち、あっという間に騎士たちは姿を消した。

 

 グッとモニターに親指を立て、笑う。

 仲間と風を感じ、自由に飛ぶ今が1番嬉しいからこその笑顔。

 『Δ5、気を緩めない!』と釘を刺されても、このニヤつきは止められそうになかった。

 

 

 「......3人とも、さらに一皮剥けたか!」

 

 「隊長、フォールドゲートが開きます!」

 

 「了解、ワルキューレはシャトルへ乗り込んでください!」

 

 

 フォールドゲートが開き、ウィンダミアへの道が通じた。

 全速力でその扉へ向かうシャトルに、いかせはせんとドラケンが接近してくる。

 

 迫り来るドラケンに、チャックのジークフリードが雨の様なミサイルを食らわせた。

 彼風に言うならば、秘技、クラゲの嫁入り。

 

 「チャック!」

 

 「この場はこのチャック様に任せときな!

 みんな急げよ!」

 

 彼の心意気を無碍にするわけにはいかない。

 速度はそのままにフォールドゲートへ突入しウィンダミアへ、感情入り混じるあの場所へと向かう。

 

 

 

 白い雲、白銀の大地。

 フォールドゲートの先は紛れもなく思い出の場所、ウィンダミア。

 感慨深さと少しの緊張に、頭を冷やす。

 閉じるフォールドゲートに『片道切符』という言葉を思い出していると、小さな影が二つ現れる。

 

 「━━シャトル、避けろ!!」

 

 カシムとザオ。

 2機のドラケンは自星に侵入された怒りを持ってビームを放ち、片方は防いだものの片方はシャトルの端を掠めた。

 開いた穴からフレイアとカナメさんが落下し、風に揺られ落ちていく。

 

 「くっ、ハヤテかミラージュはフレイアを!」

 

 腕のない俺の機体が向かったところで受け止めるものがない、ハヤテ達に救助を指示して、カシムの迎撃へと向かう。

 だが、想像以上に速い。

 もしこれをずっと続けているのなら、おそらく彼のルンは()()()()()()()()()()()

 

 それは望むところではない!

 

 「止めろカシム! それ以上はルンが持たない!」

 

 「ううおぉぉぉお!!!」

 

 聞く耳持たず。

 ならば仕方がない、多少の怪我、腕が折れる程度は覚悟をしてもらう。

 多少の被弾は覚悟の上、まるでミロのヴィーナスかのように腕の無いバトロイドに変形し、正面衝突の形でカシムの翼に蹴りを叩き込んだ。

 

 「があっ!!」

 

 エンジンの右が爆発し、まともに飛ぶことすらままならない。

 だがまだ仕事は終わっていないと、ジークフリードにムチを打って期待を傾ける。

 墜落するカシム機の機首をポッカリと開いた足の穴で受け止め、残った片足一本で着地の衝撃を受け止めた。

 

 「ぐぅおぉぉお!!」

 

 止まれ止まれ。

 願う様に心の中で叫び、背にあるリンゴ畑を庇う。

 この畑は言うなればウィンダミアに生きる人の希望だ。

 それを奪ってはいけないと、考える前に心で理解した。

 

 「━━はぁ、ハァッ、はぁ......!」

 

 息を切らし天を仰ぐ。

 バトロイドからファイターへ無理矢理変形させた衝撃に腰を痛めながら、キャノピーを開いた。

 どうにかリンゴ畑は無事。

 

 「......カシム、リンゴ畑は守ったぞ。」

 

 「......ああ......すまん、な。」

 

 カシム・エーベルハルトも生きていた。

 しかしその顔には結晶化が進行しており、彼の寿命は大きく縮んだ事だろう。

 だが、今死ぬよりかは良いはずだ。

 

 彼を抱き起こし、リンゴの木の下へと連れて行く。

 

 「━━最初っから死ぬ気だったのか?」

 

 「......ああ。

 どうせ長くはない、ならば故郷の空を守るため、風に散るのが騎士の誇りだ。」

 

 「なめんな。

 騎士としての誇りより家族のことを考えろ、誰が父親に死んで欲しいものか。

 俺は貴方が死ぬ姿なんて見る気は無いし、それで悲しくて泣く息子さんも見たくは無いんだよ。

 自分の命はひとつなんだ、騎士としてではなくて一度ぐらい親として、自分を鑑みてくれ。

 それくらいの時間、あるだろ?」

 

 子供は親と一緒に居たいものだ。

 騎士だってリンゴ農家だってそれは変わらない。

 大好きな父親母親が戦場に散って、それを後から知るなんて子供にとっては不幸でしか無い。

 見る限り彼の腕は1ヶ月戦場に出れないほど折れている、その期間子供にリンゴの育て方についてを享受してやってほしい。

 

 真意が伝わったかどうかは定かでは無いが、彼は笑った。

 ヴォルドールにてフレイアや俺と話しながら焼きリンゴを食べていた時の様に、騎士では無いウィンダミア人として。

 

 「そうか......そうだな。

 しばらく暇をいただくことにしよう、久しぶりに我が子に会って、苗を植える姿を見るのも......

 悪くは、な、い━━」

 

 眠る様に、彼は笑顔のまま意識を切った。

 脈は動いているし、ルンの輝きも消えては居ない。

 

 俺が着るはずだった外套を彼に被せ、その姿に背を向けた。

 

 次に会う頃には、きっと戦争が終わっていると信じて。

 

 

 

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