「......嫌な感じだ。」
偵察から戻り、岩場の影に身を隠す。
エンジン音を響かせて空を探るのはドラケンIII。
機首のマーキングを見るに空中騎士団の精鋭達が帰って来たのだろう。
カシムは回収して貰えただろうかと、雑念を抱きながら空を注視する。
嫌な感じというハヤテの言葉に、小さく「ああ」と頷いた。
「大丈夫、ジャミングが効いているはず。」
「......いや、ジャミングが効いていても安心はできない。
ウィンダミアの人には
ジャミング効果が未だ残っている事を確認するミラージュに対し、油断しないようにと髪から伸びた変装ルンもどきを指差す。
そう、機械にジャミングが聞いたとて人の目、ルンによる風の感知は防げやしない。
まして相手は空中騎士団の精鋭、一般兵と比べても感知精度は天と地の差があるだろう。
2機のドラケンが見逃した後ろ姿を見送っていると、そのうちの1機が振り向いた。
周りに纏う風の色が変わるのが見え、3人に逃走を指示する。
「嗅ぎつかれた、逃げるよ!」
人間とVFじゃあ勝負になるわけがない。
即座に3人を遮蔽物の多い森へ誘導し、出来る限り段差の少ない道を行く。
だが、地力の差は如実に出るもので。
どれだけ走っても彼らを撒く事はできそうにない。
「危ない!!」
追い詰め逃げ場をなくす為に機銃が放たれ、うちの1発がハヤテを襲う。
すんだのところで庇い、直撃は避けられたが右足に鋭い痛みが走る。
ビームの熱が皮膚を焼き切り、黒ずんだ肉がズボンの切れ目から色濃く覗いていた。
「━━おい、大丈夫か!?」
「......ごりっごりに痛え。」
立ち上がると同時に激痛が走り、肩を貸してもらわなければ歩くこともできなさそうな怪我を負った事実を情けなく思いながら、周りを取り囲む3機に視線を向けた。
「白騎士......」
抵抗は死。
ならば今は大人しく、両手を上げるべきであろう。
「ごめんな、迷惑かける......」
「今は話すな、消耗するだけだ。」
右腕をハヤテの肩に乗せ、脂汗を肥大に浮かべながらどうにかこうにか歩く。
幸い命は奪われなかった、それどころか国王陛下の命令で生かしてダーウェントまで連れて行ってくれるらしい。
陛下の温情に感謝するべきか、それとも車に乗せてくれと欲深く呟くべきか。
今にもこちらを殺さんと風を逆巻かせるかの
どちらにしても疲れた。
今はただ足を動かそう。
思い出して見れば、白騎士もすごいものだ。
目を失いながらもルンの感覚を研ぎ澄まし、以前ヴォルドールで会った時よりも所作に無駄がない。
本当に俺は彼を下したのか?
そんな疑問が出てくるほどに、今の彼に勝てるビジョンが見えない。
「一体どこへ連れていこうってんだ?」
怪訝な顔で問うたハヤテの言葉に返答を返す騎士は1人もいない。
彼がライト・インメルマンの息子だから、だろう。
ウィンダミア人にとっては大罪人の息子の上、『この目で見るまで信じない』とまで言ったのもある。
ここにいる人の何人が彼の父親が起爆した次元兵器に、『カーライルの黒い嵐』に巻き込まれて家族を亡くしたのか。
それを思えばこの反応も仕方ないように思えるが、ハヤテ・インメルマンではなくライト・インメルマンの息子としか見られないのは、心中察するにあまりある。
「━━カシムは、今病院で治療を受けている。
今頃は家族が面会に来ている頃だろう。
......お前がカシムの機体を受け止めてくれたらしいな。」
「......」
こくこくと頷く。
回収されたのか、良かった。
であれば凍傷とかになる事もなかったんだろう、ジークフリードが最後の役目を果たしてくれたらしい。
「礼を言うぞ。
カシムのドラケンを何処にやったかについては...... また後で問うことにしよう。」
「良かった...... はは、良かった......」
いい人に死んで欲しくなかった。
だからまあ、これで良かったんだ。
「━━ハヤテ・インメルマン。
その目で見るまで信じないと言ったな? では見るがいい。」
前を歩いていたロイドが足を止め、目的地への到着を告げる。
その眼前に広がったのは、ブラックホールを埋め込んだように風が渦巻き、雷が走る巨大な穴。
説明されなくともわかる。
ここがカーライル、地獄の震源地。
「俺の姉は、ここの領主に嫁いでいた。
そのミラ姉様もみんな......みんな......!」
ボーグが叫び、無常に山々へこだまする。
「これでもお前たちに、正義があるというのか!!
