さて、開戦。
美雲さんはいないがワルキューレは遺跡に降り立ち、その歌でΔ小隊のブーストと遺跡のオーバーロードによる破壊を狙う。
......やはり腐っても敵地。
「借りるぞ。」
ハヤテ、ミラージュが射出したドローンを掴み、小手調べに敵機へと放り投げる。
曲線軌道を描いて羽を断ち切らんとするその刃はドラケンを切り刻み、雪降る大地へと黒き翼を叩き落とした。
この程度ならば力量差は問題ではないだろう、が。
「来たな、白騎士!」
「土俵は同じだ、見せてみろ、お前の
厳しいのはコイツらだ。
空中騎士団の精鋭を抑えれば有象無象の攻撃からワルキューレを守れず、ワルキューレの守りに全力を注げば死角から剣を突き刺されるだろう。
回避機動に入って感じたが、ドラケンはロールを行った際、機体の突っ込みがどうしても浅くなる。
これのせいで
白騎士と俺の経験差は顕著に出るだろう、だが━━
「......上っ等!!」
こちとらそんな事で言い訳して死ぬなんて事、したくない。
これだけのクセがあるというなら、その欠点にも似たクセを
手早くパネルを操作し、『リミッターカット』にOKを出す。
これでもうこの機体は、俺のジークフリードと同等の速度だ。
「━━嵐が来たか!」
「うぅおぉぉお!!」
オーバーブーストも使用し、まるで発火した炎の様に激しく、白騎士の喉へ刃を向ける。
それは風に乗る鳥を叩き落として嘲笑う、かまいたちの様に彼を追い詰めた。
シザース機動でぶつかり合いながら、風に乗る白騎士とその風を切り刻む俺。
まるで反対の飛び方が重なり合い、戦場の流れはウィンダミア優勢からどちらに転ぶかわからない
ミサイルとリル・ドラケンの波状攻撃を竜鳥飛びでのらりくらりと避けながら、ついにその刃が白騎士の首元を掠めた。
お互いバトロイドへと変形し、寸分の狂いもなくほぼ同時にビームガンポッドが放たれる。
ぶつかり合い、爆発。
その余波で砲身の溶けたガンポッドを投げ捨て、俺は拳にピンポイントバリアを。
白騎士はバトロイドの膝からDAS-03k アサルトソードを取り出し、黒煙を吹き飛ばすほどの力で刀身と拳の迫り合いが起こった。
「白騎士ィィ!!!」
「レイン・クロニアァァ!!!」
ルンが光を放ち、瞳が色を変える。
興奮、誇り、覚悟、極限。
全てをぶつけ合って巻き起こる
アサルトソードの刀身にヒビが入る。
拳が圧に負け、だんだんと変形する。
どちらかのソレが壊れた時、全ての決着はつく。
━━ハズだった。
『━━マキナさんがやられた?!』
「なっ!?」
拳を伸ばしたままその視線を遺跡へと向ければ、紫に妖しく光るそこの上で、マキナさんが脇腹から血を流し倒れているではないか。
カナメさんが応急処置に向かっているが、尋常ではない出血量。
ここは敵の本拠地、忘れていた。
スナイパーの1人2人ぐらい、そりゃあいるハズだ。
奥歯を噛み締めながら、レバーを握る力を強めた。
「━━お前の飛び方は守る飛び方ではなかったのか?
ワルキューレの1人も守れず、守る為に飛ぶなどと世迷言を!」
「うるさいよ!
......カナメさん、マキナさんは生きてるんでしょう!?」
通信を開き、すがるように叫ぶ。
サウンドオンリーの表示の向こうからは啜り泣くように歌うレイナの声と、もう何も奪わせないと必死なカナメさんの声。
『当たり前!
マキナ、絶対助けるから......!』
通信を閉じ、今一度目の前にいるウィンダミアの象徴、白騎士と向かい合った。
機体越しに彼のルンを感じて、決意の帯を締める。
「━━死なせない事が俺の守る事だ!
生きてれば明日が、未来があるが、死ねばそこにあるのは過去に縋り付く自分だけ!
