小さくふう、とため息をついた。
遺跡の破壊は叶わず、美雲さんはウィンダミアの手に落ち。
それらに加えてマキナさんが狙撃され、今動けるワルキューレは3人。
ドラケンIIIとリル・ドラケンを奪取できたのは幸運だったのかもしれないが、どうにもその機体じゃあ俺が全力を出せないと、八方手詰まり。
「━━フレイア、その手どうしたんだ?」
「あっ! えと......」
「ウィンダミアで岩場を通ってた時に怪我したんだよね。」
「そ、そうなんよ。
全然大丈夫だから気にせんといて。」
重ねてフレイアの結晶化も進行し、隠しておきたい相手にバレそうと来た物だ。
むしろここまでよく堪えた方かもしれないが、もう隠し通すことは難しいだろう。
怪我つながりで言えば、俺の足は医療班の努力によって痛みは多少残るものの動かせる程度には回復。
流石はケイオスの超時空医療技術、ここまで治れば上出来だろう。
「美雲・ギンヌメールの歌は全銀河に響き、そのフォールド数値は異常な桁を見せたそうだ。
......ウィンダミアの伝説にある『星の歌い手』としてその力を振るえば、俺たちが星団を取り戻せる可能性はゼロになるだろう。」
アーネスト艦長が見せた画面には異常なほどのフォールド数値が写っており、その歌の主は美雲・ギンヌメールその人。
ウィンダミア側についた...... なんて事は、ワルキューレと親交を深めた様子の彼女にできる事ではないだろう。
恐らくはマインドコントロールとか、何らかの要素で操られていると見るのが妥当。
「先程レディMとの交信が出来てな。
美雲は星の歌い手の細胞より作り出されたクローンであり、星の歌い手の力を受け継いでいる。
ウィンダミアはラグナへ向かうだろうから、それを討て、だとさ。
......気楽に言ってくれるものだよ、本当に。」
レディM。
ケイオス、並びにワルキューレを支援してくれる謎の人物で、その正体は不明。
今の赤ちゃんの様な人類がプロトカルチャーの技術に溺れない様規制しているのもその人であり、今回においては美雲さんをクローンとして作り出した者、という事になるんだろう。
淡々と説明しているが、驚いていないわけじゃない。
むしろフレイアと並んで1番驚いている。
「━━でも、それでも美雲さんはワルキューレだから......
私は美雲さんにあんな暗い色で歌ってほしくないんよ。」
「ああ、星の歌い手がどうとかじゃなく、美雲さんはワルキューレ。
だから取り戻したい。
取り戻したいが......」
レディMから届いた連絡にはまだ先がある。
プロトカルチャーシステムと同調した星の歌い手、美雲さんの歌がもたらす身体への異常。
星の歌い手がラグナにある完全体のプロトカルチャーシステムで歌うことにより、それに巻き込まれた人間の脳波はデルタ波レベル、深い睡眠と無意識状態で同調。
巨大なネットワークを形成する。
ウィンダミアで響いたあの歌は、言うなれば不完全体。
だからこそ俺やハヤテ、白騎士にワルキューレたちあの時常世へと戻れたが、ウィンダミアがラグナに到着し歌わせてしまえば......
「......最悪の場合、美雲・ギンヌメールの命を...」
アーネスト艦長の呟いたソレは演技でもない事だ。
だがソレをしなければいけないほど緊迫した状況、こうして談話室で会話している暇はない。
意を決し、艦長が高らかに宣言する。
「総員、出撃準備!
