ヤミ夜の雨、夜空の星   作:チクワ

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絶対
平和への風


 

 夕焼けの空の下、王都ダーウェントに数多くのウィンダミア人が集まった。

 

 皆一様に王城を見上げ、星の盟主であるハインツ・ネーリッヒ・ウィンダミアの一挙手一投足へ意識を向ける。

 その視線を受け止め、ハインツは語る。

 長い年月をかけてぶつかり合ってきた新統合軍とウィンダミアではあるが、先の戦争で失った物はあまりにも大きく、悲しみに暮れるには十分過ぎるほど。

 だからこそ我々は和平に向けて動き出し、互いに明日の空へと羽ばたこうとしている、と。

 

 ウィンダミアに落とされた次元兵器。

 それによってこの星が永遠に残り続ける傷を受けた様に、他の星もヴァールや空中騎士団の侵攻で多大なる被害を受けた。

 だからこそ彼は、ここまでに起きた事を()()()()として手打ちにしようというのだ。

 それはハインツにとっては父親の思いを切り捨てる事であり、この決断を下すまでに数多の葛藤があった事だろう。

 

 しかし、友が深く考えた上で下した決断。

 俺はそれを柏手を持って受け入れたい。

 終わりなき戦いに巻き込まれる人がいなくなり、この星団に生きる人たちみんなが安心して熟睡できる様な、その決断を。

 

 「全銀河に平和の風を吹かせると誓おう。

 大いなる風にかけて!」

 

 ハインツの手から1枚の羽が空へと舞い上がり、それを合図として空中騎士団とΔ小隊の合同編隊が地球人とウィンダミア人のつながりを表す様に夕焼けを切り裂いた。

 

 「━━良い感じの風だよ、カシム!」

 

 『ああ、このカシム・エーベルハルト、再度ウィンダミアのために翼を羽ばたかせよう!』

 

 どうやらカシムの怪我は予定よりも早く回復したらしく、リハビリも含めてこの式典に間に合わせてきた様だ。

 その飛び方はアルヴヘイム、ウィンダミアでの戦闘で見せた飛行より数段美しく、なおかつキレのあるものに仕上がっている。

 そう、まるで戦争という鎖が外れ、あるべき翼へと戻ったかの様に。

 

 さて、後はこのままコンテナユニットとの付け替えで装備されたフォールドプロジェクターを展開、フォーメーション通り飛行するだけ、なのだが。

 

 『やるかぁ? ()()()()()!』

 

 『ふん、つまらぬ風め!』

 

 水面スレスレを飛行するボーグとハヤテの会話から不穏な言葉が聞こえてくる。

 両者共にガウォークへと変形し、まるで銃を使わないだけのドッグファイトが始まった。

 

 振り子の様に左右に揺れながら、上を取るか取られるかのフェイントの掛け合い。

 両者実力は勝るとも劣らず、しかし軍配は一瞬のうちに上を取り、赤騎士の先へと羽ばたいたハヤテへと上がった。

 

 ......彼らはこれが停戦記念の式典だというのを忘れているのだろうか?

 

 「ミラージュ?」

 

 『はあ...... Δ5、止めに行ってもらえますか?』

 

 了解、とただ一言だけ発した。

 編隊に合わせるため緩めていた踏み込む力を解放し、メインエンジンを全力でふかす。

 ほんの数ヶ月ではあるが、クリームヒルトの扱いにも随分慣れてきた。

 マキナさんが施した専用チューンのおかげもあるだろうが、自身の成長も感じるという物だ。

 

 ......できればこの式典、父さんにも見てもらいたかったが。

 

 ハヤテ特有のバトロイド形態での動き、インメルマンダンスを追い、王城近くの崖を駆け上がる。

 ハヤテの機体コントロールを奪おうとして手を伸ばしたその時、それを遮る様にして赤いドラケンの拳が機体を掠めた。

 

 赤騎士という白騎士に代わって空中騎士団内の最高戦力となった威厳など、怒気に任せて叫ぶボーグの姿には影も形もない。

 

 『おのれ!! 陛下の前で勝手な事を!!!』

 

 『サービスだよ、サービス!』

 

 『そんなサービス、いらーん!!!』

 

 ......バカみたいだな、と思ったことは内緒だ。

 ヘルマンの苦笑いが頭に浮かぶ物だ、まったく。

 

 ファイター形態とガウォーク形態の中間、ファイター・ガウォークへと変形し、通り過ぎる一瞬で2人の機体へ手で触れてウイルスを流し込む。

 

 機体をファイターへと戻し、空いた左腕でおバカ2人の機体を編隊へと連れ戻した。

 

 『ぐうう......!』

 

 『わ、悪かったからそんな怒るなって!』

 

 「まったく、式典をオシャカにするつもりかよ2人して!」

 

 ひとしきり怒ってコントロールを返上し、10機のVFが複雑に絡み合いながらスモークを空へと撒く。

 まるで壁の様に空へと滞留したその煙に、ウィンダミア王家の紋章とワルキューレのロゴを組み合わせた、神秘的なマークが写し出される。

 それはライブの始まりを宣言する、繋がりの光。

 

 暗くなっていく空へ5つの光の橋がかかり、その視線の先には我らの女神様が雪の結晶を足場に凛として立っていた。

 

 「歌は愛!」

 

 「歌は希望!」

 

 「歌は命!」

 

 「歌は神秘!」

 

 「歌は元気!!」

 

 「聞かせてあげる、女神の歌を!」

 

 「「「「「超時空女神(ヴィーナス)、ワルキューレ!!!」」」」」

 

 

 ウィンダミアに灯る、歌の光。

 美麗なる歌声は心の中にある壁を通過して、奥深くまで突き刺さる。

 それはウィンダミア人も例外ではない。

 

 そう、じんわりと滲む雪の様にこの歌は、『唇の凍傷』は、平和を願う気持ちを宇宙に響かせるのだ。

 

 

 ......正味、俺はウィンダミアにいい思い出があるか、問われたら『あるにはあるが、苦い思い出の方が多い』と答えるだろう。

 でもこの光は、この歌は。

 たしかにウィンダミアにて経験した『いい思い出』なんだ。

 

 持ってきておいたネックレスを握りしめ、思わず微笑む。

 VFの上に映し出されたホログラムには宇宙を内包したリンゴの木が現れ、それをフレイアが慈しむ様にして手に取り、口づけをする。

 感謝と友好を胸に、これからもずっと。

 平和な風が流れます様に。

 

 

 曲の終了と共に、町中から大歓声が上がった。

 人は翼を羽ばたかせ、先へ進む事を今この歌で

決断したのだ。

 

 「......やっぱり、好きだなあ...」

 

 ワルキューレの歌はやはり良い。

 美雲さんやマキナさん、レイナにカナメさんは言わずもがなだが、フレイアの声は恋を知ってからさらに洗練された様に感じる。

 

 そこで思った事だが、俺にも恋は訪れるのだろうか?

 恋というものは愛を前提として始まるものだ。

 それで言ったら俺はΔ小隊のみんなもハインツもワルキューレのメンバーも愛しているから、恋の条件はクリアしているとは思うのだが。

 

 しかし考え込んでも仕方がない。

 フレイアとハヤテの関係を見るに、突拍子なく現れるものなのだろう。

 今はこのライブの成功を、純粋な心で祝おうではないか。

 

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