ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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 チクワです。
 新たに投稿させていただきました、よろしくお願いします。


激情
茜色のプロローグ


 

 時は2067年。

 遠い宇宙ではバジュラ戦役と呼ばれる戦いが幕を下ろし、このブリージンガル球状星団ではウィンダミアの起こした独立戦争が一時休戦状態となってから、7年が経った。

 そんな緊張走る宇宙に生まれ、今年で16になるのが俺、レイン・クロニアだ。

 

 「レイン、俺の後ろから離れるな。」

 

 「......うん、わかってる。」

 

 無機質な廊下。

 外で降る雪の冷たさを伝導させたように冷え切った印象を持たせる機体格納庫への道を、目の前の騎士は黙々と、かつ一心不乱に歩く。

 彼は俺の父親、クレイル・アズール。

 独立戦争で目まぐるしい活躍を見せ、国王陛下から”青騎士”という称号を賜った、まあ人の憧れになるような人だ。

 ......苗字が違うのは、気にしないで欲しい。

 

 親子2人で歩いていると、目の前から少し老いた騎士が歩いてくる。

 俺は被っていたフードの(ひさし)を更に深くし、軽く会釈をする。

 

 「おおクレイル、ここで会うのは久しぶりか!」

 

 「ああ、第一線(まえ)を退いてからは初めてだ。」

 

 騎士の目線が父さんからこちらに変わり、訝しげにこちらを見る目に少し震える。

 それに気づいたのか、父さんは庇うようにして説明を始めた。

 

 「すまないな、うちの息子は恥ずかしがりなんだ。

 それなのに格納庫にある機体を見たいというのだから、困ったものだ。」

 

 「......そうか、ならば彼の周りに流れる『風』にも説明がつく。

 怖がらせて悪いな、君! では私はもう行くとするかな!」

 

 軽い会釈をもう一度交わし、また歩き始める。

 ウソをついた。

 別に俺は恥ずかしがり屋では無い、それどころかこの星に来た直後は頑張って友達を作ろうとした。

 父さんが嘘まで吐いて俺を庇ったのは、俺がウィンダミア人の持つ感覚器官、ルンを持っていないからだ。

 ルン無しはいい目で見られない。

 今のウィンダミアでは当然の事である。

 

 それに、『俺が格納庫の機体が見たいとねだった』というのもウソ。

 ここに来るにも何も言われず、ただ『ついて来い』と言われたから来ただけ。

 正直、数年ウィンダミア(ここ)で生きてきて初めて父さんに疑問を持っている。

 

 「さあ、乗れ。」

 

 「わかった......って、2人じゃ狭くない?」

 

 格納庫に着き、メカニックの居ない今のうちに急いで目の前の機体へ乗り込む。

 SV-262、ドラケンIII。

 正味良い思い出のない機体の色ではあるが、仕方がないと狭さにぼやきながら乗り込む。

 そのぼやきに対する「小さいから問題ない」という台詞には少々むかつき、軽く肘を入れたが小さいから問題無いのだろう。 

 唸り声を上げながら悶絶しているが。

 

 「クレイルだ、今から偵察任務に向かうが問題無いか?」

 

 『はい、ただしこのドラケンはあくまで偵察仕様なので、あまり無茶な操縦をしたらすぐ壊れます! 

 気をつけて!』

 

 何事もなかったかのようにバルキリーを操縦し、カタパルトデッキまで戦闘機から足を突き出したような人鳥形態、ガウォーク形態のまま歩いていく。

 ズシン、ズシンと体に響く振動が、鼓動と重なった。

 完全に外へ出ると戦闘機形態、ファイターへ変形し、耳をつんざくエンジン音が響き渡った。

 

 「クレイル・アズール、出るぞ。」

 

 起伏なくつぶやいたその一言と共に強烈なGがかかる。

 舌を噛まないように口を閉じ、少しの恐怖に目を閉じた。

 数秒後、開いた目の先に広がっていたのは暗黒の世界をライトアップする様に散りばめられた幾万の星。

 「わあ......!」と年甲斐もなく心を躍らせてしまうほど、その光景は美しく銀河を埋め尽くしている。

 

 「大気圏外へ出た、惑星アル・シャハルまでフォールドするぞ。

 ......フォールドの後、酔ったならすぐ言え。

 嘔吐袋は用意してある。」

 

 「......嘔吐袋ありがとう。」

 

