銀河を抜け、命を超え。
辿り着きたるは命のピースで作られた宇宙の統括者が玉座に座り、星の歌い手が絶望と共に星々を見つめる場。
「貴様!」
自身の存在ごと全てを吹き飛ばしそうな衝撃波が放たれるが、手首に巻いたフォールドクォーツが、ラインの黄金がその光で俺の心を守る。
役目を果たし砕け散った黄金に「ありがとう」と呟きながら、我ここにあらずの星の歌い手の両肩へ優しく触れた。
冷たい氷の様な肌を溶かすように。
「美雲さん、貴方はどうして歌うの?」
「私、は...... 星の歌い手として、歌い続けて━━」
そうではない、と彼女の話を遮る。
常々言っているが、俺は
『Δ小隊は飛んで、ワルキューレは歌う。』
そのくらい単純でいいのだ。
星の歌い手だとかクローンだとかではなく、単純、至極単純なただの美雲・ギンヌメールとしての答えを。
「━━歌いたい......
カナメと、マキナとレイナと、フレイアと!
ワルキューレの美雲・ギンヌメールとして!」
それが聞きたかった!
ロイドの放つ2撃目の衝撃波に意識を押し戻されながら、常世へ心を戻す。
歌。
歌、歌!
『ワルキューレは裏切らない』を背に、
ロイド・ブレーム操る白きドラケンに対し、黒き翼と共に打って出る。
「空中騎士団、陛下の真なる風に従いロイド・ブレームを討つのだ!
貴様にも協力してもらうぞ、レイン・クロニア。」
「......風を合わせられるのか、白騎士。」
「無論だ。」
絶妙なコンビネーションで、夜空へ風を作り出す。
暴風雨と白騎士の連携はこの空でなければ実現せず、風の中に生きる者たちだからこその飛び方。
互いに幾度となくぶつかり合い、殺し合い、言ってしまえば誰より長く飛んだ者同士。
まるで10年来の友のように舞う2機は、ピンボール台に入れられながらも一度も激突しないボールの様に、ギリギリを潜り抜けてプロトカルチャーの遺跡へ、システムの上部に現れた星の神殿へと襲いかかる。
ワンクリックズレれば激突する距離を飛行しながら、互いの被弾など考えずただ撃ち抜いていく。
俺は羽を、白騎士はコクピットを。
ふと遺跡上部から鳴り響いた轟音に振り向けば、シグル・バレンスより放たれた砲撃がマクロス・メガシオンを穿ち、グラシオンに至っては操られ、エリシオンと格闘戦を繰り広げているではないか。
これではエリシオンによる神殿の壁を突き破るほどの火力は期待できない。
ならば、と通信をハヤテ達に繋ぎ、ひとつ作戦の提案をする。
「ハヤテ、ミラージュ! エリシオンからの火力が期待できない以上美雲さんを助けるには
できるか?」
『やれるぜ、勿論な!』
『ええ、私も!』
本当頼りになる仲間達だ。
下から突っ込むというのはつまり、システムにある隙間から直角に一直線に神殿へ向かって突進しようというのである。
それはマクロス同士を相討ちさせたロイドも警戒しているらしく、待ち構えているドラケン、カイロスは3機では捌ききれないほど。
そこで、だ。
「━━白騎士も行くだろう?」
「......ああ。」
勿論この男も連れて行く。
不服だろうが、この状況を打開するためには彼も協力せざるを得ないだろう。
そうと決まれば善は急げ、各々の持つ輝きを出し渋りせず、4方向から集う光の糸は絡み合ってひとつの方向を目指す。
止まらないのだ、歌も風も。
そう、止まらないからこそ繋がれる。
「━━1度だけだからな、ワルキューレ!」
エリシオンの甲板から身を投げ出し、空中で無防備な姿になったレイナと、無理を押して参戦したマキナさんをボーグがルンを光らせ助けたように。
「ハヤテ!」
「フレイア!」
ハヤテとフレイアが、ウィンダミア人と地球人の間にあった壁を乗り越えて愛を伝え合えた事だって、止まらなかったからこそ。
その光は星の歌い手という呪縛から美雲さんを解き放ち、彼女の声は楽しそうに、しかし確なる決意を持って空へと歌を響かせるのだ。
星の歌い手がいなくなったことにより揺らいだバリアの隙間へ、たったの4機が雪崩れ込む。
たかが4機、されど4機。
彼らは突入の速度そのままに遺跡内を駆け上がり、神殿中枢へと到達する。
幾重にも重ねられたドラケンの壁の向こうには、何が起きても歌い続ける美雲・ギンヌメールの姿。
