「うへへ。」
頭がほわほわとする。
濁る視界で周りを見渡せば、ドン引きするワルキューレとΔ小隊の面々。
何故こうなったのか? 何故、俺が馬鹿みたいににやけてはだけていた美雲さんの浴衣を直しているのか?
その始まりは、1時間前に遡る。
少し大きめの建物に、首を上げた。
ここはラグナの旅館、『
......たびくらげ、とかでよかったんじゃないかと思うが、まあいいだろう。
問題は何故ここにΔ小隊とワルキューレがセットで来たか。
まあ端的に言って
停戦後に我々にも休みがあったが、アレは労いのものではなく、『混乱が治るまで大人しくしていてね』という趣旨の休み。
指令を出した本人であるアーネスト艦長はそれに思うところがあったらしく、2ヶ月にわたって行われたワルキューレ慰安ライブの完遂にかこつけ、こう言った形でΔ小隊とワルキューレを労ってくれるというわけだ。
実際慰安ライブは結構なハードスケジュール。
休む間もなく次の惑星に向かっていたワルキューレはもう疲れたなんてもんじゃないだろう。
その証拠に、これが決まった時マキナさんは飛び上がって喜んでいた。
さあ、歓喜のままに受付を済ませ、それぞれの部屋に荷物を置く。
もちろん男性と女性で部屋は別だ。
旅館といえば風呂というイメージ。
それは我々に取っても変わらず、浴衣を片手に4人合わせて浴場へと向かう。
「ふう。」
「......」
服を脱いでいると、熱い視線を左から感じる。
その視線の主が誰であるか、ということよりも、その視線が何を見ているかの方が先にわかった。
正味、俺の体は
切り傷火傷に結晶化と、隠しきれないほどにボロボロなのだ。
だからまあ、私服を着る時も制服を着る時も好き好んでタイトなインナーシャツを着ているし、パイロットスーツに着替えるのも1番最後、なのだが。
今回皆と一緒に着替えているのは『もういいか』と思ったからでもある。
傷とか気にしてたら休めるものも休めないし。
視線の主であるハヤテに笑いかけ、「気になる?」と悪戯っぽく問いかける。
苦い顔をして「別に」と吐いた彼のその言葉は、ある程度こちらのことを気にかけての発言だろう。
「......まあ、気にする様なものでもないよ。
この火傷はゼルヘスで、この切り傷はウィンダミアの子供たちに。
時折煩わしく感じるけどさ、俺が歩いてきた場所を忘れさせない楔でもあるから。」
そう、この傷はプラス。
ひどく焼きついた足の怪我も、結晶化も全て俺が前に進むためにある
過去に縛られるのを拒否しても、過去を無碍にする様なことはしないという生き方をやるのにこの傷は丁度いい。
風呂に入ると同時に、熱さが染み渡る。
......傷に染みるとかではなく、疲れに染みるという意味だ。
「そういや、レインがずっとつけてる
「そうだよ。
ラインの黄金、ね。」
ハヤテが指差した俺の首元。
チョーカーに取り付けられたフォールドクォーツにハテナを浮かべている。
彼の言うには、『フォールドクォーツはバジュラから取れるもの。
ゼルヘスにバジュラがいたのか?』と。
確かにゼルヘスにプロトカルチャー遺跡がないことはウィンダミアが侵攻しなかったことからも明白だし、そう考えるとこのフォールドクォーツはどこからきたのか? という問いが生まれるのもわかる。
しかし、俺自身コレがどこから来たのか、何故生まれたのかというのはお父さんから断片的に聞いた話しか知らない。
それでもいいと彼は言うので、身振り手振り分かりやすくなる様説明を始める。
まず最初に、ゼルヘスには守りの樹木と言われる木がある。
この木の根は深く深く、星の中心部に届きそうなほど伸びているとされているが、ある日学者はこう言った。
『この木の根元には、バジュラと同じ細胞がある』
それはつまり、この木は人間的感覚で言うところの冬虫夏草の様な形で生えているという事。
そしてお父さんが言うには、ラインの黄金は守りの樹木の樹液と共に現れ、それを先人達が守ってきたと。
つまりラインの黄金という物は、バジュラ、それもクイーン級のものを土壌として生え出てきた木が宿主の体内にあるフォールドクォーツを吸い上げ外に吐き出した、琥珀の如き超高純度のフォールドクォーツ。
バジュラの死体にその木の種を埋め込んだのがプロトカルチャーとされ、結果的にラインの黄金はプロトカルチャーの遺産となっている。
「へえ、そこに至るまでの流れがちゃんとあるんだな。」
「数千年だとか何だとかぐらい前の話だから、本当にそうかはわからないよ?