星団に残る連絡のついた全力を全投入し、これよりラグナへと向かう!!」
「ごめんなぁマキナさん、ジークフリードぶっ壊しちゃって......」
「いいのいいの! クロクロのジクフリちゃん、全部パーツを入れ替えなきゃいけないぐらいガタガタだったから!」
医務室の中、レイナやフレイアと並んでベッドに横たわる彼女に視線を送る。
命はとりとめたが、戦術ライブのように激しい動きをする事はNG。
整備も彼女がいない事から、少し、ほんの少しだけクオリティは落ちるだろう。
......本当に、誰一人欠けてはいけなかった。
五角形を描く糸が、頂点の役割を果たす突き立てられた針にピンと張られているとして。
美雲さんにマキナさんが針であるワルキューレから抜けるという事は、Δ小隊というその糸が緩んでしまうことを意味する。
彼女たちが歌うから俺たちは飛べるし、俺たちが守るから彼女たちは歌える。
融通の効かない組織であり、それが変えようのない俺たちなのだ。
作戦時間まで後少しだから、と医務室を追い出され、無音の廊下をひた歩く。
聞けば、フレイアの結晶化は既にかなりの範囲に広がっていると。
「もう、プロジェクションでも隠せないかもしれんで......」
そう言って隠す様に包帯の巻かれた腕を抑える彼女の顔は無常を感じさせ、ウィンダミア人であるが故の運命を恨んだ。
俺にできる事は何も無い。
辛い。
「フレイアにレイン、何してるの?」
足に急ブレーキをかける。
もつれて転んでしまったが、ソレは置いておいて、別の通路からミラージュが現れた。
フレイアの手に寄せる視線は、彼女が全て理解したことを表している。
「貴方、その怪我......」
「━━お願い、誰にも言わんで!」
ミラージュが全てを伝える前に、フレイアはそれを隠す様に懇願した。
廊下に声が響き、それは暗黒の宇宙へと広がっていく。
一分一秒でも長く歌いたいと願う彼女の心、ルンには、誰も何も言えず、そうするしか無いのだ。
一緒に戦ってきたから、尚更に。
結局その場でフレイアと別れ、ミラージュと共に格納庫へと向かう。
「知っていたのか」と問う彼女へ、「ああ」と短く一言だけ返した。
いつもなら隠し事に対しきつくきつーく咎めてはハヤテに揶揄われている彼女だが、今回ばっかりは、そう問い詰める気にもなれなかったらしい。
「あれ?」
格納庫に来て最初に思ったのは、俺の機体がドラケンではない事。
その問題のドラケンは光学迷彩をえんじ色に変え、ミラージュの眼前にリル・ドラケンを装備したガウォークで駐機している。
じゃあこの、俺の前にあるジークフリードでもカイロスでもない機体は何なのか?
何らかのことを知っているであろうミラージュがハヤテに「フレイアに会ってこい」と言い終わったタイミングを見て聞いてみた。
「━━ああ、お願いして私のジークフリードとドラケンを変えてもらったんです。
......どうせ、『ドラケンじゃあ物足りない』とでも思っていたのでしょう?」
バレてた。
感謝の意を伝え、その特異な機体の翼を整備するガイさんにこれは何なのかと聞く。
......何かするんだったら、先にパイロットへ伝えて欲しいものだが。
「これ、俺の機体ですか?」
「━━やっと来たか!
これはな、ジークフリードに試作型のデルタ翼型の宇宙、大気圏内両用のスーパーパックを付けた機体だ。
お前様にOSも新調してあるし、リル・ドラケン装備みたいに多彩な方向転換も出来るぞ。」
その機体の前進翼は折り畳まれ、そこに接続されたブースターと翼は以前ライブラリーで見たYF-29 デュランダルの前進翼をデルタ翼にした様な見た目。
得意げに語りを止めないガイさんが言うには、フロンティア船団で使用されていたVF-25 メサイア専用のトルネードパックを真似たものだという。
ドラケンとジークフリードの間にある推力差を補うために作られたが、テストを行ったメッサーさんにより『ピーキーすぎる』と切り捨てられ倉庫に埋まっていたところを引っ張り出してきたと。
脚部には装甲と高機動バーニアを備え、姿勢制御はもう完璧。
腕部にはアサルトナイフのかわりにドラケンの指揮官機に搭載されている様な剣が収納されていて、コンパクトながら展開した際の転換装甲による強度と切断力はまさに伝説に謳われる英雄、ジークフリードの愛剣バルムンクの様。
まさに操縦したいと思わせる様な機体に、胸がドンドン高鳴っていく。
語りを止めることのなさそうなガイさんの肩を掴み、ぐわんぐわんと彼を揺らして感謝を伝えた。
「ありがとうございます!
こう言うのを求めてた!」
「お、おう、喜んでもらえて嬉しいが......
こいつ、
「え、ジークフリードじゃないんですか?」
「いや、中身はほぼ別物なんだ。
ジークフリードよりじゃじゃ馬なOSと推力、これをそのままジークフリードって言うのはいくら何でもな......
そこでだ、お前が名前をつけろ。」
肩から手を離し、顎に移動させて深く考え込む。
ジークフリードの進化系みたいなもので、なおかつこの見た目に合う名前......
! 閃いた。
「━━じゃあコイツは、
ジークフリードの嫁さんの名前ならコイツにぴったりだと思うんです。」
「......おう、良いんじゃねえか?
よし、そんじゃあ名前も決まったことだし、俺はジークフリードのアーマードパックを取り付けてくる。
お前らー!! 俺たちの整備不足で負けたら、マキナ姉さんに合わせる顔がねえぞー!!」
安心した様に歩き出した彼の後ろ姿を見て、一つ考えていたことを訂正する。
ワルキューレという針が無くなったから糸が緩むのではない。
針の抜けた穴を埋める様に、糸が縮まって3本の針に合わせる様に形を変える。
仲間だからこそ、その穴で負けて誰かが気負わない様に全力を尽くすのだ。
目の前にいる暴れ馬を見上げ、その機首に手で作った飛行機を重ね合わせた。
VF-31G
お前は、メッサーさんがピーキーとまで称したお前を━━
「━━乗りこなしてやる。」
最終決戦はもう、すぐそこに。