 綺麗さに浸っていた心に横槍を突き刺すような、そんな父さんの心配に間を置いて感謝を返す。

 ......多分空気読めないからこの人は妻がいないんだろうな。

 

 そんな事を思いながらぼーっとしていると、いつの間にか惑星アル・シャハルへ到着していた。

 手慣れた操作でパネルを操作すれば、『ステルスON』の文字と共に特徴的な青の機体色がアル・シャハルの空を再現した水色へと変わり、そのまま大気圏へ突入する。

 

 「うわわわわわ!」

 

 「口を開くな、舌を噛む。」

 

 「振動で勝手に開くんだからしょうがないじゃん!」

 

 突入時に軽い言い合いをしながらも、無事大気圏内へ侵入。

 

 この目で見たことのない異星の中は気になることだらけだった。

 ドラケンIIIのモニター越しではあるものの、雲ひとつない夕暮れの空の下、都市部には数えきれない程の観光客がひしめきあっている。

 ウィンダミアでは見れないであろう光景に、思わず身を乗り出して釘付けになる。

 

 「......さて、レイン。」

 

 「なに?」

 

 名前を呼ばれ、振り返れば父さんが数年見せることのなかった優しげな表情で、こちらに微笑みかけている。

 ここに至るまでに見せた仏頂面とは正反対の、慈愛に満ちた微笑み。

 その何かが起こると確信させるような笑みに、思わず息を呑む。

 

 父さんはその表情のまま、懐かしむように外を見て話し始めた。

 

 「俺は...... 今日で騎士団を辞める。」

 

 「な、なんで!?」

 

 「まあ色々、疲れたっていうのもあるが。

 ......これからまた、戦争が始まる。

 そうなれば俺もまた前線に出ることになる、前線に出ればもうお前を差別の目から守れないし、俺自身、()()()()からもう人を傷つけたくはない。」

 

 唖然とする。

 また戦争が、()()悲劇が、始まるというのだ。

 たとえそこにどんな意志があろうとも、そんな事を歓迎できるはずがない。

 

 「レインには俺の知る操縦技術を叩き込んだ。

 この宇宙はVF、バルキリーの操縦技術さえあれば食いっぱぐれることは無い、生きていけるさ。」

 

 「......ここで、お別れって事。」

 

 「そうだ。

 悲しむことはない、同じ宇宙に生きているんだ、平和になったらまた会えるさ。」

 

 キャノピーが開き、風が髪を揺らした。

 袖で目元を拭ってから見た父さんのルンは、心なしか項垂れているように見える。

 立ち上がり、機首先端へ歩いてから振り向いた。

 

 「7年と少し!

 本当にありがとうございました!

 俺、頑張るから!

 このチョーカーに誓って!」

 

 夕焼けに輝くフォールドクォーツで出来たチョーカーを指差し、もう片方の手で大きく手を振った。

 小さく敬礼を返され、キャノピーが閉じる。

 

 「━━行くか。」

 

 もう一度振り返り、目を閉じて覚悟を決める。

 怪我はしないと分かっていても、怖いものは怖い。

 目を開き、息を吐いて━━

 

  

 地面に対して垂直に、ドラケンIIIから飛び降りた。

 風を切る轟音の端で遠ざかっていくエンジン音が聞こえる。

 寂しさを逸らすように、頬を撫でるどころか切り付けていく風を味わった。

 地面が数十メートル、数メートルと近づいて行く。

 

 

 

 「んぇ? 何か音がするんね?」

 

 「はあ? 気のせいじゃねえのか......って、うおぉ!?」

 

 石畳と靴裏がまるで爆発のような音を立てて激突する。

 骨は折れるどころかヒビも入っていない、が......

 

 「いっったいものは痛いよ!」

 

 別に激痛。

 悶えてその場で転げ回っていると、覗き込む2人の人影に気が付いた。

 

 「えぇ、大丈夫ですか......?」

 

 「どういうことなんだよ......」

 

 痛みを堪えながら立ち上がり、フードを外す。

 紫に染まった髪を見せ、銀河中探しても1人しか()()()()()()()()()()右目で2人に視線を返す。

 

 これが後に共に戦う事になる、ハヤテ・インメルマン、フレイア・ヴィオンとの。

 

 「━━こんにちは!

 えっと、俺の名前はレイン・クロニア、16歳です!」

 

 

 初対面となった。

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