ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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幕間
何ともない、何か起こる1日


 

 「......眠。」 

 

 重たい瞼を擦り、大口を開けながら吐き捨てる様につぶやいた。

 ラグナ奪還作戦、オペレーションラグナロクより数週間が経ち、海も空も平和を表す様に凪いでいる。

 

 結局あの後統合政府へウィンダミアが和平を申し込み、断る理由のない統合政府はこれを快諾。

 今はこの戦争が起こる原因となった不平等条約やこれからのことなどの協議を重ねているらしい。

 展開が変わる可能性があるとは言え、確かに今、()()()()()()()のだ。

 

 顔を洗い、少しだけ鏡に映った頸を確認する。

 どうにも結晶化がここまで治ったのには、遺跡の作用があったらしい。

 ()()()、と言うしかないのだ。

 プロトカルチャーの遺産なんて、SDF-1 初代マクロスが地球に降り立った時からそう分析は進んでいない。

 ましてや星の神殿なんて急に現れてすぐさま爆散してしまったものだから、分析なんて出来ているはずもないと言うもの。

 

 だからこそ、俺とフレイアの結晶化がここまで回復したのは『奇跡』と陳腐な言葉で表現するしかないわけだ。

 ......結晶化による寿命の減少がどの程度なのか、俺には分かり得ないが、減っていても10年程度だろう。

 10年というのは俺の話であって、ウィンダミア人のフレイアがどうなのかは本人しかわからない。

 

 それと一つ困った事を言うとするならば、ウィンダミア人の結晶化と違ってゼルヘス人のコレはポロポロ落ちる。

 踏んだら痛いし掃除は面倒だしで、結構煩わしいものだ。

 

 わからない、と言えば、ネックレスの事も。

 美雲さんの歌によって精神世界に囚われた際、まるでロイド・ブレームの放った衝撃波から守る様に割れたコレ。

 今は割れた破片を接着剤でくっつけて飾っているが、おそらくもう戦場に持って行くことはないだろう。

 

 何故かと問われれば、あの中にはもう()()()()()()()()()が入っていない様に感じるからだ。

 あの時守ってくれたのはメッサーさんで、彼はやり残した事をやり切って俺のもとから離れていった......

  

 少々ロマンチストの様な考えであるが、『奇跡』だって起こるこの世。

 それぐらい考えたってバチが当たったりはしないだろうし。

 だからただの形見として、壁に引っ掛けて飾っておく。

 

 さて、戦争が終わって数週間な訳だが、ワルキューレとΔ小隊の休みは今日まで。

 明日からは停戦記念の慰安ライブに向かうわけで、またしばらく忙しい日々が続くだろう。

 

 「ふふ。」

 

 でもジュースを飲みながら微笑んでしまうほど、その日々が楽しみなのだ。

 襲撃される心配なく、歌う方も聴く方も存分に楽しめるライブ。

 そんなの最高ではないか。

 

 その最高のライブを彩るエアパフォーマンス。

 今から楽しみで仕方がない。

 

 

 よし、脳内で考えを巡らすのはここまでにしよう。

 ささっと寝巻きから外出用の服に着替え、寮を出る。

 行き先も決めないまま、気ままに繁華街へと出歩こうと言うのだ。

 財布ひとつポケットに突っ込み、携帯を持って。

 

 

 

 「━━わぁ、良いんですか〜?」

 

 「はい。

 いつだかに父さんからの段ボール、届けてくれたお礼です。」

 

 オペレーターのミズキさんへ、少し大きめな袋を手渡す。

 にっこり頭に乗ったペットと笑う彼女には、以前父さんの贈りものを渡してもらった恩があるのだ。

 それこそアレが俺の手に収まっていなければハインツとの仲は無いし、Δ小隊の皆にも自分の過去を言う機械をなくしてうだうだと先延ばしにしていただろうから、まあ彼女がいなければ今俺は生きていない可能性だってあるだろう。

 

 しかし女性1人に贈りものなどしたことがない。

 そこで、だ。

 

 「艦橋(ブリッジ)の皆さんと食べてくださいね。」

 

 ちょうど良い、と艦橋で頑張る皆への贈り物とする。

 渡したのは最近流行りのラグナ新名物、『クラゲ三重奏』と言うスイーツ。

 三層に重ねられたクラゲ型の生地がそれぞれ違う食感で飽きさせず、さらに三つの味によるマリアージュがラグナ特有の繊細な海を思い出させると評判だ。

 

 舌に合えばいいが。

 ひらひらと手を振ってその場を後にし、ふと携帯を開く。

 

 ......最近、迷惑電話がかかってくるのに困惑している。

 知らない番号からの電話には出ない、と一貫した体制を取ってこそいるが、ここ最近朝昼の2回絶対にかかってくるのだ。

 「Δ小隊の、番号を登録してないメンバーなんじゃ無いの?」と思うかもしれないが、それは絶対無い。

 何故かと言われれば、自分でいちいち聞きに行ったからだ。

 

 「番号を新しくしたか、か? してないが......」

 

 「私もです、そもそも職務上の連絡はちゃんとしたもので行いますし......」

 

 「俺はしっかり登録してあるしな。」

 

 「俺も...... そもそも登録だけして電話した事ないっつうのも変な話だな!」

 

 と、まあこんな感じである。

 それゆえ謎なのだ。

 

