ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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約束 ジャッジメント

 

 まあ結局、俺たちは有罪になった。

 仕方ないというかなんというか、そうなるだろうなと冷静な瞳でそれを見る。

 

 王に逆らいし者は奈落へと通じる断罪の崖より、風に散る。

 家にあった本で見た裁きの方法だ。

 今俺は陛下の命でそこへ行くための廊下に待っているが、その道の奥から流れてくる風はとても冷たく、まるで刃を突き立てるかの如く皮膚を痛めつける。

 

 「......陛下。」

  

 廊下の奥からハインツ王が現れた。

 不用心にも護衛はつけていない様子、俺でなかったら人質にとって解放を望まれても仕方ないぞ。

 しかし、何か雰囲気が違う。

 その顔は先程までの威厳のこもった表情ではなく。

 ただ一般の人のように、年相応の少年の様に深刻な顔を見せる。

 

 「━━先王の無礼、どうか許してほしい。

 起きた事を隠蔽し無に帰すなどあってはならぬ事だ......!」

 

 すると、急に彼は頭を下げた。

 王が頭を下げるなど異例中の異例、すぐさま顔を上げさせるが、彼の表情は曇ったまま。

 

 信頼、尊敬していた父が関係の無い星に騎士を送り、あまつさえその騎士がその星に生きる種族を皆殺しにしたのだ。

 その気持ち全てを理解することはできないが、揺れる心を想う事は出来る。

 失礼だと承知しながらも、かつて父さんがしてくれたように王冠の下の頭を優しく撫でた。

 

 「......ふふ、懐かしい。

 かつて君の父上にも良くこうして撫でてもらったものだ。

 陛下に会いたいと駄々をこねる私を諌め、大変さを説いてくれたことを思い出すよ。」

 

 そう言って綻んだ彼の顔は、たとえ王であろうとも俺たちと同じ人なのだということを思い出させる。

 程々のところで撫でる手を止め、向かい合って『何故俺だけを呼んだのか?』とその目的を問うた。

 

 「いや、父の行った行動の謝罪と......

 同じ男に育てられた者同士、話でもと思ったのだ。」

 

 照れ臭そうに話す彼にこちらも微笑んで、青騎士についてまるで友達の様に話し始める。

 

 彼は手品が趣味であり良く実験台にされたとぼやけば、それのおかげで私は楽しませてもらったよと点が線になり。

 風邪をひいた時はつきっきりで看病してくれたとハインツが感慨深く語れば、そう言えばその日は珍しくご飯を自分で作ったなと懐かしむ。

 

 「味がわかんないせいで砂糖と塩を間違えてさ、美味しくないオムライスを作り置きした時は本当ごめんって思った。」

 

 「そうだったのか...... でも彼は揚々と語っていたよ、『息子が初めてご飯を作ってくれた』と心底嬉しそうに。」

 

 ここにはいない共通の育ての親。

 そんな彼を経由して、ハインツと仲を深める。

 そう、まるであの日の俺と、父さんの様に。

 

 しばらく座り込みながら話し合って、ついに時間が来た。

 2人とも立場のないただの話し相手から、立ち上がると同時にΔ小隊とウィンダミア国王へと心を戻す。

 

 彼は求められ、自分を削り国王として風の歌を歌う。

 俺は自由に、そして守りたい者を守る為に空を飛ぶ。

 

 求め縛られる彼と自由に空を行く俺は立場こそ違えど、笑って話し合える友人になれたのかもしれない。

 一つ、処刑前のこの幸せな時間にケリをつける様に質問をする。

 

 「陛下。」

 

 「ハインツで構わない。」

 

 「じゃあ、ハインツ。

 君は()()()を言ったことはある?」

 

 「ない。」

 

 即答か。

 本当に求められるままに歌を歌って、自分の我を抑えて生きてきたんだな。

 

 「......ゼルヘスで父が言っていたんだ。

 『王は我を通す者であり、その我が儘を国民に納得させ一致団結して前に進むものこそが真の王』って。

 ここまで頑張って来たんだから、一回ぐらい我が儘を言ってみたら? もしかしたら真の王様になれるかもよ。」

 

 「我が儘か......

 言ってもいいのなら『友達を作りたい』と言って見たいものだが。」

 

 いいじゃないか。

 我が儘は立場考えず心の赴くままに言うものだ、そういうくだらない様に見える願いが1番イイ。

 トン、と彼の胸に指を当てて勝手な約束を取り付ける。

 

 「じゃあこうだ、この戦争が終わって俺が生きてたらハインツの友達になる。」

 

 キョトンとしたハインツの顔が、優しい微笑みへと変わった。

 指した指を握った彼の体温はとてもとても温かく、ルンは美しく色づいている。

 

 

 

 罪人として処刑場に降り立つ。

 裁きの谷にはか細く折れそうな小さな橋が伸びているが、その橋が対岸まで続くことは無い。

 突きつけられる銃口に意識を向けることはなく、今はただこの処刑から無事に戻れることを願うのみだ。

 

 「青騎士の息子。」

 

 裁判中に一度たりとも声を発することのなかった白騎士が、満を辞して口を開く。

 一言一言がまるで心に重たいプレッシャーをかける様にのしかかった。

 

 「お前の風には殺気が無かった。

 戦場では相手を殺す気で飛ぶものだ。」

 

 ━━思えば、メッサーさんにも同じ事を言われた気がする。

 なんだっけ、敵に背を向けるなみたいな言葉。

 でもこれは俺の飛び方。

 変えるつもりはさらさらない。

 