狭い神殿内、小回りも利かず数に追い詰められるが、白騎士決死の猛攻が道を切り開く。
「......星の歌い手を、美雲・ギンヌメールを連れて行け! 風は俺が止める!」
そう言って騎士の名に相応しく敵を切り倒す彼の後ろ姿には、もう戻らないと書いてある様で。
しかし今は一刻を争うと切り開かれた道を通り、美雲さんへ手を伸ばした。
「美雲さん!」
コクピット内へ彼女を収め、白騎士に背を向けて脱出に向かう。
......互いに同じ方向を向き、共に飛んだのは今回が初めてだったが、彼は確かに
故郷の、ウィンダミアの空を。
彼にとっての空は生きる場所であり死に場所でもあったのだ。
しかし彼にも心残りはあったのだろう。
「━━ハインツを、頼む。」
敵であった者に弟を託すこと。
それはどれだけのことがあろうと、素面で言える様なことではない。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら多数の人は渋々託すのだろうが、彼は、笑顔だった。
彼が、キース・エアロ・ウィンダミアが守りたかったのは、ハインツの思いだったのかもしれないと爆散する星の神殿を見やる。
「......託されたものは守るよ。
貴方は立派な騎士だった。」
ウィンダミア式の敬礼を去って行くシグル・バレンスに送り、この戦いは幕を閉じた。
朝焼けが海と大地を、エリシオンの甲板を照らす。
激しい戦闘を思い出させるほどの砲撃でボコボコになったアイテールの上にガウォークを駐機させ、他2人と同様にキャノピーを跳ね上げた。
近くを見れば、空に飛び出しながらも怪我なくそこに立つワルキューレの姿。
怪我の癒えきっていないマキナさんはレイナに肩を借り、やりきった、と満足げな顔で残りの2人を待っているし、カナメさんはきっとメッサーさんのことを想っているのだろう。
こうして平静な心で海を見るのも久しぶり、なんとも言えぬ懐かしさに目を細めながら、今は後部座席に乗せた女神さまをふさわしい場所へ連れて行くために手を伸ばす、が。
「......美雲さん、もしかして
彼女、立ち上がらない。
もしやと思い問うてみれば、頬を染めて俯き無言を持って「そうよ」とぶっきらぼうな返事が飛んできた様な気がした。
「あんな動きで飛んだこと、なかったもの......」
そうやって顔を赤くする姿を見て、ああ、この人は美雲・ギンヌメールなんだなと安堵した。
実年齢3歳で、ミステリアスながらワルキューレと歩む確かな意志を持つ女性。
そんな彼女の手を「しょうがないな」と掴み、その体を持ち上げる。
勿論粗雑に扱うわけではなく、優しく丁寧に。
「わお、クロクロだいたーん!」
そんな歓声がマキナさんから飛ぶ様に、美雲さんを抱っこする。
それもただの抱っこではない、女神にふさわしいお姫様抱っこと言うやつだ。
フレイアもハヤテの機体から降りて、わっと皆で抱きしめあった。
俺の体にも言えることだが、歌の影響か遺跡の力か、結晶化が幾らか治っている。
フレイアは手の甲に、俺は首筋に少しだけ残っているが、それでも使える時間が伸びたと言うのは嬉しいことだ。
歌が起こした奇跡なのかプロトカルチャーの気まぐれなのかは気にせず、今はこれを享受しよう。
降ろした美雲さんも、半泣きでワルキューレのみんなと抱き合っている。
......ここからこの戦争はどうなるのか、そんなのは誰にもわからない。
もしかしたらハインツが停戦を全軍に呼びかけるかもしれないし、もう一度ブリージンガル球状星団を支配するため襲いかかってくるかもしれない。
未来なんて誰にも分かりっこないのだ。
「風......」
「メッサー、あんたの分まで俺たちはやったよ。」
頬を撫でる風にもう逝ってしまった恩人を重ねて、ハヤテと共に笑い合った。
右手を飛行機に模した形に変え、空へと浮かべる。
キースはあちらでメッサーさんと出会えるだろうか?
もし会えたのなら、気長に話していてほしい。
空で競い合ったもの同士、あの世では仲良くやれるだろう。
朝焼けを終えて見えた綺麗な青空。
ああ、この空が、このひと時だけでも平和な空が。
どうか永遠に続きますように━━
テレビ版まで終了です。
できたらでいいので、評価や感想等よろしくお願いします。