でも1番よく言われる通説がコレってこと。」
ちなみにラインの黄金は、使用するならば大体VF1機分の量しかない。
後は全部7年前に砕けたり溶けてしまった。
さて時間もちょうどいい頃。
風呂から上がり、浴衣に着替えて自室へ戻れば、そこには美麗な料理の数々。
乾杯の音頭に合わせて水を掲げてから、皆料理に舌鼓をを打つ。
俺自身は料理の味だとかを楽しむことはできないが、他のみんなが楽しそうにこの瞬間を生きている姿を見るのはとても楽しい。
「母親みたいだな。」
「うっさい!」
時折茶化してくるハヤテにチョップをかましながら、食事の時間は過ぎていく。
その流れで水を飲み過ぎた。
尿意を治めるためトイレへ向かおうとした道すがら、風呂上がりのワルキューレとミラージュに出会う。
これが運命の分岐点。
見れば、美雲さんの浴衣がとんでもないはだけ方をしているではないか。
これではいけないと、手早くその浴衣を直す。
「あら、ありがとう。
......ミラージュみたいに焦らないのね?」
「いやあ......」
そう、ほぼ裸見たいな今の美雲さんを見て焦らない理由。
果たして言っていいものなのかと葛藤するが、今言わなければずっとこのままだし。
意を決して話してみることにした。
「━━ほら、美雲さんってたまに全裸で海に入ってる時あるでしょう?
アレ、海沿いの道路を散歩してると見えるんですよ......」
別に焦っているわけではない。
一応彼女も宇宙的なスターであるわけで、早々裸を晒す様な人ではない、はず、なのだが。
これが至る所で全裸になるわなるわ。
目が良いせいで見えるわ見えるわ。
数回『やめてね』と咎めたのだが、止める気配が無かったのでもうスルーすることにした。
結構苦渋の決断。
苦渋の決断なのだから、このワルキューレメンバーからのとんでもない視線を止めてほしい。
ほらもうレイナとか警戒する猫みたいな顔になっちゃってるし。
ひとまず浴衣を直し、トイレで用を済ませて足速に戻る。
気まずさを打ち払うために水を一気に煽り、豪快に飲み込んだ。
なんか変な匂いがしたが、トイレ帰りだからだろう。
そうに違いない。
数分が経った。
頭がぼーっとする。
「おいおい大丈夫か......って酒くさっ!!」
は?
人の顔を見て酒臭いだとか抜かしおったハヤテに対して、ラリアットでもするかの様に首へ絡みつき、流れる水の様に倒す。
「おれのかち〜、ごはんもらいまーす。」
勝ったのでご飯をもらう。
うわすごい、ご飯を食べる時の不快感が一切ない。
いくらでも胃袋に入りそうだ。
「ん?
......レインのやつ、間違えて俺の酒を飲んだか?!」
「隊長、レインを止めてくれ!
掃除機みてえに暴食してる!」
......まあ、その後色々あり。
ワルキューレが入ってくる頃には━━
「みんな、楽しんで━━ って、どうしたの?!」
「ゲホ、うえ......
あいつ蛇みてえに......」
「これほどまでとは......」
「ウミネコよりすばしっこいとか、聞いてないぜ......」
最初の様な、死屍累々の状況になってしまったというわけだ。
「ふへへ...... うん?」
クラゲそうめんを食べてニヤついていると、懐に入れていた携帯が振動している。
こんな時間帯に来るなんて珍しいと思いながら、隠すこともせず机の上に置いて通話を始めた。
「ハインツ〜、げんき〜?」
「ああ、げん...... どうしたんだその顔?」
『なんで?』という視線が集まる。
そりゃあ一般人の携帯に国王が映っていたら、そういう視線を送るだろう。
俺もそう思う。
ハインツにとっては都合が良かった様で、「ほどほどにしておきなよ」と俺に釘を刺してから微笑みの中で話を始めた。
「━━既にアーネスト艦長にも伝わっているかと思うが、我々ウィンダミアの大地にて、
「ほぇ? それって......」
「フレイア・ヴィオン。
あなたが故郷に帰れる様にも手配しよう。」
「「「「ええー!!!」」」」
多分これちゃんとした場で伝えられる様なことだったんだろうなと思う。
まあそんな事は口に出さず、驚くみんなや半泣きのフレイアを見てただ笑うのだが。
「よくみんなを納得させたね、ハインツ。」
「ああ、わがままを国民に納得させるのが王、だからな。
レインの、友のおかげでもあるよ。」
「え、陛下、ともだ、ええー!!?
どういう事なんよ?!」
「里帰りできてよかったねえ、フレイア。」
翌日、強烈な頭痛の中みんなに謝りに行ったことと、ハインツと友達である事を凄い勢いで問い詰められたのは、また別のお話。