ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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激情の翼

 

 デブリ流れる虚無の宇宙。

 カタパルトに乗せられたクリームヒルトのコクピットから見えるラグナの海は覚えていたよりも青く、長い長い時を超えて再度邂逅した様な感覚を覚える。

 実際は数日、そんな古い記憶という事はないのだが、それでも()()()()と思ってしまうほど濃密で、ギッチリ詰まった空の旅。

 

 負けても勝っても、ここがその旅の終着。

 そうはさせぬとエリシオンの横から現れたのは、乱れた制風権の隙間を抜けて駆けつけてくれたマクロス・メガシオン、グラシオン。

 頼もしい味方ではあるが、それでも瞳に感じる不穏は消えない。

 

 だから今は彼に祈る。

 囚われる様に縋るのではない、前に進む俺を見守ってくれと()()んだ。

 『空を取り戻す勇気を見ててくれ』と。

 その形見であるネックレスを手首に巻き付け、星へ掲げながら。

 

 敵艦隊が見えた。

 数多のドラケンが射出され、向こうも総力を持って迎え撃とうというわけか。

 隊長からの指示がモニターに現れ、覚悟の帯をこれでもかと締めつけた。

 

 「Δリーダーより全小隊へ、オペレーションラグナロク始動!

 各自(おのれ)の全力を尽くせ!」

 

 皆気合いが入っている。

 数多の部隊、その先陣をΔ小隊が切るというのだから責任重大だ。

 

 『Δ4、新しい機体は?』

 

 『いい感じだ、メッサーの残したデータも適合してる。

 ......レインはどうだ?』

 

 「飛んでみなければ分からないかな。

 けどジークフリードよりは性能も高いはずだから、任してくれても構わないよ!」

 

 『よっしゃ、行こうぜミラージュ、レイン!』

 

 グッドサインを返し、エンジンを全開にする。

 カウントがゼロになると同時にカタパルトに固定するためのアンカーが抜け、ワルキューレの『ワルキューレはとまらない』を背に戦場へ一筋の光が突き抜けた。

 

 『━━あいつ、速すぎだろ!?』

 

 その光はクリームヒルト。

 スーパーパック装備型のジークフリードを置き去りにしてデブリを踏み台にしながら、艦隊へ接近する。

 

 もちろんパイロットにもかなりの負担がかかるが、そこはゼルヘス人特有の丈夫さ。

 常人では気絶する機動であろうが何だろうが、俺には関係のない事だ。

 

 意識外のスピードに狼狽えた対空砲火など恐るるに足らず。

 戦艦の砲台に腕部から射出、展開された剣、バルムンクを蹴り飛ばし、それが()()()()()()()()他の副砲を全て撃ち抜く。

 

 「......悪い、しばらく黙って待っててくれ。」

 

 慣性のまま直進していたバルムンクを回収して翼に装備された追加パックによる変速機動を利用、目にも止まらぬ速度で機体が回転し、一刀両断された主砲は赤熱した断面をこちらに向けて宇宙へと消えていった。

 

 流れる風のまま、味方機のミサイルを潜り抜けてエリシオン達の進む道に捨てられた障害へ剣を突き立てた。

 2本の剣はクリームヒルトの速度に負けて折れることはなく、戦艦の後から先までを一太刀のもとに切り捨てる、

 バトロイドに変形し格闘戦を狙ってくるドラケン隊長機がいればその腕をちぎる。

 足をピンポイントバリアパンチで叩き壊す。

 壊して裂いて切り開くソレは、ウィンダミアにとっての『悪魔(ディアボロ)』。

 

 クリームヒルトという女性は殺された夫であるジークフリートの復讐に生き、仇を殺そうとする事に何一つの躊躇いも持たなかったそうだ。

 鎖を切り裂いて空を取り戻すために躊躇いなく破壊を行うソレは、まさに()()()()()()()の名を冠すにふさわしい機体と言えるだろう。

 

 

 大気圏へと突入し、摩擦熱の中へジークフリードがパージしたアーマードパックが消えていく。

 熱が冷める頃には、その眼前に広大な海と鳥を思わせる巨大な遺産が天を穿っている姿。

 

