ウィンダミアの夜空の下、民族音楽が聞こえる中で歓迎会が執り行われる。
ここはレーブングラス村、フレイアの故郷であり、俺の住んでいたウェアデール村の二つ隣。
なんだかんだと言っても元は敵だったもの同士、少しくらい嫌味な人もいるかと思ったが、全然そんなことはなかった。
それどころか村長さんはΔ小隊が家出したフレイアを守ってくれたことに感謝を示し、村の若人たちはワルキューレに興味津々。
まさに歓迎ムードというやつだろう。
とは言っても俺の居場所があるかどうかで言われれば、あんまりない。
なんというか......
彼らはナイフを突き立てようとはしないだろうが、恐怖心というのはどうにもならないから、1人岩の上に座ってリンゴジュースで舌を濡らすのだ。
「おにーさん、Δ小隊の人?」
背後から肩を叩かれ、振り向いてみればそこにいたのはなんだか見覚えのある少年。
見覚えがある、とは言ったが、彼自体に出会っていたとかそういう訳じゃない。
面影が似ている。
恐る恐る聞き返してみる。
「あ、ああ。
......いきなりで不躾だけどさ、君の父親ってウェアデールの?」
「? うん!
お父さんはイメジ・
そっか、と、聞いたのは俺なのにそっけなく返す。
幸いなのは彼が子供で、ぶっきらぼうな返事に『なんだこいつ』とか思わなかった事だろう。
ウェアデールのエーリカと言うのは、俺がウィンダミア人を苦手になった原因の人物たち。
当時は次元兵器が投下されて間もなかった事から、彼らの怒りは地球人と同じ様にルンのない俺へと向いたのだ。
結果として必要な時以外は家に引きこもる様になったし、傷も治るまでは痛みに悶えたもの。
そのエーリカ三兄弟のうち1人の息子が、ほかのワルキューレとかアラド隊長達とかをスルーしてこちらに来るとはなんの因果なのだろうか?
とは言えこの子が何かをしたわけではない。
普通にラグナの子供達と話すが如く、興味津々にルンを光らせる彼と話してみることにする。
「おにーさんはどこ出身?」
「どこ、と言われれば、惑星ゼルヘスかな?」
「ゼルヘス? そんな星聞いたことないよ!」
そうだろなぁ。
しょうがない、多少の嘘は納得に必要なもの。
「うそうそ、ウィンダミアだよ。
ほらみて? この右目にはルンみたいな物があるだろう?
それにほら、結晶化もある。」
「......ほんとだ!」
どうやら納得していただけたようだ。
さて、本題に進むとして、この子は何をしに俺のもとへきたのだろうか?
問うてみれば、帰ってきたのは『空中騎士団と戦った時の話を聞きたい』と言う彼の言葉。
......それエーリカの前で言ったらブチギレられるだろ。
とは言えここにエーリカはいない。
ならば存分に話してやろうではないか、空を取り戻すために翼を黒く染め、最後には弟を想って爆炎の中に消えていった誇り高き騎士の話を!