俺はそんな死人にならないために、死人にさせないために未来に向けて空を飛んで生きてるんだよ!
過去に縛られて
「......我らウィンダミアを死人と愚弄するか!!」
「馬鹿にされたくなかったら前を向いてみろ!
王様が苦しそうに、悲しそうに下を向いている星に未来なんて何処にもない!
その役目を押し付ける臣下にも!」
拮抗を破る様に、腕部機銃を放つ。
それは黒いドラケンの左腕に取り付けられたシールドを破壊し、白騎士をたじろがせた。
同時にワルキューレの歌によってフォールドゲートが開き、その向こうからα、β小隊とチャックが現れる。
「隊長、お迎えにあがりました!」
これにより形勢逆転、流れは完全にケイオス側のものとなった。
後はワルキューレが歌の力で遺跡を━━
「━━美雲さん?」
深く深く奥深く。
まるで隠す様に山の中へ隠された遺跡の中に、美雲さんの色が見える。
いや、彼女とは少し違う、澄み切った印象の
何故そこにいるのか、この色は何なのか。
色々な疑問を頭に取り込んでいるうちに、彼女の声が空に、銀河に響いた。
だがこの歌は彼女では、美雲・ギンヌメールのものではない。
まるで黒板を引っ掻いた音の様に頭の中へ入り込み、しかし広い海に感じる母性の様な優しさでその歌は深層からとある景色を見せた。
「...ああ......」
宇宙。
そこに生きる全てのものと繋がる、まるでヴォルドールで空中騎士団と俺に起きた出来事の広域版の様な、この感覚。
あちらにはハヤテやフレイア、こっちにはキース。
向こうを見れば、囚われた美雲さんが涙を流しながらロイドの横で歌っている。
「━━はっ!?」
歌が終わると同時に、意識を常世へと取り戻す。
「全員作戦失敗、撤退するぞ!」と叫ぶ隊長の方を見れば、そこに浮上していたのは異形の物。
「......シグル・バレンス。
既に解析が終わっていたか......」
思わず恐怖を駆り立てられる様なその異形から機体を遠ざけ、フォールドゲートへと突っ込む。
美雲さんがいるのはあの中だというのに、この手は届かない。
悔しさを瞳に滲ませながら撤退を選択する。
声に出せないほどの不安を胸に、これから起こることなど何も知らないまま。
「『星の歌い手』......
美雲・ギンヌメールを使い、銀河に歌を響かせると?
ですがロイド様、銀河には陛下の風の歌こそ響くべきです!」
「命じるのは陛下だ。
陛下の風の歌が星の歌い手をこのウィンダミアまで導き、その力は我らの手に渡った。
ワルキューレなどという隠れ蓑を破ってな。」
━━ロイドは、星の歌い手とこのシグル・バレンスをラグナへと運び、そこにある新たなプロトカルチャーシステムと共鳴させることで全銀河は統合政府の支配から脱し、新銀河文明が樹立されるという。
ルンを持ち、星の歌への耐性を持つであろうウィンダミア人、プロトカルチャーの最後の子孫である我らこそが上に立つ存在だと。
......果たしてそれで本当にいいのか。
たしかにロイドは父上の死を1人で看取り、『ウィンダミアを頼む』と託された男。
しかし、星の歌い手に関することの報告は受けておらず、完全に彼の独断。
どうすればいいのだろうか、王として、自分は......
『王は我を通す者であり、その我が儘を国民に納得させ一致団結して前に進むものこそが真の王。』
「......
「しかし!」
玉座より立ち上がって、各々疑問を唱える騎士団の面々、その前に立つ。
上衣を脱ぎ、時間がないということを身体にこびりついた結晶を見せることで彼らに教える。
「余はルンの輝く限り歌う。
お前たちもその命、余の我儘に預けてくれるな。」
跪く彼らの翼を借り、今は先の見えない暗闇に飛ぶしかないのだろう。
真なる風を、自分の中にあるその風を見定めるため、王として声高らかに全軍への支持を叫んだ。
「━━シグル・バレンス浮上!
最終目標は、惑星ラグナ!!!」
今はまだ、見定める時。