 枝の様に伸びる白煙を吐いている(ドラケン)は黒き翼を広げ、竜切り(ジークフリード)復讐鬼(クリームヒルト)を相手取ろうというのだ。

 

 互いに『恐れる事なし』と、背面飛行のクリームヒルトとドラケンIIIがすれ違う。

 

 「白騎士......!」

 

 「終わりにするぞ、レイン・クロニア!」

 

 ミサイルを撃ち落とす。

 曲線を描き襲い来るドローンを剣で弾き返す。

 

 ダーウェントの白騎士と純粋ゼルヘスの生き残り。

 空でしか繋がることのできない2人の剣がぶつかり合おうとする、その時━━

 

 

 『......ルークス、センティーレー......』

 

 脳への衝撃と共に、星に生きるもの全てへと星の歌が響いた。

 何で防御しようともそれは貫通し、ヒトの意識を別の場所へと連れて行く。

 

 巨大なホログラムと共に歌い続ける美雲さんの歌は、たとえウィンダミア人でもラグナ人でも誰でも何でも、例外なく連れて行く。

  

 その意識はまるで草の根にとらわれて養分になり、吸収されていくネズミの死体の様に、光の触手に囚われる。

 物理的な痛みでは無い、心への強烈な苦しみを伴って。

 

 「━━全人類が繋がり、ひとつの存在に進化することで銀河に聖なる平和をもたらす。

 数百億の意識を繋ぎ、情報処理速度を神の領域にまで高めることで......我らは命の限界を超え、()()()()()()()()()。」

 

 「ロイド!」

 

 意識が、風が統合されていくにつれて、ハインツの感覚と同調した。

 言うなれば、彼は全てを一つにしてウィンダミアの寿命問題を解決しようとしている。

 

 しかしそこへ個人の意志は一つもない。

 それはただ、星の歌い手が命尽きるまで歌い、いつかは消えるかりそめの楽園。

 

 「そんな事...... ぐあっ!」

 

 抵抗の意志を見せるが、苦しみは俺という存在を削っていく。

 レイン・クロニアという自己はいらない、必要なのはお前の意識、たったそれだけなのだ、と。

 

 統合されていくにつれて甦らされる記憶。

 その1ページが脳裏に再生される。

 

 

 「......レイン、守りの樹木はな、実はもう壊れてしまいそうなんだ。

 

 ああそうだ、私たちならそれを()()()

 プロトカルチャーと呼ばれる過去の人たちが残した遺産。

 その遺産に私たちはある程度の接触が許されているんだ。

 ......もし、な。

 もし、プロトカルチャーの遺産である何かが大変な事になっていたとしたら。

 ━━お前はそれを、治してやりなさい。

 いつか1人になったとしても。」

 

 

 

 「......追いつけない、君はいつでも━━」

 

 「! フレイア?!」

 

 消えそうになった意識を歌で取り戻す。

 ハヤテ、フレイア、ミラージュ。

 仲間へと手を伸ばすが、この手は縛られ届く事は無い。

 

 「フレイア、俺、は......」

 

 ハヤテの意識が消えようとしたその時。

 彼の胸に光るフォールドクォーツが、黄金色に光り輝いた。

 その光は触手を、心を縛る鎖を引き裂き、彼は愛する人へと手を伸ばす。

 

 

 「━━俺は、お前が好きだ!!! 

 俺が絶対守るから、だからお前は、お前の歌を銀河に響かせろ!!!」

 

 何という、大胆な告白。

 全銀河と繋がっているこの状況で好きを叫ぶということは、全星放送のテレビでトンデモなことをするのと一緒。

 だが、フレイアはハヤテの伸ばしたを掴むことが出来ない。

 

 結晶化が、ブレーキとなっているのだ。

 フレイアの持つ憂いは、迷いはわかる、だけど━━

 

 「━━フレイア、迷うな!」

 

 鎖を引きちぎり、フレイアの元へと飛んだ。

 瞳の周りに高速で()()()が進行しているのを感じる。

 恐らくゼルヘス人はウィンダミア人と同系列の人種なのだ。

 

 昔父親の書斎から盗み出した『ゼルヘス人の起源』みたいな本には、『ゼルヘス人はこの球状星団でプロトカルチャーが()()()()()()()()人類』と書いてあった。