「キース、白騎士の話でもしようか。
まずは━━」
「......」
「━━そこで剣と拳がぶつかり合って......って、寝ちゃったか。」
これからが魅力的なところなのに、ラグナ奪還作戦の話をする前に寝てしまった。
しかし彼が聞いている時の動きというのは非常にアグレッシブ。
きっと空中騎士団に入る事を夢見て生まれてきたのだろうなぁ。
眠る彼の頭を撫でながら、見守る様に微笑む。
俺と話した後の父さんもこんな気持ちだったんだろうか。
もしそうなのだとしたら、子供というのはすごい生き物、すごい癒し力。
凝り固まって心に張り付いていた苦手意識が融解し、今や気を抜けるほどにリラックス出来てしまっている。
コップの中のリンゴジュースを飲み干してしまったなとおかわりをもらいに行こうとした時、風を切り裂いて怒号が響く。
「やめろやめろ!!」
「何がワルキューレだ、我らの風に穢らしいものを混ぜやがって!!」
ああ、やっぱりいるか。
だろうな、と思い、そこまで驚くだとか狼狽えるだとかは無い。
こればかりは仕方のない事だ、9割が納得できたとして、残り1割というのは基本自分の意志と過去からくる何かを変えようとはしないのだ。
それが今、
一触即発、ボーグの剣からは迷いが少しと、何かをすればこいつらを切ると言うたしかな意志が風として漏れ出している。
しかしその刃はとある男性の登場により鞘へと収められることになった。
「......どうかこの者たちをお許し願います。」
フードを外し、ボーグの前で跪いた彼を見て村民たちが一様に頭を低く、地に膝をつく。
ヨハン様、と村長さんが呟くが、俺は彼が誰だかわからない。
「ヨハン様......?」
「ヨハン・ウインリー。
風の神に仕えるとされる、神官の一人だ。」
跪きながら隊長に聞いたその話でああ、と納得した。
神官といえば、騎士でもそう頭の上がる者ではない。
昔父さんが『はじめて神官と会って緊張した』なんて言っていたが、なるほど、これはたしかに緊張する。
色々ありながらもボーグは剣を納め、気を取り直して再度民族音楽が耳を撫で始める。
今度はヨハン様も交えての歓迎会だ。
「申し訳ありません、どうかお許しを。
彼らも不安なのです。」
「不安、ですか。」
「ええ、彼らの中には未だカーライルでの事を恐れ、疑心に駆られるものもいます。
いつかまた、あなた方にまで悲しみが及ぶのではないか、と......」
本当に優しい星だ。
あったばかりの人にまでその優しさを伸ばすものだから、裏切られた時の怒りや憎しみはひとしおなのかもしれない。
その結果の、第二次独立戦争ではあるのだが。
さて、ハヤテとフレイアはどこかにいってしまったし、やることも無くなった。
項垂れる様に横を向けば、少し離れたところへ美雲さんが歩いていく。
何か気になる者でもあったのか?
いつさっきみたいなことが起こるかわかったものではない、ついていくことにした。
「━━あら、どうかしたの?」
「いいえ、特にどうと言うことは。
......これは遺跡...ですか?」
目の前に見えたのは、独特の紋様が目を惹くプロトカルチャー遺跡の様な石柱。
しかしヴォルドールやラグナで見た遺跡の様に、心の奥底に語りかけてくる様な不穏な感覚はない。
それどころか守るためにある様な、温かな風を見せる。
これが一体なんなのか?
それを考えるよりも早く、何故か紋様が光り輝いた。
咄嗟に美雲さんを俺の後ろにまで下がらせ、様子を見る。
「......なんだ、この歌...?」
遺跡の反応と同時に、何処からか歌が聞こえてくる。
いや、歌ではあるのだが、それにはただ一つの感情もこもってはいない。
まるで機械の様に、防御を引き裂いて脳へ侵入してくるそれを不気味だと思わずにはいられない。
そんな考えも許さない、と耳の次はあり得ない光景で目をチカチカとさせてくる。
なんと、あろうことかその歌の主はウィンダミア近辺の星から来たとかではなく、
本来ウィンダミアの周りには次元断層と呼ばれる強烈なバリアーがあり、直接大気圏内にフォールドなんてできるはずがない事。
しかし目の前に現れた歪な形のマクロス級戦艦は、それを成し遂げたと言うのだから信じられない。
それに近づいてきてこの歌に感じていた違和感がわかった。
この声、やはり
似ているどころか同じと言って変わりない。
「━━走りましょう!」
「わかったわ!」
アンノウンから視線を切らず、村へと走る。
平和が崩れる時というものは、どんな時代どんな場所であろうとも、ド派手な音がなると相場が決まっている。
例えば、静寂を破って大地が全て焼き尽くされる様な。