これでも地球人のために歌い続けるのか!?
これでも...お前の父に罪はないと言うのか......!」
見れば見るほど吸い込まれる、まさにブラックホール。
......ウィンダミアに来て2日目、俺はここに来た事がある。
そこにいる人たちはこんな俺にも優しくて、リンゴくれたり一緒に遊んだり。
多分ウィンダミアにいて1番幸せだった時って、あの日あの時だったと思う。
でも、そんな過去もあの人たちにあった未来も、一切合切が地獄に変わって消え去った。
俺は彼らの憎悪を否定できない。
人を復讐に走らせるには十分な光景であると、誰に向けても言えるだろう。
「歌ってやれよ、フレイア。」
つう、と一筋の涙を流したフレイアの背中をハヤテが押す。
歌はどこまでも届く。
それが風に消えた者たちへの
「うん。」
フレイアは涙をごしごしと拭き取り、ただ純粋な、悲しみに心を痛める人として声を響かせた。
『GIRAFFE BLUES』
追いつけない場所まで行ってしまった人達へ、心を込めて。
瞳の奥まで響いてくる、その歌声。
どうにも家族との思い出が蘇ってきて、つらい。
「━━やめろ、やめろ!!!
それで死んだ者が喜ぶと思うか!? 歌など歌って何になる!? 失ったものが蘇るのか?
そんなこと、たとえハインツ様であろうとも!!」
ボーグが取り乱し、フレイアへと掴みかかろうとする。
「ごめん」と一言ハヤテに断り、ハヤテの体を押し飛ばす反動で彼へと飛びかかった。
2人地に倒れ込み、血で白い雪が濡れる。
「退け、青騎士の息子!
貴様も何も知らないくせに!」
「知ってるよ!!」
「次元兵器の起爆は俺がウィンダミアにきて3日後の話だ、忘れるわけがない。
━━確かに歌ったところで誰も戻ってこないかもしれない、だけど鎮魂の心を持って事を行うって言うのはそんなに悪いことか?!」
「地球人に与する裏切り者がいくら歌ったところで、何をしたところで!
ここに生きていた者の魂が鎮まるものか!」
「じゃあお前達は何をすれば満足するんだよ!!」
地球人が弔いをする。
これはダメ。
じゃあウィンダミア人が歌を届ける。
これもダメ。
ブリージンガル球状星団を新統合軍から奪い取りました。
満足せず、外宇宙に出兵の準備。
なら、何をすればウィンダミアは戦争を止める、辞めてくれる?
結局、妥協なのだ。
人は妥協という道に歩き進まない限り、無限の迷宮へと迷い込んでしまう。
だから。
「外の星にもヴァールの恐怖を伝播させる気か?
ブリージンガルを統合政府から奪い取って勝ちを宣言するかと思えば、外にまで手を出して......
巻き込まれるだけの人はどうすりゃいいんだよ!」
「この......!」
「やめろ、ボーグ!」
上に乗る俺を蹴り退かし、剣を抜こうとするボーグを白騎士が静止した。
正味助かった、もう視界がぼやけて仕方がない。
「レイン、おい、レイン!」
じんじんとした痛みに、ついに意識を手放す。
どうにも本当に、つかれてしまっ......
「━━ロイド様、こいつらに悪魔の翼を見せる許可を。」
「好きにしろ。」
「このVF-22は......」
「大破し地上に不時着していたものを先王、グラミア陛下が修復させたのだ。
屈辱の歴史を、未来永劫忘れぬ楔とするために......!
ライト・インメルマン。
貴様の父親がこの翼を操り次元兵器を落とした事は事実だ、変わりようのない、な。」
「......親父...」