 それこそケイオスラグナ支部の職員なら、電話が通じなかった翌日言いに来ればいいだけ。

 本当に何も知らない人からの電話だからこそ出るわけにはいかない。

 これで通話のマークをタップしてデータを取られました、なんて事があればちょっとアレかもしれないと心が警鐘を鳴らすから。

 

 

 「━━うわっ!」

 

 昼頃。

 ついに来た。

 

 謎の電話番号からのバイブレーション。

 いつもならここで放置を続けるのだが、今日は俺の心の中にある好奇心が爆発している。

 ......これは個人所有の携帯であり、ケイオスの連絡に使うものとは別。

 ならば出てもいいだろうか。

 出てもいいに違いない。

 

 好奇心に理由をつけて、通話のマークをタップする。

 保険としてSOUND ONLY(サウンドオンリー)に設定したまま、恐る恐る向こうの人へ問うてみる。

 

 「━━どなたですか? 通報はしないけれど、毎日2回電話してくるのは俺以外なら怒られてますよ。」

 

 「やっと出てくれたか、少し待ってくれ。」

 

 安堵の様な声と共に相手型の画面が切り替わり、人の顔が映る。

 見覚えのあるルンに、端正な顔立ちの少年が。

 

 ハインツ・ネーリッヒ・ウィンダミアと不機嫌そうにしているボーグ・コンファールトの姿がそこにはあったのだ。

 これには俺も驚愕せざるを得ない。

 

 だってそうだろう。

 一国の主、星をまとめ上げる立場の者が公共の電波を使って、しかも一般の人間に電話をかけてくる。

 正直背筋が冷たくなってくるものだ。

 

 頭に(はてな)を浮かべながら、これまた恐る恐るこちらも顔を映す。

 その辺のベンチに座る事も忘れずに。

 

 

 「確かに友達になるとは言ったけども、もっとこう......

 サプライズみたいな形じゃなくても良かったのに。」

 

 「真正面から連絡しようとすれば堅苦しくなってしまうからな。

 レイン達がウィンダミアに侵入した際に取り上げておいた通信機器があってよかったと思うよ。」

 

 曰く、連絡先は以前ウィンダミアに行った時に捕まった際、ミラージュから取り上げたモノに入っていたらしい。

 約束を果たす時が早まったのを喜ぶべきか彼の行動力に戦慄すべきか、いま俺の感情は迷宮で迷子になっている。

 

 統合政府との交渉は順調であるらしく、後一年でもあれば国交が回復する可能性もあるとのこと。

 そりゃ順調にもなるだろう。

 今回の戦争で統合軍は甚大な被害を受けた上に、ウィンダミアの公開した映像のせいで全宇宙から袋叩きを受けている。

 しばらく横暴な姿勢は形を潜めるのは目に見えている事から、ある意味でハインツの進めた()()()は最高のタイミングだったわけだ。

 

 「レインのお父上に感謝しなければいけないな。

 我が儘というのも、言ってみるものだよ。」

 

 「はは、あんなでも種族の長だからね。」

 

 酒は飲むし酔って苦しくなるほど抱きしめるし、割とうざったらしく思った事が無いわけじゃあない。

 でも、けっして悪い父親ではなかった。

 むしろカッコいい男だったよ。

 

 しみじみと微笑みながら想っていると、ハインツが何かを言い淀む。

 何だろうかと思っていると、背後にいたボーグのルンが少し陰りを見せる。

 

 ああ、と理解した。

 ならば俺からいうべきだろう。

 

 「━━白騎士、キース・エアロ・ウィンダミアは立派な騎士だった。

 彼は最後に『()()()()()()()』とだけ言い残して風になったよ。」

 

 「......そうか、キースは......」

 

 そう、きっとハインツは別れの言葉を受け取っていない。

 ならば彼が仕えた王に、1人の兄弟に言葉を伝えるのは俺の役目だ。

 

 「きっと、きっとだけど。

 彼は白騎士として風を守るという使命だけじゃなく、ハインツの思いも守りたかったんじゃないかな。

 彼は騎士である以前に、1人の兄だったんだ。」

 

 「...兄、さま......!」

 

 兄の心を知り、思わず溢れた涙を。

 大きく上下する彼の背中を、ここにいる俺は拭う事もさする事もできない。

 これを無力と取るか、ただキースの死を彼に叩きつける様な無責任と取るかはそれぞれの人次第。

 だが━━

 

 

 「━━すまない、取り乱したな。

 ......聞けてよかった。」

 

 前を向いた彼の顔を見るに、そのどちらでもないのは間違いないだろう。

 

 

 「陛下、お時間が。」

 

 「わかった。

 ......それではまた話そう、レイン。」

 

 「うん、じゃあね。」

 

 ピ、と電子音を鳴らして通話を切ると同時に、深い息を吐く。

 割と、というか何というか、ハインツは心を許した相手にはフランクな男だ。

 

 彼としては王の責務より逃げるつもりはないだろうが、もしハインツが度重なる心労で疲れてしまった時は、俺が止まり木になってやりたいと思う。

 

 強い竜鳥も、別に空を飛び続けるわけじゃあない。

 一度二度止まり木に立って羽を休めるのだから。

 

 外を見れば、既に夕方。

 深く話し込んでしまったなと背伸びしながら、せっかくエリシオンまで来たんだしシミュレーションでもやって行こうと思った。

 思ったんなら行動に移そう。

 

 パイロットスーツに着替えるため、ロッカーへと向かう。

 その頬に笑みを浮かべながら。

 

 

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