 「......殺す気で飛ぶ為に、俺は空に出てるんじゃない。

 ()()()()()()空に出て、飛んでるんだ。

 それにまあ、そんな気で飛ばなくてもどうにかなってるんだから、このままあなたも超えてみせるさ、キース・エアロ・ウィンダミア。」

 

 「お前は、死神とは似て非なる様に飛ぶのだな......」

 

 「死神...... ああ、メッサーさんのことか。

 メッサー・イーレフェルト。

 俺の教官であなたの宿敵の名前ぐらい、覚えときなよ。」

 

 「......心に刻んでおこう。」

 

 

 

 「これより、刑を執行する。」

 

 さて始まった。

 ここを切り抜けるための策はもう考えついたが、万全を期す為にまず()()()()()()

 

 何かを言おうとしたボーグを遮り、前に進んだ。

 

 「おい貴様、何を勝手に!」

 

 「いいだろ誰から落ちたって。

 そも殺すんならその銃使えばいいのにさ、なぁにを変に凝った処刑方法取ってんのさ?

 足も痛いからさっさと終わらせたいんだよ。」

 

 ボーグもあの映像を見た後は少し狼狽えていたが、すでにいつも通りの様子へと戻っている。

 ......父親が虐殺者だと知って動揺するのはわかるが、そこまで早く気を取り直して騎士としての責務を果たそうと出来るのは何というか、大したやつ、尊敬すら感じる。

 いや別に気負って欲しいというわけではないのだが。

 

 見えすいた挑発をにやけ面で投げかけた。

 でも本当に足は痛いし誰から落ちても変わらないと思っているからこそ、彼らのルンには俺が本気でそう思っていると映っているだろう。

 

 「何を......!」

 

 「いいだろう、ならば貴様が最初に風になるのだな。」

 

 白騎士がいて助かった。

 崖へ歩き始めると同時に足をもつれさせてハヤテに寄りかかる様に倒れ込み、耳元で小さく、けれど確かに聞こえるよう囁く。

 

 「......合図で崖に飛べ、みんなで。」

 

 引き剥がされるように彼の体から離れ、「ごめんごめん」と戯けながら鉄骨のような飛び降り台に乗った。

 風が吹いている。

 

 さて、ここからが覚悟だ。

 スルスルと容易く飛び降り台の先端に着き、空を見る。

 まるで迷宮を迷うように飛行機の形にした右手をくねらせながら、痛みに顔をこわばらせて踊る。

 

 「チッ! 時間稼ぎのつもりか!」

 

 そうだよ、わかってんじゃん。

 今一度ハヤテ達にアイコンタクトを取れば、皆用意はできている様子。

 ならばもう一つブラフを巻き込ませてやろうと、「フンフンフン」とハミングを始めた。

 

 風は変えないまま、もう少しもう少し......

 だがここで予想外のものが見える。

 近場にある等の頂点がキラリと光ったのだ。

 『これ、俺いらなかったな』と思いながらハヤテ達の方へ振り返り、指パッチンの準備を終えた右手を突き出した。

 

 「この動き...... まさか!」

 

 ハインツは気づいたようだがもう遅い。

 そう、これは父さんがやっていた手品の動き。

 ここで指パッチンと共に決め台詞を吐けば━━

 

 

 『「イッツ、ショータイム!!!」』

 

 何かが起こる!

 

 ニコニコの笑顔で合図を出すと同時に、空から現れたドラケンが壁面を撃って瓦礫を落とし、脱出の先を作り出した。

 

 「みんな! 飛ぶぞ!!」

 

 「ああ、フレイア、ミラージュ! 飛べば飛べる!!」

 

 追撃を避けながら、3人が飛んだ。

 側から見れば奈落に飛び込んだように見えるだろう。

 だが、崖の底から現れたのは苦痛の叫び、断末魔などではなく、VF-31ジークフリード。

 

 手袋を没収しないでそのままにしたのが、お前たちの敗因だ。

 指パッチンを終えた人差し指と親指を銃の形へと変え、同時にドラケンの機体色も青へと変わる。

 いま、心は父さんと一緒だ。

 

 体制を立て直そうとする空中騎士団を咎めるように、塔から現れたVF-22が射撃を行う。

 なんであんなところにソレがあったのかはわからないが、とにかく反撃の狼煙は上がった。

 銃口を向ける立場が反転した処刑場に、一つ笑顔で言葉を残す。

 それは友になる王へ向けて。

 

 「━━ハインツ!

 約束を忘れない事、それと━━」

 

 自身の胸に親指を当て、彼の服、その間から見えたものに気をつけるようにと。

 

 「結晶化、気をつけて。」

 

 

 ふう、と息を吐いて、ウィンダミアの風を楽しむ。

 いつか平和になったのなら、こんな騒動を起こさずとも飛べるだろうか?

 

 まあ今は生き残ってプロトカルチャーシステムを破壊するワルキューレの護衛、それに集中しよう。

 

 『Δ5、ドラケンは動かせるか?!』

 

 「むしろこれ基準に飛び方を習ってたんです、余裕ですよ!」

 

 『頼もしいな。

 俺はジークフリードを回収してくる、お前達頼んだぞ!』

 

 「隊長こそ、足を折らないよう気をつけて!」

 

 

 もう一度、空へ。

 覚悟と意思と、約束を背に。

 

 

 

 

 「......陛下、約束とは?」

 

 「案ずるなキース、Δ小隊と国王として結んだ約束などは存在しない。

 ━━ただの話し相手として、『また会おう』と誓っただけだ。

 身体のことに気づいているとは思わなかったが。」

 

 「......追撃に向かいます。

 空中騎士団、陛下をお守りしろ!」

 

 手を空に伸ばし、彼のように飛行機の形を取って空へ浮かべる。

 

 「懐かしい決め台詞、だな......」

 

 

 

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