 

 最初に作られたゼルヘス人と、最後に作り出されたウィンダミア人。

 関連性は確かにあった。

 ウィンダミア人は、言うなれば常に力を出しているからこそ短命であり、結晶化を伴って死に至る。

 だがゼルヘス人はプロトカルチャーの遺産に起きた異常を回復させる事で自身の命を燃やし、自身の体を結晶化させるのだ。

 

 ヴォルドールで空中騎士団と同調したのも、さっきハインツと意識が繋がったのも。

 この、右の瞳がルンによく似た星形なのも。

 そう考えれば納得が行く。

 

 フレイアの鎖を引きちぎり、背中を押してハヤテの下へ投げつける。

 もう隠し事はないのだ、気兼ねなく言わせてもらおう。

 

 「━━結晶化如きで、ハヤテの愛は変わらない。

 だから怯えてないで恋を成就させろ!!

 『短命な私じゃハヤテを幸せにできない』んじゃない!

 フレイア・ヴィオンだからこそ、ハヤテは好きと叫んで幸せになれるんだ!!」

 

 ポロポロと、涙が落ちる。

 その涙はルンの輝きを纏って光り輝き、辛かったことも楽しかったことも、ハヤテと歩んできた思い出の全てを写す。

 

 叫びが、太陽の様な光を放つその叫びが全銀河へとこだまする。

 

 「━━好き...好き。

 好き、好き、好きぃぃぃぃ!!!」

 

 恋は実った。

 赤く真っ赤な、りんごの様に。

 

 「良くやった、リンゴ娘!」

 

 抱き合う彼らを背に、ヒトの意識で構成された銀河の中を泳ぐ。

 先程声が聞こえたのだ。

 美しい風の歌が。

 

 「......見つけた!」

 

 「レイン?! 何故ここに!」

 

 詳しい話をしている暇はないと空中騎士団の鎖を外し、ルンに纏わりついた蜘蛛の巣の様なモヤも切り捨てる。

 結晶化はどこまで進んだ?

 指先が震えるが、止まるわけにはいかない。

 

 「レイン・クロニア......」

 

 「━━俺は、前を向いている。

 だって過去の事とかよりも今を生きていたいから。

 それこそ空中騎士団がゼルヘスを荒らしたとか、ボーグの父親がみんなを殺したとかそんなのどうだっていい!

 白騎士、貴方も前を向いて生きてみろ!

 前を向いて、飛んでみろ。」

 

 「......お前は、死んでいった者たちをどうでもいいと切り捨てるのか?」

 

 「切り捨てるって言うのはちょっと違う。

 囚われないようにするってのが正しい。

 だって俺が死んだとして、大切な人にその死を抱えて復讐に走ってもらいたいかと言われれば、N()O()、だから!」

 

 空中騎士団のメインメンバー、彼らの鎖を外し、最後にハインツの元へと向かう。

 笑い合い、友達として助けようというのだ。

 

 「レイン、結晶化が......」

 

 「ああ、気にしないで。

 限界は見定めてる、いつだかのカシムみたいに無理はしないさ。」

 

 完全に解放すると同時に、彼へ向けて敬礼を捧げる。

 ウィンダミア式の、胸に手を当てるもの。

 互いの目を見て通じ合った心は、彼のルンと俺の瞳を光らせた。

 

 「今が、我が儘を通す時だ。

 やれる? ハインツ?」

 

 「ああ、勿論だ()()

 ━━空中騎士団! ワルキューレ、並びにΔ小隊と連携し、造反者であるロイド・ブレームを撃つのだ!」

 

 風の歌がルンを通し、彼の風を伝える。

 

 「奴らを許せというのですか!?」

 

 「これは私の()()()だ。

 先王グラミアからの思いを、過去を全て打ち捨ててでも、私は傷つけ合わない()()()()()が欲しい!

 これが私の、真なる風だ!」

 

 「「「━━大いなる風にかけて!!」」」

 

 

 

 歌は響く。

 人は永遠を望まず、今を生きていきたいと願った。

 その願いは星の歌を、鎖を引きちぎり、バラバラでありながら同じ道をゆく風となって、ラグナの空へと━━

 

 

 

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